第11話 蟲袋チャンチャと兄妹の夜遊び
トトノトリアが屋敷に来てしばらくしてからだった。同衾しているときにシャリリーゼが思わぬ提案を受ける。
「お兄様、孤児院をお作りになってはどうでしょう」
「孤児院?」
「はい、孤児院です」
俺はどうしてシャリリーゼがそんな頓狂なことを言い始めたのかさっぱりわからなかった。
「リーゼ、とにかく孤児院を作ろうと思った理由を聞かせてくれないか」
「はい。お兄様がお出かけになっている時、フェルベリカのところに顔を出したのです。その時にある孤児がエミリカの財布を盗ろうとしまして」
当時のことを思い出してかシャリリーゼは眉をひそめる。
「私達の街にこのようなのがいるとは耐えがたきことです。ですが、その孤児一人を処分しようとも孤児は蟻のように湧き出てきます。それならばいっそ孤児院を、と」
なるほど。俺はそこまで聞いてようやく得心がいった。
「それならば一度俺も貧民街を見ておこうか。ガリウスにも話を通しておこう」
「ありがとうございます。お兄様」
俺はシャリリーゼに接吻する。
「さて、リーゼ。これから少し遊びに行かないか?」
俺はシャリリーゼを連れて屋敷の地下にある実験室に入った。
実験室は俺とシャリリーゼが共有して使っている。密閉された部屋には澱んだ空気が詰まっている。
中には様々な器具や薬品、さらには実験に使った奴隷までもが置かれているが、今日俺が様子を見に来たのはチャンチャという蟲袋になった奴隷だ。
チャンチャは三人くらいが寝転がれそうな檻に入れてある。チャンチャは俺が実験室に入ったことに気がつくと破顔して鉄柵にしがみついた。ローレンス様、ローレンス様と犬のように舌を垂らしながら鳴く。
チャンチャは茶色い髪と瞳を持った快活な印象を与える少女だった。しかし今や彼女の瞳からは人間らしい知性は失われ、その腹は双子が入っているのではと思わんばかりに膨らんでいる。近づけば肌が波打ち、その下で蠢くものがあるのがわかる。
「チャンチャを使うのですか?」
「ああ」
俺は頷いてチャンチャのいる檻を開けた。鉄製の桶を中に放りこむ。
「吐け」
チャンチャは嬉々として己の口に指をつっこみ、嘔吐する。吐瀉物のすえた臭いが漂う。
チャンチャは体内で無数の蟲を育てているのみならず、臓器の一部すら蟲が代替している。たとえばチャンチャの腸はシャリリーゼの混成魔法により作られた蟲に置き換えられている。そのためチャンチャは糞便を排泄することはない。
鉄桶では吐瀉物の海を数匹の線虫が泳いでいた。茶褐色で全身に産毛をはやしている。実におぞましい。俺はその線虫を慎重に瓶につめる。万が一寄生されると面倒なことになる。
これで用は終わりだ。だがもう少し遊んでもよいかという悪戯心がむくむくと湧く。それは笑みとなって唇をつりあげた。シャリリーゼも俺の笑みを見て太陽が咲くような笑顔になる。
シャリリーゼは蜂蜜をチャンチャの膨れた腹に塗りたくり、鉄桶の吐瀉物に粉末の薬剤を混ぜた。
「飲みなさい」
シャリリーゼが冷たく命じると、チャンチャは躊躇いなく先刻己が吐いたものを啜っていく。もはやチャンチャに人間的な理性はなく、あるのは俺達の命令に従う快楽だけだ。
吐瀉物を全て啜り終えると、チャンチャが震えだした。彼女の体に棲まう蟲の動きは激しさを増していく。そして蟲はめりりと表皮を突き破って体表に姿を現した。
蟲が求めるのは蜂蜜だけではない。チャンチャの血肉をも餌だと認識した。
体の内外から食われる激痛をチャンチャの脳は快感と認識した。ぐるりと白目を裏返し痙攣する。緩んだ膀胱は聖水と蛆のような白い虫をだらしなく漏らした。
