会議室に着くと、イシュペンは扉をノックし「オチパ様がいらっしゃいました」と中に声をかけて扉を開けた。イシュペンはオチバを連れて入室した。
受付嬢に伴われて入ってきた冒険者はどう見ても10~12歳くらいの年齢に見えた。チーム最年少のニニャより若いだろう事ははっきりわかった。しかし、南方系を思わせる黒髪と黒い瞳の顔は平凡そのものだったが、その小さな体は全身黒を基調とした細かい刺繍の入った仕立ての良い服を纏い、アンティークを思わせる二本のサーベルを腰に佩き、ブーツの先から三角帽のてっぺんまで高級感をみなぎらせていた。
中身の平凡さと装備の豪華さのちぐはぐさに漆黒の剣のメンバーはどう捉えていいのか迷った。
「漆黒の剣の皆様、こちらが今回教育していただくオチパ様になります」
「オチパです。よろしくお願いします」
イシュペンとオチパが口を開いたことでとりあえず自己紹介に入った。
「私が今回の依頼をお受けした漆黒の剣のリーダー、ペテル・モークです」
「よろしく」
ぺテルは20歳くらいで金髪碧眼の好青年だった。オチバはそんな装備で大丈夫か? と疑問を持ったが、きっと普段着なのだろうと思い直した。ぺテルは
「それであちらがチームの目と耳であるレンジャーのルクルット・ボルブ」
「よろしくな」
「よろしく」
ルクルットもぺテルと同じ年頃で金髪に茶色い瞳、優男と言った風体で見た目どおりオチバに気安く手を振った。
「そして治癒魔法や自然を操る魔法を使う
「よろしくお願いする」
「よろしく」
ダインはどうみてもおっさんだった。金髪に同じ色の髭、横幅は一番太いが太っているようには見えなかった。オチバはパワータイプに見えるけど同じ回復系のポジションにいるダインに少し興味を惹かれた。
「そして最後にマジックキャスターでありチームの頭脳、ニニャ・ザ・スペルキャスター」
「よろしく……」
「よろしく。珍しい苗字ですね」
ニニャは周りと比べ、とても若く見えた。こげ茶色の髪に大き目の青い瞳、真っ白な肌で身長も低い。恥ずかしそうにうつむいたニニャにオチバは女だったら手を出してたかもしれない危うさを感じた。
「いえ、苗字ではなく二つ名です。恥ずかしいから止めたいんですけど……」
「え? いいじゃないですか」
「コイツタレント持ちなんだ」
「タレント……ってなんですか?」
「そこからかぁ……」
「意外と知らない人もいるんですね」
「うん。知らないことは知らないからしょうがない」
ルクルットがフォローに入ったがオチバはタレントを知らなかった。生まれながら持っている特殊能力であることと、ニニャの二つ名の由来となったタレント《魔法適正》についてぺテルが説明してくれた。
「ぉー。すごいですね! ニニャさん」
「いえ、その歳で第三位階を使えるオチパさんの方がすごいですよ」
「
自己申告とは言え、使える第三位階魔法の名が出たことでぺテルは一瞬視線を扉の前に待機している受付嬢の下へ向けた。イシュペンはそれを受けて頷いた。それに関してはイシュペンが報告するというサインだ。
「あ、ニニャさん。名前は呼び捨てで結構ですよ。これから一緒に行動するんですし、ね?」
「はい、わかりました。オチパ。私も呼び捨てで結構ですよ」
「だが断る!」
「ええ!?」
「あっはははは、なかなか愉快なやつじゃねぇか。そういえばお前、いきなりやらかしたんだってなぁ……。このルクルット様が女性へのアプローチの仕方ってやつを徹底的に叩き込んでやるよ」
「おお、よろしくお願いします、ルクルットさん!」
「おう! 任せとけ!」
「ルクルットが増えたのである……」
「「はぁ……」」
そんな様子をイシュペンは入り口で観察していた。相性が悪ければギルドマスターに報告しなければならないが、悪いようには見えない。しかし、イシュペンはオチパ達がここを出るまでは見ていようと決めていた。
「それで、今回の依頼の話なのですが―――」
漆黒の剣が考えた今回の教育内容は基本的にオチパはメンバーの誰かと一緒に行動し、ぺテルからは剣を、ルクルットからは女の扱いとレンジャー技術について、ニニャからは文字の読み書き、ダインからは薬草についてゴブリンやオーガを狩りながら順番に時間を見つつという事になった。
「冒険者になったばかりと伺いましたが荷物は他にありますか?」
「いえ、これだけです」
「マントはあった方がいいですね。雨露を凌げますし、外で寝るときは意外と体温を奪われますから。それにその、汚れますし……」
「マント―――……ですか。あったかなー? あ、全部汚れても大丈夫な装備なのでそれはきにしないでください」
「どんだけ金持ちなんだよ……」
「ルクルット、失礼ですよ」
マントと聞いて、そういえばブリタと買いに行く予定だったなー。と思いつつそのことを口に出そうとした所でオチバは気付いた。これは楽しい事になると。そして、漆黒の剣の目の前で
「あ、シーもごもごもご(ツならありました)」
「失礼します。少々お待ちください。オチパ話があります」
「はーい」
イシュペンは焦りつつもオチバがシーツと口に出す前に口を手で塞ぐことが出来た。受付嬢としてあるまじき行為だが、一人の女として他の男の目の前で広げられるよりはマシだった。他の女を牽制するために仕込んだイタズラがまさか自分の首を絞める事になるとは思っていなかった。
イシュペンはシーツを押し込み、
