ようこそ強姦魔のいる教室へ 作:生太郎
帆波とのデートはプール、昼食、シアタールームへと場所を移した。
夕方になって解散。
なんか普通に純愛している。いずれレイプしないといけないのに情が移りそうだ。
先が思いやられる……と考えていると、鈴音からの呼び出しが入った。
「ごめんなさい、急に呼び出して。問題が発生したのよ」
出会い頭に告げられる。
どうしたんだと尋ねると、鈴音は溜息を吐きながら説明した。
「須藤君に呼び出されているのよ」
池の次は須藤だった。
おそらく須藤たちは一緒に女子にアタックしようぜと示し合わせているのだろう。だからこんなにタイミングが重なってくるわけだ。
何にせよ迷惑な話である。
「それ、会う必要はあるのか?」
「私もそう思って、一度目は無視したのよ」
二度目の溜息が返ってくる。
「他の女子に私を呼び出せと恫喝してきたの。放っておくわけにもいかないでしょう?」
「……たぶん本人は怖がらせるつもりはないんだろうな」
普通に頼み込んでいるつもりなのだろう。だが須藤は自分が他人にどのように見られているのか客観的に見ることができない。
と言うか、見る気がない。自分はクズだからと開き直っている。
「そうかもしれないけれど、事実として恐怖を感じている女子が大勢いるわ。彼をこのまま放置しておくと、次はどのような行動に出るのかまったく予想が付かないのよ」
「キチに刃物みたいな言い方だな」
「そうね」
鈴音は俺の言葉を否定しなかった。
どうして須藤はここまで落ちてしまったんだろう。原作ではそれなりに使える馬鹿だったはずなのだが。
まぁ、池もそれなりに使える馬鹿だったか。山内は知らん。
「任せて下さい。そのための田中です」
「どうして敬語なのかしら?」
鈴音は困惑していたが、ともかく俺は物陰に身を潜めた。
待ち合わせ場所はまたもや展望デッキだ。池と同じである。芸がないというか、男子同士で同じ作戦を使い回しているのだろう。
須藤がやって来る。
奴の態度は見るからに挙動がおかしかった。これから惚れている女と向き合うのだ。キョロキョロと視線を彷徨わせるのも、歩き方がおかしいのも、すべて緊張しているせいだろう。
鈴音の表情が強張っている。
ある程度の親交があればまだしも、鈴音は須藤のことを他人と断言している。長身の鍛えている男子が挙動不審に近付いてきたら、普通の女子なら恐怖しか覚えない。合気道の心得がある鈴音でなければ逃げ出していただろう。
「お、おう。待たせたな、鈴音。来てくれて、ありがとな」
「ちょっと待って」
いきなりダウト。鈴音は須藤を睨み付けた。
「私はあなたに名前で呼ぶ許可を出した覚えはないわ。馴れ馴れしい態度はやめてくれないかしら」
「別にいいじゃねぇか、それぐらい」
「それぐらい?」
今度は失言か。段々と須藤が哀れに思えてくる。
「その程度の軽い気持ちで名前を呼ぶなんて、私を愚弄するにもほどがあるわね。あなたには、ただ名前で呼ぶだけのことがどれほど難しいのか想像もできないのでしょうね」
「な、なんだよ。意味わかんねぇこと言うなって」
「少しは考える努力をしてくれないかしら。私はあなたに通じるようにあえて言葉のレベルを下げるつもりはないの」
鈴音はサル語を話すつもりはないと言っているわけだ。
それにしても辛辣である。
須藤は歯をギリッと鳴らしていた。あと少しでキレそうだ。
「鈴音っ! 俺の話を聞いてくれ!」
「話を聞いて欲しいと言うのに、どうして私の話は聞いてくれないのかしら」
鈴音を殴らせるわけにはいかない。
俺はポケットからコインを取り出して準備しておいた。
「まずは俺と、友達になってくれ!」
まずは、と言うところに欲望が見えていた。
いずれは恋人になりたいとカミングアウトしているようなものだ。
鈴音は眉をひそめた。
須藤を見下すような鉄面皮をしているが、その下には言葉が通じない異星人を相手にしているような困惑が隠れていた。
