※この作品はR-18です。

Symphonic ARMS   作:てんぞー

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虜囚 Ⅱ

「……この空気の具合はテキサスか」

 

 FISの外に出た所で、研究所は周囲には岩場と荒野が広がっていた。とはいえ、見慣れた荒野ではなく、アメリカ内ではあるが知らない荒野だった。それでも空気に混じる味(・)の違いから、凡そどこら辺かは解った。村に戻るまで苦労しそうだが、帰ろうと思えば帰れる。後は夜に星空を確かめれば問題はないだろう。やはり、一番の問題はあのロボットとフィーネ自身をどうにかする事だろう。

 

 フィーネとあのロボットが一か所に揃ってくれれば、アガートラームで薙ぎ払う事も出来るだろう。だけどフィーネも馬鹿じゃない、そう簡単には揃える事もないだろう。となるとフィーネを脅迫出来る要素か、或いはあのロボットだけを先に破壊してからフィーネを抹殺する必要がある。どちらにしろ、優先度はロボットのが上だ。フィーネ単体はアガートラームで殴り殺せるのだから。

 

「しっかしあれが機械って事は、結局はメンテナンスや保存を行う場所が必要になるだろうし、おそらくはどっかに格納してある筈なんだよな……」

 

 恐らくあのロボットもFISに格納されている。それを見つけ出して破壊する。それを第一目標にしておこう。少なくともアレを破壊しなきゃ何もできやしない。完全瞬間氷結とかいうクソ性能をどうやって乗り越えるか、というのを自分も考えなくてはならない。となると、必然的に自分もそれを回避、意識出来る様にならなければならないのだろう。

 

 ……アガートラームの力がどの範囲にまで及ぶのか、それを調べなくてはならない。ひいては、自分の体そのものを鍛える必要もある。そうなると、必然的にここの施設を借りるのが一番楽になる。

 

 FISの外で太陽の光を浴びて日光浴をしつつ、頭を軽く悩ませる。FISの保有施設を借りるのが恐らく一番楽なのだろう。だけどその場合、間違いなく自分のやった事が記録として残るのだろう……それはそれで気持ち悪さが残るのも事実だ。とはいえ、まだFIS全体を知った訳でもない。

 

 ……軽く調べるつもりでどれぐらい使えるか、知ろうか。

 

 そう判断してFIS内部へと戻っていく。とりあえずの自由が確保されている間に動けるだけ動いた方がいいだろうから、確認するだけしてしまった方がいいだろう。FISに戻った所で、エレベーターに乗って、地下へと進む。

 

 FISは地上の研究施設部分だけではなく、地下にも研究機構が広がっている様だった。その理由は聞かなくても、大体察せる。おそらくは研究所そのものを隠す為なのだろうと思っている。表層で研究されているものもカモフラージュで、たぶん比較的軽めの研究が行われているのだろう―――本命は地下の方で。

 

 当然の様に人体実験をする他にも、能力実験を行うための場所もある。ARM等を使える規模の耐久施設も存在するらしい。探そうと思えば普通に壁にマップ等が張られているので、誰かに聞く事もなく見つける事が出来た。思っていたよりも施設案内が新設だったりするので、悪の秘密研究所みたいなイメージがぼろぼろ壊れていく姿に、ちょっとだけ現実を感じた。

 

 そうやって見つけたトレーニングルームは、普通に研究員用の共有施設だった。研究員が適度に運動する事で運動不足を解消する事を目的として作られた施設の様で、顔を覗き込ませてみれば、普通に何人か利用しているのが見える。ルームウォーカーにエアロバイク、体を思いっきり動かすだけのスペースにアスレチックまで設置してある。地下の癖に良くもこんな設備を導入する事が出来たな、と軽く呆れるしかなかった。

 

「ワン! ツー! ワン! ツー! 腹の底から深呼吸をしてぇー! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」

 

「普通にインストラクターもいる……」

 

 インストラクターまで完備しているとは普通にこれ、優秀な事務の類ではないのだろうか? 一旦扉の外に出て、FISである事を確認し、そして再びトレーニングルーム内を見た。別の所でホットヨガの最中だった。

 

「さぁ、チャクラを高めるのです、そしてチャクラを解放して脂肪を燃やすのです……」

 

「お父さん太った? とか言われない為にも痩せるぞぉ……!」

 

 トレーニングルームから無言で出て行った。どうやら来る場所を間違えてしまったらしい。おかしいな……自分は確か数時間前まで、悪の秘密組織に囚われた悲劇のヒロインみたいな展開に入っていた筈なのに、いつの間にか週末のお父さんが事務でダイエットする姿を目撃する事になっていた。あまりにも場違い感が酷すぎてどうしようもない。

