ようこそ強姦魔のいる教室へ 作:生太郎
ベースキャンプに戻る途中で顔に水滴が落ちてきた。
黒い雨雲がすぐそこまで近付いてきている。そろそろ降りそうだ。
ベースキャンプに戻ると、女子のテントの傍に青いビニールが並んでいた。
想定していたより数が多い。どうやら薪だけでなく食料もビニールで包んだようだ。
「あ、礼司君」
「間に合ったみたいだな。手を貸してやれなくて悪かった」
「……よかった。いつもの礼司君だ」
桔梗は目尻の涙をぬぐっていた。大袈裟な奴だな。
俺は女子たちを見回した。
彼女たちは俺と桔梗のやり取りを興味深そうに聞いていた。
リーダーがバレて暗い雰囲気になっていると思っていたのだが、意外と平気そうだ。
ほとんどの女子が俺のことを期待するような目をして見詰めていた。
「みんな。俺の話を聞いて欲しい」
右手を挙手しながら言う。
「これから雨が降ってくるが、テントには十人しか入らない。テントに入れなかった女子の半分は雨に打たれることになる。このままだと不味い状況だ」
「ビニールでテントとか作れないのかな?」
佐藤が俺に質問した。
「それかビニールを被るとか?」
軽井沢が冗談めかしながら言う。
現実的な策ではなかった。
軽井沢自身もそれがわかっているのか軽い口調だった。軽井沢だけに。
「いや、こんな時のために洞窟を見付けてある。テントに入れなかった者は手荷物を持参して俺について来て欲しい。長時間になるかもしれないから水やちょっとした食料を持って行った方がいいと思う」
女子たちが安堵していた。「流石田中君」と言っている。サスタナ。
ちなみに洞窟は伊吹をレイプするために見付けたのであって、雨を凌ぐためではなかった。
墓場まで持って行かないといけない秘密がまた増えちゃったぜ。
夕方になるまで雨は降り続けた。
暗くなる前に止んでくれて本当に助かった。真っ暗になったら女子はベースキャンプに戻れなくなるからな。
食料の備蓄は充分だった。
もうすぐ試験は終了するが、三食なら何とかなると篠原が胸を叩いていた。
夕食後、俺は寝床に戻ってみた。
自作テントに隠しておいたデジカメが気になったからだ。
テントの中にキーカードが置かれていた。
タナカレイジと書かれている。やはり俺がリーダーだったか。
どうやら伊吹が返しに来たようだ。
略奪は禁止事項である。キーカードのような試験の根幹に関わってくるものが奪われたとなれば学校側の調査が入る可能性が高い。そこらに捨ててもいいのだが、わざわざ返しに来たのは伊吹にも思うところがあったのだろう。
デジカメはそのままだった。
葉っぱの下に隠しておいたおかげで気付かれなかったようだ。
バッテリーは七割も残っている。ほとんど使っていないからな。
俺はデジカメを片手にキャンプに戻った。
佐藤が俺に気付いて声をかけてくる。
「あ、田中君。それ、どうしたの?」
「伊吹の忘れ物だ。いい機会だから記念写真でも撮ろうかと思ってな」
遊びでレンズを佐藤に向けてみる。
彼女は「ひぁぁっ」と叫びながら他の女子の後ろに隠れてしまった。
「それいいね。田中君、一緒に撮ろうよ」
篠原が俺の腕に抱き着きながら横ピースしていた。
朝の一件があったからか、篠原は顔を真っ赤にしていた。
「か、可愛い女の子と一緒に写真が撮れるんだよ。嬉しいでしょ?」
「……そうだな」
また桔梗に泣かれるかな。
そう思いながら俺はデジカメを遠くに伸ばして自撮りした。
篠原は俺からデジカメを受け取って写真を確認している。
それから他の女子に自慢するように画面を見せ付けていた。
「ず、ずるいよ! 私も田中君とツーショットが撮りたい!」
「それなら佐藤さんも撮ったらいいじゃん」
篠原が隠れていた佐藤を引っ張ってきて俺に押し付けてくる。
