※この作品はR-18です。

ようこそ強姦魔のいる教室へ   作:生太郎

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22話

 俺は首を傾げた。

 

「何だってんだ?」

 

 足元には須藤が倒れている。俺の傍には桔梗と鈴音がいた。

 四日目の夕食後だ。

 川辺で駄弁るかと思っていると、須藤が「うおぉぉっ!」と叫びながら走ってきたのだ。

 

 女子グループは凍り付いていた。

 肝が冷えたと言うのだろうか。桔梗も鈴音も悲鳴すら上げられなかった。

 

「おーい、起きてますかー。寝てんのかよ」

 

「や、やめなよ……可哀想だよ」

 

「そうかしら? 自業自得だと思うけど」

 

 ガシガシと須藤を蹴り飛ばす。

 無反応だった。呼吸はしているから生きてはいるようだが。

 

 桔梗は頬を引き攣らせながらそれを眺めている。

 一方、鈴音は冷淡だった。須藤を冷たく見下ろしている。

 

 いきなり殴りかかってきたので、ついカウンターを合わせてしまった。

 

 ワンパンでKOである。弱すぎて話にならない。

 これなら伊吹の方が何倍もマシだ。準備運動にもならないな。

 

 須藤たちがセックスを見ていたのは気付いていた。

 池と山内は俺にビビッていたし、須藤は馬鹿だから問題ないだろうと放置してみた。むしろ見られて興奮した。やっちまったぜ。

 

 何と言うか、男として勝ち誇りたくなったのだ。

 

 須藤には嫌な思いしかさせられてないからな。ただの意趣返しである。

 

「でも、どうして須藤君はいきなり殴りかかってきたのかな?」

 

「さぁ? 嫉妬でもしたんじゃね?」

 

「きゃぁっ!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 鈴音と桔梗を引き寄せる。

 左右に美少女を侍らせる最低男だ。その上で伊吹とのセックスまで見せられたら須藤でなくてもキレるだろう。

 

 俺はクソだったが、それ以上に女子たちは須藤を軽蔑するように眺めていた。

 どんな理由があろうとも暴力は駄目だ。俺が言っても説得力はないが。

 

「これ、どうする?」

 

「川に流したらいいんじゃない?」

 

 鈴音のセメント対応に笑いそうになるが、流石に川に捨てれば溺死しそうだ。

 

 放置でいいだろう。たぶん平田あたりが引き取りに来るんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五日目の早朝。

 俺は小便でもするかとトイレに向かっていた。

 

 ちなみに俺は女子の仮設トイレを借りている。

 最初は平田に声をかけて男子の罵声を浴びながら簡易トイレを使っていたが、見かねた女子が使っていいよと許可をくれたのだ。

 

 トイレの中には気配があった。ぼうっと待っていると篠原が出てくる。

 

「きゃっ! って、田中君か。びっくりしたー」

 

 その反応は結構ショックだ。俺が気にしすぎなのかもしれないが。

 

「おはよう、篠原。朝早いんだな」

 

 まだ五時である。俺は二度寝する気満々だった。

 

 篠原は頬を緩める。

 

「朝ご飯の仕込みがあるからね。頑張って早起きしてるの」

 

「頑張ってるな。毎日の食事が楽しみに思えるのも篠原のおかげだ」

 

「そ、そんな……褒められるようなことじゃないし……」

 

 篠原は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

 俺は苦笑しながらトイレに入ろうとする。後ろから篠原が声をかけてきた。

 

「田中君っ!」

 

 振り返る。彼女は俺を真っ直ぐ見詰めていた。

 

「最初は色々あったけど、私ね、この試験が楽しく思えてる。みんなから頼りにされてるのがわかるし、毎日がすっごく充実してる。それもこれも田中君のおかげ。だから、ありがとね」

 

 何だか気恥ずかしくなってきた。

 篠原は顔を真っ赤にしてこっちを見ている。

 

 俺は「お、おう」と生返事をしてトイレに逃げ込んでしまった。童貞かな?