 

「……」

 

 流石にあんなものを見た後では、中に入りにくい。ここは別の場所を見て回る方がいいだろう。うん、そうしよう。そう思って振り返った所で、

 

「おや、貴方は……」

 

「おっと」

 

 白衣に薄い水色の髪をした眼鏡の男の姿だった。此方の事は理解しているのかあぁ、と声を零された。

 

「成程、貴方がヒステリックおばはんの連れて来たネイティブの方ですか」

 

「その名前はいささか卑怯では」

 

「いえ、だって常に生理中のゴリラの様な顔をしているものですから」

 

「ごめん、少しタイムで」

 

 腹を抱えて、笑い声を何とか押し殺しながらフィーネ=生理中のゴリラというイメージをかき消して行く。流石にこの先、フィーネとエンカウントして生理中のゴリラというパワーワードを思い出してしまった場合、恐らくまともに戦う事も会話する事も出来ないだろう。だからなんとかゴリラと生理とフィーネというキーワードを切り離して―――あ、駄目だ。そう考えると余計繋がってしまう。

 

「とりあえずトレーニングルームの前に居るって事は運動ですか? 当ッ然ッ! ですよのぇ……英雄を目指すのであれば、その肉体を作る未知もまた一日で成らず……日々のトレーニングが僕を英雄にしてくれるッッ!!」

 

 フィーネ生理ゴリラ説を持ち出しただけあって、レベルの高いガンギマリ研究員だった。本能的にこいつとは長時間関わってはダメだな、と理解させられるものがあった。逃げよう、心の中でその行動を決意させる。

 

「お、そ、そうか……いや、施設を見て回ってただけだから……」

 

「ほう! でしたら僕がここを案内しましょう!」

 

「いいです」

 

「ではこっちへ!」

 

「話を聞けよ」

 

 肩を掴んでくる白衣の力は結構強いもので、そのままぐいぐいと中に引きずり込まれてしまう。半ばFISという場所の予想外の破天荒さに押されつつも、そのままトレーニングルームの内容を教えられる。基本的な設備からスケジュール管理まで行ってくれるインストラクターが配備されている他、本格的な訓練を行う事も出来る。

 

「ちなみに真剣や銃、ARMの類も保存してあるので射撃訓練も行えます」

 

「マジか」

 

「当然ながらここでは兵器研究などが行われています。それらの研究を行うのであれば、最低限それに関する知識だけではなく経験を保有しておくのが理想的です。FISに来るような研究者の大半は知識だけじゃ満足出来ずに実践してしまうタイプなので、当然自分でも扱えるように訓練するような変態も多いです」

 

 FISという組織のイメージに非常に困る内容だった。

 

「ちなみに僕は英雄を目指して体を鍛えているんですけどね!」

 

「お、おう」

 

 非常にコメントに困る内容だった。とはいえ、聞いている話、かなり良さげな施設らしい。反抗心さえなければ普通に自分も利用してもいいと考える。だけどこういう楽をして体を鍛える事を覚えると、篭絡されている様で余り好きになれない。やはり、何時も通り外で走ったりストレッチしたほうが良いと思える。

 

「まぁ、僕ではまだ未熟過ぎて拳で鋼鉄を砕けないんですけどね」

 

「それただ人間卒業しているだけではないかな」

 

「10年前は結構そういう類の人間はいたんですけどねぇ」

 

 10年前のノイズ大量発生の頃は本当に地獄だった。そしてそれに対応する様に人類側も超人の類がちょくちょく出現していたのは話に聞く。ARM技術もその時期に生み出されたものだし。ARMが完成するまでは聖遺物か、或いはゼロ距離まで接近してからの射撃による攻撃が唯一の抵抗手段だったらしい。

 

「まぁ、研究者の都合上結構座ったっきりの状況も多いですし、精神を鍛える為に体を鍛えるというのは必要な事ですからね。特にARMを維持するなら機能を稼働させる為に感応用の精神力は必要ですし。今どき鍛えていない研究者なんて時代遅れですよ、時代遅れ。アイ・アム・レジェンドのウィル・スミスばりに戦えないと駄目ですよ」

 

「黒人研究者枠は割と強キャラ多いよな」

 

 視線を合わせ、握手をした。

 

 ハリウッド映画好きの奴に悪い奴はいない。というか映画好きの奴に悪い奴はいない。男の社会ルールである。

 

「まぁ、それはそれとして、軽く身体測定でもしていきませんか? 私、こう見えて生化学者なので精確に貴方の身体データを取れますよ」

 

「む」

 

「個人的にもデータ欲しいですからね!」

 

「隠さないのかぁ……」

 