佐藤は顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
篠原がデジカメを俺たちに向ける。
「一緒に映らないと意味ないでしょ。ほら、もっとくっついて」
「おい篠原」
すでに佐藤とは肩が触れ合っているのだが、それでも篠原はシャッターを切る気配がない。
俺は苦笑してから佐藤の肩に手を回してみた。
「あ、あああ、あの、田中君!?」
佐藤が彫像のようにカチコチになる。その隙に篠原がシャッターを切っていた。
「はい、撮ったよー」
瞬間、俺は佐藤を解放する。
彼女は胸に手を当てて、はぁはぁと激しい呼吸をしていた。
「他にも田中君と写真撮りたい人!」
篠原が女子に呼びかけている。
数人が恥ずかしそうに挙手していた。長谷部もその中の一人だ。
いや、俺はツーショットじゃなくて集合写真みたいなものを……まぁいいか。
桔梗が頬を膨らませながらテントの中に声をかけていた。不機嫌そうな顔をした鈴音がテントから召喚される。
俺たちはわいわいと大騒ぎしながら写真を撮りまくった。
鈴音や桔梗とのツーショット。両手に花の写真。
長谷部が俺の腕に抱き着いてきて皆を唖然とさせたり、なぜか軽井沢と二人で写真を撮ることになったりもした。
最後はもちろん全員が入った集合写真だ。
俺がカメラマンをすると申し出たら軽井沢に「あんた馬鹿なの?」と言われた。解せぬ。
と言うわけで桔梗が茶柱先生を呼んできてカメラマンをやらせている。
「ほら! 何遠慮してるの! 主役は真ん中だよ!」
隅っこでいいと思っていたら、篠原に背中を押されてしまった。
桔梗や鈴音、篠原、佐藤、長谷部などが俺の周りに集まってきた。
配置がどうのこうのと揉めていると、茶柱先生が苛立ったように「早くしろ」と声をかけてくる。
「佐枝ちゃん先生! 最低でも三枚は撮って下さいね!」
「可愛く撮って下さい!」
「やだ、私すっぴんじゃん!」
面倒になったのだろう。
茶柱先生は高圧的に「撮るぞ」と言い、一度目のシャッターを切ってしまった。
心の準備ができていなかった女子たちが「ああぁぁ!」と頭を抱えている。
「先生! 撮り直し!」
「いやぁー! 私ぜったい変顔だった!」
「二枚目だ。いくぞ」
無慈悲な宣告。女子たちがキリッと表情を作っていた。
女性とは生まれながらにして女優である。そのことを実感させられる俺であった。
翌日。
礼司君は何時まで経っても起きて来なかった。
昨日は夜更かししすぎたかもしれない。
娯楽用品を持ち込めなくても遊ぶことはできる。
誰かが人狼ゲームをやろうと言い出して、結局は五ゲームもしてしまった。
私はルールを知らなったので最初は参加を見送った。占い師の佐藤さんが狼の礼司君を白と言って大混乱を巻き起こしたり、占い師を騙った軽井沢さんが礼司君を身内切りして無双したりと、とても楽しそうだった。
きっと礼司君はまだ寝ているのだろうと誰もが思っていた。
しかし礼司君は点呼の直前になっても現れなかった。
櫛田さんが礼司君の自作テントまで走り、青ざめた顔をして戻ってきた。
茶柱先生が意地の悪い笑みを浮かべていた。
「田中は体調を崩してリタイアしたぞ」
空気が凍り付いた。
リタイア。
その言葉を理解するのに時間がかかった。
何で。どうして。
理由がわからない。礼司君は誰よりも真剣に試験に挑んでいた。
私が失敗したから愛想を尽かしてしまったのだろうか。
足手まといの面倒を見ることに嫌気が差してしまったのだろうか。
ドロドロとした感情が胸の中を渦巻いていた。
「な、なんで。なんで田中君がリタイアするの!? 普通に元気だったじゃん!」
篠原さんが叫び声を上げていた。
裏切られた。見捨てられた。そんな気持ちが女子の中で蔓延していた。