シャリリーゼが使ったのはチャンチャと蟲の結合を弱める薬剤だ。これによりチャンチャは蟲袋から単なる蟲に寄生された人間に近づく。あの量なら死ぬ前に蟲袋に戻れるだろう。
チャンチャが悶える姿に昂った俺は、乱暴にドレスをたくしあげシャリリーゼの
シャリリーゼの甘い声とチャンチャの呻きが俺の耳朶をくすぐる。俺はシャリリーゼを貫いたままチャンチャのそばまで移動し、蟲袋を貪る何匹かをすくいあげた。
それをそのまま乱暴に嬌声を零すシャリリーゼの口につっこみ、無理矢理に咀嚼させる。食わせた蟲は無毒だから死にはしないだろう。
シャリリーゼはえずきながら口内で蠢く蟲を噛み潰して飲み下す。その度にシャリリーゼはきつく俺を締め上げて極上の快楽をもたらす。
俺はいつのまにか哄笑していた。ああ、可愛いリーゼよ。もっと、もっと狂おしいばかりに苦悶してくれ。
そしてその情動に任せて吐精する。
夜空に浮かぶ月は満月に近く、月光がしっとりと暗闇を濡らす。
俺とシャリリーゼは静かに屋敷を抜け出した。
シャリリーゼが立ち並ぶ家の中から適当な裕福そうな一軒を指さした。これが今夜の獲物だ。明かりは点いていない。どうやら家主らは既に床についているらしい。俺達はそっと家に侵入する。
住んでいたのは中年の夫婦とその娘であった。俺は乱暴に三人を起こして用意していた縄で拘束する。
父親は青い顔をしながらも言う。覆面をした俺達は彼らからすれば強盗にしか見えないだろう。
「金なら出す。だから命は助けてくれ」
父親が金目のものの在処を歌ったので、シャリリーゼがそこを探る。果たして彼の言ったとおりの物が出てきた。それなりに小金持ちだったようだ。
「もちろん金は貰おう。だがそれだけじゃあ、な」
俺は娘に視線をやる。そばかすの多い地味な娘だが嬲る分には十分愉しめるだろう。
シャリリーゼは娘の唇を奪い、彼女の乳首を粗雑に捻った。娘がたまらずに悲鳴をあげる。
「やめてくれ、娘に乱暴しないでくれ!」
「ならばお前らのどちらかが代わりになれ」
「……私が、なります。だから娘だけは」
母親は怯えながらも娘をかばう。
その言葉が聞きたかった。俺に悪徳の笑みが浮かぶ。この母親は夫を長く支え、ここまで娘を育てあげた貞淑な女なのだろう。
俺は適当に母親を蹴りあげた。瓶詰めした線虫を慎重に木片で摘み出し、倒れた母親の耳に入れる。シャリリーゼの混成魔法と交配の果てに生み出されたこのおぞましき線虫は耳から入り脳髄へと寄生する。
異物が体内に入りこむ感覚に耐えかね、母親は絶叫する。彼女を案じる呼びかけが父親と娘からなされるが、その声が彼女の意識に届くことはなかった。
しばらくして絶叫が終わる。俺は母親の縄を解いた。
「好きにしろ」
母親はゆらりと立ち上がり、家族の元へ歩む。父親と娘に安堵の表情が浮かんだ。
しかし、母親が二人の希望に応えることはなかった。彼女は無言のまま野犬のように父親の首筋に噛みついた。頑強な歯が皮膚を食い破り肉を千切る。そして何よりも真っ赤な血がとめどなく流れた。
父親の悲痛な叫びを、娘の涙ながらの懇願を、一顧だにせず、母親は傷口から溢れる鮮血を啜る。
あの線虫が脳髄に寄生すると理性を消失させるほどの強烈な吸血衝動と食人衝動に支配される。衝動が治まりもう一度理性を取り戻すには少なくとも一昼夜はかかるだろう。
シャリリーゼは厨房から包丁を持ってきて、これを母親のそばに放り投げた。母親はこれを手に取り寸毫の躊躇いもなく父親の腹に突き刺した。そのまま包丁を縦に引き、
母親が
そして俺が埒を明けた頃、父親が絶息していたので、次は血のつながった哀れな生贄を母親に捧げてから俺達はお