そこには手枷をかけられたやつれ果てた女がいた。髪に肌に艶はなく、目はどんよりと絶望で濁っている。粗末な服からのびた手足には傷や痣がある。拘束されてから彼女がどのような乱暴狼藉を受けたかが明白であった。
「罪人アナベラは夫と娘を殺害し、あまつさえその死体を弄んで死者を冒涜した上、隣人三人を殺傷した咎にて死刑に処する!」
処刑人が朗々と罪状を述べ上げる。アナベラと呼ばれた女はうなだれたまま何も言わなかった。
俺は処刑人から首切り用の
「お待ちください」
だが俺達の喜劇に水をさす者がいた。トトノトリアの車椅子を押していた侍女のターニャだ。
「トトノトリア様がこのような野蛮な行為をする必要などありません。罪人の処刑などそこな処刑人に任せればよく、伯爵家の令嬢の手を汚すまでもありません」
全くこの侍女はなんて愚かな女なのだろう! このような女を用いているトトノトリアの品性すら疑ってしまう。
「何を馬鹿なことを」
シャリリーゼは小さく溜息をついた。
「そのようなことを言うのであれば、我々貴族は民草の税によって糊口を得ている以上、既に両の手は汚れているのです。伯爵家の令嬢も貴族です。蝶よ花よと微笑んでいるだけではなりません。時には民を己の手にかける強さが求められるのです。無論私も罪人の斬ったことがあります。お兄様に嫁ぐ者はお兄様を支えるために相応の覚悟がなければいけません。そしてこの覚悟の一端を見せるべき時が今なのです。何も理解できぬ侍女はその口を閉じなさい」
「しかし……!」
「ターニャ、もう結構です」
なおも食い下がろうとするターニャをトトノトリアが制止する。
「ここはゴールドマン辺境伯領。私達の言い分よりもシャリリーゼさまのお言葉に分があることはごく自然なことです。それに道中で盗賊を殺めたこともあるのですから、罪人を処刑することも変わりありません。聞けばこの者は家族のみならずその隣人まで手にかけたというではありませんか。何を躊躇う必要があるというのでしょう。高潔と正義はこちらにあるのです」
「……承知致しました」
ターニャが
「罪人、最期に何か言うことは」
トトノトリアは頼りなく剣を構えて問う。
「私は知らない! 強盗が来てから何があったのか覚えていないのです!」
アナベラはがばりと顔をあげて嘆願する。
ああ、蟲の影響で記憶がないのだろう。俺は噴き出しそうになるのを必死でこらえ、実にもっともらしい顔で言った。
「悪人は皆そうやって自身の罪を否定する。お前が殺していないというなら誰が殺したというのか」
「それは……!」
「見苦しいですわ」
シャリリーゼもそれらしく嘆息してみせる。
「……もはや同情の余地はありません。神に祈りなさい」
トトノトリアは剣を振るう。しかし彼女は剣術の心得がないどころか車椅子に座す身だ。その剣筋は弱々しくアナベラの首を斬り落とすには至らなかった。
首から鮮血を流しながらアナベラが絶叫する。それを間近で受けたトトノトリアはびくりと肩をすくめ怯える。
「トリィ、その調子で罪人の首を落とすのです。恐れることなどありません」
俺が発破をかけるとトトノトリアはきゅっと剣の柄を握りなおし、えいやと剣を振るった。しかしそれでも首は落ちない。非力さ故、剣はアナベラの首に食いこんだところで止まってしまう。
首を刎ねられないトトノトリアの表情は険しく、無闇に斬りつける剣筋には焦りが如実に表れていた。下手の剣で傷ばかり作りなかなかに死ねぬアナベラは、もはや生をかなぐり捨て、殺してくれと哀訴するのが俺の耳朶から背筋に流れ燃え盛るような愉悦となる。その昂りが大笑とならないよう平静を必死で保つ。
そうしてようやっとトトノトリアが処刑を済ませて頃には彼女の清楚なドレスはすっかり罪人の血に染まり重たくなっていた。
俺は剣を握って離さないトトノトリアの指を優しくほどいていった。
