※この作品はR-18です。

ようこそ強姦魔のいる教室へ   作:生太郎

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14話

 生徒会室は緊迫した空気に包まれていた。

 

 廊下側の席に座っているのは一年Cクラスの者たちだ。

 

 青い顔をした担任、坂上。

 同じく顔面蒼白になった石崎、そして小宮。二人は顔に包帯やガーゼを付けていたが、それは見る者に寒々しさを与えていた。

 

「龍園。今日は頼むぞ」

 

 坂上が俺に念押しする。

 

 俺は不機嫌そうに顔をしかめた。

 Cクラスを掌握したのはいいが、手下の尻拭いまでしなければならないとはな。

 

 窓側にいるのは今回の被害者たちだ。

 

 二年生のCクラスの男子二人とその担任。

 

 そして一年Aクラスの葛城康平である。

 体格は大柄で、頭はスキンヘッドだ。文武両道、質実剛健といった少年である。

 

 葛城は松葉杖を突いていた。左足を怪我しているようだ。

 

 Aクラスの担任である真嶋が葛城を介助している。

 葛城は「不要です」と言っていたが、真嶋は「無理はするな。悪化したらどうする」と心配そうにしていた。

 

 部屋のホワイトボード側にいるのが議長であり生徒会長、堀北学である。

 その斜め後ろには生徒会書記の女生徒、橘茜が忠臣のごとく起立して控えていた。

 

「そろそろ始めましょうか」

 

 堀北会長が宣言する。

 

 Cクラス担任の坂上がハンカチで額の汗を拭っていた。

 

 俺はそれをくだらないというように眺めていた。

 

 坂上の魂胆は理解できる。石崎たちの退学だけは阻止しようと考えているのだろう。

 

 さしあたりは夏休みが終わるまでの停学といったところか。

 

「ではこれより、昨夜に起こった暴力事件および恐喝事件について審議を執り行います。進行は生徒会書記、橘が務めます」

 

 ショートカットの女子、橘が一同を見回した。

 

「本来なら数日の猶予を与えて生徒間による事態の究明を模索するべきところですが、今回の一件は事件性が高く緊急を要すると判断させて頂き、授業中にも関わらず審議会が開かれる次第となりました。関係者の皆さまにはまずはそのことを深くお詫び申し上げます」

 

 言葉とは裏腹に、その音色は非常に冷たい。

 何の感情も籠っていない機械的な台詞だった。

 言わなければならないから言った、というような響きすら感じられた。

 

「最初の事件は一昨日の月曜日。時間は午後九時前後と見られます。寮に帰宅中の二年生二人が石崎、小宮の両名によって襲撃を受けました。両名は被害者に対して複数回に渡って殴る蹴るの暴行を加え、携帯電話を強奪して不正に操作をしてプライベートポイントを強奪しました。ここまでで異論はございませんか?」

 

「待ってくれ」

 

 発言したのは坂上だった。

 

「これは何かの間違いだ。石崎たちにはアリバイがある」

 

「続けて下さい」

 

 会長が無表情のまま告げる。坂上はゴクリと生唾を呑んでから説明した。

 

「二人ともその日は午後六時には学生寮に帰宅したと証言している。そのことは監視カメラの映像とも一致している」

 

 坂上の援護を受けた石崎たちがコクコクと頷いている。

 

 会長が短く「映像を」と告げる。

 ここまで断言したのだ。当然用意しているのだろうという意味だった。

 

 坂上もこういった審議会は慣れているようだ。

 専用のケースからSDカードを取り出して橘に手渡した。

 

 橘がノートPCのスロットにカードを挿入する。

 接続されていたプロジェクターによって映像が再生された。

 

 それによると確かに石崎と小宮は学生寮に戻っていた。

 早送りで映像が流れる。犯行時刻まで二人が外出した映像は残っていない。

 

「それは証拠と呼ぶにはいささか弱いのではありませんか」

 

 口を挟んだのは葛城だった。

 それから気付いたように会長に声をかける。

 

「会長。発言よろしいでしょうか?」

 

「許可しよう。以後、好きに発言しても構わない。問題があればこちらで止める」

 

「ありがとうございます」

 

