音が、聞こえる。
だが風を感じ、暖かさを感じ、そして眠気を感じる……もうちょっとゆっくりと、このまどろみの中に居たい……。そう思いながらも、音が聞こえる。
「―――」
聞き覚えのある声に、強制的に意識が覚醒されて行く。だがそれに抗う様に耳を閉ざして眠り続けようとする。こんな気持ちが良いのに直ぐに起きるのは余りにも勿体ない。だからもうちょっとだけ、まどろもう。そう思っても、
「―――こ―――」
また、声が聞こえた。前よりもはっきりと。解っている。起きなきゃいけないのだろう、起きなきゃ。浅い眠りからゆっくりと意識が覚醒する。両目を開き、窓から入り込んでくる陽光の眩しさに目を細めながらも、軽く欠伸を漏らしながら上半身を持ち上げた。
窓の向こう側から小鳥の鳴き声が聞こえて来る。欠伸を漏らしつつ窓の方へと手を伸ばせば、小鳥が指の上に乗るので、その頭を軽く撫でてから外へと放す。
「アム―――! いい加減に起きなさい―――!」
義姉のウェイクアップコールに欠伸を漏らしながら頭を軽く振る。
「はいはい、起きたよ姉貴」
はぁ、と溜息を吐きながら持ち上げた上半身、その背筋を軽く伸ばしつつベッドから起き上がる。気持ちの良い風が吹き込んでくる為、それで完全に意識を覚醒させながら、立ち上がった体を伸ばす様に眠っている間のコリをほぐす。
その勢いのままラックからタオルを取り、欠伸を軽く漏らしつつ部屋を出る。朝食の匂いがキッチンの方から漂ってくる。
「姉貴、ウチの来ないでエルクん所に居ろよ……」
「あら、義姉ちゃんと一緒なのは恥ずかしい?」
「マリッジブルーを疑われるぞ」
廊下からキッチンの方へと声を投げれば、笑う様な声が投げかけられてくる。
「その本人から結婚する前に最後の家族の時間を作ったらどうだろうか? なんて言ったのよ、彼」
「勝てねぇわ」
「ふふ、私の旦那様になるんだから当然じゃない。ほら、もうバケツに水を入れておいたわよ」
「さんくー」
相変わらずエルクの奴は凄い人間が出来てるよなぁ、と苦笑しながら風呂場へと向かう。持ち込んだタオルを風呂場のラックに掛け、一緒に設置してある風呂場用にビニールの中に包まれたラジオのスイッチを入れ、適当なニュースを流す。寝ている間はパンツしか履いていないのでそれを脱いで籠の中へと放り込み、
手持ちの小型バケツで大型バケツから水を汲み、それを頭から被る。
「っかー! 生き返るわぁ……」
鏡に映る褐色肌に燃えるような赤毛の自分の姿を確認しつつ、水によって寝汗や垢が流されて行くのを感じる。チューニングを施されたラジオが電波を拾い上げ、汗を流して体を清めていく端で音を響かせて行く。
『Welcome To Nevada Channel! 本日は快晴! 都心部でのノイズ出現率は3%以下をマーク中だ! 行動活発化が見えているから良い子は軍人のいない場所に行くなよ? 死んでも文句が言えないからなぁ! HAHAHAHA!』
下品な笑い声がラジオを通して聞こえて来る。これがネヴァダの公共放送だというのだからDJは頭がぶっ飛んでいる―――まぁ嫌いじゃない。そう思いながらトラッシュトークの中から重要な情報だけピックする。ノイズの出現は現在下火気味。ただし活発化の兆候が見えている、と。
今日は間引きに出た方が良さそうだ。明日、義姉の結婚式に万が一という概念を持ち込みたくはない。軽く周辺のノイズを探し、存在したらそれを掃討すれば明日は平和に過ごせるだろうと判断する。
何せ、明日は義姉の結婚式だ。ケチの付かない日にしなくてはならない。
寝汗などを流し終わって軽く体をスポンジで洗い、それが終わったら鏡に映る自分自身の姿を確認する。髭は……まだ剃らなくて大丈夫だな、と伸び具合から判断する。腕を持ち上げて力こぶを作り、そして軽くポーズを決める。良し、筋肉がちゃんとキレてる。今日も調子はばっちし、イケメンだ。
「うっし、今日も良い一日になりそうだ」
「アームー? 朝食冷めちゃうわよー?」
頬を両手で叩いて気合を込めながら、義姉の声に気持ちを入れ直した。
「彼ったらね、本当に寡黙なんだけど伝えたい事はちゃんと言葉にして伝えてくれるの」
「……」
「ちょっとでも寂しいかなぁ、って思ってるとぽん、と頭を撫でてくれるし、抱きしめても文句を言わないし、それなのにぐいぐいと引っ張ってくれて本当に本当に、もう!」
