ともかく、あまりに可愛いひなたをもっと見ていたくて書いてしまいました。
余談ですが、男女の友人双方に「ひなた」って人が居てちょっとだけ複雑な気持ちになりました。
★久しぶりの時間(ひなた)
「あっ、ずるい、ずるいですよ! そうやって先輩だけボクを置いて逃げようとしてますよね」
「そういうつもりじゃなくて、物事には順番ってのが」
僕が俺に戻って、そして朱里がきちんと学院に通い始めてしばらく経っていた。兼元家の人たちも、そろそろほとぼり冷めた頃合いだということで改めて、長光さんや三条さん、そして長曽祢君に挨拶に行く機会を設けてもらうことができた。もちろん連絡を全く取っていないわけではなかったけれども、今日は朱里もやって来てちょっとしたパーティのようなイベントになる。
会場として用意されたのは、俺が影武者として過ごしたあの別邸だ。この面子が集まると、前にここで勉強会をした時のことを思い出す。とはいえ、隣に行くひなたの騒ぎっぷりを見るとそんな感慨も少し薄れてきたような気がする。
「そんなこと言って、今日の主役は先輩なんですよ。ちゃんとしてないと」
「あれ、言ってなかったか? 俺は一応ひなたの付添という扱いで」
「そーいうのはなし、なしです。今日はみんな、先輩のために集まってくれたんですから」
それもそのはず、元々しがない一般庶民だった俺がこんな上流階級のパーティにお呼ばれなんて理由がないとおかしい。今回は幸いにも事情を知っているひなたのお祖父さまの助力もあり、ひなたの付添という外面を立ててもらうことに成功した。曰く、『ウチの会社に入るというのに、友人一人大事にできない男はいらない』なんて言っていたそうだが、俺にとっては渡りに船だった。
「とはいえ、今日は一旦朱里と合流して、一緒に会場へという手はずで」
「先輩は、もしかしてボクじゃなくて朱里くんの彼氏だったんですか?」
「そういうわけじゃなくて……ああもう、わかったよ」
そう言って軽く抱き寄せて、そして化粧が落ちないよう手にキスをする。正直な話をすると、ひなたに会うのも久しぶりだったから今すぐにイチャイチャしたい。とはいえ、そんなことが許されるような空気でもないから、これが最大限の譲歩のつもりだった。
「おやおや、今日の主役はこんなところで彼女とイチャイチャしてるんだ」
「全くだ、ようやく兼元君……いや、藤島君から直接聞く機会を得られると期待していたのに」
「よう、藤島。久しぶりだな」
あの頃の面子がやってくる。こうして会ってみると、住んでいる世界が違っても俺達の関係は変わることなく、続いていくんだとおもわせられた。本当に、よかった。
「しっかし、本当に朱里にそっくりだよな」
「ああ、全くだ。アタシが気付かなかったのも無理はないと、自己弁護じゃないがそう思う」
「あたしも、改めて朱里君に会ってみて思ったけどそっくりだよ」
そんな狂騒の中、今日のもうひとりの主賓である、兼元朱里の到着がもう少し遅れるという連絡が入ってきた。体調が悪くなったとか、前みたいに誘拐の危険が、というわけではない。彼には彼の、兼元グループの跡継ぎとして仕事がある。
「先輩、今日のボクはどうですか?」
「えっ、どう……って、服は違ってもいつもと同じだな」
「そっかー、いつもと同じ……って本当に褒めてるんですか?」
「それが褒め言葉に思えるようになるぐらいには、ひなたも俺のことが分かってきたみたいだな」
本当は、いますぐ抱きしめたいほど可愛い。このドレスはあの学校で最後の日に、二人で踊ったときと同じものだ。だから初めて見るような格好ではないというのに、それでもやはり見惚れてしまう。そんなことを言ってしまえばどんな反応をされるか、そんな虚栄心みたいな気持ちもあるお陰でなんとも素直になれない。
「むぅ……先輩って、やっぱりボクにはいじわるですよね」
「そんなつもりはないよ。だからこうやって」
もうひとりの主賓がやってくるまで、俺達は更衣室を待合室代わりに使わせてもらっている。当初は皆と話したいから部屋の方に、と言っていたが主に長光さん、三条さんの猛烈な反対によってひなたと二人きりの空間だ。
人の目が無いことはもう分かっている。だから、今度はギュッと抱きしめて、そして整えた髪が乱れない程度に、それでもしっかり頭を撫でる。サラサラとして、触るたびに心地いい香りが漂うひなたの髪をずっと触っていたい。
「ふにゅ……先輩、やっぱりずるいですよぉ」
「ずるいって言われても、俺はこうしていたいからずっとこうするぞ」
「そ、それは……いいです、もっとしてください」
その後、この様子を見た皆からさんざんからかわれることになったが、それはまた別の話。今のこの時間、ようやく得られた二人きりの時間を十分堪能した。