ようこそ強姦魔のいる教室へ 作:生太郎
長谷部とエロいことをした後、折角なので大浴場に向かった。
明日は特別試験があるので二回戦でやめておいた。俺の体力は有り余っているが、長谷部がダウンしたら元も子もないからな。
「一緒に入れたらいいのにね」
「おいおい。俺を犯罪者にしないでくれよ」
「私をレイプしたのに?」
長谷部……いや、波瑠加が悪戯っぽく微笑んでいた。
まぁ、そうだけどね。俺レイパーだけどね。
「ね、田中君もこっち来なよ」
「いやー、無理っす」
「レイプよりマシだって。たぶん大丈夫だから」
「大丈夫じゃないから」
絶対にアウトである。
俺が女湯に突入したら田中株がブラックマンデーだ。
波瑠加と別れて男湯の暖簾をくぐる。
時刻は午後十一時を回っていた。大浴場はほぼ貸し切りだ。
一人の男子が脱衣所のマッサージチェアで寝息を立てている。風邪ひくぞ。
美味い飯を食って、いい女を抱いて、大きな風呂を満喫する。
最高だな。もうここに永住したいぐらいだ。
「……むむむ」
風呂上り。俺は脱衣所で唸り声を上げた。
ロッカーが大破していた。俺が衣服を入れていたロッカーである。
マッサージチェアで爆睡していた男子の姿はない。
露骨に怪しかった。おそらく犯人か、あるいは連絡係でもしていたのだろう。
服は無事だった。携帯も無事だ。ただ、部屋の鍵がない。
とりあえず着替えてから部屋に戻る。
戻りながら波瑠加に「先に戻る」とメールを送る。
これはやられたな。
たぶん龍園の差し金だろう。
脱衣所には監視カメラは存在しない。ロッカーにバールのようなものを突っ込んで、タオルでも噛ませて音を消しながら、強引にこじ開けたのだろう。
廊下には監視カメラはあるが、犯罪を抑止するために置いているようなもので、死角なんて数え切れないほど存在する。それに夜遅い時間だ。他の生徒とすれ違うこともほとんどないだろうし、帽子を目深に被って顔を隠しておけば監視カメラはほぼ無力化できる。
部屋に入った。
鍵はベッドの上にポンと置かれている。
つい一時間ほど前まで波瑠加とヤっていたベッドなんだけどな。
「空き巣っぽいが、ちょっと違うか」
確かに部屋は荒らされていた。
鞄の中身がぶちまけられて床に散乱している。しかしパッと見たところ私物が持ち去られたような感じはしなかった。
しかし、一つだけ。消えている物があった。
テーブルに置いていたノートPCが見当たらない。
水を流す音が聞こえていた。俺は内風呂の扉を開けてみる。
「……なんてことを」
ノートPCが浴槽に水没していた。
おのれ龍園。買い替える予定だった中古のノートPCを破壊するとは、なんて残虐なことをするんだ。奴には人の心がないのか。
……骨董品ちゃん、君の仇は必ず取るから。
それにしても、これは困った。
特別試験の優待者をパパッとクラックして割り出す予定だったのに、骨董品ちゃんがご臨終してしまわれた。
たなぴー知ってるよ。犯人は龍園だってこと。
奴は石崎に恐喝の濡れ衣を着せられたことで、黒幕Xを優れたクラッカーだと想定している。
俺が禁じ手を使って試験の解答を入手することを事前に潰しに来たわけだ。
単純に揺さぶりをかけてきたというか、俺の反応を確かめるという意図もあるのだろうが。
龍園にとっての最悪はDクラスの圧勝。
試験開始直後に一斉に裏切りメールが送信されて、何もできずに試験が終わることだ。
俺にはそんな気はないんだけどな。
クラスの皆に「ハッキングで答えを入手したぜ」なんて言ったら、完全にやべー奴である。
桔梗が俺のことを再び黒幕だと疑い始める切っ掛けにもなりかねない。
自分のポイントだけ確保して、はい終わり――と言うつもりだったのだが。
骨董品ちゃんの仇……は、どうでもいいとして、この試験、どうしたものか。
試験開始当日。
午前八時に生徒全員に一斉にメールが送信された。
優待者に事実を伝えるためのメールである。
期待していなかったが、俺は優待者ではなかった。確率で言えば十六分の一だからな。そりゃ当たらないだろう。
朝食を取ってから部屋に戻った直後、部屋のドアが勢いよくノックされた。
「れれれ礼司君! どどどどうしよう!」
桔梗が大慌てで部屋に飛び込んでくる。
タイミング的におそらく俺を追いかけて来たのだろう。
桔梗は勢いよく携帯の画面を見せ付けてきた。
「私、優待者になっちゃった!」
あー、そう言えば竜グループの優待者は桔梗だったか。
「よかったじゃないか。頑張れば百万ポイントだぞ」
「無理だよぉ! 私、ぜったいクラスの足を引っ張っちゃう!」
「そんなに気張らなくてもいいと思うんだがな」
