※この作品はR-18です。

エルシーちゃんがエッチな目に逢う短編集   作:瑞狐仙

6 / 6
エロは無く、導入のみです。


マライズトロイメン

 何度も聞きなれた鐘の音と共に、今日の授業が終わる。本格的な冬の寒さは過ぎ去っているが、辺りは暁に焼かれ始め、夕暮れ時は未だ早いと感じられる。

 あたしは手早く帰り支度を済ませ、学園棟の出入り口に向かう。早い方だとは思っていたが、玄関口はそんな心持ちの生徒達で混雑し始めていた。

 我先にと帰路へ向かう人、家には帰らずにそのまま図書館へと向かう人、友人たちと街へ向かうグループ、それを遠慮がちに断る人、様々な思いが混雑する放課後は彼らの青春を彩る稀有な瞬間だ。

 

「あー、今日は予定があって……」

「んーそっか、それじゃしょうがないね」

「ごめんね、また今度誘って! じゃまたね!」

 

 あれは……セレスね。彼女は一つ下の学年で、あたしを慕ってくれている可愛い後輩だ。学力・運動神経共に優秀な彼女は、特に補助魔法の扱いに長けているわ。その種類と質は周囲より一歩抜きんでているとあたしは思っている。明るく元気な彼女は、クラスや学年の枠を越えてたくさんの友人を持っている。

 そんな彼女があたしを見つけると、一直線に肩ほどまで伸びたダークブラウンの髪をせわしなく振りながらやってくる。その様はまるで小動物のようで愛らしいわね。

 明るい口調で話していたセレスは、どうやら友人の誘いを断ったところらしい。そのまま急ぎ足でパタパタと帰ってしまった。

 

 さてと、今日は予定がないし、南地区で最近発見したカフェで古代文明の知見を深めようかしら。お店の雰囲気も静かで、店員も客も節度ある人ばかりで、とても心地良いのよね。うん、悪くないわね。古代語で書かれた書物でも良いのだけれど、できればまとまった時間で一気に読みたいからまた今度にしましょう。

 ざっくりとこれからの予定を決め、実行するべく歩を進めた矢先、女の子の声に呼び止められる。

 

「エルシーさーんちょっとちょっとー」

(あら?)

 

 歩いてきた廊下の方を振り返ってみると、その声の主がスカートをはためかせながら近づいてくる。ミヅキさんね。それにその後ろからもう一人、のんびり歩いている人影が見えるわ。

 とうちゃーく。そう言いながらあたしの前まで到着したミヅキさんはふぅと息を整えている。

 

「ミヅキさん、そんなに急いでどうしたの?」

 

 ミヅキさんは地方からこの学園に転入してきたばかりのクラスメイトだ。端正な顔立ちにうなじほどで切り揃えた、この街では珍しい艶のある黒い髪と同じく黒い瞳が周囲の目を惹く子だ。それらが醸し出す雰囲気に皆最初はどんな人物なのか謎の緊張感があったけれど、それを裏切るように人当たりの良い、衒いのない性格が彼女を数日のうちにクラスに溶け込ませていた。

 

「ふぅ、だってエルシーさんったら直ぐに帰っちゃうもの。追いつこうと急いじゃうよ」

 無駄にダラダラするのが好きじゃないから、簡単な支度とかはすぐに済ませているけど、そんなに早かったかしら?

「それで私たち、マライズ店に行こうと思っているんですけど、エルシーさんはこの後暇?」

 バッグから水筒を取り出して蓋を開けるまでにミヅキはあたしにそう聞くと、ひと口ふた口、水分を補給した。

「そうね、まぁ……これといって用事はないわね。でもマライズ店に行くの?」

 

 予定は立てたけれど、急ぎの用事は無かった。マライズ店には行ったことはある。基本的にそれぞれ個室で専用の機械を用いてマライズを再生するのだが、一部屋数人で楽しむこともできる。あたしはどちらかというと一人で楽しむ場所だと思っているのだけれど。その返事は後から追いついたもう一人の女生徒が代わりに答えた。

 

「ええ、ただ今回はイマジンマライズを体験しようかと」

 