 葛城は痛みに顔をしかめながら立ち上がり、恭しく一礼した。

 

「坂上先生にお尋ねします。石崎、小宮の部屋は何階にあるのでしょうか」

 

 坂上が今にも舌打ちしそうなほど表情を歪めた。

 しかし生徒会長の手前、答えないわけにはいかなかった。

 

「……一階だ」

 

 男子の部屋は寮の下層にあるが、不幸なことに二人の部屋は一階にあった。

 これが二階ならまだ苦しいが言い訳はできただろう。しかし一階はそうではない。

 

「ベランダから脱出したのかもしれない。監視カメラの映像は不十分です」

 

「おっ、俺はっ、部屋でゲームをしていました! セーブデータも残っています! 時間が記録されているんですよ。アリバイになるはずです!」

 

「残念だがそれは使えない。ゲーム機本体の時間をいじればセーブデータが保存された時間など好きなように変えられる」

 

 小宮が挙手しながら発言するが、Aクラス担任の真嶋がそれをばっさりと両断した。

 

 一瞬だけ先生詳しいですねという視線が集まるが、すぐに霧散する。

 

「でも、俺たちは本当にやっていないんです!」

 

 我慢できないように石崎が主張した。

 しかし彼に突き刺さったのは疑いの眼差しだけだった。

 

「ならば証拠を提示したまえ。と言っても石崎君の携帯にポイントが送信されたことは記録として残っている。その事実を否定できないかぎり、君は限りなく黒に近い容疑者だ」

 

「でもやってないんです!」

 

「話にならないな」

 

 真嶋が肩をすくめた。

 会長からはそろそろ石崎を止めるような気配がしていた。

 

 無意味な発言はやめろと言いたそうだ。

 その雰囲気を読んだ橘がすかさず議事を進行させる。

 

「では次の事件について説明させて頂きます」

 

 橘が二つ目の事件について説明を始めた。

 

 俺はクッと喉を鳴らして笑う。

 ギリギリの綱渡りをしていた坂上が思わず目を剥いた。

 

「龍園! クラスの仲間の窮地だぞ! 笑っている場合か!」

 

「これが笑わずにはいられるかよ。どいつもこいつも下らねぇ」

 

「龍園っ!」

 

 坂上が怒鳴るが、それを止めたのは会長だった。

 

「何をもって下らないと発言したのか説明しろ。それができないならお前にはいたずらに議論を乱したことで退室して貰うことになる」

 

「わからねぇのかよ。この事件、どこからどう見てもおかしいだろうが」

 

 俺は不敵に笑った。

 

 退学者を出したクラスがどうなるのかは以前から気になっていたが、流石に俺も自分のクラスでそれを試す気にはなれなかった。

 

「そもそもこいつらはポイントを強奪したらどうなるかわからないような馬鹿なのか? コンピューターがあふれている社会に生まれてきた若者が、まさか電子的な金銭をやりとりした記録が残らないと考えるほどのお花畑なのかよ?」

 

「これは真実を究明するための場だ。憶測しか語れないのならもう口を開くな」

 

「まぁ待てよ、会長。いいから聞け」

 

 会長は不機嫌そうに口を閉ざした。もし本当に下らないことを口走ろうものなら追い出してやると目が語っている。

 

 おっかない会長だ。俺は肩をすくめた。

 

「須藤とかいう奴の事件があっただろう。石崎たちは三対一でDクラスの男子に負けるような奴らだぞ。いや、その真偽は今回はどうでもいい。俺から言わせて貰えば石崎はそれなりに強いが、所詮はそれなりだ」

 

「何が言いたい?」

 

「そこのAクラスの――確か葛城だったか。お前の顔、やけに綺麗だな」

 

 葛城に視線が集まる。

 スキンヘッドだ。確かに頭はツルツルして綺麗だったが。

 

 いきなり何を言い出すのかと葛城が狼狽えていたが、俺は構わず発言を続ける。

 

「石崎と葛城がやり合えば、そこそこ拮抗するはずだ。互いに無傷とはいかないはずだぜ。どっちが勝っても互いの顔はボコボコになっているだろうよ」

 

 そういう意味かと一同は納得した。

 