「何出そうとしてるんですか!」
「いえ、朝出る前に中身の確認してたときに見つけまして、そう言えばシーツが入っていたなと……」
「知ってて何してるんですか!」
「イシュペンの恥ずかしがる所が見たいなと……」
「……返してください。充分恥ずかしいですから返してください」
「恥ずかしがるイシュペンはかわいいですね。でもダメです。これは記念品として取っておきます」
イシュペンは自分との初めてのときのシーツを記念品として大事にするというオチパに少し嬉しさを感じた。実際自分の名前とオチパの名前と昨日の日付が入っているものである。変態にとっては記念品にはなるだろう。そういうつもりで渡したわけではなかったが、嬉しかったので妥協することにした。
「むぅ……、絶対に他の人に見せないというのなら……その……持っていてもいいですけど」
「ありがとうございます。誰にも見せないようにしますね。あ、ちなみにこんなのもあります。処女の時のイシュペンの―――」
「変態! わかってはいたけど変態よ!」
「まぁ否定はしませんが……、イシュペンが抜いてくれたんですよ?」
「もう! 知りません! 何でこんな子供に! もう! もう! もう!」
イシュペンは地団駄を踏んだが、その際、イシュペンの裾から先ほど渡した小さな袋が落ちた。オチバはそれに気付き、拾い上げると、「折角なので失くさないでくださいね」とイシュペンの胸元に入れた。その際おっぱいを触るのも忘れない。一瞬の早業だった。
イシュペンは恥ずかしさと後悔と怒りで一杯だったが、胸元に入れられた小さな袋と最後にさりげなく胸を触られたことで胸を抱えた。
「イシュペンは怒るかもしれないけど、もっとたくさん(の女性の)記念品が欲しいんだ。(誰がいたか)忘れないように……」
「え?」
オチバの言葉をイシュペンはこう理解した―――イシュペンとの記念品をたくさん欲しい。いつでもイシュペンを忘れないように。と……。全くの誤解だったが、イシュペンは嬉しさで感情が爆発しそうになった。そして、「もう、しょうがないわね」とオチバの唇に自分の唇を重ねた。
しかし、オチバが手を回して舌を差し入れようとしたとき、イシュペンはこのまま二人きりでは行く所まで行きそうで不味いと思い、オチパを引いて隣の部屋へと戻った。
「絶対何かある」そう確信したチームの耳と目、ルクルット様はあっという間に閉まった扉へと静かに歩み寄り、耳を付けた。そして、出て行ったオチバとイシュペンを追うように部屋の壁伝いに耳を当てたまま移動を開始する。
「ルクルット!」
「しっ! いいから……」
「―――あの二人、できてるな……」
「え?」
「聞いた話から考えると昨日の間ですよ?」
「ああ、だが間違いねぇ……。しかも女の方もまんざらじゃない感じだ……」
「聞いた話と違うぞ? ルクルット本当なのか?」
「ああ、でも変態なのは本当らしいぜぇ? 本人も否定しないとは末恐ろしいガキだぜ……」
「変態……。あのっ、弱みを握られているとは考えられませんか?」
「それはなさそうだ。だが、一人決まった相手がいるんなら案外うまくいくかもしれねぇ……」
ルクルットは隣の扉の開く音を聴き、何もなかったかのように元の場所へと戻った。
「お待たせしました」
「お待たせしました。すみません、マントは気のせいでした」
「そ、そうでしたか。では今日は道具を揃えましょう」
「そ、そうですね。食料の買出しもしておいたほうがいいですし」
「だなぁ。ただ、食器は予備のでいいだろ」
「うむ。では一度宿に戻るのである」
「そうですね、荷物もありますし、オチパさんもそれで構いませんか?」
「はーい。よろしくお願いしまーす」
漆黒の剣+1はそう言って会議室を出て行った。
イシュペンはギルドマスターに報告したあと、カウンターに戻った。残っていたイシュペンの書類がすべてなくなっており、ウィナがやってくれたことに感謝しつつ、「疲れたでしょ、先に休憩入っていいわよ」というウィナの言葉をありがたく受け取り、イシュペンは休憩室に入った。
早めに休憩室に入ったため、部屋には誰もいなかった。イシュペンは胸元からオチパに差し込まれた小さな袋を取り出すとあまり期待はしていないが今のうちに中を見ておく事にした。実は少し気にはなっていたのだ。そして中身を確認すると息を飲みながら手のひらにそっとこぼした。
それは指輪だった。細かい彫刻がされたミスリル製の指輪。その台座には同じ幅のダイヤモンドのような透明の石が、様々な色をまぶしく反射させながら存在を主張していた。昨日酒場でこぼした「贈られたらちょっと考えちゃうかもしれない宝石店」でもお目にかかれないような指輪だった。
きっと恐ろしい値段に違いない。そう思いながらも、イシュペンはそっと左の薬指に指輪を嵌めようとし、ふと、「結婚するなら~」という自分の考えを思い出し、「まだ恋人よね」とつぶやき、右手の薬指に指輪を嵌めた。マジックアイテムだったようで嵌めた瞬間スッとサイズが調整され、ぴったりと嵌った事にイシュペンは再び驚いた。
室内に入る光をキラキラとまばゆく反射させる自分の右手をイシュペンはしばらく見ていた。
女心がわかっているのかいないのか……。変態なのは間違いないのに、ね……。でも結婚するなら―――。