 そう誘いの言葉を続けたのはリーナだ。去年から一緒のクラスの友人で、特に語学能力に優れている。それに古代語もある程度嗜んでいて、あたしと古代文明の話が出来る貴重な友人の一人だ。ゆったりとした話し方や所作は相手を不思議と落ち着かせる、一緒にいて安心するわね。ただ彼女がイマジンマライズに興味を持っていることが意外だわ。

 人の心を読めるということがどうしても気になってしまったので。と少し恥ずかしながらリーナが微笑む。

 

「本当は三人で予約していたんだけど、肝心の言い出しっぺが補講で捕まっちゃってさ」

 

 元も子もないよねぇ。とミヅキが補足する。そういうわけであたしを誘い、これから話題になっているイマジンマライズを体験しに行くつもりらしい。

 

 イマジンマライズ。

 突然発表された新型のマライズで、既存のマライズとは機能が大きく違っている事と、その驚くべき機能に注目が集められている。

 マライズとは本来、それの目前の光景を撮影し保存・再生する機能を持っており、例えばチケットが高額でとても観に行くことのできない舞踏会や、大人気でそもそも席を確保することすら難しい大型闘技場での試合など、様々な理由で本来、観られなかったものを近くの店で低価格で手軽に、目前で観る事ができる市民の一般的な娯楽の一つだ。この街には無いが、規模が大きいものでは数百人が同時に映像作品を楽しめるマライズもあるという。

 しかしイマジンマライズはヘルメット型であり、その注目される機能は誰もが己の理想の姿を追体験出来るという代物。それは思い描いた将来の姿を夢見る、思春期の若者にとっても、日々の退屈な仕事に追われる大人達にとっても、現実から目を背けられる娯楽として人気だった。

 使い方はイマジンマライズを被って眠るだけ。そうする事で、自分の本心が望んでいる自らの姿を夢見る事が出来るのだという。どういった理屈なのかあたしが思うに、おそらく何らかの魔法の術式――読心魔法の一種だろうか――がヘルメットに刻まれていて、それによって装着者の心を読み取り映像イメージに変換、夢の中へ出力しているのだろう。ヒトが通常眠っている時、対策を行っていない限り魔法に対して無防備になってしまうから、軽度なものでも効果は覿面なのだろう。

 

(若者はともかく、いい年した大人達が現実を見もせず夢に逃げるなんて情けないと思うわね)

 

 胸の内ではそう考えていても、周囲の人々は違うらしい。思春期の学生らしく、溌剌とした口調であたしに迫るミヅキ。折角決めたささやかな予定を変更する程イマジンマライズには興味が惹かれないし、誘ってくれた事には嬉しいけれど、断ろうかしら。

 

「誘ってくれたのは嬉しいけれど、ごめんなさい。正直な所、興味がないわね」

「えーっ、どうして!」

 

 驚くミヅキをみやりながら予想通りねと呟くリーナ。あたしの答えは解っていたらしい、リーナが続ける。

 

「でも、アレ自体の仕組みは気になりませんか? 人の心を読み取るなんて、難しいはずですよ」

「……それは、確かに思ったけれど」

 

 リーナの言う通り、イマジンマライズの機構自体は興味がないわけではなく、むしろ疑問を抱いていた。読心魔法が使われているとしても、それを使用するには多量の魔力を必要とする上に扱いが難しく、その結果得られる情報というのは、はいかいいえか、右か左か、といった程度でしかなく、それ以上に詳細な情報を得るにはより多くの魔力と時間が要されてしまう。つまりは費用対効果がとても悪いのだ。今では軍や警察機関などが尋問するとき程度にしか使われていない。

 そうね、聴いた話だけで決めつけるのも良くはないわね。それに学友の誘いを無下にするのも申し訳ないわよね。

 あたしは……

 

 

 

「わかったわ、付き合ってあげるわ」

 

 行ってみましょう。おかしなことにならなければいいけれど。

 

「やったー! じゃじゃじゃ、早速行きましょう!」

「まぁまぁ、まだ予約した時間までは余裕がありますし、どこかでお茶でもしていきましょう」

 

 折角だし、楽しみましょう。

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