「葛城は足以外には特にダメージを受けていないようだな。相手は圧倒的な実力差で葛城をねじ伏せたんだろう。おそらく一瞬で勝負がついたはずだ。違うか?」

 

「……いや、違わない。俺は手も足も出なかった」

 

「なるほどな。おい石崎。お前は葛城のような体格のいい男子を一撃で潰せる自信はあるか?」

 

「あ、ありません」

 

 普段なら突っ張って強がるところだが、石崎は情けなそうに事実を言った。

 

 背が高いだけの男子なら潰せるかもしれない。

 しかし葛城はどうだろう。格闘技を嗜んでいるかは不明だが、葛城の身体はがっちりとしていた。喧嘩慣れしている石崎でも一撃で潰せるとは断言できない。

 

「状況が不可解すぎるんだよ。共犯者の小宮にポイントを譲渡した形跡もなかったんだろ。ツルんでカツアゲしてるのに一人だけ旨い汁を吸う奴がいるのは不自然だ。誰かが石崎たちに罪を着せようとしたと考えれば辻褄が合わないか?」

 

「なるほど。一考の余地はあるか」

 

 会長が口元に手を当てて思案していた。

 

 議論が止まっていた。会長が不機嫌そうに窓側を向いた。

 

「何をしている。今の意見に対する反論はないのか」

 

「少し時間を頂きたい」

 

 真嶋が時間稼ぎを提案した。会長が少しだけだと許可を出す。

 

 葛城は必死に思案しているようだが、二年の二人は案山子だった。

 たしかCクラスだったか。生徒会の副会長に牙を抜かれた雑魚どもだろう。

 

 その副会長が議長をしていたら、石崎たちは問答無用で退学だっただろうな。

 そう考えれば俺たちはツイている。

 

「龍園君の意見に対する反論は特に思い浮かばない。状況が不可解だという点については同意せざるを得ないだろう。しかし彼が語ったのはあくまで状況からの推測だ。証拠が残っているという事実を否定するものではない」

 

「確かにその通りだ。だが、この国では灰色は裁けないはずだぜ」

 

 俺がそう言うと、真嶋は頷くしかなかった。

 

 この国の法律は黒しか裁けない。痴漢だけは例外だが、とにかくそうなっている。

 

 疑わしきを罰せずなのだ。

 石崎たちを退学させたいなら、俺の意見を否定しなければならない。

 

「結論を出しましょう」

 

 会長が口を開く。

 

「龍園君の意見には一部聞くべき部分もありましたが、真嶋先生の言うように証拠を否定するものではありません。石崎君、小宮君には罰を与えなければならないでしょう」

 

 石崎たちが絶望的な顔をする。

 

「石崎君は夏休みが終わるまで停学。小宮君は二十日間の停学とします」

 

 坂上が机の下でガッツポーズしている。

 俺に見直したぞと熱い眼差しを送り、手の平をくるくると大回転させていた。

 呆れた男だ。Cクラスに肩入れしすぎていて使える男ではあるのだが。

 

 小宮の処分が軽いのはポイントを受け取っていないからだろう。

 

「異論がなければこれにて審議を終了します。よろしいですか」

 

「では一同、ご起立下さい」

 

 橘の音頭によって全員が起立。議長に向かって一礼することで審議会は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 俺たちは生徒会室を後にする。

 

 会長がマナーモードにしていた携帯を取り出し、どこかへと電話をかけていた。

 

 廊下に出た俺たちは、生徒会室から「何だと!?」という会長の叫びを耳にする。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「だとしても、私たちには関係のない話だろう」

 

 葛城が首を傾げていたが、真嶋に支えられながら松葉杖を突きながら去って行く。

 

「ククッ、Aクラスのトップ二人はお揃いで杖を使ってるんだな。ペアルックのつもりか?」

 

 俺はせせら笑った。葛城にもそれは聞こえていただろうが振り返りもしない。

 

 チッと舌打ちする。

 Aクラスの奴らはお高く留まっていて気に喰わない。

 

「そろそろ聞かせて貰えないだろうか」

 

 坂上が言う。

 

「龍園。お前にはわかっているのだろう。今回の一件、誰が仕組んだ?」

 