ふとイシュペンはもう一つの贈り物を胸元から取り出した。事後でも効果があるという避妊薬だ。イシュペンはそっと自分の胎に手をやり、飲むか飲むまいか迷った。イシュペンの中ではこのまま結婚してしまってもいいかもしれないという考えと、まだ早いという考えがせめぎあっていた。指輪のせいで前者の攻勢が激しい。
しかし、わたしはそんなに安い女ではないはずだという考えに行き着いた。少なくともオチパがどうしてもわたしを孕ませたいと言わなければ気がすまない。恋人でもないうちから自分から孕ませてと言い、そのまま孕んでは負けた事になる気がした。子供が出来てはそのチャンスも減る。それに恋人まではいいけど結婚相手に昇格させるのはまだ早い。
イシュペンは避妊薬を飲み干し、空のビンを自分の手荷物の中に入れた。
漆黒の剣+1は買い出しを終え、宿に戻った。普段四人部屋を取り全員一つの部屋で寝ていたのだが、オチパが入ったことで問題が生じた。この宿には四人部屋より広い部屋がなかったのだ。冒険者組合と提携する宿であればもっと広い部屋もあるだろう。しかし、下級の宿はオチパが出入り禁止になっており、中級の宿もオチパが問題を起こす可能性が増える。
そこでオチパは「個室がいいので自分で部屋を取ります」と言い切ったのだが、夜も誰かしら付いていないとダメだと漆黒の剣のメンバー全員に言われてオチバはしょんぼりした。漆黒の剣としては依頼で動いている以上、不安要素は極力減らしたい。
実際オチパはこっそり抜け出してイシュペンかウィナのところへ行くつもりだったのだ。しかし、誰かしら同じ部屋にいるとなるとバレるだろう。強行してもいいが、今後のことも考え少しは我慢するべきだと思った。
ニニャを除いた漆黒の剣は追加で個室を取り、そこにニニャを泊まらせるという話を出した。ニニャは色々な事情で自分が女であることを隠し、男の振りをしながら漆黒の剣のメンバーとしてやってきた。メンバーはニニャから事情を聞いてはいた。しかし、ニニャが頑なに男の振りをするのでニニャが女である事を知りつつもニニャが口に出すまで出来る限り男として扱っていた。
そのため、ニニャを個室に移そうと考えたのだが、ここでニニャとオチバから待ったがかかった。ニニャは
「それにオチパも男の私を襲うことはないでしょうし、文字の勉強もできれば室内で行いたいですし……」
「はい、男の人を襲うつもりはありませんので安心してください」
「本当かぁ? 案外オチパなら男同士でもアリかもしれないぜぇ?」
「いえ、さすがに男同士は……知識はありますけど僕もお断りしたいかなと……」
「って知ってるのかよ! っかぁあああ! 誰だよ、コイツにそういうこと教えたやつは!」
ぺテルとダイン、ニニャはドン引きしていた。オチパと同じレベルで会話できるルクルットがいてよかったと思いつつ、ぺテルとダインは冷や汗を流し、男であることをアピールする必要があったとはいえニニャは早まったかなと思い始めていた。
「というわけでニニャさん、同室ですね。よろしくお願いします」
「え、ええ……よろしく」
まずニニャの荷物を取りに行くため、四人部屋へ向った。ニニャが荷物をまとめている間、オチバは「へー!」「おおー!」とか言いつつ部屋の隅々まで観察し、ベッドの下にこっそり盗聴兼録音用のマジックアイテムを仕掛けた。ちなみにイシュペンの声が入ったものは永久保存版として別に保管していた。
ニニャとオチバが泊まることになった二人部屋は四人部屋のひとつ上の階だった。漆黒の剣のメンバーは非常時には階段を押さえれば何とかなるかと思いつつ、ニニャの心配をしたが、ニニャは苦笑いで返すしかなかった。
二人部屋もベッドの数が違い、小さなテーブルがあるだけで質はあまり変わらなかった。しかし、ここでもオチバは感嘆の声を上げながら色々な場所を見つつ盗聴や盗撮、録音や録画用のマジックアイテムを仕込んだ。チームメンバーの秘密は男が相手でも容赦なく収拾するのが基本なのだ。敵ならそこまで日常を調べる必要はない。倒してしまえば終わりである。
夕ご飯まで時間があったので、明るいうちにしかできない文字の勉強をすることになった。オチバが「大勢に見られてると集中できないから」と他のメンバーを追い出し、ニニャと文字の練習をする。
オチバが露天で買いあさった雑貨の中からペンと羊皮紙を出した。ニニャは「準備がいいですね」とまずは名称や冒険者がよく使う単語をお手本にするように書いていった。ぶっちゃけ最初は見分けが付かなかったが、見比べてニニャに聞き、ひとつひとつ別の羊皮紙にオチバはニニャのお手本どおり書き取りの練習を始めた。
意外と真面目に取り組み、ペンを持つのが初めてとは思えない書き方にニニャは違和感を覚えた。初日に聞いてもいいものか考えていると、オチパが書き取りをしつつ話しかけてきた。
「ニニャさん。ペンを使えるのが不思議ですか?」
「え? ええ、意外だな、と……」
「ですよねー。ニニャさん秘密の交換しませんか?」
「えぇ!?」
冒険者同士の探り合いはご法度である。しかし、等価交換なら問題ないだろう。オチパの秘密を知っていれば対応も変わってくるし、聞き出しに成功し、重要な情報であった場合、漆黒の剣の株もあがるだろう。それに秘密と言っても女であることではなく、チームメンバーも知っている事情を話せば問題ないし、それで変態に対する嫌悪感を知らせておくのもいいのではと考えた。つまりニニャに失うものは何もないいい取り引きに思えた。
「ええ、構いませんよ」