須藤君が鼻で笑う。
「ハッ! あいつ尻尾を巻いて逃げやがったのかよ! 情けない奴だな!」
「あんたに何がわかるのよ!」
篠原さんが顔を真っ赤にしていた。
以前と違うのは、その目に涙が浮かんでいることだ。
「田中君がどれだけ頑張ってたのか、あんた何も知らないくせに!」
「でもお前ら、見捨てられたんだろ?」
須藤君が楽しそうに笑いながら言った。
篠原さんが黙り込む。
ぐっと歯を食いしばって須藤君から背を向けた。
彼女の嗚咽の声が聞こえた。
「つか田中がリーダーだったのがバレたせいで俺らの努力まで無駄になったんだろ。せっかくポイントを節約していたのに、あいつのせいで俺たちのクラスは負けるんだぜ。マイナス五十ポイントで済めばいいけどな」
「須藤君。そこまでにしてくれないか」
平田君が堪りかねて口を挟む。
その目には静かな怒りが宿っていた。
「な、なんだよ。俺は本当のことを言って……」
須藤君は今更ながらに女子の全員から敵意を向けられていることに気が付いたようだ。
チッと舌打ちして不機嫌そうに口を閉じた。
試験が終了した。
生徒たちは砂浜に集まって結果を待っていた。
「堀北さん、お疲れ様」
一之瀬さんに声をかけられる。
彼女はDクラスの生徒を見回して誰かを探していた。
「田中君ならリタイアしたわよ」
溜息を吐きながら答える。
一之瀬さんは眉をひそめていた。
「リタイアって、一昨日に会ったけど普通に元気だったよ。怪我でもしたの?」
「体調不良と言うことらしいわ」
「……それは、おかしいね」
一之瀬さんは考え込みながら自分のクラスに戻って行った。
その時、ざわめきの声が上がった。
森の中から一人の生徒が出てくる。
黒い肌をした巨漢だった。私は他のクラスの生徒をあまり知らない。
しかし私はその男子のことを知っていた。
伊吹さんに連れ出された先で待っていた男子だった。
「Cクラスの山田アルベルト君だよ」
櫛田さんがDクラスのみんなに教えていた。
龍園君はどこにもいなかった。
彼の推測は外れていた。Cクラスのリーダーは山田君なのだろう。
でも、リーダーの礼司君はもう船に戻っている。
他クラスのリーダーを当てる権利は使えなくなっていた。もし龍園君と書いていたら五十ポイントを失っていたから、これでよかったのかもしれない。
Dクラスは佐倉さん、高円寺君、礼司君の三人がリタイアした。
これで二百十ポイント。
さらに物資を七十ポイントで購入している。残り百四十ポイント。
伊吹さんのCクラスにリーダーを当てられ、マイナス五十ポイント。
礼司君が言うにはCクラスはAクラスと繋がっているらしい。
Aクラスにリーダーを当てられて、さらにマイナス五十ポイント。
これで残りは四十ポイントだ。ゼロでないだけマシだろう。
おそらくDクラスは最下位になる。さらに他のクラスに差を広げられてしまった。
これではAクラスに上がるなんて夢のまた夢だ。
真嶋先生が壇上に上がる。
どうやらポイントの集計が終わったらしい。
「ではこれより特別試験の順位を発表する」
いよいよ結果が発表されるのだ。
神に祈るように手を握る者。友達と抱き合う者。聞きたくないと耳を塞ぐ者。
Dクラスの女子たちは悲観的だった。
おそらく今まで私たちを導いてきてくれた彼がいないからだろう。
私たちは彼が居なくなって、改めてその存在の大きさを理解させられていた。
「最下位はCクラスの0ポイントだ」
山田アルベルト君は口を開いて驚いていた。
それから外国人じみた仕草でやれやれと首を振っている。
……どう言うこと?
Dクラスのリーダーが礼司君だったことは、Cクラスの伊吹さんによって伝わっているはずだ。
何らかのアクシデントがあったのだろうか。
それとも伊吹さんが裏切った?