 眼鏡をきらりん、と光らせる研究者の言葉を隠さないスタイルにはどこか、毒気を抜かれてしまう。話している感じ、悪い人物ではないらしいし……正直な話、少し気になる事はあった。自分の生身とあの抜剣した時の聖女モード、どれだけ能力が変わってくるのかというのは自分の手札にもなるものだから、知りたい所でもあった。

 

「ん? あぁ、そう言えばフィーネに拉致されてきたんでしたね。なら安心してください。データは個人利用するだけなので渡さないので」

 

 研究者の言葉にいいのか? と問い返せば、いいんです、と言い返された。

 

「待遇がいいからFISに居るだけで別に、忠誠を誓っている訳じゃありませんし」

 

「……じゃあ、頼むか」

 

「では此方へ。他の人に見られないプライベートルームの方で測定しましょうか。そして目指しましょう、英雄の肉体を……!」

 

 その部分があるからフィーネよりは遥かに信用できるんだよなぁ、と思いつつ研究者に従い、トレーニングルームを進んだ。

 

 

♦

 

 

 それから彼―――ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士の協力を得る事で身体測定を行った。まずは何時も通りの自分自身の身体能力を測定し、次に抜剣して姿を変えた状態での身体能力を測定する。この時、アガートラームによるブーストは全て意識的にカットして、素の肉体の能力のみを測定する。出来るのかな? と思いもしたが、別に、姿を変えるだけでも問題なく出来る為、余計に不思議だった。そして不思議な事は身体能力の測定が終わった後で発覚する。

 

「最初はかつての英雄の肉体だと言われてちょっと興奮してしまいましたけど、結局は普通の体でしたね。というか素(・)の(・)能(・)力(・)だ(・)け(・)な(・)ら(・)男(・)の(・)状(・)態(・)に(・)も(・)劣(・)り(・)ま(・)す(・)ね。非常に興味深い結果でしたね」

 

 驚きの結果がジョンの口から出て来た。そも素の身体能力だけなら自前のスペックの方が上だという話だ。

 

「ですが……アガートラームを振るおうとすると自動的に変化するんですよね?」

 

「あぁ、こんな風に」

 

 消していたアガートラームを振るおうと抜こうとすれば、自動的に姿が剣の聖女のそれへと変化する。見た目だけじゃなくて肉体的にも完全に性別が切り替わっているのだから凄い。ただし、これで素の身体能力が落ちているというのだから不思議だ。

 

「となるとそれがアガートラーム側の条件かもしれませんね」

 

 聖剣を消して元の姿に戻りながらふむ、と呟き腕を組む。

 

「一つ、アガートラームは特定の人物にしか振るう事が出来ない為、今のユーザーを利用可能にするためにも変化させる。これが私の考え付いた一つ目の仮設です。生体認証、生体ロック。そう言うシステムがアガートラームに存在している事前提での話になりますが。このケースの場合、アガートラームが抜かれるイレギュラーを認め、そして自分の機構を騙す為にこういう変態をユーザーに発生させている可能性があります」

 

「つまり事実の辻褄合わせの為か……」

 

 確かにアガートラームそのものに意思がある様に感じられる。少なくともアガートラームは長年の間、誰かに抜かれる事を拒絶し続けた剣だった。だから何らかの意思がそれを選定したりするのは、おかしくはない事だ。だけどそれにしては少々、不便なようにも感じる。

 

「二つ目のパターンはアガートラーム側がユーザーを侵食する事で自分に都合の良いユーザーを得ようとするパターンですね。古代の聖遺物の中には一部、使い手を自己改造する事で想定されているスペックに届かせようとする物もありますから」

 

「……魔族か」

 

「知ってましたか」

 

 ARMユーザーの成れの果てと呼ばれる、一般的ではない存在だ。

 

 アメリカ等の国土の広い国ではARMの保有が民間レベルで浸透しているが、それでもライセンスが必要になる。その最大の理由はARMの運用には精神力が必要とされ、そして使い込むと廃人になってしまうから、という理由が存在している。だけどそれだけではないのだ。ARMは使い込み過ぎると、逆にARMから浸食を受けるらしい。

 

 そしてそれによってARMと融合してしまった人間が存在する。

 

 ARMに浸食された存在は肉体は鋼に、血液が水銀に成り代わる。ARMと融合した生物になる。これを魔族と呼ぶ。この状態になるとARMを運用する為の最適な状態となり、ARMを使う事に疲れなくなり、ぶっ放し続けられる様になる。ただし、それで精神的なリミッターが外れるらしく暴走現象等が確認されるとか。

 

「古代の聖遺物―――それも完全と呼べるカテゴリーのそれです。ユーザーの改造ぐらい行っても不思議ではないでしょうね。ARMでも出来るんですし」

 