 

 なんか気まずいな。うんこでもするか。

 

 

 

 

 

 色んな意味で原作以下のDクラスだが、思わぬ副産物があった。

 

 ポイントをほとんど消費していないのである。

 

 仮設トイレ一つ、シャワー室一つ、食料と水一セット、調理器具二セット、調味料二セット、紙皿やプラスチックのスプーンやフォークなどの食器セット、釣り竿二本、女子用にマッチ一箱。それだけだった。

 

 合計で七十ポイントに満たない。

 原作では男女が協力してこれぐらいの数字だった。しかしこちらでは協力していないのに同程度の結果が得られている。

 

 まだ試験の途中なので皮算用でしかないが、これは悪くはないと思う。

 

 初日の絶望的な空気はすでにない。女子の表情は明るさに満ちている。最初はどうなるかと思ったが、彼女たちもサバイバルに慣れてきたようだ。

 一人一人が積極的にできることを探していて、集団が効率的に機能していた。

 

 女子だけな。

 

 男子の方は空気がピリピリとしていた。

 キャンプ経験が豊富な池のおかげで食料の確保はできている。……できているのだが、その量が明らかに女子よりも少なかった。

 

 キャンプの経験だけでは食べられる山菜なんて見分けられないし、地面に埋まっている芋を見付けるのも難しいだろう。サバイバルのマニュアルを精読して、植物図鑑も脳内に保管している俺と池との差であった。

 

 育ち盛りの男子は大食らいだ。

 女子と協力しているなら我慢できたかもしれない。

 

 しかし隣の芝生は青く見えるという。

 男子は空腹からイライラして喧嘩も増えていた。平田ハードだ。

 

 このままだと平田が潰れる。

 そうなると男子は統率を失う。その結果は俺でも予想できない。

 

 やべぇよな。……ほんと、どうすればいいんだ。

 

「田中君もシャワー使いなよ。別にいいよね?」

 

 篠原が周りに声をかけていた。

 

 佐藤が「いいよー」と答え、軽井沢も「いいんじゃない?」と言っている。

 

「いや、流石に不味いだろ」

 

「気にしなくてもいいって。田中君が頑張ってくれてるのは皆わかってるから」

 

「いや、でもな……」

 

 このままだと押し切られそうだ。

 

 俺は別に川で水浴びでも構わないのだが。

 何時もは薄暗い時間を狙って川の下流で適当に済ませているからな。

 

 その時だった。

 

「いい加減にしてくれ!」

 

 男子の叫び声がした。

 

 その声はそれほど大きくはなかった。

 須藤の大声と比べれば、全然大したことはない。

 

 しかしその声はベースキャンプのすべてに届いていた。

 

 男子が静まり返っていたからである。

 

 寒気がするほどの静寂が流れていた。

 

「今のって、平田君?」

 

 軽井沢が青ざめている。

 

 俺もそう思った。あれは平田の声だった。

 

 平田は虚ろな表情をしていた。

 口が小刻みに動いている。ブツブツと何やら呟いている。

 

 男子の誰もが、何が起きているのかわからない顔をしていた。

 ホントに馬鹿だな。平田に何もかも押し付けていたツケが回ってきただけだろうに。

 

 平田はふらふらと森の中へと歩いて行った。

 男子たちは唖然としていて、黙って平田を見送っていた。

 

 流石に不味いと思った数人の男子が平田の後を追う。

 

「ねぇ軽井沢。行った方がよくない?」

 

「う、うん? たぶん大丈夫じゃない?」

 

 篠原に声をかけられた軽井沢は、恋人に向けるには冷たい発言をしていた。

 今の平田に近付きたくないのはよくわかる。

 そのせいで軽井沢は恋人の演技ができなくなっていた。

 

 今の態度には問題がある。

 篠原は軽井沢のことを眉をひそめながら眺めていた。他人の恋路だから口は挟まないが、本当にそれでいいのかという表情だ。

 

 軽井沢が女子を集める。

 

 男子の方で何かあったみたいだけど、今日も一日頑張ろう――みたいな掛け声で五日目の活動が始まった。

 

 

 

 

 

 事情がわからないと対策も打てない。

 と言うわけで綾小路から事情を聞いてみた。

 

「切っ掛けはポテチだった」

 

 ……はぁ?