須藤はまだ手を出していない。
俺は介入するタイミングを考えあぐねていた。
「……悪いけど、今のあなたとは友達にはなれないわ」
それは鈴音にしては優しい言葉だった。
下手に刺激するのを怖れたのかもしれない。
しかし須藤にとっては厳しい言葉だった。
須藤の妄想では鈴音が笑顔で受け入れてくれていたのかもしれない。
「なんでだよ……なんで、こうなるんだよ……」
須藤が追い詰められた表情をした。そろそろヤバそうだ。
俺が物陰から身体を出そうとした瞬間――。
「そんなに田中の奴の方がいいのかよ? あんな、最低ヤローのことがよぉ!」
須藤が唾を飛ばす勢いで叫んでいた。
鈴音はチラリと俺と須藤を見比べる。
「あなたは自己分析を覚えた方がいいわ」
冷淡に言い放った。
「クソッ!」
須藤がベンチを蹴飛ばす。
ベンチはしっかりとボルトで固定されていたが、最悪ひび割れていただろう。
そうなれば器物破損。場合によってはクラスポイントの減点だ。
須藤はこの行動で鈴音の好感度をさらに下げていることに気付けない。
「どうしてだよ! 田中の野郎、伊吹とヤッてたんだぞ!」
……あ。
こう来るか。
周りに言いふらさない理由がわからなかったが、鈴音に切るためのカードとして握っていたようだ。馬鹿なりに頭を使っていたらしい。
鈴音は腕組みをして呆れたような溜息を吐いた。
「それがどうかしたの?」
「……え?」
そう、無駄なんだ。
調教済みだから……と言うか、鈴音が求めているものを俺が提示し続けている限り、須藤の言葉はこれっぽっちも響かない。
有能な人間で、クラスに有益で、自分を認めてくれる存在。
こんな都合のいい人間が他にいるだろうか。
綾小路がその気になればワンチャンあっただろうが、とっくに鈴音は俺のものだ。
須藤が鈴音に認められるには、まずはその性格から直さないといけない。
まぁ無理だろう。
改心イベントはことごとく俺が潰してしまった。意図したわけではないんだけどな。
「だ、だって、一之瀬と付き合ってるのに、他の女に浮気するような奴なんだぞ?」
「三股が四股に変わっただけでしょう。何をそんなに大袈裟に語るのかしら」
四股では済まないんだよなぁ。
最近カウントしてないけど……鈴音、桔梗、帆波、椎名、伊吹、長谷部。
六股か。
まだまだ行けそうな気がする。タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと。
「ちっ、くしょぉぉぉぉ!」
須藤がベンチをボコボコに蹴り始める。
鈴音が身震いしながら後退していた。流石の鈴音でも恐怖を覚えている。
……あんま鈴音を怖がらせるなよ。
俺はこっそりと須藤の背後に忍び寄ると、後ろから首を絞めて落としてやった。おそろしく速い手刀よりもこっちの方が安全である。
がっくりと脱力した須藤をベンチに投げ捨てる。
瞬間、鈴音が俺の胸元に飛び込んできた。デジャブを感じる。
「礼司君っ!」
鈴音の身体は震えていた。
気丈に見えるが中身は年相応の女の子だ。筋肉に怯えても仕方あるまい。
「悪いな。もう少し早く助けるべきだった」
「……馬鹿」
俺を見上げる目は情愛で歪んでいた。
「馬鹿。馬鹿。浮気者」
「……あ」
伊吹のことか。須藤も余計なことを言ってくれたものだ。
いや、須藤に見られているのに始めてしまった俺の自業自得なのだが。
「ごめん。でも、一番は鈴音だから」
「……馬鹿」
俺の口先だけの発言に、鈴音は俺にぎゅっと抱き着いてきた。
この後は部屋に連れ込んだ。当然ヤリまくった。
須藤は日が落ちてからも展望テラスで悪態を吐きまくっていた。
ベンチを蹴りまくっていたらAクラスの担任である真嶋がやってきて、これ以上はペナルティになると言われたので、仕方なく暴れるのは止めておいた。
「クソッ! クソッ、クソッ、クソォッ!」