「そうですか。実は僕、先日大掛かりな
オチバはカルネ村の人間やガゼフに語った事情を説明した。ニニャは疑いつつも、ガゼフ・ストロノーフの名前が出たことで信憑性が増し、驚いた。
「―――と、いうわけでこの国の文字の読み書きが出来ないんですよ。元の国の文字はこんな感じですね」
そう言いながらニニャの書いたお手本に対応する単語の内容を日本語で書いていった。
「そ、そうですか、あれ? この文字どこかで見たことがあったような……」
「あ、そうなんですか? でも秘密にしておいてくださいね。今は静かに暮らしたいのです」
「あ、はい。わかりました」
仲間には相談するかもしれないが、ギルドマスターに言えるかどうかは不明だった。王国戦士長が関わっているとなると、どう対応していいかニニャには判断できなかった。
「次はニニャさんの番ですよー?」
「あ、そうですね……。仲間にはもう話しているのですが―――」
ニニャは姉が貴族に妾として連れて行かれたこと、姉の行方を捜していることなどを話した。
「ツアレニーニャ・ベイロンですか。僕も微力ながら探すのをお手伝いさせてください」
「ええ、オチパ。お願いします。情報は多い方がいいですし、目と耳の数は多い方がいいですから」
オチバは「なかなかの変態だなー、その場で食べず、妾に迎えるだけ良心的なのではなかろうか」などと思いつつも口に出さなかった。それよりもニニャの姉で貴族に攫われるくらいなのだから美人なのではなかろうかと考え、使い古された中古ってどうなのよ、と思いつつも興味を覚えた。
「お姉さんの特徴を教えていただけますか?」
「ええ、髪は金髪、瞳の色は私と同じですね。当たり前かもしれませんが私より美人だと思いますよ?」
「おお……金髪碧眼……。あ、でも金髪って言っても色々見え方が違いますよね? ルクルットさんとぺテルさんなんかは結構違いますし……」
「そうですね。色はルクルットの方が近いと思います」
「フムン……」
改めてニニャの顔をじっと見るオチパにニニャは思わず少し体を引いた。オチバとしてはニニャに想像の中で長く薄い色の金髪をかぶせ、女の子にした。美人だった。今までで一番かもしれない。
「ど、どうしたんですか?」
「かなり美人ですね。今までで一番です。やる気が出てきました」
「ちょっ! い、いきなり何を言うんですか」
オチパに目を見つめられ、今までで一番美人だと言われ、しかもそれでやる気を出したと真正面から言われたと勘違いしたニニャは心臓をバクバクと激しく鼓動させ、焦った。この変態には女を見抜く才能でもあるのかもしれないと……。そして次の標的は私かと……。
「いえ、ニニャさんに金髪をかぶせてイメージを膨らませてました。お姉さん美人だなと……」
「え、ええ、確かに姉は村でも評判でしたから。あ、オチパ。姉を見つけても襲わないでくださいよ?」
「いえ、誰かに仕込まれた人にはあまり興味がないので安心してください。それでもあまりに美人で手を出したくなったらニニャさんに相談しますね」
ニニャは勘違いだとわかり、慌てて笑みを浮かべて姉の話で濁そうとしたが、結局冗談1割、本気9割でニニャはオチパに警告した。オチバにはあまり興味がなかったため、そのまま思ったことを口に出した。それで一応ニニャは安心したものの相談されても断る気満々だった。
その後は読み書きよりも先にオチバが知りたい文字をニニャが書き、言語対応表を作った。どう見ても女の個人名や避妊薬などの言葉もあったので理由をオチパに聞いたが、「ラブレターでも書いてみようかと」との言葉にニニャはどんよりしながらも教えた。
好きとか愛してるよりも避妊薬と書かれたラブレターを受け取ってときめく女などいるはずがない。さっさとルクルットの女性の扱い方とやらを教えてもらうべきだとニニャは思った。
夕食は宿の一階にある食堂でとった。食事中はルクルット先生の女性の扱い方講座を聞きながらだった。ぺテルやダイン、時にはニニャも訂正やツッコミを入れていたが教育なのでオチバは食べながらちゃんと素直に聞いていた。
食事を終えると、今後の活動予定の話になった。オチパがまだ一度しか野営をした事がなく、ゴブリンやオーガなどを生で見たことがないとの事だったので、比較的近くで出現する可能性のある場所で一泊か二泊してみようという事になった。
今回はゴブリンの耳を取れればトントン、取れなければ赤字であるが、オチパの能力が未知数なので、安全性を重視した。オチパの能力が低ければ、移動だけで動けなくなる可能性もなくはない。冒険者としてそれはどうかとも思うが、オチバの見た目ではそう考えられてもしょうがなかった。
部屋に戻る前に一階でお湯を貰い、部屋で体を拭くことになった。いつもならメンバーが気を使ってなんだかんだでニニャを一人にするのだが、今回はオチパがいるため難しい。ニニャもできれば一人で体を拭きたい。ところだが、今回はパスしようかとも考えていた。
「えー? 皆さんの前で全裸になって体を拭くんですか? それはちょっと……」
「いやいや、裸の付き合いってのも大事なんだぜ?」
「ルクルット! いえ、オチパさん。その、ぇー……、冒険者になると何もない場所で寝ることになったり、長期の依頼では外で拭く事もありますので今のうちに慣れておいた方がですね……」
「うむ。ぺテルの言う通りなのである」
