汚物食い転生──それは食えば食うほど強くなる禁断の力 作:関節ロック
ナリアが小分けした薬草を詰め込んだ麻袋を軽く叩いてみせる。
葉の生い茂る木立が太陽の光を遮っているせいで、ジュウゾウは周りが薄暗くなったような感覚をおぼえた。
(まだ昼だっていうのに森の奥は薄暗いんだな……)
それから更に四キロほど進んでいくと、ジュウゾウ達は苔に覆われた小さな沢を見つけた。
そこ一同は一旦、小休憩に入ることにした。
ジュウゾウが沢の水で顔を洗う。
ひんやりと冷たい水で首筋の辺りを洗い流すと、何だか晴れやかな気分になれた。
その時、沢の下にいたナリアが慌てて戻ってきて、ジュウゾウとカルラに「沢の下に死体が転がってますっ」と叫んだ。
遺体は右側の側頭部がへこむように潰れ、両方の眼球が飛び出て失われていた。
身に着けている装備品からして、どうやら盗賊タイプらしい。
性別は男で年齢は二十歳前後といった所か。
「死因は頭部の外傷よ。それもかなり強く殴打されてるわね。凶器は棍棒かしら。直径は一五センチってとこよ」
シルフィーが横たわった男の亡骸を検分しながら、ジュウゾウに解説していく。
「頭部の傷口にはクロバエが集って産卵してるけど、蛆は孵化してないから、
まだ殺されてから一日も経過してないわね。
ねえ、ジュウゾウ、クロバエは産卵してから一二時間から一八時間ほどで孵化するのよ。
あとは直腸の温度を体温計で調べれば、もっと正確に経過時間を割り出せるけど。
あるいは目玉が残っていれば、角膜の乾燥具合からも死後の経過がわかるんだけどね。
まあ、どっちにしても死体が腐るのはまだまだ掛かりそうだわ。残念ね、ジュウゾウ。食べられなくて」
「いや、別に残念でもねえから……」
「さっきから一人で何をブツブツ言ってるんだ?」
カルラが怪訝そうな顔つきでジュウゾウを覗き込んだ。
「あ、いや、なんでもない。俺、独り言を言う癖があるから」
「独り言か。それなら私も知らない内に呟いていることがあるな」
カルラが一人で納得したように頷く。
「あの、それよりもこの近くにモンスターがうろついているかもしれないんですよね……逃げたほうがいいのでは……」
不安にオドオドしながらしていたナリアが、警戒するように森の周囲を見渡す。
「そうだな。しかし、誰に殺されたのやら。見た限りだと追い剥ぎの類ではなさそうだな。
身に着けている装備品は手付かずだし。まあ、いいさ。それよりもこの男の装備品と所持金、貰っていこう」
そう言うとカルラが死体の懐を探り、装備品を剥ぎ取っていく。
「ほら、二人とも手伝ってくれ」
カルラにせっつかれ、ナリアとジュウゾウも一緒になって装備の剥ぎ取りをする。
ここに来て、ジュウゾウは自分の抱いていたある種の違和感が何なのか、おぼろげながら理解できた。
ナリアが怖がっていたのは、死体ではなく、襲った相手だ。
ジュウゾウが以前に暮らしていた世界だったならば、ナリアくらいの年頃の少女が惨殺された遺体を発見すれば、
大抵はその死体にも恐怖を抱くだろう。
カルラの死体からの装備剥ぎも同じ事が言える。
(やっぱり、現代人と違って、モラルが低かったり、感覚がズレてるんだよな……)
そんな事を考えながら剥ぎ取った装備品を沢の水ですすぎ、ジュウゾウが付着した血糊を洗い流していく。
もしも読心術を持った第三者がそこに居合わせていれば、
ジュウゾウに「自分のことを棚にあげてるんじゃねえっ」と思わずツッコミを入れただろう。
男の所持している金は二〇〇オーブほどだった。
後は革の鎧にショートソード、それから投擲用のナイフを持っていた。
三人で金を分け合うと、男の装備品の中からジュウゾウは投擲用のナイフを貰った。
「それじゃあ、町に戻るとしようか。厄介なモンスターと遭遇する前に」
そんなことを話し合っていると、突然、森の中に獣の如き咆哮が轟いた。
同時に三人は脱兎のごとく駆け出した。
幸いなことに一行はモンスターに遭遇することもなく、その日は無事に町へと帰還できた。