「トリィ、よくやりましたね。貴女が貴族としての責務を果たし、僕はとても誇らしいです」
「ローレンス様……」
俺はトトノトリアの青白い頬についた鮮血をなめ、そっと口づけをした。
喜劇が終わったあとも興奮は醒めやらなかった。疲れたトトノトリアを屋敷に帰してから、ソラリの赤毛を乱暴にひっぱり適当な物陰に連れこむ。シャリリーゼも喜々として後をついてくる。手を離して突き倒すとごっそりソラリの髪が抜け落ちた。まあ髪などまた適当に生やせばいい。
俺はソラリの顔面を躊躇なく踏み潰す。そのまま右足に体重をかけ踏みにじる。靴越しからソラリの鼻が潰れる感触が伝わり心地よい。
さらに執拗に踏みつけると鼻血に塗れたソラリの顔は惨めなものだった。鼻すっかり平たくなっており、朽ちた櫛のように何本もの歯が折れている。
それを見たシャリリーゼはますます面白がってソラリの接続痕だらけの腹を踏み潰す。それは戯れに地を這う蟻を踏み殺すような気軽さで、真実ソラリにはその程度の価値しかない。
ソラリは何度かえずいたあとたえきれずに嘔吐した。俺の靴に吐瀉物がかかる。くそが。苛立ちに任せて俺も思い切りソラリの腹を踏みつける。何かが弾けるような感触がし、ソラリが吐瀉物混じりに喀血する。どこかしらの内臓が破裂したのだろう。
シャリリーゼは自身を慰めながら火魔法でソラリの足先からゆっくりと焼いていく。人肉の焦げる臭いとソラリのこらえきれないうめきが俺まで届く。シャリリーゼの魔法はずいぶんな高火力でソラリの爪先は黒く炭化して崩れている。
俺もシャリリーゼの真似をしてソラリの顔を火魔法で焼くことにした。弱すぎず強すぎずちょうど皮膚と筋肉が溶けて顔面が崩壊する程度の火力だ。炎に顔面を包まれたソラリが空気を求めて口を開くと、口内にも炎が入りこみ喉を焼き悲鳴すらあげられなくなる。
顔と足を焼かれ、恥も外聞もなくソラリは地べたをのたうち回る。そうしてソラリが酸欠で死ぬ前に無事顔の方は焼きあがった。火傷によって皮膚と肉がぐずぐずに焼け爛れた二目と見られない醜い顔だ。シャリリーゼは足首まで燃やし尽くしたところで飽いたらしい。
「はは、火傷が辛いだろう。どれ、顔を冷やしてやろう」
俺はソラリに向けて聖水を放った。抗う気力もなくソラリは顔面で聖水を受けとめる。
「私も催してあげましょう。飲みなさい」
俺が終わるとシャリリーゼも聖水を放つ。ソラリは命じられたままに焼け爛れた口で与えられた聖水を飲み干す。
俺もますます愉しくなって、今度はソラリの口に自分のものを突っこんだ。動かすと口内の血肉がずるずると崩れて絶妙な快楽をもたらす。半死半生であるにもかかわらず、魂にまで刻まれた隷属魔法によりソラリは舌を使って懸命に俺に奉仕する。
そうして俺が吐精するとソラリの口内は赤と白になった。
「お兄様、お兄様、これを使いましょう」
シャリリーゼがアナベラの処刑に用いた剣を持ってくる。
「どうするんだい?」
「こうですっ」
シャリリーゼは躊躇なくソラリの玉門に剣を突き刺した。玉門からとめどなく赤い血が流れる。それを見たシャリリーゼは太陽が咲くような笑顔で剣をぐりぐりと押しこむ。完全に刃が埋もれたところで、無造作に剣を引くと破水したかのように鮮血が溢れた。
玉門に挿入してみるがすっかり壊れてしまっていて用をなさない。俺は諦めて若気で愉しむことにする。ソラリの若気は死の間際にあっても喜んで俺を迎えた。
シャリリーゼは準備のできた玉門を晒し、ソラリに命じた。
「清めなさい」
ソラリは舌を使ってシャリリーゼに奉仕する。しかしソラリが奉仕すればするほどソラリの血でシャリリーゼの玉門は汚れていく。
「ああ、全くお前は役立たずのメイドですね……!」
シャリリーゼは陶酔した表情で言う。
「さあ、もっと、もっと舐めなさい」