しかし、オチバは引かない。オチバの中で一つの疑問が沸いていたのだ。ニニャは本当に男なのだろうかと……。ルクルットの微妙なニニャに対する気遣い。ぺテルのオチパをニニャから引き離そうとする交渉、ダインのそれらの肯定から「もしかして?」と思ったのだ。
男だったとしても男の娘というジャンルがある以上、ありえない話ではないだろう。成長の遅いかわいい少年だったという事で済む。飢餓感が高まったら襲ってしまうかもしれない。しかしニニャがもし女だったら候補にできる。この差は大きいと思った。
「そういう時はテントを運んだらいいんじゃないですか?」
「うっ、ま、まぁそういう事もありますが……」
「でもよぉ、体を拭くためだけにテントを運ぶってのもなぁ……。そりゃオチパはそのマジックアイテムがあるから気にしないんだろうけどよぉ……」
「
で、ですね。ちょっと今日は失礼かもしれませんが、ニニャさんにも見られたくないなーと思う所存でして、体を拭く間ニニャさんと交代になっちゃいますが、交互に使いませんか?」
「ええ、私はそれでいいですよ」
「おい、ニニャ!」
「いいじゃないですか、ぺテル。オチパもこう言ってますし最初くらいは交互に使うというのも……」
「まっ、それが妥当な落し所だな。ただ、待ってる間は一人付いてもらうぜ?」
「うむ。では某が付くのである」
オチパは作戦の成功を喜び、ニニャも安心して体を拭けることに喜んだ。しかも耳のいいルクルットではなく優しいダインが申し出てくれたのもありがたかった。
二人部屋に付くと、ダインさんが体を拭くのが遅くなるからという理由でニニャから使う事になった。ニニャが終わればオチパは中で一人になるが、ニニャが見張りにつけるのでダインが見張りに付く必要がなくなるからだ。
そして、ニニャが体を拭く間、オチパとダインは扉の脇に壁を背にして座った。ダインは何か話をした方がいいだろうと考えていたが、オチパが眠そうな顔でこっくりこっくり眠そうに船を漕いでいた。ダインが「少し眠るがよいのである。終わったら起こすのである」と声をかけるとオチパは眠そうな声で「アトハマカセター」と言って頭をカクンと落としてすーすーと寝息を立て始めた。
これなら中の様子を扉越しに聞かれることもないとダインは安心し、そのままニニャが体を拭き終わるのを待った。
オチバは疲れて眠った振りをしつつ、室内に設置した盗聴、盗撮用のマジックアイテムを起動し、脳内に映し出される映像を駆使し、色々な角度からニニャのストリップを見ていた。ニニャが胸にさらしを巻き、小さな胸を押しつぶしていた時点でほぼ確定していたが、そういう特殊な身体なのかもしれないという可能性も残っていた。しかし、下を脱いだ瞬間、即座に永久保存版に決定した。ニニャが女だったことをオチバは知った。
ニニャが出てくると、ニニャはオチパが寝こくっていた事に安心し、「寝顔はかわいいですね」などと言いつつ笑顔で頬をツンツンした。ダインもニニャが出てきたら起こす予定だったので、別にいいかとそのまま見ていた。
しかし、揺すっても叩いてみても起きなかったため、ダインはオチパをベッドへと運び、ダインとニニャがオチパの外套とブーツを脱がし、剣帯を外して壁に掛けると、オチパをベッドへ寝かせ、外套を上からかけた。
二人きりで寝込みを襲うという新人と寝るのに不安を覚えてはいたが、ニニャもダインもこれなら大丈夫だろうと安心し、ダインは体を拭くために四人部屋へと戻って行った。
ニニャは一応オチパに「おやすみなさい」と声をかけると眠りに付いた。しばらくしてニニャの寝息が聞こえてくると、オチパはむくりと体を起こした。ニニャに《
ニニャはマジックキャスターだ。魔法的な防御をしている可能性も高い。しかも相部屋でニニャが選ばれたのは確実に探知系の魔法を行使できるからだろう。
となれば実験だ。イタズラや言い訳可能で怪しまれない許される範囲限定だが、オチバはやれることはやってみようと思った。寝たふりをしているとき、ニニャはほっぺをツンツンしていた。つまりこれはセーフだろうとニニャのほっぺをツンツンしてみたが「んんー」と少し唸っただけだった。
際どいかもしれない。寝言と魔法での警戒の差がわからない。
次に魔法の行使だが、見られてもよくてあまり不自然じゃないもの……。それでいて魔法の影響がそれなりにニニャに及ぶものがいい……。
「《
特に問題なし。外に一人いるが、交代で見張りにでも立っているのだろう。後で誰がいるか一応確認しておこう。というわけで……。
オチバはニニャに《
ではなぜニニャが選ばれたのだろうと思いつつオチバが部屋を出ようとするとニニャが飛び起きた。
「オチパ。どこへ行くんですか?」
「ちょっとトイレに……、起こすのも悪いかなと思いまして……。あ、ベッドに運んでいただいたようで、ありがとうございます」
「いえ、じゃあ一緒に行きましょうか」
「はーい」
囚人護送の気分である。しかも部屋の外に出ると、ダインがいた。三人でトイレへ行き、オチパとニニャは部屋に戻った。ただ、ニニャの警戒の仕組みが何となくわかったのは大きな成果だった。
オチバは、「まぁ外に出てからの方が楽しそうかな」と思いつつ、上着とズボンを脱ぐと、下着のままベッドへ入った。この世界に来て、硬いベッドは村長宅以来だなと思いつつ我慢して寝た。