 

 俺は面食らった。

 

 一緒にいた鈴音も目を丸くしていた。

 桔梗は「ポテチ美味しいよね」と的外れな感想を述べている。

 

 綾小路も頭痛を堪えるように顔をしかめていた。

 

「Cクラスが挑発に使ったポテチだ。平田がそれを管理していた」

 

「なんで食べなかったの?」

 

 桔梗の質問に、綾小路が軽く溜息を入れてから答える。

 

「皆で分けることも考えたが、二十人で分けたら一口分にしかならない。それでは満足感なんて得られないだろうし、欲望に歯止めが効かなくなるかもしれない」

 

「もっと食べたいって思うようになるのかな?」

 

 綾小路が頷く。

 

「だから平田は『最終日に打ち上げに食べよう』と男子に言っていた」

 

 上手いな。俺は平田の言い回しに感心する。

 思わぬ爆弾と化してしまったポテチを的確に処理している。

 

「そのポテチが盗まれた」

 

「うわぁ」

 

 桔梗が頬を引き攣らせていた。

 我慢できずにポテチを盗んでしまった者が出て来たようだ。

 

 始まるのは犯人探しだ。

 言い争いや喧嘩が起こり、とうとう平田が爆発した。

 

「これも龍園君の策の一つね」

 

 なんか鈴音が見当外れなことを言っていた。

 

「……いや、それは」

 

「深謀遠慮と言わざるを得ないわ。たかがポテチの一袋でDクラスの結束をここまで乱してくるなんて、敵ながら見事なものね」

 

 マジかよ。

 これも龍園の策だったのか。龍園、恐ろしい奴っ!

 

 ……ねぇよ。

 

 森の方から男子たちが肩を落としながら戻ってくる。

 

 残っていた男子たちが「どうだった?」と目線で促すと、彼らは首を横に振った。

 

 期待はしていなかったが説得は失敗に終わったようだ。

 

「行くの?」

 

 鈴音が俺に声をかける。俺は頷いた。

 

 茶柱先生との契約もある。Dクラスの崩壊を見過ごすのは問題だろう。

 しかしそれよりも平田が哀れだった。あれでは平田が報われなさすぎる。

 

「あ、あの、礼司君!」

 

 桔梗が俺に駆け寄った。俺の手を取って、中に栄養食を握り込ませる。

 栄養食は一箱に四本入っていて、二本ずつで包装されていた。そのうちの一袋だった。

 

「これは?」

 

「万が一のために取っておいたの」

 

 保険をかけておくのは桔梗らしい強かさだな。俺は苦笑した。

 

「あのね、怒りっぽくなるのはお腹が減ってるからだと思うんだ」

 

「平田のは空腹が原因ではないと思うが」

 

「それは違うかな」

 

 桔梗が俺の意見を真っ向から否定してきた。珍しい。

 

「たぶんだけどね。平田君、自分の食べ物をこっそりみんなに分け与えてるよ」

 

「……平田らしい話だな」

 

 それとなく自分の取り分を削って他の男子に回す。

 平田ならやりかねない。

 それが原因でキレたとは思えないが、平田が飢えている可能性は充分に有り得る。

 

「ともかく心得た。平田に渡してくる」

 

 俺は桔梗から栄養食を託され、平田のところへ向かった。

 

 平田は木にもたれかかって座っていた。虚ろな顔をして地面を見詰めている。

 

 俺は何も言わず、傍に腰を下ろした。

 

 木々がざわめいている。野鳥の鳴き声がしていた。

 

「田中君はすごいよね」

 

 やがて平田がポツリと呟いた。

 

 俺はしばらく間を置いてから「そうか?」と言った。

 

「君は彼女たちを飢えさせなかった」

 

 それは条件がよかっただけだ。

 女子にはよくも悪くも統率力のある軽井沢がいて、人望のある桔梗もいる。

 それに女子は男子ほど食わない。

 

「君は異性なのに女子から信望を勝ち取った。それってすごいことだよ」

 

「そんなに褒めるなよ。くすぐったいな」

 

「本当にすごいことだよ。君は彼女たちの笑顔を守ったんだ」

 

 平田が溜息を吐いた。

 笑顔を……デュエルで笑顔を……。

 

「僕はまた失敗してしまった。あの時の僕とは違うはずだと思っていたけど、やっぱり成長していなかったみたいだ。ははっ、情けないな」

 

「……あの時?」

 

「僕は親友を見殺しにしてしまった」

 

 平田は中学の頃に親友を失った。

 ひどい苛めを受けているのを我が身可愛さから見過ごし、その親友はついに自殺してしまった。実際には死んでいなくて脳死判定らしいが、二度と起き上がることはないだろう。

 

 そう言うことを平田は訥々と説明した。

 

 平田がクラスの皆に無償で手を貸すのは、その償いのようなものだった。

 

「平田。お前の気持ちは俺にはわからない」

 

 ここで安易にわかったと言うのは平田への侮辱になるだろう。

 平田の思いは平田だけのものだ。俺のような他人が踏み込むべきではない。

 

「一人で抱え込むからそうなるんだ。弱音を吐ける相手ぐらい見付けておけよ」

 