「姉貴」
「うん?」
「うるせぇ」
その言葉に義姉はえー、と声を零す、朝食に作って貰ったオムレットをフォークで突き刺しながら食べつつも、向かい側に座っている蒼髪、褐色姿の義姉を見る。服装はシンプルなシャツにジーパン、それにエプロンを装着しながら料理していた為、カチューシャとポニーテール装備だった。
うむ、どこに出しても恥ずかしくない義姉だった。
「語り足りないー」
「エルクの事を聞かされても俺が困るわ。どう反応しろってんだよ……」
その言葉にきょとん、と義姉が表情を浮かべ、そして首を傾げた。
「えっ、語りたいだけよ」
「最悪だ」
面倒な義姉に捕まってしまったものだ……。そう思いながらオムレット、ミルク、ベーコンと朝食を口の中に放り込んで行く。明日は結婚式、そしてその後でエルクの所で義姉は生活する。それがここでの基本だった。だから義姉もこの家を残して出て行く。同じ村に住んでいても、寝起きする場所はもう違う。
こうやって、朝ご飯を作ってくれる事はない。
……まぁ、義姉の事だからたぶん定期的に顔を出しに来るのは予測できる。それでも今までの義姉と義弟という関係はもう終わりだ。ダン・ダイラムでもなければ時の歯車を巻き戻す事は出来ない。そしてそんな事をダン・ダイラムはしない。だから過ぎ去った時間はもう、二度と帰ってこないのだ。
この朝食もこれでしばらくは見納めだと思っていると、
「ふふ」
「なんだよ」
片肘をテーブルの上に尽きながら、義姉は此方を見てニコリ、と笑っていた。美しい笑顔だった。それを独り占めするエルクに少しだけ、嫉妬するぐらいには。だけどアイツなら義姉を幸せにしてくれる、と思っていた。だから文句はある。だけど後悔はない。既に義姉を送り出した後だから、ここで言う様な言葉はもう、なかった。
「ううん、アムも大人になったなぁ、って」
「もう二十歳だぞ、俺も。それとアムは止めてくれよ」
「いいじゃない、ウィリアムだからアム。響きが可愛くて」
「その異次元のセンスはアメリカンじゃないわ……」
WilliamだからAm。その発想はどこから来たのだろうか。普通、略すならウィルとかウィリーなんだけどなぁ、と思いつつも、義姉にそうやって愛称で呼ばれるのは地味に嬉しかった。同じ血は通っていなくても、それが家族の証である様に思えたからだ。だから本気で止めろと言う事はないし、それを義姉も解って言っている。義姉弟のコミュニケーションだった。
「ふぅ……美味しかった」
「それは良かったわ。寂しかったらいつでも遊びに来てもいいからね?」
「流石にエルクに悪いわ……」
そこまで外道にはなれない。少なくとも、新婚生活中は近づくつもりはない。いや、いっそ軽い旅に出かけてもいいかもしれない。そうでもしなければ理由を見つけては義姉が会いに来そうな気がする……いや、流石にそこまでトチってないか、と自分の心の中で笑い声を零した。
まぁ、朝食は残念ながら、ゆっくりと食べていたつもりなのに、全て飲み込んでしまった。最後の朝食、名残惜しいと思いつつも席から立ちあがった。
何時も通り、少し擦り切れているジーンズに上はインナーを、その上からポンチョを被り、壁に立てかけてある武器を―――ARMを手に取った。一つは斧と剣が融合した様な、プレートの様なARMで複雑な機構は一切ない、殴りつけて粉砕する為の武器。そしてもう一つがリボルバー型のARMが二挺。
その二挺リボルバーを腰のガンベルトの装着し、剣斧を片手で掴んで持ち上げた。手に来る重量はそれなりのものがあり、少なくとも女子供では到底持ち上げられる様な重量をしていない。
それを片手に、出かける準備が完了した。片手で髪をオールバックに流しつつ、義姉へと視線を向けた。
「そんじゃ、行ってくる」
「怪我をしちゃ駄目よ?」
「ノイズ程度には遅れは取らないさ」
じゃあな、と義姉に言葉を告げて家の扉を抜けた。寂しさを覚えながらもそれを振り払い、頭上で爛々と輝く日光を浴びる。しばし、家の前で立ち尽くしたまま無言で時を過ごしてから、良し、と声を零した。
動こう。
片手で剣斧を背負う様に持ち運びながら歩いて行く。
村の様子は荒土の大地が広がっており、そこに木とレンガで作られた家が存在している、中規模の村だ。その外見を解りやすく表現すればインディアン、或いはネイティブとも表現できる。実際、この村はそういうネイティブ・アメリカンの流れを組んでいる村、部族でもある。とはいえ、近代化が進んでいるためにまんま部族の村という訳じゃない。