警告されたのにベンチを殴る須藤である。
惚れた女に袖にされた。
田中が女たらしの最低野郎だと教えてやったのに、鈴音は耳を貸そうともしなかった。
意味がわからない。理解できない。
なぜ俺の言うことを信じてくれない。なぜ田中なんかに心を許す。
「ククッ、荒れているな」
「あん? テメェ、誰だよ。見せもんじゃねぇぞ」
小馬鹿にするようにこちらを見下してくる男子を、須藤は喧嘩腰で睨み付ける。
「噛み付くなよ。俺とお前は仲間じゃないか」
「はぁ、仲間だぁ? 寝惚けてんのか?」
いきなりの言葉に面食らう。
その男子は喉を鳴らして笑っていた。
「お互い田中にしてやられた被害者だろうが」
「田中に?」
「ああ。あいつのせいで俺のクラスは滅茶苦茶にされたんだ」
その男子は龍園と名乗った。Cクラスの生徒らしい。
不良のような見た目をしているが、意外に話せる印象だった。
「んで、そのCクラスの野郎が何の用だよ?」
「俺らは田中に復讐するつもりだ。そのために田中の情報を集めている。俺たちに協力してくれないか?」
「なんで他所のクラスなんかに」
「田中の悪事を告発できたら、お前が惚れている堀北も正気に戻るかもしれないぞ?」
「……え?」
須藤は黙り込んだ。
龍園は須藤の隣に腰を下ろし、馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。
初対面のはずなのに、親身になって愚痴を聞いてくれる友達のような雰囲気をしていた。
「そう身構えるなって。俺はただ田中の話が聞ければいいんだ。クラスの不利になるようなことは話さなくてもいい。とりあえず溜まってるもんを吐き出してみろよ。いい気分転換になるかもしれないぜ?」
「……ま、まぁ、そうだな」
別に田中のことを話したからといってクラスの不利になることはないだろう。
須藤は訥々と話し始めた。
運動神経抜群で、成績も優秀。
気が付いたら鈴音や櫛田、一之瀬なんかが周りにいて、三股をかけていると噂されていた。
無人島では女子に寝返りやがった。
男子の不利になることばかりして辟易させられた。
そして、伊吹とセックスしていた。
「……なに?」
龍園は眉をひそめた。それまでの人好きのする雰囲気が豹変して、野生の猛獣が鎌首をもたげるような威圧感がにじみ出していた。
「どうしたんだ、龍園」
「いや、何でもないんだ。話の腰を折ってしまって悪かった。続けてくれないか」
「お、おう」
龍園はすぐに表情を戻す。
須藤は見間違いだったかと首を傾げながら愚痴を続けた。
船旅三日目。
そろそろ次の特別試験が始まるんだったか。
手を抜いてサボるかどうか迷っていたが、個室の使用料である三十万ポイントを稼がないといけなくなった。
まぁ、パパっとクラックして終わり。楽勝だな。
そう言えば船の試験では軽井沢が鍵になってくるんだったか。
と言っても、軽井沢は綾小路のグループに入るのだろう。俺の出る幕はない。
軽井沢は小学校の頃から壮絶ないじめを受けていた。
脇腹に大きな古傷が残るほどである。
故に軽井沢は高校入学を期にイメージチェンジを図った。
それが気の強いギャルだ。
さらに平田という偽装彼氏をゲットすることで自分の価値を高め、女子の中での発言力を確固たるものにした。
しかし、元がいじめられっ子だ。
レイプしたら心がぽっきり折れてしまう。これは佐倉と同じだな。
だから今まで手を出せなかった。
まぁジジイのノルマもないので手を出すつもりもないのだが。
「……メールか」
部屋のベッドに寝そべっていると、船内放送が入りすべての生徒に学校からメールが送信されたことが告げられた。
俺の腕枕で寝ていた鈴音も身体を起こす。
ただ今の時刻は午前十一時だった。
昨日は鈴音と八回戦までヤリまくっていた。おかげで大寝坊である。昼夜逆転する一歩手前だ。
「特別試験? またなの?」
