孤児院準備編の投稿をします。
たぶん週1くらいのペースです。たぶん。
第23話 男性の優越的地位に関する一考察
執務室においてガリウスから報告を受ける。ダードン山脈の鉱脈の採掘が正式に決定された。これからエアコ村の拡張や山道の整備などの必要な事業を行うことになる。孤児院の設立とあいまって相当な経費がかかるだろう。しばらくは浪費を控えるようガリウスに言われてしまった。やれやれ、奴隷を使い潰しにくいな。
それからも領地に関する説明を一通りして、ガリウスの報告は終わった。
「トリィ、何かわからないことはありましたか?」
穏やかにトトノトリアに尋ねる。
俺がダードン山脈に行っている間、トトノトリアは領地経営に関してシャリリーゼや文官から薫陶を受けていた。これから俺の名代になれる程度には学んでもらうつもりだ。そのため、今回はシャリリーゼと共に執務室で報告を聞かせていた。
「いえ、特別難しいことでもなかったので。……あの、そもそも、私が政務に携わるのはよろしくないのではないでしょうか」
トトノトリアはおずおずと答える。
「ふむ、それはどうしてかな?」
「その、私はこのとおり不具の女ですから……」
トトノトリアは俺の顔を見ずに俯く。彼女の両手が膝の上で握られた。
「なるほど、よくわかりました。では尋ねますが、トリィ、男と女、果たしてどちらが優れていると思いますか」
「……男性、でしょうか」
トトノトリアは躊躇いがちに答える。それは貴族社会においては模範解答であろう。
「では、どうして男が優れているのかい?」
「どうしてと言われましても……」
「じゃあリーゼ。リーゼはどう思うかい?」
トトノトリアが口ごもったので、シャリリーゼへ矛先を変える。
「それは当然男が優れています」
シャリリーゼは淀みなく答える。
「その理由は?」
「王国がそのような仕組みで作られているからです。すなわち、男性が優れているのは、男性が優れていると定義付ける仕組みが存在するからに他なりません。だってそうじゃありませんか、男と女でその理性に有意な差異が存在するとでも? 実に滑稽な言説です。理性という人間的本質を前にして性差などありません。
なるほど、現状において男が理性に基づいて政治的判断を行っている一方、女はお茶会と噂話に終始している、それを見ればどちらが理性的で優れているかは一目瞭然だ、と仰るのやもしれません。しかしそれは重大な前提を欠いた批判でありましょう。女はお茶会と噂話に終始することを選んでいるのではありません。政治に携わることは選べなかったのです。一方が剣を持ち、もう片方は徒手である決闘など到底公平とは言えません。男性のみが政治に携わるという仕組みが男に力を与え、その力を行使して男はより一層己の基盤を固めているのです。
ですから、逆を言うと、然るべき仕組みに基づいた然るべき立場があれば女が男に劣ることもないのです。女がこれを得る機会があるにも関わらず見過ごすとなれば、漫然と劣等の烙印を享受することと同義であり、実に愚かしいことです」
「おわかりでしょう」と俺はトトノトリアに語りかける。「女であろうと卑下する必要など微塵もないのです。もし貴女が卑下すべきときがあるとすれば、それは果たすべき仕事を為すための賢慮を有していないときです。しかし僕は知っています、貴女は聡明であると。ですから貴女がここにいることに対して微塵も遠慮する必要はないのです」
トトノトリアは目尻に涙をためてただ頷いた。
その夜、俺とシャリリーゼは地下の大部屋で戯れることにした。ソラリに命じて適当な奴隷を何人か見繕わせる。
俺は言う。
「リーゼ、昼間に男が優れているのは男性優位の仕組みがあるからだと言ったね」
「ええ、そのとおりです」
「なるほど、ならこういう見世物はどうかな」
俺は奴隷のうち壮年の男女を選び、前に立たせた。
「さあ、今からお前達には仕合をしてもらおう。なあに、ほんのちょっとした見世物だ。勝った者には褒美を授けようではないか。何がいいかな」
「どうせ命を賭けるような仕合です。今夜の遊戯を終えて生き残ったら奴隷から解放して金貨百枚でどうでしょう」
「ふむ、いいだろう」
俺の同意を聞き、二人の瞳に希望が灯る。奴隷から解放されて金貨百枚。目の色を変えるには十分な理由だ。
「勝負は単純に徒手空拳での決闘だ。先に降参した者の負けだ。無論、生死は問わない」
そうして仕合が始まった。
しかし互いに素人、ろくな格闘技術なぞ持ち合わせちゃいない。もちろん泥仕合になった。最初の数手は互角だったものの、ほどなく男が膂力に物を言わせ馬乗りになる。そこからはもう一方的だ。女の顔は見るも無残に歪んでいた。
仕合は男の勝利だった。
「どうだい、リーゼ。男は生来的に暴力という点において女より優れているのだ。そして暴力は社会の根源だ。社会は理性だの欲望だので動いているがその基盤には暴力がある。目的を達成するための手段が全て剥がれ落ちたときに用いられるのが暴力なのだ。この点において男が優れているとなれば、必然男性優位の社会が構築される。こうして男の優位性は強化されていくのだよ」
「なるほど、確かにお兄様の仰るとおりやもしれません。男性の方が暴力に対する親和性が高く、これは覆しようのないことなのでしょう」
シャリリーゼは悠然と微笑む。
「しかしそのような事実は本質的において意味を持たないことを説明いたしましょう」