ソラリは必死で舌を動かす。若気を貫く俺はソラリの肉体が少しずつ温もりを失っていくのを感じ取れた。ソラリの舌は緩慢になり、シャリリーゼが小さな死を迎えた直後にソラリも死を迎えた。
俺は肉の塊になったソラリの腰を掴み、焦げたソラリの頬肉を食いちぎる。美味い。俺はソラリの舌を咀嚼しながら埒を明けた。
またシャリリーゼに頼んでソラリを直さないといけないな。
アナベラを殺した夜、トトノトリアにご褒美でもあげようと寝室を訪れるとターニャが扉の前に立ち塞がった。
「そこをどいてくれないか。トリィに会いたいんだ」
「トトノトリア様は昼間の荒事にて調子を崩されてしまい、既にお休みになっております。申し訳ありませんが今夜はお引き取り願います」
ターニャは慇懃に一礼する。
「ふむ。それならばなおさら一目会いたいものだがそれも叶わないのか?」
「左様でございます」
「……わかった」
別にそこまで重要なわけではない。俺は諦めて戻ることにした。
そうして踵を返して戻ろうとした時、ターニャが言う。
「ローレンス様、それとトトノトリア様にあのような残虐な行いを強いるのは金輪際おやめになってくださいませんか」
「……どういうことだ?」
俺は振り返ってターニャを見る。彼女は震えながらもぎゅっと両の拳を握りしめて決然と俺の目を見つめ返した。
「トトノトリア様は心根のお優しい方です。今はローレンス様への思慕が勝っているとしても時が経てば必ずやトトノトリア様を苛むでしょう。ですからこれ以上あの方の心に傷を作るのはおやめください」
「侍女ふぜいが面白いことを囀るじゃないか。屋敷を放逐される覚悟はできているのか?」
「私はトトノトリア様にお仕えする身です。たとえ我が身がどうなろうともそれがトトノトリア様のためなら覚悟はできております」
ならばその覚悟とやらを見せてもらおうじゃないか。こいつがトトノトリアの側にいると何かと面倒なことも多そうだ。俺はこの分不相応などのような辱めを加えようかと思いを巡らしたところで妙案が浮かぶ。
俺は神妙な顔を作ってターニャに言った。
「……辺境伯領は他の貴族と比べて荒事に巻きこまれる危険が高い。そしてそれは辺境伯夫人も同様だ。有事の際には己が手を血で汚す果断さが必要ともなるのだ。わかるな、ターニャ」
「それは……、はい」
「お前の言うとおりトリィは心の優しい女だ。私もそこに魅かれたものだが、辺境伯夫人になるにはその優しさが命取りにならないかと不安でもある。だから早くその強さを身につけてほしいと焦ってしまったのだ。だがそれでトリィが傷ついては意味がない。すまない」
俺は心底申し訳なさそうに頭を下げた。辺境伯が一侍女に頭を下げるなど通常ありえない出来事だ。案の定、ターニャは慌てて「ローレン様、頭をお上げになってください」と言う。
「トリィが辺境伯婦人として生きるとなれば苦労も多いとわかっていた。だけど僕はそれでもトリィを愛して……!」
ここで言葉を切って、涙をこらえるようにきつく眉を寄せる。
「もしかしたら僕がトリィを求めてしまったのは彼女にとって間違いだったのかもしれない。それでも僕は可愛い小鳥を手放せなかった。なんて罪深い……」
俺の消沈した様子に、ターニャは血相を変えてとりなした。
「そんなことありません、トトノトリア様はローレンス様の側にいられて幸せですとも! トトノトリア様はザックソー家から見捨てられ寂しい日々を送っていましたが、ローレンス様がいらっしゃってからはどんなに華やいだことか!」
「ありがとう。そう言ってもらえると少し心が楽になるよ」
俺はちょっと弱った微笑を見せる。ターニャはすっかりローレンス辺境伯がトトノトリアを愛していると信じたようだ。
「ターニャ、これからもトリィの侍女としてよろしく頼む」
「はい。お任せください」
ターニャの真摯な返事を聞きながら、俺はこの生意気な女をどう始末しようか思案していた。