いや、彼女は下着を盗んで男子に濡れ衣を着せ、マニュアルまで焼いている。
後に退けないほどDクラスを滅茶苦茶にしてしまった。
わからない。私が考えている間にも、順位の発表が続けられている。
「続いて三位はBクラスの五十ポイント」
Bクラスから残念そうな声が上がる。
一之瀬さんはクラスの仲間にごめんなさいと両手を合わせて謝り、頭を下げていた。
仲間たちはそこまでしないでいいと彼女を慰めている。
Bクラスはあれだけ堅実にポイントを節約していたのに、これはどういうことだろう。
一之瀬さんのクラスは一人もリタイアを出していない。三百ポイントからのスタートだ。
生活で百ポイントほど消費していても二百ポイントは残っている。
となると三クラスから攻撃を受けたとしか思えない。
おそらくはCクラスのスパイにしてやられたのだろうが、他のクラスもBクラスのリーダーに気付いたと言うことになる。
「二位はAクラスの百七十ポイント」
ざわめきが起こった。
Aクラスの生徒は予想外の結果だったのか顔を見合わせている。
私たちを拠点から追い払った時には自信に溢れていた葛城君も今は動揺を隠し切れていなかった。
ちょっと待って。私は思わず呟いてしまう。
「……どういうこと。ポイントが低すぎる」
礼司君はCクラスの物資がAクラスに流されていると言っていた。
しかしこの結果は裏取引をせずに普通に試験に挑んだとしか思えない数字だった。
これも礼司君の読みが外れていたのだろうか。
しかし、そうだとすると葛城君が動揺している理由の説明が付かなくなる。
いや、違う。
そうではない。
Dクラスの生徒たちは唖然としていた。
四位から順番にC、B、Aと来たのだ。残っているのはDクラスだけである。
「ちょっと待って。もしかして、私たちが……」
櫛田さんの声が震えていた。
「一位はDクラス。二百九十ポイント」
あまりの結果に私たちは言葉も出て来なかった。
他のクラスがざわざわと騒いでいるのに、Dクラスの生徒だけが静まり返っていた。
しばらくすると、やっと現実感がやって来たのか叫び声が上がる。
「きゃあぁぁぁぁ!」
「何で!? 何があったの!?」
「すごい! 私たちが一位なんて信じらんない!」
女子たちが抱き合って大喜びしている。
男子も「うおぉぉぉっ!」と雄叫びを上げていた。
「これは……何が起こったの?」
五十ポイント……いや、ゼロポイントすら覚悟していたのに。
これは、礼司君が何かしたに違いない。
私たちが想像も付かないことをやってのけたのだ。
「礼司君……あなたっていう人は、本当に……」
私の胸の内側から熱いものが込み上げてきた。
「堀北さん! これってどういうこと!? 田中君のおかげなの!?」
興奮した佐藤さんが私の手を握り締めてくる。
本当は私だけの秘密にしておきたかった。
彼が優れた人物だということは、私だけで独占したかった。
けれど同時に彼のことを知って貰いたいという気持ちもあった。
「ええ、そうみたいね。でも何をしたのかは私にもわからないわ」
女子たちが「流石田中君!」と喜んでいた。
やってしまった。私は溜息を吐いた。
けど、悪い気はしなかった。
一緒に試験を乗り越えて、私は彼女たちを仲間だと思い始めていた。
とりあえずは腹ごしらえだ。
船室でシャワーを浴びた俺はレストランに直行した。
篠原の手料理は好きだ。
でもそれとこれは別というか、今の俺はガッツリ食べたいのだ。
「あ、あんた……」
ばったり出くわした伊吹が口をパクパクさせていた。金魚かな。
俺はそれを無視してチャイナレストランに突入する。
気分は中華だった。油まみれのものがいい。ジャンクな料理を貪りたいのだ。
「何であんたがここにいるのよ!」
伊吹が俺についてくる。
ちゃっかり俺と同席していた。
俺は回転するテーブルで遊びながら伊吹に答える。
「リタイアしたからに決まっているだろう」
片手を上げて店員を呼ぶ。俺はメニューを指で示しながら大量に注文した。
もちろん全部食うつもりだ。せっかく無料なのだから食わないと損だろう。
「田中はどこだ」
男の声がした。
俺が他人のフリをしていると、チッと舌打ちの声が聞こえる。
伊吹がチラチラと俺とそいつを見比べていた。
やめろっての。俺が田中だということがバレるだろ。
「お前が田中だな」
勝手にテーブルに腰かけてくる。