翌日、朝早く起き、着替えて朝食をとると装備を整え冒険者ギルドへと向った。当然ニニャと順番に着替え、永久保存版の容量が増えた。オチバはもう一度差異を確かめたいと言いつつ四人部屋をくまなく漁り、設置したマジックアイテムをこっそり回収した。
冒険者ギルドへはこれから出かける事を伝えに行くためだ。帰ってこない事も多い仕事なので、街を出るときと到着したときは必ず冒険者ギルドへ報告するのが望ましいとの事だった。この辺りはぺテルに教わった。
オチバは冒険者ギルドに入ると、朝の混雑に辟易としていた。そもそも昼の空いている時間にしか来たことがなかったし、夕刻に混み始めると出て行った。一応一緒に並び、順番が来ると、受付嬢はウィナさんだった。オチバは少し嬉しくなったが、隣に座るイシュペンが怖い目でチラチラと見ていたのでオチバはイシュペンに笑顔で手を振ってごまかした。
イシュペンの右手の薬指に自分が送った指輪がある事を確認してオチバはちょっと嬉しく思った。
オチパとイシュペンのそんな光景をウィナは漆黒の剣の手続きを進めながら冷めた目でチラッと見てしまった。そして「仕事に集中しなさいよ」と目で訴えかけると、イシュペンはなぜか勝ち誇ったような顔でウィナを見た。
ホント訳わかんない。なんなのアイツ……。前々からおかしな所はあったけど今回は異常よ。変な薬でも飲んだのかしら。
昨日、ウィナはイシュペンと休憩時間の交代をすると、イシュペンの右の薬指がまばゆく光っているのに気付いた。女は光物に敏感なのだ。イシュペンに聞いてみると、「オチパに贈られたの」とすました声で言っていたが、嬉しさを押し込んでいるような歪んだ顔だった。
強姦魔から変質者や変態を通り越し、問題児やガキや子供も飛び越え、くん付けやさん付けも素通りし、まさかの呼び捨てであった。いや、呼び捨てと君付けやさん付けに差があるかはわからないが、とにかくイシュペンの中でオチパへの好感が異常に上がったのは確かだ。
ウィナが「あんなのがいいの?」とイシュペンに聞くと、「恋人にしてみるのも悪くないかと思って」などとどう考えても頭がおかしくなったような答えが返ってきた。
確かに、以前イシュペンに連れて行かれて「贈られたらちょっと考えちゃうかも」と言っていた宝石店に置いてあったものより輝きが眩しい、しかもお気に入りの装飾店にはないセンスを感じるし、高級感が半端ない。考えるどころか完全に堕ちたのかとウィナは納得した。
しかし、「でもまだ恋人止まりよ!」と主張するイシュペンに、ウィナは「あと一つ同じようなの贈られたら結婚するんでしょうね」と冷めた目で見つつ「はいはい、ごちそうさま」と返しておいた。ウィナ自身も否定は出来ないが、結構面食いなイシュペンが平凡な南方系の顔つきの小さな子供、しかも強姦魔に落とされるとは思いもしなかったが、本人がいいならいいかとそれ以上言わないことにした。
イシュペンが仕事をちゃんとしてくれる限りは別段ウィナに被害はないのである。
漆黒の剣のメンバーはエ・ランテルの城門を出ると北西へと進んだ。ずっと進むとカルネ村があるが、街道警備も程よくされており、休憩場所もわかっており、頻度は少ないがそれなりにゴブリンなどが出る森が近くにあることはわかっていた。
目的地まで歩いている間はルクルットのレンジャー講座、お昼の休憩にはぺテルとの剣の練習。薬草などが道端に生えていたらダインの薬草講座。
そして時々フォーメーションの確認などを行った。前衛はぺテル。後衛アタッカーはルクルットとニニャ、ダインは相手の動きを阻害しつつニニャの護衛、オチパはひとまずニニャのところで全員に補助魔法を掛け、同じくニニャの護衛に回ることになった。
オチバにとって目新しいことばかりだったので移動の間とても楽しかった。特にお昼に行ったぺテルとの剣の練習はとても為になった。こちらの世界の
Lv10~20かなと考えつつも、オチバは素人っぽく見えるよう「今から切りますよー」とでも言うように思いっきり振りかぶり、早くなりすぎないよう振り下ろし、ぺテルの攻撃を裁きつつ、上手くぺテルに勝たせる事ができた。そして、負け惜しみの一つも言っておいた方がいいだろうとオチバは考えた。
「それでどうだ? 信仰系
「え? ええ、素質はあると思いますよ、オチパさん」
「まっ、ダインの方がまだ上だろうな! がんばれよ、少年」
「そうですね。私より強いと思いますよ。剣なら……」
「オチパ氏はこれから成長する身。それを考えれば充分強いのである。男子の一念、貫けば通るのである」
オチパはワザと負け、ワザと負け惜しみを言ったのだが、メンバーの優しい言葉でなぜか悔しくなった。そのせいでつい言ってしまった。
「くっ、本気を出せば……」
「え? 本気じゃなかったんですか? それじゃあもう一本やってみましょう」
「ぇ……、いや、そのですね……」
「ひゅーひゅー、ワザと手を抜くとはやるねぇ! いよっ、オチパの本気見てみたいっ! なんてな!」
「ルクルット、オチパが困ってますよ」
「うむ。ここは聞き流すのが優しさというものである」
ルクルットに煽られただけなら救いはあったかもしれない「あはは、冗談ですよ冗談」なんて言えたかもしれない。しかし、ニニャにいいところを見せたい気持ちもあったし、このまま手を抜いたと思われるのも、負け惜しみに上塗りしたと思われるのも悪手だろう。そう考えたオチバは再びぺテルに挑んだ。