 まぁ、とそこに言葉をジョンは付け加えた。

 

「僕でしたら良く機能が解ってもいない道具に手を出すのは余りにも恐ろしく手で来ませんね。一度、徹底して検査にかけた方が良いですよ。とはいえ、私は生化学者なので聖遺物の研究は出来ません。聖遺物を使った人体への影響とかは出来ますが、聖遺物自体は無理です。人体実験全体のカテゴリーに入りますので」

 

「おぉぅ」

 

 予想外に親切というか、助かってしまった。こうやって調べて貰わなければ解らなかった事だっただけに、割と真面目に助かってしまった事だった。

 

 そこで、ジョンは眼鏡を押し上げながらですので、と言葉を置いた。

 

「私がFIS内の聖遺物に詳しい博士に話を付けておきましょう。直接会いに行く事は出来ませんが、アポイントメントを取っておきます」

 

「何から何まで悪いな、ジョン」

 

「個人でも気になる事ですからそこまで感謝する必要はないですよ」

 

 ジョンの返答は意外と淡泊なものだった。

 

「アガートラーム。伝承に残された完全聖遺物の一つにして英雄が世界を救うのに振るったとされる剣。果たして英雄が凄かったのか? それとも聖遺物の性能が隔絶されていたのか? それともその二つに力を貸したガーディアンが凄かったのか? 私の専門ではその情報が断片的にしか手に入りませんからね、素直になって調べて貰うのが早いんですよ」

 

「終わったらデータ欲しい?」

 

「うん!」

 

 滅茶苦茶自分の欲望に素直な男だった……だけど、まぁ、それぐらい分かりやすいほうが好感を抱きやすいのも事実だった。ここまで偽りなくストレートに離してくる人物も珍しい―――本当の狙いは口に出さずとも。嘘をつかないでくれるのは、解りやすく、そして助かる事だった。

 

 しかし、

 

「他の分野の博士とも知り合いなんだな……」

 

「なんですかそのいかにも友達が居なそうなやつだ……みたいな言い方は。いえ、実際に友人といえる存在はいませんけど、分野が違えば見えて来る情報も変わってくるので、FISの研究者はそれなりに交流をしていますよ? 異なる視点を持っている方が研究に行き詰り辛いですからね。だから、まぁ、お互いに最低限のコンタクトは取り合っていますよ」

 

 FISという場所、もうちょっとダークな研究施設かと思ったが、予想よりも環境が良いのかもしれないと一瞬だけ考えた。だがその考えをジョンが否定する。

 

「とはいえ、日常的に人体実験や被験者の死が発生しているので腐っても悪い場所ではないと思わない方がいいですよ。私も聖遺物が人体に与える影響を調べる為に何人か使い潰していますし、ここで一番甘いナスターシャ教授でさえ暴力を手段の一つとして子供たちに使っていますからね」

 

 ジョンがそう言って眼鏡を取り、それを白衣の裾で吹き直してからかけ直す。

 

「えぇ、ですから恐らくこのFIS内で唯一まともと呼べる人物は彼だけですね……」

 

 ジョンが恐らく、繋いでくれると言った人物だろう。それが一体だれなのかを求めて、言葉の続きを待つ。たっぷり数秒、待たせるように言葉を止め、それから再びジョンが口を開いた。

 

「……ゼペット・ラグナイト博士ですよ」

 

 その名前は有名である為に知っている―――ARMという兵器を生み出した男の名前だ。決して表舞台にその姿を見せる事はなく、自分も名前を聞いた事があるだけの人物だが、そうか、FISでARMや聖遺物の研究をし続けていたのだから、音沙汰ないのは当然だったか、と納得させられる。

 

「天才を自負し、それが事実である様に行動してきましたが、天賦を持つとはまさにああいう人物の事を言うのでしょうね。凡そ、ARMや聖遺物の分野においてあの人に勝てる人間を知りませんよ。しかもゴリラと違って人間性がしっかりしている」

 

「大事なポイントだな」

 

「えぇ、とても大事なポイントです」

 

 そう言ってジョンは小さく笑うと、言葉を続けた。

 

「それでは頑張ってください―――努力するだけなら簡単ですからね。無責任に応援していますよ」

 

 そう言ってジョンとは別れた。おそらくはゼペット博士に連絡を入れてくれるのだろう。軽く運動して腹が減ったから何かをそこに収めたら―――自分も、ゼペット博士に会いに行こう。

 

 まだまだ、知らない事が多すぎるから。




 イカレた新人を紹介するぜ!!

 筋肉信仰に目覚めてしまったウェルキンゲトリクス博士だ!!
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