シャリリーゼは残った奴隷から一人の
「さて、先程と同じように決闘をしてもらいます。違いはこれだけです」
シャリリーゼはそう言って醜女に立派な短剣を渡す。
「それでは良いですね。始めなさい」
「ま、待ってくれ」
男の奴隷が必死に叫ぶ。
「俺は勝ったじゃないか! なら約束どおり解放してくれ……解放してください!」
「面白い冗談だ」
奴隷に視線を向けると、それは慌てて口調を変えた。
「何か勘違いをしているな。褒美は今夜の遊戯を終えて生き残っていたら、だ。まだ夜は明けていない」
俺が嗤うと、男は愕然とした表情を見せるが最初から正確に理解していない方が悪い。頭が、悪い。
故に抗議の隙を突かれて醜女に胸を刺されたのも当然の結果だったのだろう。
胸に生えた短剣を凝視し、ぐいと醜女の腕を掴む。醜女はそれを振りほどき、もう一度短剣を突き刺した。いや、一度ではない。よろめく男に向かって滅多刺しした。
そうして男が息絶えた時、醜女の粗末な衣服は鮮血に染められていたし、彼女自身も血塗れていた。
「御覧のとおりです。確かに男は暴力という点において優れています。しかしその優位も短剣一つで覆るような僅かな差です。人間の本質である知性の前には誤差の範囲内でしょう。
なるほど、確かに暴力は社会の基盤に座しているのかもしれません。しかし王と玉座どちらが偉大かと問われれば万人が偉大なのは王であると答えるでしょう。よもや空っぽの玉座を崇めたり、闊歩する王を卑しめたりなぞしすますまい。暴力とは知性の道具に過ぎぬのであり、社会そのものを回しているのは暴力ではなく知性なのです。このことからすれば、
「それはどうだろうか」
と俺は反論をしてみる。
「人間が肉体に縛られ欲望を抱く以上、知性は人間の本質とするに脆すぎる。高度に発展した未来、たとえば人間が肉体の軛から解放され精神のみで事済む時代なら、リーゼの言うとおり知性が人間の本質として根付いているのかもしれない。しかし、それは余りに遠景であり、今を生きる我々の手の届く範囲にはない景色だ。多くの人間が多くの機会において知性ではなく欲望や感情といった反知性的な衝動によって物事を決定している。いや、それどころか、人生において重要な選択であればあるほど知性は頭蓋の片隅に追いやられ、欲望と感情が我が物顔でのさばるのだ。
故に知性が人間と他の動物を選り分ける重要な要素であるとしても、これを人間の本質とまで宣うのは些か早計であるとの念を禁じえないね。人間はちょっとばかり賢しらな動物であって、欲望と感情こそがその本質だ」
俺は短剣を持つ醜女を見やる。
「さて、リーゼ。お前はこれをどうするつもりだい?」
「どうするもこうするもないでしょう。夜はまだこれからです」
シャリリーゼは嫣然と微笑する。
それからシャリリーゼは醜女に他の奴隷をけしかけてみたが、意外なことに醜女は次々と奴隷を殺していった。その手に躊躇いはない。それはさながら屠殺のごとき冷淡さで、実に好ましいことだった。無価値な他人など人間扱いする理由はない。
事を終え、自他の鮮血に濡れた醜女は、疲労と負傷で息も絶え絶えといった態だった。他の奴隷はもうない。全て屍に変わってしまった。
しかしこの女、見れば見るほど醜貌だった。手入れされていない縮れた黒髪。腫れぼったい顔の輪郭に汚い
容貌だけではなく体型も酷いものだった。薄い乳房と尻。女らしい肉付きの良さはなく、代わりに不健康な贅肉が腹と腿についている。きっとろくなものを食べてこなかったのだろう。
「これ以上奴隷を潰しても仕方ない。もう夜は終わりでいいだろう」
「そうですね」
シャリリーゼは醜女に尋ねる。
「さあ、今夜の遊戯は終わった。貴女は何を望む? 両手に余る金貨? 人並みの、いや、私に肉薄する程の美貌? ああ、そもそも奴隷から解放されたい? さあ、望むがままに囀りなさい」
「それでは恐れながら申し上げます」
醜女は短剣を手放し平伏する。
「富、美貌、自由、いずれも望むに値するものですが、私が今最も希っているものは一つ。復讐です」
「復讐ね、それは面白い」
俺は嗤う。この奴隷はどうやらこのまま使い潰すのは些か惜しまれる程の見込みがあるようだ。
「どうしたいのだ。話してみろ」
「不作を理由に私を売った父、いえ、村全体に復讐がしたいのです。あいつらは常に私を蔑み、不作だ、村長が身を切らないといけないだのなんだのと理由をつけ、美しい妹を囲い、私を厄介払いした。許せない、絶対に許せない……!」
それは陳腐で、しかし、あらん限りの呪詛をこめた声であった。シャリリーゼを見ると、彼女も愉しそうな微笑みを浮かべていた。
「いいだろう、お前の復讐を果たさせてやろう。して、その村の名は?」
俺の問いに、醜女は答える。
「エペ村」
更新がないのは、ものすごい遅筆なので許してください。
あと、基本的にR18でない作品はカクヨムに投稿しているので、URLをのっけておきます。あくさかの続きを待っている間に、他の小説も読んでみたいよ!という奇特な慈悲をお持ちの方はこちらからお越しください。
「チンポに突き刺さるディストピア感」とか「どうせ僕らも自殺する。」とかいうタイトルからわかるとおり、R18描写がないだけで、充分に充分な感じだと思います。
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