発電機もテレビもあるし、風呂もある。所々、文明化が進んでいる。近代化の流れは生きる上では当然であるのだが。
「おーい、今日は早いなウィル」
「よぉ、トニー。姉貴に起こされちまったよ」
村の入り口へと向かおうとすると、友人が話しかけて来る。同じような日に焼けた赤みの混じった褐色肌の友人はそれを聞いて笑った。
「ははは、カノンさんはほんとお前の事が好きだよね」
「麗しい姉弟愛という奴だよ」
「エルクに嫉妬されそうだな!」
トニーの言葉に笑い声を零しつつ、村の外へと向かった。途中、村の連中が声をかけて来るので、それに反応を返しながら進んで行く。思えばこの村に預けられてからもう9年が経過している。大きな村ではない為、全員が家族の様なもので、全員が顔見知りだ。全員が子供の頃からの姿を知っている。だから気楽に声をかけながら、軽く笑いを零し、村を抜ける。
そしてそのまま、アメリカ西部の荒野へと出る。
車も使わず、バイクも使わず、自分の足で歩きなれた荒野を歩き、進んで行く。
少しでもノイズを狩る為に。
かつての特異災害、ノイズはタイムリミットが存在し、出現しても逃げ回れば生き残れたらしい。
だが現代のノイズは長時間姿を地球に見せている。その発端は10年前のノイズの大活性にあると言われている。かつてのノイズはもっと慎ましい存在だったらしいが、現代のノイズは位相をズラしたまま地球にその姿を残っている。その思考はまるで理解されていないし、何故、ノイズがこのような変化を見せた理由も不明となっている。
だが地球に出現したノイズは数が一定数を超えると、
そんなノイズに対抗するべく生み出されたのがARMだった。ユーザーの精神力を燃料に動く対ノイズの兵器は、使用者にある程度の精神力を要求するも、それさえクリアする事が出来ればノイズに対して有効な攻撃手段となる。アメリカは元々銃社会であったのに加え、広大な土地故に軍隊だけでは手が回らず、ARMの民間化が始まるのに時間はかからなかった。
故にこうやって今、自分もARMを手にしていられる。
アメリカで生活する上で、ARMは必須の武装だった。少なくとも都市部付近であれば軍人が間引きを行うが、自分の様に村や集落レベルの住居で暮らしている場合、自分の手でノイズの間引きを行わなくてはならない。だから自分の部族も、定期的にノイズの間引きを行っている。そうしないと生活の安全が保障出来ないからだ。
「んー、結構溜まってるな。間引いたばかりの筈なのにな」
荒土の高台の上から荒野を俯瞰すれば、半透明な姿を保つ小型ノイズがわらわらと集まっているのが見えた。数日前に間引いたはずなのに、またノイズが集まっていた。ノイズに明確な知性はない、現象に近い存在だと言われている。
だから出現を回避する方法はない。
「狩るか」
風にポンチョが揺れるのを感じながら、片手で髪を後ろへと流した。確認する限り、出没しているのは小型種のノイズが16体程だ。連中は動きが鈍く、先制攻撃を仕掛ければ問題なく殲滅できるだろう。ノイズの恐ろしい部分は圧倒的物量と場所を選ばずに出没する奇襲能力の高さだ。まだ数が揃う前の状態であれば何も恐ろしくはない。片膝をついて観察していた状態から立ち上がり、剣斧を大地に突き刺す。
そうやって荒野を軽く眺めてから、
「《アクセラレイター》」
―――一気に加速した。
高台を飛び降りて加速する。時間の流れそのものを加速させ、咆哮を口から放ちながら引きずる様に剣斧で大地を抉って行く。時間が、そして肉体が加速する。一時的に物理法則を超越しながら、大地に傷口を残しつつ更に加速する。背後で土煙が線状に生み出されて行くのを理解しつつ
そしてその勢いのまま、ノイズ群に接敵する。
「じゃあなっ、と」
引きずる様に、大地をひっくり返す様にARMを振るった。大地の礫混じりの斬撃、打撃がノイズに衝突し、その姿を一瞬でミンチに変えながら消し飛ばした。まだ位相差障壁が展開されているが、心の込められたARMによる一撃はそれを貫通する。
「三、四、五、六」