「軽井沢さんとか?」

 

 平田が冗談っぽく頬を緩めていた。

 悩みを吐き出したおかげで多少は精神が落ち着いたようだ。

 

「早く本物の彼女を作れと言ってんだ」

 

 平田は目を丸くして驚いていた。ふっと憑き物が落ちたように苦笑する。

 

「君には本当に、敵わないな」

 

 俺は桔梗から預かっていた栄養食を投げ付けた。

 

 運動神経のいい平田は栄養食を顔の前でパッと受け止める。

 

「桔梗からだ」

 

 受け取れないと言い出しそうだったので、俺はその場から立ち去ることにした。

 

 去り際に言っておく。

 

「落ち着いたら戻って来い。お前に叱られたおかげで男子も反省しているぞ」

 

 ポテチごときで大喧嘩していた奴らは大人しくなっている。

 男子に必要だったのは優しい言葉ではなく、気を引き締めるための叱責だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平田が戻ってきた。

 男子たちが駆け寄ってペコペコと頭を下げている。

 

 平田は苦笑しながら謝罪を受け入れた。

 

 もう大丈夫だろう。

 男子たちにはいい意味での緊張感が漂っていた。

 

 俺はそれを確認してから海に足を運んだ。

 ゲイボルグ改めドゥリンダナを片手に素潜りに挑戦してみる。ちなみにゲイボルグは度重なる酷使によって折れてしまった。……悲しいなぁ。

 なので次は絶対に壊れない祈りを込めて不毀の極槍にあやかってみた。

 

 戦果は魚が八匹とタコが一匹だ。

 鞄の中が青臭くならないように簡易トイレ用のビニールで包んでおく。

 鞄がパンパンになってしまった。今日はお魚パーティーだな。

 一応ビニールには海水も入れているが、鮮度が落ちるので早く持ち帰りたい。

 

「……なんかすっごいエンジョイしてるよね」

 

 砂浜に上がってタオルで身体を拭いていると、恨めしそうな声が向けられた。

 

 一之瀬がジト目で俺を睨んでいた。

 傍にはBクラスの者が八人いる。神崎と柴田、他は知らない。

 

「おすそ分けだ。これ食うか?」

 

 俺は鞄から大きい魚を取り出した。

 石で頭を殴ってシメているので頭から血が垂れている。

 

「わぁ、すっごい! カンパチだね! ……って違うっ!」

 

 一之瀬が受け取った魚を砂浜に叩き付けた。

 やめろ。食べ物を粗末にするな。罰が当たるぞ。

 

 柴田が微妙そうな顔をしながら魚を拾って海水で洗っていた。

 

「そうじゃなくて! なんで一度も恋人に会いに来ないの! おかしいでしょ!」

 

「ああ、そのことか」

 

「なにその反応! 私のカレシが冷たすぎるんだけどっ!?」

 

 うるさいな。と言うか、うざい。

 ほぼ一週間ぶりに会ったからか一之瀬は無駄にハイテンションだ。

 

 Bクラスの生徒たちは、早くこいつを何とかしてくれと俺に期待の眼差しを注いでいる。

 

 俺は一之瀬の機嫌を取るために言葉を選んだ。

 

「悪い。Dクラスも色々と立て込んでいてな。会いに行く暇がなかった」

 

「ホントに?」

 

「ああ。船に戻ったらデートでもするか?」

 

「……する」

 

 一之瀬はいじけていたが、甘えるように返事をする。

 

 付き合っているフリ……だよな?

 

 白波の追及が厳しかったのかもしれない。

 どうして付き合っているのに会いに来てくれないんですか、と言われ続けたのだろう。それでストレスが溜まっていて、俺の顔を見て弾けてしまったか。

 

 柴田が俺から貰った魚を仲間に見せて、わいわい騒いでいた。

 

「やべぇ、すっげぇ美味そう。刺身にしようぜ。田中も食っていけよ?」

 

 誘ってくれるのは有り難いが、俺は柴田に鞄を叩いてみせた。

 

「いや、悪いがクラスの仲間を待たせている。鮮度が落ちる前に持って帰りたい」

 

「そっか。なら仕方ないな。船に戻ったら一緒に遊ぼうぜ」

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 

 Bクラスの男子が優しい。いや、これが普通なんだけどな。

 

「じゃぁな、一之瀬。また今度」

 

「待って。田中君」

 

 一之瀬が俺に駆け寄り、爪先立ちになって唇を当ててきた。

 

 一瞬だけのキスだったが、ちょっとこれは大胆すぎませんかねぇ。

 

 付き合ってるフリだよな?