「みたいだな」
互いに携帯を手にして内容を確認する。
指定された時間に集合するよう指示が書かれていた。
「こっちは十七時二十分からだ。そっちは?」
「二十時四十分。……随分と時間が離れているわね」
わかっていたが鈴音とは別グループである。
桔梗からメールが来ていた。鈴音と同じ時間のようだ。
つまりバタフライエフェクト先輩は今回は仕事をしていない。グッジョブである。先輩にはこれからもニートを続けて頂きたいものだ。
指定された時間の十分前にフロアに向かう。
主要キャラのほとんどが綾小路のグループと、エリートグループに揃っている。
俺はモブグループになりそうだなと思っていると。
「あ、田中君」
長谷部が頬を染めながら俺に近付いてくる。彼女も俺と同じグループのようだ。
「久しぶりだね」
「いや、久しぶりって、お前な。二日会ってないだけだろ」
「うん、そうだね。たった二日離れてただけなのに、なんか不思議な感じ」
一匹狼な長谷部が人恋しさをアピールしてくるとは意外だった。
長谷部は眩しそうに俺を見詰めてから、肩を俺に当ててくる。近いよ。
「ね、たなぴーって毎日色んな女の子とデートしてるんだってね」
「ちょっと待て。待って下さい。お願いします」
「ん、何?」
「たなぴーって?」
それは柿ピーの亜種なのか。ピーって何だ、ピーって。放送禁止用語か。
「嫌だった? なら、礼司君をもじって、れいぷ君とか」
「たなぴーでお願いします」
長谷部は楽しそうに微笑んでいた。
こいつ、確信犯だ(誤用)。れいぷ君なんて微妙にゆるキャラっぽい呼ばれ方をされた日には周りに深読みされて死ねる自信があるぞ。
長谷部が話を戻した。
「一昨日は櫛田さん、昨日は一之瀬さん、今日は堀北さんだったよね」
「誰だよそいつ。クズすぎね?」
「それでね、私ともデートしてくれないかなって」
「お前は俺をさらにクズにするつもりか」
長谷部がおっぱいを俺の腕に押し付けてきた。……ぐぬぬ。色仕掛けか。
俺は嘆息する。
これから試験が始まるというのに、試験に関係のないところで追い詰められている。
「わかった。けど、特別試験の内容次第だからな」
「うん、それはわかってる」
長谷部が儚げに微笑んでいた。
周りにいた生徒たちが呆気にとられた顔をして俺たちを見ていた。
Dクラスの他の生徒も到着している。
男子の三宅と、もう一人は女子の井の頭ちゃんだった。
「田中……お前、すごいな……」
唖然というか、絶句している三宅だった。
こいつからは他の男子ほどの隔意を感じない。クラスから一歩引いたところにいる三宅は、そもそも俺のことを憎むほどの関心がなかったらしい。
「おう。羨ましいだろ」
開き直って言う。白目むきそう。
「少しだけ羨ましいとは思うが真似したくはないな。背中を刺されるなよ」
「大丈夫だ。武芸には自信がある」
「そういう話では……いや、わかって言ってるのか」
そうこうしていると扉が開く。
部屋の中から数人の生徒がぞろぞろと出て来た。
その中に龍園がいた。どうやらCクラスのグループだったようだ。
「田中か」
龍園は危険な人物だ。唐揚げにレモンをかける原理主義者である。
「今回の試験も面白いことになってるぜ。そうだな。お前が言う戦争ってのを始めてみてもいいかもな」
「戦争というものは始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しいものだ」
「なんだ、日和ってんのか? 手を抜いていると大量のクラスポイントを失うぜ?」
龍園は俺の隣にいた長谷部を一瞥すると愉悦の笑みを浮かべていた。
「ククッ。お前がただの女好きの阿保かどうか、この試験で見極めさせて貰おうか」
龍園が両手をポケットに突っ込んで去って行く。
「なにあれ。感じ悪いね」
長谷部が俺の腕を抱きながら呟いた。ちょっと待って。これ続けるの?