「俺を買い被りすぎだ。流石に犯人まではわからねぇよ」

 

 石崎に罪を被せた黒幕に辿り着くにはまだ判断材料が足りていない。

 

 最初に思い浮かんだのはAクラスの坂柳だ。

 あの女なら同じクラスの邪魔者を潰そうとするだろう。

 

 Bクラスの一之瀬も容疑者の一人だ。

 あの女も怪しいからな。何から何まで完璧すぎる。内面はさぞ腐っているのだろう。

 俺たちがBクラスにちょっかいをかけた意趣返しという動機もある。

 

 しかし両方ともひ弱な女だ。

 葛城たちをボコるには手駒を使わなければならない。

 

 あの二人なら強力な手札を隠し持っている可能性も充分に有り得る。

 

 Dクラスも動機がある。

 須藤の事件に対するカウンターだ。

 

「今はまだ黒幕Xの正体はわからねぇ。だが、いずれ尻尾を出すはずだ」

 

 石崎たちは怯えたように「黒幕X」と呟いた。

 

 俺は笑った。この学校は予想以上に俺を楽しませてくれる。

 Xの次の行動にも期待させて貰うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から四日が過ぎていた。

 

 学校は平穏を保っていた。

 それが上辺だけだと知っているのはごく僅かだ。

 

 佐倉のレイプ事件には緘口令が敷かれていた。

 

 茶柱先生が言うには徹底的に情報統制されたらしく、事件を知らない教師すらいると言う。生徒会でも会長しかその事実を知らないらしい。

 

 すべて佐倉一人のためだった。

 佐倉が復帰した時、奇異の視線にさらされないように。

 

 ……と言っても、女生徒が暴行されたという噂話はもう流れ始めている。

 人の口には戸が立てられないと言うことか。

 今回の件で各施設の従業員にも犯罪歴や素行などの再調査がされていた。おそらくそこから漏れたのだろう。

 

 佐倉の席は空席だった。

 茶柱先生はその席をチラリと見た後、何も言わずに出席簿にペンを走らせた。

 

 佐倉は病気によって入院していることになっていた。

 

 影が薄い生徒だ。ほとんど誰も気にしていない。

 

「そろそろ期末試験だ。中間試験と同じように赤点を取れば退学になる。各授業では試験範囲が発表される頃だろうが、くれぐれも聞き逃すなよ。気を抜かずに勉強に取り組むように」

 

 俺は上の空だった。考えるのは佐倉のことだ。

 

 あの後、佐倉はまず病院に連れていかれた。

 膣内の洗浄とか避妊とか色々とやることがあるのだろう。

 

 車で病院に向かったのだが、その間、佐倉はずっと俺の手を握っていた。

 

 運転していたのは茶柱先生だ。助手席にいた星之宮先生がこちらを振り返ってニヤニヤ笑っていたのが非常に鬱陶しかった。茶柱先生が「不謹慎だぞ」とボコッてくれたのだが、星之宮先生はあまり反省していないようだった。

 

 佐倉の様子から、男性は極力排除された。

 誰の目から見ても佐倉が男性恐怖症になっているのは明らかだったからだ。

 

 ご両親が駆け付けたのだが、佐倉は父親にすら恐怖していた。

 

 例外は俺だけらしい。

 佐倉は依存していると言えるほど俺にくっ付いてくる。

 まるで引き離されたら死んでしまうとでも言うように。

 

 ご両親がいるのだから俺はお役御免かなと思っていたら、佐倉は事あるごとに「あ、あの」とか「い、一緒に」とか怯えながら懇願してきた。流石に病院の診察には同席しなかったが、警察署での事情聴取は一緒に受けることになった。

 

 犯人は逮捕されているし、佐倉の膣内にあった精液はDNA鑑定に回されている。ストーカー改めレイパーの有罪は確実。事情聴取は形式的なものだった。

 

 取調室では佐倉が椅子を寄せて、互いの肩が触れ合うほどの距離で座っていた。

「すいません」と謝られてから手を握られた。女性の警察官がそれを見て目を丸くしていた。

 

 あとは佐倉の口から事件を語り、俺が口先で誤魔化してそれで終わり。

 