 白波へのアリバイ作りだよな?

 

「デート、忘れないでよねっ!」

 

 俺は一之瀬に背中を叩かれて追い払われた。

 まだ着替えてないんだけど……森の中で服を着るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験は五日目。

 七日目は半日で終わるので、実質的には明日が最終日だ。

 

 恒例行事と化してきた夕食後の話し合いである。

 あ、海の魚は大好評だった。三匹はミネラルを補給するためにその場で刺身にして、残りは夕食用に熱を通して食べることにした。

 

「と言うわけで、他クラスのリーダーについて話をしたい」

 

 綾小路の推測によると、Aクラスのリーダーは弥彦という生徒だった。

 

「弥彦のフルネームは何て言うんだ?」

 

「たぶん戸塚君だね」

 

 桔梗が答える。鈴音からメモ用紙を借りると『Aクラス 戸塚弥彦』と書き込んだ。

 

「Bクラスのリーダーは不明か」

 

「あのクラスはガードが堅いわ。あの結束力だと突き崩すのは困難でしょうね」

 

「葛城派と坂柳派に分かれている分、付け入る隙はAクラスの方が大きそうだな」

 

「Bクラスはわからないんだよね」

 

 桔梗がメモ用紙に『Bクラス 不明』と記入する。

 

 実際、坂柳派は足を引っ張る行動をしている。

 たしか龍園にリーダーの情報を流していたのだったか。

 

 葛城の策が決まればAクラスはおよそ五百ポイントを手に入れる可能性があった。

 葛城をリーダーから引きずりおろすのに、そこまでする価値があるのかとは思うが、坂柳派はここで葛城をリーダーから引きずり下ろすのに拘っているようだ。

 

「Cクラスは伊吹さんともう一人以外リタイアしたんだよね。その中にリーダーがいたのかな?」

 

「でしょうね。けれど、もう確かめる術はないわ」

 

 桔梗は頷き、メモ用紙に不明と書こうとする。

 

「龍園だ」

 

 鈴音が眉をひそめた。

 

「当てずっぽうはリスクが高いわよ」

 

 外したらマイナス五十ポイントだ。

 鈴音の言う通り、確証もなくリーダーを当てようとするのは止めておくべきだが。

 

 俺は伊吹のデジカメを取り出した。

 中に入っている伊吹のエロい写真はすでに消去している。

 

「何でそんなものを持っているの?」

 

「伊吹が隠し持っていたデジカメだ」

 

 俺はデジカメを操作して写真を表示する。

 

 伊吹と初めて会った場所、大木の根元を掘り出した写真が映し出された。

 掘り返された土の中に、ビニール袋に包まれた懐中電灯と無線機が入っている。

 

「これは!?」

 

 伊吹がデジカメを隠し持っていた。

 さらに無線機を地面に埋めてまで隠していた。

 

 これで伊吹がスパイなのが確定した。

 

「綾小路。この無線機に見覚えはあるか?」

 

「ああ。Cクラスのベースキャンプにあったものと同じ型式だな。大事そうに手元に置いてたよ」

 

「自分以外は信用できない独裁者らしいな。常に謀反を警戒しているから信頼できる手下がいないのだろう」

 

「……礼司君も綾小路君も、本当に呆れさせられるわね」

 

「えっと。龍園君でいいんだよね?」

 

 桔梗が戸惑いながらメモ用紙に『Cクラス 龍園翔』と書き込んだ。

 

「これでプラス百ポイントは確実だな」

 

 俺は自信に溢れる笑みを浮かべた。

 

「この特別試験、我々の勝利だ」

 

 鈴音と桔梗がキラキラした目で俺を見ていた。

 

 綾小路は溜息を吐いていた。

 大丈夫だって。今回はうっかりミスしてないと思うし。たぶん。

 

 

 

 

 

 そう言えば今日は伊吹が襲って来なかったな。

 そんなことを考えながら寝床の準備をする。俺は植物の蔓と大きな葉っぱを組み合わせた素朴なテントを自作していた。

 中には葉っぱを敷き詰めている。寝心地は地面よりマシといったところだ。

 

 まぁ、まだ寝るには早いだろう。今夜はやることがある。

 

 俺はBクラスのベースキャンプに足を運んだ。

 森の中では夜道を歩くのは非常に危険だ。懐中電灯があってもお勧めはできない。

 

 だが俺の場合は別だ。夜目が利くので草に足を取られることもない。

 

 時計はまだ午後九時だったがBクラスはもう寝静まっていた。

 Bクラスは支給されていたテント二つと、さらに小型テントも購入している。

 クラス全員がテントで寝られる環境である。

 男女が険悪なせいで最低限の物資しか購入できなかったDクラスとは大違いだ。

 

 女子が野宿しているのはDクラスだけだろう。

 ……あれ、もしかしてDクラスって一番サバイバルしてる?