基本的に先ほどとやることは変わらない。少し速く強くするだけだ。しかもそもそもそんな力があったと思わせない良い方法がある。目的のためなら手段を選ばないのだ。
「ではもう一本お願いします」
「はい、いつでもどうぞ」
そう言って盾と木剣を構えたぺテルに、オチバは同じく二本の木剣を両手に持った。そして……
「《
「ちょっ!?」
「ずっりぃぞ!?」
「ま、まぁ、補助が得意って言ってましたもんね、
「なんとも言えないのである……」
オチバは両腕を広げ、笑みを浮かべた。それに対しぺテルは焦った。オチパはニニャの使えない強化魔法を強化して使ってまで本気でやるつもりなのだ。先ほどはオチパの太刀筋に救われ、すべて捌けたし、隙を突くことも簡単だった。しかし、速さと強さは外からはわからないがペテルにとって
後は戦い方を覚えればその道でも食べていけるであろうほどに素質がある事を認めていた。それが魔法で強化され、双方無傷で終わらせることが出来るか怪しく思った。
「ではゆくぞ!」
「ええええ!? ニ、ニニャ、防御まほ―――くっ《
「なっ!? 《
オチバがあっという間に間合いを詰め、先ほどと同じように振りかぶった左手の木剣をぺテルは武技《要塞》を起動し、咄嗟に放ったニニャの《
ぺテルの盾はへこみ、盾を持っていた左腕への衝撃はかなりのモノでしびれが走った。オチバが叩き付けた木剣は耐え切れずに砕けたがオチバはもう一本木剣を持っている。ぺテルが硬直したことで、オチバはぺテルの左肩に打ち込み始めていた木剣を寸止めした。
「すみません。大丈夫ですか? ペテルさん。《
「え、ええ、先ほどとは見違えましたよ。すごい支援魔法ですね」
「はい。今度はペテルさんも体験してみてください。慣れておいた方が良さそうですし……。ダインさんとルクルットさんも体験しておきますか?」
「ええ、是非!」
「おお、お前すっげぇな!」
「うむ。興味深いのである」
「わ、私もできれば……」
「あ、そうですね。ニニャさんも体験しておきましょう」
漆黒の剣のメンバー全員に先ほど使った支援魔法をかけ、オチバは「やりすぎたかと思った。危なかった」などと考えていた。漆黒の剣は掛けられた補助魔法に慣れるため、素振りや走り込み、模擬訓練などを行っていた。オチバはすでに慣れているし魔法をたくさん使ったという理由で休憩し、ボーっとその様子を眺めていた。
しばらくするとニニャが息を切らせてオチバのところにやってきた。
「あはは、すごい魔法ですね。走りすぎて疲れてしまいました」
「ええ、体力が上がるわけではないのでその辺りは慣れていないと大変かもしれませんねー」
オチバは
「ありがとうございます。すごいマジックアイテムですね」
「いえ、便利でよく使うのですごいというイメージが薄れましたが……」
「あはははは……」
「もう一杯どうぞー」
コクコクと嚥下するニニャの白い首を「エロいなー」と思いつつ、再びその光景を目に収めるため、ニニャにもう一杯冷たい水を注いだ。「ありがとうございます」と言ってもう一杯飲んだニニャは少しうつむいた後、意を決したように顔をあげた。
「あの! オチパ。よろしければ今の魔法を教えていただけませんか?」
「んー。ニニャさんになら教えるのも吝かではないのですがー……」
「少ないかもしれませんが報酬も支払いますから」
「おお、報酬ですか……。ですが、僕が覚えた方法で果たしてニニャさんが覚えられるか分からないんですよ。方法を教えることはできるのですが、覚えられるかは未知数です」
「ええ、それでも構いません。是非教えてください」
ニニャが真剣に目を合わせてお願いしてきたのでオチバはあっさり落ちた。そして先に報酬を決める事にしたのだが、オチバが出した条件は「お姉さんを探しに行く時は連れて行く事」だった。ニニャにとってオチパは強く見えた。実際にペテルに強化魔法を掛けた方が強いだろう。
しかし、ニニャはこの件に仲間を巻き込むつもりは元からなく、オチパが自分から言い出すのであれば良いかなと思ったので条件を一つつけて了承することにした。
「えーっと……。姉さんが良いって言うまで手を出さないのであれば……」
「はい、じゃあ決まりですね。では早速お教えしますね!」
報酬が簡単に決まり、一言も聞き逃さないよう、ニニャは真剣にオチバの言葉に集中した。
「まず、ゴブリンとオーガをたくさん殺します。片手間で倒せるくらいが理想です。出来ればもっと強いモンスターも倒します」
「はい?」
「そして、先ほどの魔法、
「え? えーっと……。じょ、冗談ですよね……?」
「いえ、真面目に本当です。僕はこうやって覚えました」
「でもゴブリンやオーガを見たことないって……」
「それも本当です。ニニャさんには話しましたよね? 元々は違う場所にいたと。そこではモンスターがたくさんおりまして、探すのにあまり苦労しなかったのですが、こちらに転移させられてからは見たことがないんですよね……」
「そ、そうでしたか。ありがとうございました」
ニニャにとって魔法の覚え方が全く違ったので全く当てにならなかった。しかしオチパの言葉を信じるならオチパはオーガを片手間で倒せるという事になる。ニニャにとってこの情報は良い収穫だった。
「教えたので報酬の件よろしくお願いしますね」
「ええ、その時はこちらからもお願いします」
