ちょっとR-18を控えてしっかりそれ以外のシーン描写力を高めていきたいなぁと思いつつ、更新速度優先ならR-18なんだよなぁ......
短めではありますが結構良さげな感じに仕上がったので楽しんでください
「センセ、おまたせ! 母上がなかなか離してくれなくて」
「大丈夫だよ。それじゃ、行こうか」
時期外れの長期休暇、秋休みが決まったのは二月ほど前だった。議会の方で他国の施設を受け入れる事になり、元々議会で使っていた建物であるここを使うことになったという。おかげでボクと真咲は時期外れの日本旅行なんて企画ができたのだから、そういう意味ではラッキーだ。
春休みや夏休みだと、親から休みのたびに帰省の圧力をかけられるけれど、今回の休みはそもそも知られていないのもあって心置きなく旅行に行ける。それに、真咲に普段見せられないような景色だって見せられる。この時期だったら紅葉やイチョウ並木なんて良いと思って、ボクもこっそりプランを立てていた。
「おぉ~、これは確かに絶景」
「前に行った時は夏だったから、まだ木も青々としてたかな」
「授業で聞いても、ちょっとイメージできなかったんだよね」
初めて見る色とりどりの木々に感動して見入っている真咲と、その後ろをついていくボク。帽子の下に隠れた耳や、そのスカートの下のシッポは、きっとちぎれんばかりに振られていることだろう。ボクも久しぶりにこんな景色を見たこともあって、真咲ほどではないにせよ気分が高揚する。
「ね、センセ! ここいっぱい葉っぱが積もってるよ!」
いつになくはしゃいでいる真咲の様子を眺めつつ、ボクは周辺の様子を見る。ボクたちのようなカップルがほとんどだけど、ところどころに親子連れもいるみたいだ。何年先になるかわからないけれど、いつか真咲のご両親も連れてきてみたい、なんて思いつついると、ふいに強い風が吹いてきた。
「あっ……」
少し強い秋風に、真咲の帽子がさらわれていく。ひょこっと動く赤い耳が顕になり、当の彼女も何が起こったのかまだ理解していないような様子だ。一方、周囲の人はその見慣れない姿にビックリしているのか、動きを止めている人もいれば携帯に手を伸ばし始めるひともいた。たまらずボクは真咲の手を取って走り出す。
「たはは、帽子落としちゃった」
「真咲、ちょっと行くよ」
「えっ、センセ、待って!」
正直、耐えられなかった。ボクの彼女が周りの好奇の目に晒されるということが本当に嫌だ。だから彼女の手を取って走り出した。もしかしたら彼女にとっては慣れっこかもしれないし、あるいはボクも気にしすぎだったのかもしれない。
人気のないところまで走ってきて、ようやく一息つく。真咲はこっちを見てなにか言いたげな顔をしているが、うっすらと怯えているかのような雰囲気すらあった。
「えっと、ありがと」
「いや、ボクも気にしすぎなんだと思うよ。走って逃げるようなことはしなくても」
「いやん、センセったら強引」
ちょっと強がってみているけれども、前にも学院に出没した盗撮のときのことを思い出すと彼女も不安だったようで、まだ表情が硬いままだった。彼女が手にした帽子をかぶせつつ、そのまま頭をなでてみるとスリスリと体を寄せてきた。
「ワタシは大丈夫だよ、センセも気にしすぎだよ」
「……そうだよね、ボクが気にしすぎだったよ」
とはいえ、これからどうしたものか……。人目を避けるためとはいえ、適当に走りすぎてしまったこともあって、今どこにいるのか皆目見当がつかない。携帯で地図を見るのもいいけれども、スマホを入れたポケット側の手は今真咲がガッチリと掴んでいる。
「センセ、こっち行ってみよ。なんだかいい匂いがする」
「えっ、うーん……わかった、行ってみよう」
腕を掴んだ真咲がグイグイと引っ張ってくる。この小柄な体にどこからこんなパワーが出てくるのか、そんな月並みな感想が出そうになるがぐっと堪える。かくいう真咲はさっきから鼻をくんくんと動かし、匂いの方へと向かっていった。
少しして、その匂いの正体がわかった。ボクにもわかるぐらい強く香る金木犀の香りとそのオレンジ色の花が、丘の中腹に生えていた。真咲にとっては初めての香りだったらしく、さっきからうっとりとした顔でその香りを楽しんでいるみたいだ。
「これがキンモクセイ?」
「そうだね、授業で習ったのかな」
「甘い匂いがするって書いてあったから、気になってたんだ」
金木犀の香りに包まれる中、更に小道を進んでいく。少しして開けたところに出たと思うと、一面には光り輝く街が広がっていた。ちょうど丘の上に出たらしい。電気インフラがあまり整っていないライゼルグでは見られない、いろんな建物から色とりどりの光が漏れるこの景色は、真咲にとっては初めてのものだ。
「真咲」
「センセ……」
感極まった彼女が胸元に飛び込む。しっかりと受け止め、そして後ろ髪を撫でると彼女もボクの背中に腕を回してきた。災い転じて福となす、なんて言葉もあるけれど、今日の旅行はまさにそんな日だった。
「センセ、連れてきてくれてありがと」
「ここにたどり着いたのは真咲のおかげだよ」
「そっか、それじゃセンセとワタシのおかげだね!」
彼女としっかり抱き合いながら、この絶景をずっと眺めていた。時間を忘れるような、そんな幸せなひとときを大事にしたい。