無理に振り払うのは心苦しかったので、恋人みたいに腕を組みながら部屋に入る。言うまでもないことだが、このグループで一番目立っているのは俺と長谷部だった。
部屋で準備をしていた星之宮先生が「ぷっ」と笑っていた。
「田中君は相変わらずのプレイボーイみたいね。あ、もしかして先生も狙っていたりするのかな。でも残念。教師と生徒の恋愛はご法度だからね。ちゃんと卒業してから口説かれたら考えてあげてもいいけど」
「なんで出会い頭にフラれないといけないんですか」
しかも微妙に脈がありそうなのがムカつく。
長谷部が警戒して俺と密着する面積を増やそうとしていた。
「た、たなぴーは、渡しませんから」
「ぷふぁっ!」
星之宮先生が噴き出した。女性が出したら駄目な笑い方だ。
「ちょ、ちょっと待ってっ! た、たなぴーっって、せ、説明しないといけないのに、わ、笑いが、止まらなっ!」
生徒のあだ名で爆笑する最低教師である。
三宅は溜息を吐きながら着席。井の頭ちゃんもビクビクしながら椅子に座った。
俺と長谷部も席に着いた。
やっと解放されたと思っていたら、椅子を横付けしてまた密着されてしまう。
部屋にいるのはDクラスの四人。
一度に大人数を集めて一気に説明しないのは理由があるのかな。そこまで詳しく原作を読み込んでいないからよくわからない。
「時間ね。ではこれより特別試験の説明を始めます。ちゃんと聞いてね」
星之宮先生は俺と長谷部をスルーすることにしたようだ。
たまに思い出したように背中をピクピクさせて笑いを堪えているが。
さて、めんどいが頭を使うことにしよう。
この特別試験は一年全員を干支になぞらえた十二のグループに分けている。
各グループには各クラスから三人から五人ほどが配置される。一グループは十五人前後になる。
「君たちが配属されるのは虎グループだよ。がおー」
「年齢考えろよ」
「……ちょ」
俺の小声を聞いてしまった三宅が背中を揺らして笑いを我慢していた。
星之宮先生がギロリと猛禽のごとく鋭い視線を俺たちに向ける。
「今の先生すごく可愛いかったです。思わず胸がキュンとしました。説明を続けて下さい」
「そ、そう? 先生もまだまだ捨てたものじゃないかなー!」
物事を円滑に進めるためには嘘というのも必要になってくる。
星之宮先生は機嫌よさそうに説明に戻った。あと長谷部に太股をつねられた。
「虎グループのメンバーはこんな感じね。あ、これは後で回収するから」
俺たちの前にハガキサイズの紙が配られる。
Aクラス・神室真澄 九条智也 藤原忠 元橋英治
Bクラス・安藤耕平 鈴木美里 戸田夏帆 中島春香
Cクラス・木下琢磨 椎名ひより 秦野瑞希 山脇哲夫
Dクラス・井の頭心 田中礼司 長谷部波瑠加 三宅明人
Dクラスはともかく、見覚えのある名前が幾つか混じっている。
言わずもがな、椎名ひより。
あとは神室真澄だ。たしか坂柳のパシリだったか。
「女の子を物色しているたなぴー君はさておき、今回の試験はAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視した方がいいよ。それが試験をクリアするための近道ね」
「先生。真面目にやって下さい」
「君がそれを言っちゃうかー」
星之宮先生が呆れた目を俺と長谷部に注いだ。
未だに密着している俺たちである。どちらがふざけているかアンケートを取ってみれば、俺たちの方に軍配が上がるだろう。
「先生、これの写真は撮影してもいいのでしょうか?」
「写真はアウトだね。そういう決まりだからごめんね」