カウントする様に素早くノイズに接近しながらARMを叩き込んで行く。アクセラレイターによって加速された肉体はノイズの反応を速度を軽々と超越し、襲われているという事実に到達する前に殲滅して行く。振り上げ、振り下ろし、叩きつける様にノイズを一体一体、一撃で粉砕する様に消滅させる。接近しすぎて体に触れないように気を付けつつ、
そのまま16体のノイズを殲滅する。
「ふぅー……」
荒野の見える範囲からノイズを殲滅した所で、息を吐きながら剣斧を大地に突き刺した。アクセラレイターによって得た加速がそれにより解除された。時間加速の代償の精神力の損耗を感じつつも、体はまだ、疲労を感じ取っていない。部族に引き取られ、戦士としての教育を受けてから実に9年が経過している。その間に行った鍛錬の成果は、ちょっとやそっとでは疲労する事のない肉体を作り上げていた。
「よし、もうちょっと回るか」
剣斧を引き抜き、肩の上に背負い直しながら再び歩き始める―――ノイズを探して。
この速度でノイズが集まっていたのだから、もうちょい別の場所に集まってそうだ。見える範囲に大型の姿は確認でいないから、恐らく存在していても小型だけだろう。それだけなら自分一人でも問題はない。中型を超えた大型に突入するとARMへの耐性を取得する個体が出現する。その上で反応速度は小型や中型よりも遥かに鋭く、攻撃も面を制圧するようなものになってくる。
流石に、一人では勝てない。
村の戦士を三人ぐらい集めれば陽動と連携でどうにでもなるが、それでもタイマンとなると流石に辛い。だから大型を見かけた場合は、素直に逃亡するのが賢い選択だ。その場合はトニーやエルクを連れ出してくる必要があるが……先ほどの規模を見る限り、今のうちに間引いておくのが安定するだろう。
一定数以上のノイズが集まらなければ大型も中型も集まらない。
サイズを変更するには最低でノイズが30体程必要になってくる。その前に処理すればひとまずは安心できる。だから自分が殲滅した場所を確認し、残滓でさえノイズが残っていないのを確認する。辺境の村にとって、自分でノイズを殲滅するだけの戦闘力を保有するのは死活問題なのだ。
だから歩く。
明日は、義姉の結婚式だ。
9年前に預けられてからずっと義姉として、義母として面倒を見てくれた義姉の結婚式だ。その相手もエルク―――義兄の様な人物だ。義姉を信頼して任せられる男だ。義姉も、義兄も、大好きな人達だ。
「だから少しでも掃除しなくちゃな」
育ててくれた恩、愛を向けてくれた恩がある。それに心の底から報いたいと思っている。だとすれば、そこにノイズと戦う事にためらいはない。家族の為であればどこまでも強くなれる気がしていた。
だから、荒野を歩く。
口笛を吹かせながら荒野を歩く。
どこかで聞いた事のあるメロディを口ずさみながら、果ての見えない荒野を進んで行く。一般人からすれば何も存在しない荒野だが、何年もここで暮らしている身としては、地形の細かい差が解る為、迷子になる事は決してない。
後は今までの経験からどこにノイズが出現するのか、それを計算するだけだ。ノイズの出現には傾向が存在するらしい。どことなく、現れる場所は決まっている。だからこそ無差別な殺傷能力に優れたノイズに対して、対抗手段があっても人類はしぶとく生き残っていると言われている。
それでも時折、街中や都市部にいきなり出現するのだから油断できない。
「うっし、ここら辺にはいないな」
足を止めて、荒野を見渡し、村に一番近い周辺地域にノイズの気配がないのを確認する。どうやらノイズが出現していたのは先ほどの場所だけだったようだ。となるともうちょっと奥へと出て、偵察する方がいいかもしれない。
少なくとも、自分はノイズが村の周辺地域から消える所まで絶滅させるつもりでいた。
それぐらいしなきゃ安心できない。
……というより、式の準備は村の女衆が慣例的に行っているので、男の居場所がないのだ。そうなると体を鍛えているか、ノイズを狩りに行くしかやる事はない。そして流石に、鍛錬だけでこのもやもや感を払拭できるとは思えなかった。
となると、ノイズを狩るしかない。
明日から家の中が一人だと思うと寂しさを紛らわせるように、ノイズを求めて荒野を進んで行く。環境に適応した僅かな動物たちが時折、巣から姿をのぞかせては隠れる様に飛び込んで行く。その姿を見てちょっとだけ、鬼気を漏らし過ぎたかもしれないと反省する。
ふぅ、と息を吐いて心を軽く落ち着かせた所で、
―――荒野に響くエンジン音を聞いた。