 佐倉は実家で静養することになった。期間は未定だ。佐倉の調子次第だろう。

 

 俺は佐倉の家まで一緒についていったが、別れる際に佐倉に「あ、あの、もっと一緒にいたいですっ!」と言われて困ってしまった。ご両親も表情が引き攣っていた。佐倉は俺と離れるのがよほど怖ろしいのか、必死に俺を引き留めていた。

 

 だが、ずっと一緒にいるわけにもいかない。俺にも俺の生活がある。

 心苦しかったが、佐倉と別れて学校に戻った。

 

 チャイムが鳴った。

 何時の間にか授業が終わっていた。

 

 何も聞いていないはずなのに、俺の手はしっかりノートを取っている。

 なにこれ。こわい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 問題が山積みで処理が追い付いていない。

 もぅマヂ無理。エッチしよ。

 

 と言うわけで、俺は堀北のおっぱいに顔面を突っ込んでいた。

 

 おっぱいはいい。癒される。

 ややサイズ不足だが、巨乳の長谷部はガスマスク無しでは接触できない。

 椎名は堀北と同じぐらいの大きさだ。

 つまり俺は自由にできる巨乳を持っていないのだ。血涙。

 

「んっ、もう。今日のあなたは甘えん坊ね」

 

「ばぶぅ」

 

「やめなさい。気持ち悪いわ」

 

 頭を殴られた。だよね。俺もキモイって思ったし。

 

 ちなみに事後である。

 今日は二回戦でやめておいた。俺もね、疲れてるのよ。

 

「須藤君の事件。あれはあなたがやったの?」

 

 須藤の事件?

 あ、ああ、あれね。なんかどうでもよすぎて忘れてたわ。

 佐倉のレイプ事件のインパクトが強すぎて記憶の彼方だった。

 そう言えばそんな事件もあったなぁ。

 

「Cクラスの二人が停学になったと小耳に挟んだわ」

 

「ラッキーだったな」

 

「……そう。今回もそう言うのね」

 

 堀北は溜息を吐いた。

 

「一之瀬さんに助けて貰ったわけではないのよね?」

 

「今回Bクラスはほとんど何も役に立ってないぞ」

 

 Bクラスに接触したのは大失敗だったな。

 骨折り損っていうか、面倒事だけを押し付けられた感じがする。

 

「一之瀬さんのことはどうするの?」

 

「それな。どうしよっかなぁ」

 

 一之瀬に関しては時が解決してくれるのを待つしかない状態だ。

 人の噂も七十五日というし、俺と一之瀬が交際していることも、いずれ誰も気にしなくなるだろう。千尋ちゃんもその内に諦めるだろう。その頃に別れたことにすればいい。俺がフラれたという形にしても構わない。

 

「だから私一人にしておきなさいって言ったじゃない」

 

「……そうかもな」

 

 堀北が俺の頭をよしよしと撫でていた。

 

 ジジイがいなければそれでよかったのかもなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻った俺は携帯のメールを確認してから寝るつもりだった。

 

 椎名からのメールを処理していると、ふと気が付く。

 

 綾小路からメッセージが入っていた。

 

『話がある。ゼロ時に公園で待っている』

 

 ちなみに今は午前二時だった。

 

 冷や汗があふれ出す。

 ……やばい。すっぽかしている。

 

 綾小路は椎名とは異なり意味のないメールは送ってこない。

 用事というのはわからないが、深夜の密談だ。きっとただ事ではないはずだ。

 

 俺は慌てて寮を飛び出した。

 

 約束の時間を大幅に過ぎているのに、綾小路はまだ公園で待っていた。

 

「遅かったな。宮本武蔵でも気取っているのか」

 

 綾小路がこちらに振り返りもせずに言った。

 遅れに遅れて来たのだ。怒らせてしまったのだろう。

 

「綾小路。遅れて悪かった」

 

 俺はこの時もっと深く考えるべきだった。

 なぜ綾小路が宮本武蔵という例を出したのかと言うことを。

 

 綾小路は俺を振り返りもしなかった。

 明後日の方向を眺めながら独白するように話を始める。

 

「俺にはお前が何をしたいのかまったく理解できない」

 

 何の話だろうか。俺は眉をひそめた。

 