 

 そんなことを考えて暇を潰していると、テントから人影が現れた。

 普通に考えればトイレだろう。

 しかしその人影は仮設トイレを横切り、ベースキャンプを出て行った。

 

 当たりだな。

 

 念のために張り込んでいてよかった。

 明日に動くと決めつけていたらこの機会を逃していただろう。

 

 ……ん?

 

 もう一つのテントからも人影が外に出てくる。

 こちらはトイレだろうと思っていると、その人影もキャンプから離れた。

 

 どういうことだ。

 俺はてっきりCクラスのスパイが脱出したのだと思っていたのだが。

 

 足音を消して人影に近付いてみる。

 

「誰にも気付かれてませんよね?」

 

「大丈夫。みんな寝てるよ」

 

 片方は男子。もう片方は女子の声だった。

 

 男子の方は金田という男子である。

 Cクラスには珍しく、椎名と同じく知略に長けている生徒だった。

 

「では教えてくれますか。Bクラスのリーダーを」

 

 ……内通者か。

 

 女子が金田に何かを見せていた。

 俺は目を凝らしてそれを見詰める。リーダーが持つキーカードだな。

 

「なるほど。龍園氏が持っていたものと同じですね」

 

 カシャッと音がして辺りが輝いた。

 金田はデジカメでキーカードを撮影すると、ホッとしたように息を吐いた。

 

「確かに。報酬のプライベートポイントは試験後に振り込ませて頂きますよ」

 

「別に。ポイントとかどうでもいいです」

 

 ……って、千尋ちゃんかよ。

 まさか一之瀬の足を引っ張るために他クラスと内通するとは。

 

 闇墜ちしすぎだろ。原作の桔梗みたいになってるぞ。

 

「それにしても、よくあの仲良しクラスを裏切る決心ができましたね。後学のためにその理由をお教え頂けませんか?」

 

「先に裏切ったのは向こうの方だよ」

 

 白波は素っ気なく答えるとベースキャンプへと戻っていく。

 アリバイ作りのために仮設トイレに寄ってからテントに入った。

 

 金田はそれを見送ると、懐から無線機を取り出した。

 

 龍園と接触するのだろう。

 俺はこっそり後を追った。金田は懐中電灯で足元を照らし、時には転びそうになっていた。移動だけで必死になっていて俺に気付く気配もない。

 

 金田のライトが龍園を照らす。

 無精髭を生やした龍園が金田を出迎えていた。

 

「見せろ」

 

 龍園はひったくるようにデジカメを奪う。

 画像を表示させて、獣のように獰猛な笑みを浮かべた。

 

「よくやった。後は俺に任せろ。お前はリタイアして船で休め」

 

 Cクラスのリーダーは龍園で確定だ。

 

 Bクラスのリーダーも白波千尋だったことが判明した。これは予想外の収穫だな。

 

 俺は寝床に戻った。

 伊吹が俺の自作テントの中で座っていた。

 

「どこ行ってたの」

 

 むすっとした顔で睨まれる。

 

 俺はそれには答えずに拳を構えた。

 もう日付は変わっているが、五日目でカウントしてやるか。

 

 そう思っていると、伊吹が服を脱ぎ始めた。

 

「……どう言うつもりだ?」

 

「別に。どう足掻いてもあんたには勝てないし。なら戦っても意味ないでしょ」

 

 そう言いながら伊吹が俺にしな垂れかかってきた。

 

 左手で俺の股間をさすり、俺から目を逸らして呟いている。

 

「それに、あんたとするの、嫌いじゃないから」

 

 うん、まぁ、こっちのが楽でいいけどな。

 ……堕ちたか?

 マジカルありがとう。ジジイのおかげだ。たぶんミスだろうけどな。

 

 俺はテントの中に伊吹を横たえた。

 

「あんま声を出すなよ。女子のテントまで響くからな」

 

「……うん」

 

 俺は伊吹を抱き締めた。

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