最後のシャーリィのセリフから話すべて組み立てた感じで書いてみました。天色は異世界感あるからそういう話をもっと書きたいですね。
初めて持ったボクの教え子たちは無事卒業して、今年もまたそんな時期がやってきた。学院の教師としての自覚というか、いい意味で慣れてきたように感じている。よく知った子たちが卒業したから少しは寂しくなったけれども、ボクがここに下宿していることは結構知られている事もあって、たまに遊びに来るようなこともあるぐらいだ。もっとも、ガイヤールさんや愛莉ちゃん、天霧さんに火宮さんは同じところに住んでいるからほぼ毎日のように顔を合わせているわけだけれども。
とはいえ、皆が学校を卒業したことで少しはやりやすくなったこともあった。シャーリィとのデートも今までみたいに隠れて、なんてことはする必要もなくなった。もちろんおおっぴらに見せびらかすようなものではないけれども、お互い心のつっかえが取れたのか、前よりは周りを気にすることなくデートをすることができている。今日もまた、いつもの噴水で待ち合わせをしてこの島のいろんなところを一緒にお散歩しようなんて約束をしていた。
「透、待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。ボクもさっき来たばかりだから」
時計の時刻はまだ待ち合わせの5分ほど前。シャーリィはベージュのラップコートを着て、ゆっくりとこっちに歩いてやってきた。もう何度もデートで私服姿も見ているはずなのに、それでもまだ彼女が制服以外を着るたびに見とれているような気がする。
彼女の手を取って、ちょうどやってきた馬車に乗る。今日は折角の天気だから街の外れにある森をお散歩してみようなんて話をしながら、目的地に向かった。空は澄み渡るような群青色で、雲ひとつない。今日が晴れてよかった、なんて心の中で思いながら二人で馬車に揺られていった。
「今日、晴れてよかったね」
「そうだね、お散歩するのに天気が悪いと残念だし」
「でも、天気が悪かったら透と相合い傘なんてしてみたかったかも」
冗談っぽく言う彼女はこっちを見てはまたニッコリと笑いかけてくる。ボクは彼女の手を握ってみると、すぐにシャーリィからも強く握り返してきた。そんなよくあるカップルのようなことをしつつ、馬車は目的地にたどり着いた。
「実は今日、透に相談があったんだ」
「相談?」
「前にお兄様が『ライゼルグと日本の高等教育機関の相互留学がどうの』って言ってたのは覚えてる?」
そういえばそんなこともあったような、いや教師としては生徒の進路に関わるのだから覚えておかなければ……なんてちょっと反省をしていると、シャーリィが話を続ける。
「まぁ、まだ正式に決まったわけじゃないから。で、それのことなんだけど」
「……フォローありがとう、それがどうかしたの?」
「第一期の留学生としてわたしとあと何人かが行くことになりそうなの」
思い出せないボクの様子をさり気なく気遣ってもらってしまいちょっと申し訳なくなる。しかし、それ以上にシャーリィがその留学生候補になったことにびっくりした。確かに彼女の成績や、今の進路を考えれば結構ありえることだった。ただ、情けないことに彼女が留学したら寂しいと思っている自分もいた。
「透は、わたしが留学するのはどう思う?」
「教師としては、留学するのに十分な成績だったと思うし、それにライゼルグの外でいろんなことを学ぶのも悪くないと思うよ」
「ふーん、それじゃ透としては?」
「……ちょっと寂しいかな。せっかくシャーリィとの時間も取れるようになったから」
意外とこういうときのシャーリィは鋭い。ボクが隠したつもりだった気持ちもあっさりと見抜いてしまう。とはいえ、教え子が留学してより多くを学ぼうとしている姿勢を否定することなんてボクにはできるわけもない。
「わたしも、同じかな……。透ともっといっぱいデートもしたいし、一緒に過ごしたいな」
「でも、留学自体はすごく良いことだと思う。いっそボクも日本に」
「ちょ、ちょっと、わたしを追いかけて日本に帰ろうってそんなことまで」
「それは冗談だけど、でもせっかくのチャンスを活かして欲しいって気持ちと、恋人と離れたくない気持ちはあるかな」
あながち嘘でもないさっきの提案だったけれども、とはいえシャーリィは留学が終わったらライゼルグに戻るだろうから、これではむしろ入れ違いになってしまいそうだ。それにボクも今の教え子を置いていくような無責任なことはできない。
「そういえば、期間は決まっているの?」
「だいたい4年ぐらいかな。日本の大学を卒業してこっちに戻ってくることになるから」
「シャーリィは留学して何を学ぶつもりなのかな」
「わたしは、せっかくだから日本でもっと絵を勉強してみるつもり。それに今まで三刀屋さんに取り次いでもらってたものも手に入りやすくなるだろうから」
むしろそっちが本命なのでは、というツッコミはさておき、意外とシャーリィの中では留学にかなり前向きな様子が感じられてきた。さっき絵の勉強をしてみたいと言ったときの彼女は結構本気だった。目的があるなら、そのためにぜひとも努力して欲しいと思うのはボクも教師として当然だ。
「そっか、それならボクは教師として、彼氏としてシャーリィを応援しないといけないね」
「ありがとう、透」
横を歩く彼女が、ボクに体を寄せて来る。誰もいない森の中で彼女と軽くキスを交わして、そしてまたお散歩を続けることにした。
季節は流れて、シャーリィを送り出したときから2年ほど経った。彼女が帰ってきたときや、あるいはボクが彼女の留学先に遊びに行ったりとしていたおかげで、思っていたほどは寂しくなかった。今日はお互いの長期休暇だからとボクが日本に遊びに行く。
「あっ、透!」
「久しぶり。これはお土産。ラプサットの火酒だよ」
「透ったら、すっかりライゼルグの人って感じだね」
「ボクも、日本なのにシャーリィに案内されるとは思ってなかったよ」
お互い顔を見合わせて、また笑う。お互い、自分の夢に向かって頑張ることができているようで安心した。シャーリィと二人で、一緒にこれからも。