「俺は最初、お前は襲われている櫛田を助けて自分に惚れさせようとしたと考えた。しかしお前は女には不自由しないはずだ。俺が見るに堀北はお前に惚れている。その気になれば付き合うこともできるだろう」

 

 俺は……疑われているのか。

 

 そりゃそうか。

 俺は佐倉の件ではなりふり構わず動いてしまった。

 綾小路に疑念を抱かれるのは当然だった。

 

「綾小路。お前は何が言いたい」

 

 綾小路がようやく俺の方を振り返った。

 

 無色の瞳が俺を刺すように射抜いていた。

 

「櫛田だけではなく佐倉まで襲わせたお前の意図は俺にはわからない」

 

 綾小路は確信を込めて断言した。

 佐倉の件については俺が仕組んだわけではない。しかし綾小路の目は俺を犯人扱いしている。

 

「あるいは美少女がレイプされるところが見たかっただけなのかとも思ったが」

 

 それはジジイだ。俺ではない。

 しかし、ある意味ではそれが正解だった。流石は原作主人公。慧眼だな。

 

「不審な点は幾つもある。お前はなぜ佐倉が襲われることを知っていたのか」

 

「俺は以前に佐倉がストーカーされていたところを目撃していた。佐倉が休んだと聞いて虫の知らせのようなものを感じたんだ」

 

「従業員用の寮に何台ものパトカーが殺到していたと聞いた。佐倉はおそらくそこに拉致されていたと思われる。お前は無数にある部屋の中から、犯人の部屋を特定している」

 

 綾小路は俺の言い訳を遮るようにしてまくし立てた。

 

「佐倉のストーカーをつけてみただけだ。念のためだったが役に立ってよかったよ」

 

「お前は石崎の携帯のSIMカードをコピーするほどのクラッカーだ。俺は電子技術を駆使して犯人の部屋を特定したのだと思っていた。なぜ嘘を吐いた?」

 

 しまった。

 

「迂闊だったな、田中。お前は警察の事情聴取と同じ内容を俺に語ったんだろう。俺には隠す必要のない情報を隠してしまったわけだ」

 

「確かに失言だった。お前の言う通りだ。俺はパソコンで犯人の部屋を特定した」

 

 俺はすぐに発言を撤回する。

 

 綾小路は携帯を取り出した。

 

「田中。お前は危険な男だ」

 

「綾小路。話を聞いてくれ」

 

 携帯の画面がタップされる

 

 瞬間、俺は死の恐怖を感じた。

 背筋に電流が走る。本能が警鐘を鳴らしまくっている。

 

 やばい。

 やばい、やばい、やばい!

 

 無意識に身を投げる。

 

 直後、背中に衝撃を感じた。爆風だった。

 

 ゴロゴロと地面を転がる。

 

 綾小路が無表情に走り寄ってくる。振り上げた拳を叩き落してきた。

 

 俺は顔をひねる。頭の真横に拳が落ちた。

 

 綾小路は地面にぶつかる直前に拳を止め、指で俺の耳をつかもうとする。

 

 耳は人体の弱点だ。古武道では耳を引っ張るという技もある。

 

 俺はつかまれる寸前に綾小路の金的を蹴り飛ばそうとした。

 

 綾小路は股を合わせて蹴りを防ごうとする。

 

 俺は蹴りの方向を変えて地面に叩き付け、その勢いで立ち上がった。

 

 格闘戦が始まる。

 綾小路の身体に打撃を叩き込んだ。岩を殴ったような衝撃が返ってくる。

 

 綾小路はノーガードで俺に拳を叩き付けた。

 

 俺は腕で攻撃を受け止める。骨がミシリと鳴ったような気がした。

 

 互いにタフだ。

 仕切り直すために、示し合わせたように距離を取る。

 

「これは何のつもりだ?」

 

「最初の爆弾を回避されたのは予想外だった。獣じみた反射神経だな」

 

「爆弾か」

 

 俺の制服はボロボロに破けている。制服が一着駄目になってしまった。

 安くないんだけどな。弁償してくれるのだろうか。……無理そうだな。

 

「公園を指定したのは、地面に爆弾を埋めるためだったのか」

 