龍園だった。制服を着崩していてロンゲっぽい髪型をしている。
「餃子が来たぞ。お前も食うか?」
龍園は俺の言葉を無視した。
「やってくれたな、田中。俺たちをハメた気分はどうだ?」
「男をハメるとか言うなんてお前ホモかよ」
「ククッ。頭がおかしいフリをして惚けるつもりだな」
龍園は餃子を手づかみで口に入れた。
結局食うのか。と言うかお箸ぐらい使えよ。タレも付けろよ。
「リタイアしてリーダーを変更したのか。俺の他に同じ策を使う奴がいるとはな」
「全部堀北に指示されてたんだ。俺はそれに従っただけだ」
「安っぽい嘘だな」
餃子二つ目だ。気に入ったのかな。
犬歯を剥き出しにして笑っているけど、ちょっと息がニンニク臭くなってるからね。
「石崎たちをハメたのもお前だな」
「だからハメるとか言うのをやめろよ」
「あくまで白を切るか。ならば、いずれ口を割らせてやるまでだ」
唐揚げが到着する。龍園は無造作に付け合わせのレモンを絞ろうとした。
「おい馬鹿やめろ!」
唐揚げにレモンをかけるな。
俺は大声を上げる。客の生徒たちが一斉に俺たちに注目した。
客と言ってもリタイアしたCクラスの生徒ばかりだ。
「そんなことをしたら戦争になるぞ?」
龍園は目を見開いていたが、すぐに「クククッ」と笑い出した。
結局レモン汁を振りかけて唐揚げにガブリとかぶり付き、席から立ち上がってしまう。
野郎……やりやがった……。
「戦争か。楽しみにしているぜ」
不敵に笑いながら立ち去っていく。
残されたのはレモン汁で濡れた唐揚げだった。
龍園は残虐非道な男だ。どうしてこんな酷いことができるのだろう。
「あ、始まった」
伊吹が携帯電話を見ながら呟いた。
試験の結果発表が学園のホームページで生放送されているのだ。
伊吹が耳にイアホンをしようとする。
「俺にも聞かせろよ」
伊吹は俺にジト目を向けていたが、やがて溜息を吐いて俺の隣に席を移した。
イアホンの片方を渡される。同じ画面を二人で眺めた。
伊吹の耳が真っ赤になっていた。可愛い奴だ。
「Dクラスが一位?」
「意外とチョロかったな。ちょっとポイントを稼ぎすぎたか」
どうやら綾小路は仕事を全うしてくれたようだ。
リーダーなんてクソめんどい役目を押し付けてしまった。これは後で埋め合わせをしてやらないといけないか。
それにしても、どこかでミスして二百ポイント前後になると予想していたが、俺のリーダー予想はすべて的中していたようだ。
この調子だと二学期中にはCクラスに上がれそうだな。どうでもいいけど。
「アンタがリタイアしてリーダーを降りたのは私にもわかる。けど、この結果はどう考えても異常すぎる。完全にDクラスの一人勝ちじゃない」
「そうだ、一人勝ち。わかってるじゃないか」
「ふざけないで。真面目に答えてよ」
伊吹が俺を睨んでくる。
……仕方ないな。
俺は席にあったアンケート用紙の裏側にボールペンを走らせた。
「まずは最下位のCクラス。二人のリタイアによりスタートは二百四十ポイントだったが。これは全てのポイントを吐き出してゼロポイントになっているから関係ない」
俺は用紙に数字を書き込んでいく。
Aクラスのリーダーを当ててプラス五十ポイント。
Bクラスのリーダーを当ててプラス五十ポイント。
Dクラスのリーダーを外してマイナス五十ポイント。
Dクラスにリーダーを当てられてマイナス五十ポイント。
差し引きしてゼロポイントだ。
「可哀想に。お前の一週間の努力は水の泡になったな」
「喧嘩売ってんの?」
「買うか?」
「……買わない」
伊吹がすねたようにそっぽを向く。かわいい。
「次は三位のBクラス。これは三百ポイントからのスタートだ」
生活費でマイナス百ポイント。
AクラスとCクラスとDクラスからリーダーを当てられてマイナス百五十ポイント。
残りは五十ポイント。
一之瀬には悪いことをした気がする。反省はしていないが。
「で、Aクラス。葛城は龍園との裏取引で物資の提供を受けており、ポイントを消費せずに試験を乗り切っている。だが坂柳の不参加によりマイナス三十ポイントだ」
Aクラスは二百七十ポイント持っていた。
だが、CクラスとDクラスにリーダーを当てられてマイナス百ポイント。
さらにDクラスのリーダーを当てるのに失敗してマイナス五十ポイント。
残ったのが百二十ポイントだ。
