冗談はともかく、せっかく新作をプレイし終えたのだから一本ぐらいは書こうと思った矢先に、こんな感じでインフルにかかっちゃったのでそんな話を書きました。もう熱は下がって結構ピンピンしてますが、やっぱり一人暮らしの風邪はかなり心細くなりますね。うちにもナツメが看病に来てくれないかな。
熱にうなされ(ナツメ)
「ん……うっ……」
最近は目覚めよく、スッキリ起きられるようになってきたと思っていたのに、今日はそれとは正反対、非常に目覚めが悪い。それもそのはず、着ていた服は汗でぐっしょり濡れていて、シーツや掛け布団も結構汗を吸っていたみたいだ。
なんとか起き上がろうと体に力を加えるも頭が痛い。さらに節々も痛むとあっては、原因を考えるまでもなかった。とりあえず急ぎ涼音さんに連絡しておくほうが良いと思い、LIMEでメッセージを送る。
「……これまで滅多な理由じゃ病気にならなかったと思うんだけどなぁ」
一人暮らしゆえの緊張感か、あるいは日頃の節制の賜物か、風邪を引いたことはめったになかった。母さんが病気で亡くなったとは思えないほどに、俺の体は丈夫な方……だと思っている。とはいえ、一人ベッドで横たわっていると良くない思考が連鎖してしまう。
「病院は……もうちょっと寝てから行くか」
まだ外は暗い、こんな時間に病院に行ったとしても空いているわけがないだろう。一旦寝て、それから病院に行くので十分だろう。なんとか服だけ着替え、すぐに湿った布団の中に這入り、ほどなくして意識が闇の中に落ちていった。
「おはようございます」
「おはよう、ナツメさん。ごめんね突然呼び出して」
「いえ、高嶺君が出られないなら」
開店前の作業に急遽呼び出され、ワタシが昂晴の代理で涼音さんのお手伝いに回る。普段からキッチンを担当しているわけではないけれども、言われた通りの作業ぐらいなら難なくこなせそうだ。それよりも、昂晴が風邪なんてどうしたんだろう。後でメッセージぐらい入れておかないと。
「……ちょっと、ナツメさん」
「ごめんなさい、次は何すればいいですか」
「いくら恋人がインフルエンザにかかったからって、仕事は手を抜かないでよね」
「はい……ってえっ、本当ですか」
「あれ、昂晴の奴、ナツメさんに連絡すら入れてなかったの……全く」
大げさにため息をついてみせる涼音さんの反応を見つつ、急に昂晴のことが心配になる。とはいえ、今日とっている授業のうちいくつかは昂晴と一緒のものもあるから、むしろノートをとってあげたほうが……
「はいはい手を動かす! まだ大学まで時間はあるんでしょ、先に様子ぐらい見に行ってあげたらどう?」
「……はい、そうします」
不安をなんとか押し込めて、それでもやはり集中しきれないまま時間は経ってしまった。
起きると外はもう明るく、病院も開いている時間帯になっていた。戸棚の奥にしまっていた保険証を引っ張ってきて、あとは上着を着込んで近くの病院に行く。LIMEを見ると涼音さんからは簡潔に了解とだけ返ってきていて、あとは無事お店が回っていることを祈るしかない。
病院で受付を済ますとすぐに検査され、それからほどなくしてインフルエンザの診断が出た。帰りにコンビニに寄って適当なゼリーとか飲み物を買い、また布団に入る。一人暮らしにしてはちょっと広いこの部屋だと、こういうとき心細くもなってしまう。
「インフルエンザ……いや、大丈夫だよな」
一応予防接種はした。今日病院で見せたときもそんなに深刻な病状というわけでもない。普段よりも体は怠いが、それでも動けないほどではない程度ではある。しかし、そんなときだからこそ、一度死んでしまったときの記憶が蘇る。もし、急に悪化したら誰にも気付かれず、また死んでしまうんだろうか。そんなはずはないと必死で否定しても、まだまだ悪い方向に想像が連鎖していく。意識が遠のく、これがただの眠気なのか、それとも……ふいに怖くなってハッと飛び起きようとするが、汗を吸った布団は思った以上に重たい。結局、睡魔には逆らえるわけがなかった。
お店の支度を済ませてから家に行くも、どうやら不在のようだった。ちょうど病院にでも行っているのだろうか、気を取り直し、ノートをとるために昂晴と一緒にとっている授業だけ出る。ただ、やっぱり落ち着かない。クラスの人も、明らかにこちらに好奇の目を向けてきているようで、そんなに不自然なのだろうか。
「あれ、四季さん」
「あなたは……ええと、汐山君」
「くぅぅー……あの四季ナツメに名前を覚えてもらえる日が来るなんて……っと、そういや昂晴のやつ、どうしたんだ?」
一言目によくわからない発言が聞こえた気がしたが気にしないでおく。端的に昂晴が病気で休んでいることを伝えると、結構不思議そうな反応が返ってきた。
「あの昂晴が風邪ねぇ……聞いたことないな」
「あれ、そうなの」
「うんうん、あいつが単位ちゃんと取れてるのは、こういう体調不良にならないのもあったんだけど」
言われて更に不安になる。ちょうどワタシが突然倒れたことがあったように、もしかしたら昂晴の身に何か起こったんじゃないか。汐山君との話もそこそこに、高嶺くんの家に行く。
ボーッとした頭の中にドアベルの音が響く。現実かそれともリアルな夢か、そんなことを考えていたが、すぐにドアが開いた。部屋に入ってきたってことは希だろうか、まぶたを開けるのもまだ苦しい。さっきよりも症状が悪化したのか、一つ一つの動作が辛い。
「……えっ」
「あれ、起こしちゃった?」
目をどうにか開けると、そこにはナツメがいた。まだ部屋の合鍵を作った記憶は……いや、仮に作っていたとしたらわざわざドアベルを鳴らすはずもない。もしかして、俺が鍵を締め忘れていたのだろうか。
「念の為に希さんから鍵を借りててよかった、その様子……本当に大丈夫?」
「多分、なんとか」
「今日のノートは取ったから、しっかり寝てなさい」
「それより、ナツメこそ部屋に来てよかったのか? 移されたらどうするつもりだ」
「そりゃ……誰かが看病してくれるんでしょ」
そうやっていたずらっぽい笑みを浮かべた彼女を前に、俺の言葉は遮られてしまった。全く、俺の彼女はこんなに可愛いんだから!
「……病人が何考えているんだか」
「風邪引いたって男なんだからな」
「はいはい、まだご飯食べて無いよね、お粥ならすぐに用意する」
そう言って台所に向かう彼女を見ながら、こうなれた幸せをただ噛みしめるしかなかった。