先生が両手を合わせてウインクしてくる。
三宅が「わかりました」と引き下がった。
このリストは覚えてしまった方がいいだろう。
説明に戻る。
各グループの中には優待者と呼ばれる存在が一人いる。
これは優待者を探す、あるいは防衛するゲームだ。
その性質は人狼ゲームに近い。Dクラスの女子は無人島で遊んでいるのでまだ記憶に新しいゲームである。俺はなぜか速攻で吊られた記憶しかなかったが。
一日に二度、一時間の話し合いの場が設けられている。
話し合いの場で何を話すにしろ、何も話さないにしろ、話し合いには参加しなければならない。
試験の回答は試験終了後の三十分間のみ。
この回答でグループ全員が優待者の名前を正解できたなら、グループ全員にプライベートポイントが支給される。一人当たり五十万ポイント。優待者はさらに五十万ポイントも貰える。合計して百万ポイントだ。
「百万ポイント?」
三宅が静かな驚きの声を上げていた。
井の頭ちゃんも不安そうにキョロキョロしている。目が合ったので安心させるように微笑みかけると、顔を真っ赤にして俯いていた。かわいい。
もう一つの結果は誰か一人でも優待者を外してしまったパターン。
この場合は優待者だけが五十万ポイントを得ることができる。
どちらにしろ優待者は得だった。最低でも五十万ポイントが保証されているのだ。
「えっと、つまり、みんなで一緒にゴールした方が得ってことだよね?」
なら隠す必要はないのでは、と長谷部が言う。
たしかにその通りだ。だが、まだ説明は終わっていない。
このゲームには裏切りが存在する。
試験終了前に優待者を学校側にメールして、それが正解だったなら正解者には五十万プライベートポイント。さらに所属しているクラスに五十クラスポイントが加えられる。そして優待者を見抜かれたクラスはマイナス五十クラスポイント。これが裏切りである。
龍園が言っていた、大量のクラスポイントを失うことになるという警告がこれだ。
裏切りの失敗は逆になる。
優待者を当てるのに失敗していたらマイナス五十クラスポイント。優待者は五十万プライベートポイントを得ると同時に、所属クラスに五十クラスポイントが加算される。
「……これってどういうこと? なんか一気に複雑になってきたんだけど」
「選択肢が増えたから混乱するのもわかるけどな。長谷部が先ほど言ったように優待者をグループ全員で共有しようとすれば、裏切りによってクラスポイントを持っていかれると言うことだ」
「みんなで仲良くは難しいってことか」
三宅が額に手を当てて考え込んでいる。
「説明は以上かな。詳しい指示はメールに書かれてると思うけど、明日から午後一時と午後八時に話し合いの場を設けるから、くれぐれも無断で欠席はしないように。その時はペナルティを与えるしかないからね。じゃ、お疲れさま!」
俺たちは腰を上げた。
長谷部が「デートだよね」と耳打ちしてくる。
いや、ちょっとぐらい試験について考えさせてくれよ。
「あ、たなぴー君」
星之宮先生に呼び止められる。
振り返ると、先生は意地の悪い笑みを浮かべていた。
「うちの一之瀬さんを泣かせたら承知しないからね!」
「もちろんです。あ、ベッドで泣かせるのはオッケーですよね?」
「こらっ! 不純異性交遊はNGだよっ!」
消しゴムが飛んできた。
俺はそれをキャッチしてからデコピンみたいに射出する。
消しゴムは星之宮先生の額に直撃。
先生は「あうっ!」と身を仰け反らせ、それから俺を恨めしそうに睨んできた。
言ってる傍から先生を半泣きにさせてしまう俺であった。