「準備が大変だった。逃げられたと思って冷や冷やしたぞ」

 

 アスファルトやコンクリートでは地面を掘れないが、公園の地面ならシャベルで掘り返すことができる。

 

 深夜なので地面を掘り返した形跡はよく見えなかった。

 これが昼間なら湿った土が見えたのだろうが、これも綾小路の作戦の内か。

 

「農薬爆弾ってところか」

 

「正解だ。園芸部から拝借して作成した」

 

 硝酸アンモニウムを原料にした爆弾である。

 ノルウェー連続テロで使用された爆弾のようなものだろう。

 

「監視カメラに映像が残っているんじゃないか?」

 

「たぶん大丈夫だ。園芸部の倉庫には監視カメラはなかった。それとこの公園の周りにある監視カメラは破壊しておいた」

 

 抜かりはないってことか。

 綾小路がそんな隙を見せるような間抜けなら楽だったのだが。

 

「爆発に気付いた人が通報するはずだ。すぐに人が来るぞ」

 

「一発だけなら来ないだろう。人間と言うのは存外間抜けだぞ」

 

「……そうだな」

 

 まるで二発目もあるというような言い方だった。

 もちろん他にも埋めているのだろう。俺ならそうするからだ。

 

「もし俺が逮捕されたなら、俺はお前をレイプ事件の元凶だと告発する。そうなるとお前も困るだろう?」

 

「確かにそれは困るな。事実無根の言いがかりだが」

 

「まだとぼけるつもりか。白々しい奴だ」

 

 綾小路はポケットに手を入れた。携帯を操作するつもりだ。

 やはり二発目の爆弾があるのだ。俺は足元を確認しようとした。

 

 瞬間、綾小路が踏み込んでいた。

 

 ブラフか!

 

 綾小路の拳が俺の頬に突き刺さる。俺は自分から顔を振って衝撃を受け流し、反撃の拳を打ち込んだ。しかしやはり岩のように硬かった。殴ったこっちがダメージを受けていると錯覚しそうなほどだ。

 

 綾小路が流れるように攻撃を叩き込んでくる。

 

 俺は一つずつ拳を捌きながら反撃の機会を探った。

 

「何してるの!」

 

 悲鳴のような叫びだった。

 

 綾小路が無言で身を翻す。軽業師のように公園の柵を飛び越えて夜の闇に消えていった。

 

「田中君!?」

 

 駆け寄って来たのは櫛田桔梗だった。

 

 俺は頬を緩ませようとして――目を見開いた。この状況は不味い。

 

「来るなッ!」

 

 俺は慌てて櫛田へと走った。櫛田は止まらない。

 

 俺は櫛田とぶつかるようにして彼女を抱きかかえ、公園から飛び出した。

 レンガ敷きの舗装路に身を投げる。

 直後、公園が爆発した。埋められていたすべての爆弾が起爆したのだ。

 

「きゃああぁぁぁぁぁ!」

 

 俺の腕の中で櫛田が悲鳴を上げていた。

 

 俺は綾小路が逃げ去った方向を睨み付けた。

 あいつ、櫛田ごと俺を爆殺するつもりだったのか。

 

 大量の土砂が降ってくる。

 

「こ、これ、何!? 何なの!?」

 

 櫛田は俺の腕の中で震えていた。

 こうして見ると、櫛田は普通の女の子だ。

 

「い、今のは誰? もしかして黒幕?」

 

 櫛田視点だとそうなるよな。

 

 櫛田は綾小路の顔までは見ていないようだ。

 

 あいつはガスマスクの不審者ということにしておこう。

 綾小路が捕まったら俺も告発されてしまう。だから俺は綾小路には何の手も打てない。

 

 たぶん綾小路は明日も何くわぬ顔をして授業に出てくるだろう。

 

 クソッ、ますます面倒なことになってきやがった。

 

「田中君、私こわいよ」

 

 櫛田は俺に抱き着いて震えていた。

 

 流石に先ほどの大爆発のおかげで人が集まり始めている。

 

「大丈夫だ。お前は俺が守るから」

 

「……うん」

 

 俺の白々しい言葉に、櫛田は俺の胸に顔を押し付けて何度も頷いていた。

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