オチバはニニャからコップを受け取ると、それに水を注ぎ、自分で飲んだ。平然とナチュラル間接キスである。ニニャは「あっ」と声をあげたが、気にせずに空になったコップを
色々あったお昼の休憩を挟み、今日の野営地に到着した。見晴らしもよく、地面も乾いており、野営地に最適だった。そこでニニャはモンスターを避ける結界を張り、他のメンバーは周囲から薪を集め、焚き火を起こし、食事をとった。
その辺りはガゼフたちと野営した時とあまり変わらなかった。ただ、見張りを交代で行う必要があり、今回はその見張りにオチバも組み込まれることになる。今までは二人ずつ半分半分で交代していたのだが、その片方にオチバが混じることになった。
オチバはニニャと共に後半ということになったが、これは昼の休憩に二人で楽しそうに会話し、同じコップで水を飲んでいたのをメンバーが見ており、仲が良さそうだし問題ないだろうということになった。むしろ、他のメンバーは若い二人に無理をさせないため、半々ではなく6:4か7:3くらいで交代しようと話し合っていた。当然緊急時には全員起床である。
そしてオチバを加えた初めての野営が始まった。食事中、オチバの疑問から漆黒の剣の由来を聞き、ペテルから説明を受け、全員が持つ黒い剣を見て「そういうのいいですよねー」とオチバが感想を漏らした。そして打ち解けてきた頃、ルクルットが剣つながりでオチバの剣について聞いた。聞いてしまった……。
「それでその腰の剣はどこぞの逸品?」
「はい、多分もう二度と手に入らない、オーダーメイドです。とても完成度が高くて気に入ってます! 絶対に手放しませんし、盗まれても絶対に逃がしません!」
「おお、そうなのですか。やはり特別に魔化されたものなのですよね?」
「魔化……ですか? えーっと、まぁ性能とか能力付加とかは切れ味がよくて壊れにくいとか、いくつか属性が付いたりとか……。まぁよく使うのはそんなとこですね。その程度ならもう何本か持ってます」
「まじかよ!? その程度って……っかぁあああ! これだから金持ちは!」
「ルクルット、失礼ですよ。それでオチパ。どこが気に入ってるんですか?」
「うむ。それほどの剣。さぞやすばらしい能力をもっているのであろう」
そこでオチバは立ち、数歩離れると長短二振りの
オチバは「耳を澄ませてよく見ていてくださいね」というと、目の前で二振りの
「ね? 良い音でしょう? このギミックと音を出すのにすごく苦労しました」
そして何度も聞かせるようにカイィン! パキイィィン! カイィン! パキイィィン! と繰り返しつけたり外したりを繰り返す。オチバは本当に嬉しそうに、子供が宝物を自慢するような笑顔を浮かべていた。
「え、ええ、確かにキレイな音ですね……。オチパ、そろそろやめにしませんか?」
「何と言っていいか……。その……確かにその仕組みはすごいですね」
「……マジでそれだけ? 使い物になるのか?」
「おい、ルクルット!」
「ルクルット失礼ですよ。オチパが気に入ってるならいいじゃないですか」
「う、うむ。恐らくニニャの言う通りなのである」
ニニャとオチパが寝付くと、他の三人は二人を起こさないよう気をつけながらひそひそと話し始めた。
「今日は色々と驚きましたね」
「ああ、全くだ。特にあの剣。もしかして国宝級なんじゃねぇの?」
「うむ……、そう言われても納得するのである」
「国宝級ですか……」
「そうそう……しかも言ってた話じゃ何本も……。ってあああああ!」
「ルクルット、声を抑えろ」
「静かにするのである」
ふと何かに気付いたルクルットを二人はいさめた。そして寝ている二人が起きていない事を確かめるとルクルットが神妙な顔をして自分が思いついた推理を語り始めた。
「今思いついたんだけどよ。もしかしてオチパはどこか遠い国の王族だったんじゃねぇのかなって……。それなら色々と辻褄が合うとは思わねぇか?」
「……確かに。女性を襲うことが推奨されるような環境と性に関する知識。いくつも所持している高級品。剣もそれなりに使えて第三位階魔法を使えるほどの教育。それでいて、文字が読めずとも会話はできる。言語の違う国から来たのならむしろすごい能力ですね……。さらには全くと言っていいほどの世間知らず。……確かに辻褄は合っています」
「ふむ。であれば南方のかなり遠方であろうな……」
「何があったか知らねぇが、一人でこんなとこまで来ちまって、コイツも色々苦労してるんだろうな……」
~ take1 ~
「いえ、さすがに男同士は……知識はありますけど僕もお断りしたいかなと……」
「って知ってるのかよ! っかぁあああ! 誰だよ、コイツにそういうこと教えたやつは!」
「インターネッツ先生です」
「へー。知らない名前ですね。よほどの変態なんでしょうね……」
「いえ、すごく物知りなだけでして……魔法も先生に習いました」
「しっかし、こんなガキに教えるか? 普通。それでいつ頃聞いたんだ? というか俺にも紹介してくれよ」
「ルクルット! お前なぁ!」
「さぁ……10年間くらいでしょうか。詳しくは覚えてません。それに多分もう会えません」
「っておい、お前いくつだよ!?」
「さぁ? 見た目通りの年齢かと……」
「言葉を覚えた頃からその手の英才教育を受けたということですか……」
「ええ、まぁそうなりますね」
「この歳で第三位階魔法を使う変態マジックキャスターを育てる変態ですか……」
「恐ろしい御仁もいたものである……」