ここに龍園からの情報提供でBクラスのリーダーを当ててプラス五十ポイント
合計、百七十ポイント。
悪くはない結果だが、龍園との裏取引によって大量のプライベートポイントを失っている。葛城はこれから苦境に立たされるだろう。
「最後に一位になったDクラスだ」
俺、高円寺、佐倉の三人がリタイアあるいは不参加。
三百ポイントから九十ポイントを失い二百十ポイント。
生活物資で七十ポイント消費。残り百四十ポイント。
A、B、Cクラスのリーダーを的中させ、プラス百五十ポイント。
最終的に二百九十ポイント。
「圧倒的だな、我がクラスは」
俺はアンケート用紙を伊吹に見せ付けると、それを折り畳んで胸ポケットに仕舞った。
すると伊吹がいきなり俺を殴ってきた。じゃれつくような軽い拳だから避けなかったが。
「いきなり何をする」
「うるさい! 大人しく殴られろ!」
何と言う理不尽な言い草だ。
店員がハラハラして俺たちを眺めている。迷惑な客でごめんなさい。
俺は伊吹の手をつかんだ。
イアホンが抜けて床にコードが垂れていた。
「なんか、ヤリたくなってきた」
「……最低」
伊吹と密着する距離でベタベタ触り合っているのだ。
これは興奮しても仕方ないと思う。
「ヤラせろよ」
「……最低っ!」
伊吹が顔を真っ赤にして俺を睨む。
俺は伊吹の耳元でささやいた。
「部屋に行くか。お前も来いよ」
なんか食欲よりも性欲の方が勝ってきた。
船室は相部屋だからな。クラスの連中が戻ってくる前に性欲を満たしておきたい。
伊吹は俺から目を逸らしながら恥ずかしそうに小声で呟いた。
「行く」
あんま時間なかったから一回戦だけだけどな。
食欲を満たし、性欲も満たした。
俺は船のデッキでDクラスの生徒が戻ってくるのを待っていた。
途中で試験を抜けてしまったからな。
恨み言の一つでも言われるだろうが、謝るなら今のうちだからな。
「礼司君っ!」
俺を見付けた桔梗が声を上げる。
クラスの女子たちが小走りに俺に駆け寄ってきた。
「すごいよ! ホントすごいよ!」
「一位になれたのは田中君のおかげなんだよね!」
何も言わずに居なくなったにしては対応が優しい。
それに彼女たちは俺のおかげで勝利したと思い込んでいるようだ。
「いや、それは違う」
俺は自分だけが称賛されるのが、どうにも納得いかなかった。
「勝てたのは俺のおかげじゃない。みんなのおかげだよ」
原作よりも少ないポイント消費でサバイバルを乗り切ったのだ。
俺の手助けがあったとしても、彼女たちの努力は誰にも否定できない。
「田中君っ!」
「それ、卑怯だよ! カッコよすぎるよ!」
「何でそういうことを言うの……なんか泣いちゃいそう」
女子たちが俺に抱き着いてきた。
予想外だな。怒られると思っていたのに、なぜかモテモテだ。
うむ。天国だ。
男子に修復不可能なレベルで嫌われたが、これはこれで最高だった。
鈴音が潤んだ瞳を俺に向けてくる。
「礼司君」
「鈴音。身体の調子はどうだ?」
鈴音は山田アルベルトにボコられていた。
心配そうに声をかけると、鈴音は感極まったように涙をこぼす。
「ええ、もう大丈夫。ごめんなさい。私が足を引っ張ってしまって」
「謝る必要はないと言っただろう。俺だって何個もミスをしている」
バレてないだけ……と言うか、大事なのはミスった後のリカバリーだ。
「それにAクラスとCクラスが自爆したのは鈴音のおかげだ。両クラスはリーダーを当てるのに失敗して五十ポイントを失っている。見方を変えればファインプレーになるじゃないか。だからそんなに落ち込むなよ」
俺は胸ポケットからアンケート用紙を取り出して鈴音に押し付けた。
鈴音はそこに書かれていた数字を眺め、さらに涙が止まらなくなっていた。おかしいな。慰めるつもりだったのに悪化してるぞ。
「これは……そう……そうだったのね……」
鈴音は両手で何度も涙をぬぐっていた。
「礼司君。ごめんなさい。ちょっと胸を貸してくれない?」
俺の周りにいた女子たちが道を開ける。
鈴音は俺の胸に飛び込み、胸元に涙を押し付けてきた。
ジジイがぶつぶつと呟いていた。
「これはレイプのレイプではない。しかしあるいはレイプのレイプかもしれない」
原型ないやん。
解読する気はないから放置しておくが。
なんかそのセリフ、不穏な気配を感じるんだよなぁ。
伊吹をレイプしてノルマ達成したんだから、しばらくは消えてろよ。頼むから。