冗談はさておき、愛莉ちゃんはあの特徴的な口調を使いすぎると文面でくどくなっちゃわないか、書いてて不安になりますね......
愛莉ちゃんが愛莉ちゃんらしく、そして可愛く振る舞ってる様子が書けたので良かったと思います
最近クラスの様子が少し変わってきた。元々の距離感が近すぎただけなのかもしれないけれど、あまり話しかけられないようになってしまって、なんだかボクがクラスから除け者にされているような気がしてしまう。とはいえ、最初に勤めていた学校はあんなに先生に話しかけてくる生徒ばかりではなかったし、ましてや女子校だと言うことを考えると今ぐらいが普通なのかもしれない。虎倉先生に相談するにも、なんだか自意識過剰な感じがしてちょっと聞きにくいのもある。
「よう、なんだか湿気た顔してんなぁ。どうした」
「いえ、ちょっと」
「クラスで何か問題でもあったか?」
話しにくいと思った直後とはいえ、聞かれて隠せるほどボクも器用じゃない。それに、せっかくだから相談に乗ってもらうのも良いと思った。
「実は、最近生徒からちょっと避けられているような気がしてまして」
「へぇー……鷺ノ森がそんなことを悩むなんて珍しいな。もっとも、俺だってたまに気にはするけど」
「元々距離感が近すぎたのかもしれないとは思っているんですが、それに慣れているとこうなったときにちょっとショックがありますね」
「そうか、まぁそうだな。とはいえ、別に学校外では普通に接してくれているんだろ?」
「ええ、まぁ」
実際、避けられていると感じる瞬間は学校で会った時だけだ。宿に帰れば皆は普通に話しかけてくれるし、愛莉ちゃんだって二人でお出かけしようと誘えば一緒に来てくれる。
「新任の教員なんてそんなもんだよ。皆興味をなくしてからが本番だ。そろそろからかうのにも飽きてくる頃だしな」
「なんだか引っかかりますね……」
とはいえ、虎倉先生の言うこともまた真実なのだろう。実際、この学校に赴任してきて1年ほど経つ。ボクっ子先生なんて呼ばれていた時はどうなることかと思ったけれども、今では授業も順調、クラス運営の面でもさほど大きな問題なくできている。
「まっ、困ったらいつでも相談してくれ」
「はい、ありがとうございます」
異変が起きたのはその日の晩ご飯だった。お店の客入りが想定以上だったのもあって、席を空けるためにボクたちの部屋で晩御飯にすることになった。たまに揃って晩ご飯を取ることはあったけれども、今日はまた様子が違った。
「ごちそうさまなのです」
「ごちそうさまです。申し訳ありません、今日はちょっとこのあと、したいことがあるので先生に片付けをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かった、今日は宿題が多かったとか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……。乙女には言えない事情というのもあるのですよ」
「まぁ、無理に聞く気はないよ。それじゃ片付けてくるね」
この時は特に疑問を抱くこともなく、ボクは食器を片付けに下に降りていった。店はいつも以上の混雑っぷりだと言うのに、1つ不思議な事に気づいた。ガイヤールさんがホールに出ていない。気になってキッチンのオーウェンさんに聞いてみる。
「あれ、そういえばガイヤールさんは?」
「アイツは、どうしても今日は入れねぇって言ってもう上がったよ。ったく、どうしてこんな忙しい日に限って」
「良ければ手伝いましょうか」
「いや、お客さんに手伝わせるわけには行かねぇよ。まぁ、できれば自分たちの食器だけ洗ってくれりゃ助かるが」
さっきの発言と合わせて考えると、おそらくは天霧さんとガイヤールさんが揃って何かをしているのだろう。とりあえずはこの食器を洗おうと洗剤を手にとった時、2階にスタスタと上がる金髪の少女……おそらくはウォリックさんの姿を見つけたが、声をかけるような余裕はなかった。