響くようなエンジン音ではあるが、同時に軽さを感じる―――バイクか、と判断しながら音源へと向かって視線を向ける。
空と大地が重なる地平線を走る中型バイクの姿が見える。
それだけならまだいいだろう。
だが問題はその後方を追いかける様に迫る、小型の飛行型ノイズの存在だった。
「荒野をバイクで突っ切ろうなんて自殺志願者か何かか……!」
悪態を吐きつつも見過ごす事は出来ない。ここで見過ごした場合、野放しになったノイズが後で村に来るかもしれない。それを即座に判断し、アクセラレーターを再起動させて一瞬で時間加速に突入する。地平線を走るバイクとノイズの方へと一気に向かいながら大地を蹴る。走るのではなく、ハーフのインディアンとして優れた身体能力のポテンシャルを活用する為に、長いストライドの様に距離を縮める。
これがトニーの様な《ジャンプ》が使える仲間が居れば遥かに接近は楽だったんだけどな、と愚痴りつつも一気に距離を埋めた。
「貴方―――」
「そのまま逃げてろ」
到達した所でアクセラレーターを解除しつつ、剣斧をブーメランのように投擲する。回転しながら剣斧が空を飛ぶ飛行型のノイズを薙ぎ払って行き、より手身近な脅威と認定したノイズが飛行型ノイズがドリルの様に回転しながら突っ込んでくる。
「―――」
それに合わせ、《おっさん》仕込みのクイックドロウで二挺のリボルバーを引き抜き、一番手前の十二体にすかさず弾丸を叩き込んだ。リボルバーの弾倉が空になるのと同時に、最後の飛行型ノイズが突進してきた。
「ふんっ!」
それを銃で殴り飛ばした。
軌跡を描きながら戻って来た剣斧に殴り飛ばされたノイズが衝突し、真っ二つに両断される事で最後のノイズが処理された。付近のノイズの気配を確認し、戻って来た剣斧を掴む。腕に来る衝撃にちょっとだけ痛みを覚えつつ、剣斧を大地に突き刺した。
「ふぅ……命知らずにも程がある……」
荒野の様な広い場所は、間引きが積極的には行われていない場所だ。そんな場所をバイクで突っ切れば当然の様にノイズの餌食になるだろう。溜息を吐きながら振り返れば、バイクがゆっくりと戻ってくるのが見えた。胸元が膨らんだ黒いライダースーツの女はヘルメットを脱ぎ、
その下に隠されていた薄いブロンドの髪と金眼を晒した。
「押し付けるようで済まなかったわね」
「本当にな。本当なら報酬でもせびりたい所だよ」
「あら」
そう言って女は軽く胸元を見せる様にライダースーツのジッパーを下げた。
「これじゃ……駄目かしら?」
「悪いな、下品な女は趣味じゃないんだ。今度はノイズに気を付けろよ」
「悪いわね」
それで終わり。視線を外し、別の場所へと向かおうと思った所で―――ぷすり、と不穏な音がバイクから聞こえた。歩き去ろうとしていた足を止め、振り返れば、女のバイクが完全停止し、困ったような表情を浮かべていた。
「……」
「……」
バイクから視線を此方へと向けた、女が申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「近くに街はないかしら……」
その申し訳なさそうな言葉に溜息を吐く。
「ウチの村に来い。ガソリンはあるから」
「本当に済まないわね……」
まぁ、これもゼファーの導きというものなのだろうと、スッパリ諦めながら苦笑する。女にバイクを引かせるわけにはいかないし、それを引きずると申し出る。
「頼っちゃっていいのかしら?」
「頼ってもいいと言われたら素直に頼れ。ウチのルールだ。だから素直に助けられておけ」
「すまな―――いえ、ここは素直にありがとう、ね」
「あぁ」
ノイズ狩りに出た筈なのになぁ、と思いつつ、バイクを女から受け取りつつ片手を伸ばした。
「ウィリアムだ」
此方の言葉に女が手を伸ばした。
「―――フィーネよ。短い間だけど宜しくね、ウィリアム」
そう言って女、フィーネと一緒に、村へと帰って行く。妙な一日になってしまったなぁ、と表情に出す事なく心の中でさめざめと呟きながら。
完全リメイクという事でタイトルはそのまま、WAxシンフォで設定を大きく変えつつ再び挑戦。
という訳で日本人ではない主人公。褐色! 赤毛! シンフォにWAの世界観を融合して行く感じなので、原作のキャラがシンフォそのままという訳ではないんじゃぞ。
とりあえず、謎の美女フィーネと邂逅。一体なにもなんだ……。