ゴールドマン辺境伯は忙しい、というわけでもない。
領地経営の大抵は下の者に任せている。だいたい領民が生きようが死のうが知ったことではない。ああいう下民は蛆のように潰しても潰しても湧いてくるものだ。俺は辺境伯として悠然と君臨し、自己の欲望のために領民を消費すればよい。
それでも辺境伯がしなければならない仕事はしかたなく俺とシャリリーゼで分担している。
女は政治に介入してはならない、というのは貴族における不文律だ。
いずれ嫁いで家からいなくなる者に詳しい情報を与えると、後々仇になるおそれがあるという理由もあるし、女を政治の主軸にすると婚姻外交の道具にすることが
俺としてはシャリリーゼが原因でゴールドマン家が途絶えるなら、おとなしく受け入れるつもりだ。まあ、シャリリーゼが俺のそばを離れようと思うことはないし、俺もシャリリーゼを手放すつもりなぞ毛頭ないのだが。最愛の妹を嫁がせてまで縁を結ぶべき他家など存在しない。
そもそも極端な話、俺は辺境伯領が滅びようと一向に構わない。そのときはありったけの金と必要な人間だけ持ち出してどこかに逃げるだけだ。
とは言うものの、せっかくの爵位と収入をみすみす台無しにする必要もない。父が「不幸な事故」で急逝したことにより若くして手に入れた地位だ。それなりに惜しみはする。
「領内で最近魔物の被害が増えているそうです」
ガリウスが説明する。彼の細い目と薄い唇は見る者に薄情そうな印象を与える。そしてそれはちっとも間違っていない。
ガリウスは辺境伯領で最も位の高い文官で、領地経営の責任者だ。無論、その働きに見合う役得は与えている。忠実な犬を飼うには餌が必要だ。
「このままだと税を払えない農民が増えそうですね」
「そうか、それは大変だな」
「ええ、全く」
俺は思ってもいないことを言う。ガリウスもすまし顔で答えるが、腹の中は同じだろう。
「ですが、税収が減るのはよくないですね。如何しましょうか?」
「さっさと奴隷にしてしまえ、と言ってもいいが最近は領内に出ていなかったな。たまには遠出も悪くないだろう。近々被害にあった村の一つを視察に行こうか」
「危険では?」
「危険だな。で?」
だがそれは普通だったらの話だ。俺とシャリリーゼには当てはまらない。ガリウスも当然それをわかっているから、俺の答えに薄い笑みを浮かべた。
「いえ、わかりました。さっそく視察の準備をいたします」
「なあ、リーゼ。お前はいったい何をしているんだい?」
俺は可愛い妹に問う。
「まあ、お兄様。そんなこと見ればわかるじゃありませんか」
シャリリーゼが太陽の咲くような笑顔を向ける。腰まで届く金髪がさらりと揺れる。
「ちょっとしたお遊びです」
えいっ、とシャリリーゼは可愛らしく混成魔法を使った。
混成魔法とは、全く別のもの同士を混ぜ合わせて新しいものを創造できる魔法らしい。
らしい、というのも混成魔法はシャリリーゼだけが扱える固有魔法なので、シャリリーゼの説明以外に詳しい情報がないからだ。
貴族は連綿と続く交配の結果、平民よりは魔法の素質に優れていることが多い。シャリリーゼはその極致と言えよう。膨大な魔力をもって複数の固有魔法を駆使できる人間は歴史上でも数えるほどしかいない。ま、俺も似たようなものだが。
混成魔法の対象は、いつぞや適当にまとめ買いしていた奴隷の母子だった。
まだうら若い母親の身体に幼い息子の身体が溶けていく。あまりに異常な状況に、母子の正体を失くした悲鳴が豪奢な部屋に響き渡る。溶けた息子はちょうど子宮に収まり、母親の腹は見事なまでに膨らむ。息子の顔だけが人面瘡のように母親の膨らんだ腹に浮かんだ。
「この母親は自分の食事も子供にあげてたんですって。麗しい親子愛ですね」
「だからいっそ一つにしてあげようってことか?」
「ええ、そうです。でもやってみたらあまり面白くなかったですね。お兄様、何かよいアイディアはありますか?」
ふむ。
母親は自分も泣きながら必死で泣き叫ぶ息子の名を呼んでいる。その悲痛な姿を眺めながら俺は少し考える。
「母親とは、子供の成長を喜ぶものらしい」
「そうみたいですね」
「だから、このままどんどん母親を栄養素にして子供がすぐに成長するようにしてやればいいんじゃないかな」
「なるほど、さすがお兄様です」
妹は太陽が咲くような笑顔で、もう一度母子に混成魔法を使うと、息子の顔の輪郭がはっきりとしてきた。
「さ、これでどうなるか楽しみですね」
「そうだな」
俺は可愛い妹に笑顔で頷いた。
シャリリーゼのお遊びから離れて、俺も自分で愉しむことにした。
いつもの部屋に少年の奴隷を連れてくるようソラリに命じる。
しばらくしてソラリは見目麗しい少年奴隷を連れてくる。きちんと装えば一見して男だと断じることは難しくなるだろう。
俺は申し訳程度の少年の服を剥ぎ、さっそく
精通前の少年は男とも女ともつかぬ独特の魅力がある。まだやわらかな体でありながら、犯すと女性にはない固い芯を感じ取ることができる。まるでやわらかな宝石のようだ。
少年が破瓜した処女のように血を流し、泣いている。ああ、弱いことはこんなにも罪悪だ。より強きものに蹂躙され、自分を曲げ、壊れるしか道はない。
弱者を絞りあげ、そこから滴る甘露を貪る。これに勝る悦楽などそうそう存在しない。
俺は少年に優しく謝罪して少年をなだめる。改宗者のような沈痛な厳かさと聖者のような慈悲深い笑みを向けると、少年は俺のことをすっかり勘違いして泣き止んだ。
「ああ、領主様」と少年は言った。「さきほどまでの貴方様は偽りであり、今ここいる貴方様こそが本当の、慈悲深きお姿なのですね」
「もちろん、そうとも。だが人間というのは正と邪のどちらか一つに割り切ることは不可能だ。私も正しき道へ進み、領民のために尽力しているのだが、時折発作のように悪逆な行いをしてしまう。だから心痛むがその時はこうして君のような奴隷に私の悪徳を受け入れてもらっているわけだ。本当にすまないね、さあこの薬を飲みなさい。痛み止めだよ。これで少しはよくなるだろう」
「ああ、領主様。ありがとうございます」
俺は少年に優しく用意しておいた薬を飲ませた。効果は覿面で、たちまちのうちに少年が悶え苦しむ。
痛み止めなど渡すわけがない。与えたのは地獄の苦しみをもたらし最後には死に至らしめる毒薬だ。
少年の苦しむ姿にすっかり俺は漲り二回目を行う。毒に悶え苦しむ少年の中はさっきよりも窮屈で俺に凄まじい悦楽を与えた。
そうして俺が吐精するのとほぼ同時に少年の灯火が消える。
俺は少年だった死体から自分を抜く。そして部屋の隅に控えていたソラリに後始末を命じてから寝室に消えることにした。シャリリーゼはお遊びをしているだろうし、今夜はひとりで寝よう。