「さて、先生もいなくなったことですし」
「センセ一年間お疲れ様パーティの企画、しちゃおっか」
「……なんだか、お兄ちゃんに嘘をついているような気持ちがして不安なのです」
「アイリは考えすぎだって、こういうのはサプライズが大事なんだから」
「でも、今日放課後に職員室行ったら、先生が虎倉先生に何か相談していたみたいだよ。なんでも、避けられているような気がするって」
「まぁ、先生に驚いてもらうための必要な犠牲ですわ」
お兄ちゃんと入れ替わるように、シャーリィちゃんやフランちゃんがわたしの部屋にやってきました。もちろん、お兄ちゃんをびっくりさせるために仕方ないとはいえ、こうやってコソコソと動くのは苦手なのです……
「会場は真咲のお店で大丈夫よね」
「あいあい、場所と料理は任せて。親父殿にはその日空けといてってお願いしてるから」
「となれば、あとはせっかくですし……」
そういう夕音ちゃんがわたしをジーッと見てきました。なんだか嫌な予感がするのです。
「愛莉さんから、先生にプレゼントなんてどうでしょうか」
「おお、いいねぇ」
「その案、わたしも賛成」
「木乃香も名案だと思う」
「えっ、ええっ、どうしてわたしなのですか」
「だって、先生と付き合っているのでしょう。こんな大役、私達が奪うわけにはいきませんし」
そう言われれば、たしかにそうなのですが……。お兄ちゃんに何かプレゼント、今すぐに思いつかないのです。それに、大好きなお兄ちゃんとはいえ何が欲しいのか、何をプレゼントしたら喜んでくれるのか全く思いつかなくて困っちゃいました。
「わたしがお兄ちゃんに……プレゼントは何が良いでしょう」
「それはアイリが考えるほうが良いんじゃないかな。ほらワタシ達より、アイリのほうがセンセとよく話しているだろうし」
「それはそうなのですが……」
「プレゼントは決まりとして、それ以外も決めなきゃね。あとは……」
こうして、いつの間にかわたしにお兄ちゃんへのプレゼントを考える大役を任されてしまったのです。なんとかしてほしいものを聞き出して、そしてお兄ちゃんに気付かれず買う……やっぱり難しいのです。
「おーい、アイリ……こりゃ完全に意識が考え事で持っていかれてるね」
「まぁまぁ、私達は私達で、先生を楽しませることを考えましょう」
お兄ちゃんにプレゼント……付き合っているはずなのになんにも思いつかないのです。これでは恋人失格なのです……。他の人に助けを求めるわけにもいかないですし、なんとかしてお兄ちゃんから聞き出してみせるのです。
打ち合わせが終わって、お兄ちゃんの部屋に行ってみるとちょっとだけお兄ちゃんの元気がなかったのです。さっきシャーリィちゃんが言っていた、お兄ちゃんと虎倉先生のお話の中身が本当なら、思わぬ形でお兄ちゃんを傷つけてしまっているのかもしれないです。
「お兄ちゃん、入ってもいいですか」
「良いよ、どうしたの?」
「特に用事があるわけじゃないのです。でもお兄ちゃんに会いたくなったから来たのです」
「ボクもちょうど愛莉ちゃんに会いたかったよ」
そう言って、お兄ちゃんの膝の上に座ると、なんだかとっても落ち着くのです。元々お兄ちゃんから欲しい物を聞こうと思ってやってきたのに、こうなると眠たくなってきて、話すのも難しくなってきちゃいます。それでも、なんとかして聞かないといけないのです。
「お兄ちゃんは、最近何か困っていることはありますか?」
「うーん……ないわけじゃないけど、愛莉ちゃんに相談するほどじゃないから大丈夫だよ」
「そんなこと言わないでほしいのです、何でもわたしに相談してほしいのです!」
「えっと、いきなりそんな言われても……そうだなぁ、ちょっと考えたら困ってるってほどじゃないから大丈夫」
ちょっと強く言い過ぎてしまったのです。これではお兄ちゃんから話を聞くというより、尋問みたいになっちゃうのです。
「それなら、お兄ちゃんは欲しい物とかありますか?」
「んー、欲しい物かぁ。愛莉ちゃんがいつも笑ってくれていたらそれが一番だよ」
そう言って頭を撫でられちゃうと、何も言い返せないのです。わたしの聞き方も確かに直接的すぎでしたが、こう答えるお兄ちゃんもお兄ちゃんなのです。そんなことをしていると、いつの間にかまた眠たくなって、お兄ちゃんの膝の上で意識がゆっくりとまどろんで……
「すぅ……、すぅ……」
「あれ、愛莉ちゃん寝ちゃったか」
今日の放課後、虎倉先生に相談していたことが当面の悩みといえば悩みだったけれど、愛莉ちゃんにそれを伝えるわけにもいかない。ごまかすように愛莉ちゃんの頭を撫でていたけれども、そうしていたら彼女が寝てしまった。時間ももう遅いし、抱っこして部屋に連れて帰ろう。
「お兄ちゃん……大好きです」
「ボクも好きだよ、愛莉ちゃん」
気持ちよさそうに寝息を立てる愛莉ちゃんのお腹やほっぺたが徐に動く様子が可愛くて、また軽く頭を撫でてから抱きかかえ、そして部屋へと運んであげた。
翌朝、目が覚めると自分の部屋のベッドに寝ていたのです。お兄ちゃんに欲しい物を聞き出す作戦は見事に失敗したのです……。今日こそは、お兄ちゃんのプレゼントを決めたいです。
「おはよう、愛莉ちゃん」
「おはようなのです。昨日はごめんなさいなのです……」
「いいよ、愛莉ちゃんだって眠たかったのにボクの部屋に来てくれたんだから」
「お詫びではないのですが、今日はお兄ちゃんも休みですか?」
「そうだけど、どうしたの」
「せっかくだからお出かけしたいのです」
今度こそ、お出かけの間に聞き出してあわよくば買っちゃうのです。お兄ちゃんとデートもできて一石二鳥なのです。
外に出てから、わたしは大変なことに気付いたのです。お兄ちゃんと一緒にお出かけすると、隠れてお買い物なんてできるわけがなかったのです! それに何か買うとなると、だいたいいつもお兄ちゃんが出してくれるので、それでは意味がないのです……
「どうしたの、元気がないようだけど」
「なんでもないのです。自分の計画性のなさにちょっとショックを受けているだけなのです……」
ちょっと落ち込む私の様子に不思議そうな顔をしたお兄ちゃんですが、気を取り直してお兄ちゃんとのデートなのです。いろんなお店が並ぶライゼルグの商店街ですが、お兄ちゃんにぴったりな物を探すのは難しいです。
しばらくお兄ちゃんといろんなお店を見て、そしてそのたびにお兄ちゃんの様子をちらりと見ても、やっぱりお兄ちゃんが欲しい物がわからないのです。
「そういえば……人も多くなったし一人用じゃなくて大きいの買ってもいいかなぁ」
「どうしたのですか」
「最初に泊まり始めたときから、人も増えてきたしティーポットを大きいのにしてもいいかなって」
「……それなのです!」
「うわっ、どうしたの突然」
「あわ、あわわ、なんでもないのです! お兄ちゃんには関係ないのです!」
「そ、そうなの……」
お兄ちゃんがついに欲しい物を教えてくれたから、嬉しくてちょっと大きな声になってしまったのです。でも、なんとか気付かれなかったから今度買いに行くのです。そうと決まったら突然つっかえが取れたようで、さっきよりもちゃんとデートを楽しめるようになりました。
そして迎えたパーティ当日。どうして呼ばれたか分かってないお兄ちゃんはまだパーティの様子に驚いているようで、まだ目を白黒させているような様子です。
「先生、一年間お疲れ様!」
「今日はセンセのために、皆で用意したんだよ」
「そして、今日の一番のサプライズは……愛莉さん、今ですよ」
皆に促されて、包みを手にしてお兄ちゃんの前に歩み寄る。恥ずかしくてお兄ちゃんをまっすぐ見ることができないけれども、なんとか勇気を出して、そしてもお兄ちゃんにそのプレゼントを渡すことができたのです。
「お兄ちゃん、今までありがとうなのです。これはわたし達からのプレゼントなのです」