ボリボリと頭を掻きながら言う。
バレたところでクラスポイントが多少目減りするだけだ。
「百万ポイントか。それだけあれば百回デートできそうだな」
「……百回デート」
笑いながら言うと、桔梗の表情が真顔になった。
おいおい、真に受けるなよ。ここは日本人的に貯金一択だろ。でも箪笥貯金はNGな。
「礼司君! 私、頑張るね!」
「……お、おう」
頑張ったところで結果はあまり変わらないと思うぞ。
竜グループは優秀な人間が揃い踏みだ。
それに龍園はこの試験の法則性を見抜くらしい。たしか原作ではAクラスだけを狙い撃ちにしていたのだったか。
今回はDクラスも狙われるかもしれないな。
まぁ、別にいいか。クラスの争いとかどうでもいいから。
午後十時頃。
Dクラスの虎グループ四人は俺の部屋に集合していた。
作戦会議である。
「個室を貰ったのか。なんかズルいな」
三宅が羨ましそうに俺の部屋を見回していた。
ちなみに三宅は桔梗に呼び出して貰った。
男子の連絡先なんて綾小路と平田ぐらいしか俺は知らないからな。
「あ、あの、お、お邪魔、します」
井の頭ちゃんは相変わらずオドオドしている。
部屋に入っただけで頭がフットーしそうになっているのだが大丈夫なのだろうか。芋けんぴを取ってやったら心停止するかもしれない。
「好きな場所に座ってね。あ、飲み物もあるけど何にする?」
そして、勝手知ったるとばかりに部屋の冷蔵庫を開ける波瑠加である。
三宅が呆れた目をしていた。井の頭ちゃんは白目をむいている。
昨日イチャついているところを見せ付けていたから察してしまったのだろう。
「ほどほどにな。ちゃんと避妊はしろよ」
「みやっち。それ、セクハラだから」
「これは怒っていいのか? お前らの存在の方がセクハラだからな」
三宅の正論だった。
思春期の男子には俺たちの存在こそが毒である。
童貞にとってはクラスメートがヤリまくっているとか最悪な気分だろう。
波瑠加が冷蔵庫から取り出した謎の缶飲料をテーブルに並べる。
缶には英語が表示されている。海外で造られた謎の果物のジュースだった。
部屋に二つある椅子には三宅と井の頭ちゃんが座った。
俺と波瑠加はベッドに腰を下ろす。
相変わらず距離が近かったが、もう突っ込むのも面倒だった。
「まずは集まって貰って感謝する。特別試験の作戦会議を行いたい」
「話し合いが必要だとは俺も思っていた。むしろ主催してくれて有り難いほどだ」
「えっと、みんなにもメールは届いているよね?」
波瑠加が言う。
三宅がポケットから携帯を取り出した。
井の頭ちゃんもそれに倣って携帯をテーブルに置く。
「隠す必要がないから言っておく。俺は優待者ではなかった」
「俺もだ」
「同じく私も」
「わ、私も、です」
全滅だった。
まぁ、これは俺にとっては好都合かな。
俺がプライベートポイントを手に入れる方法は結果1と結果3だけだ。
皆で仲良くゴールするか、裏切って優待者を当てるかのどちらかである。
結果1は現実的ではない。
部屋代を払うためには消去法で結果3しか選択肢がなかった。
「ここで一つ提案したい。互いのメールを見せ合っておかないか?」
「確認ってわけだな。俺は構わないぞ」
三宅はあっさりと携帯を俺に見せてくれた。
俺を嫌っている男子なら「俺を疑うのか?」とキレてきただろう。
それを思うと三宅は理性的だった。
疑心暗鬼になるぐらいならメールを見せておいた方が得だと考えたのだ。
「確かに優待者ではないみたいだな。ありがとう」
俺も三宅たちに携帯を見せた。
波瑠加、井の頭ちゃんも同じようにメールを見せてくる。
「みんな外れか。残念だったね」
「そうだな。優待者は特にデメリットもないからな」
「いや、クラスポイントが五十マイナスされるリスクがある。これは防衛側の方が神経を使うゲームだろう」
「ああ、そうか。俺たちは優待者を外す以外にマイナスになる要素がないんだな」
その時、俺の携帯が震えた。
椎名からだった。また下らないメールを送ってきたのかと思っていると。
『Cクラスに優待者はいませんでした。会いたいです』
なるほど。
椎名はクラスを裏切ってくれたようだ。
この情報はほぼ信用できるはずだ。
と思っていると、再び携帯が震えた。
『あと龍園君に礼司君を探れと言われました。会いたいです』
なるほど。
やはり龍園はこの試験で俺に揺さぶりをかけてくるようだ。
俺の骨董品ちゃんをレイプしたのも序の口ということか。
優待者はAかBクラスにいるということになる。容疑者が半分になったわけだ。
これは大きなアドバンテージになる。後で椎名にご褒美をやらないといけなくなったが。
丁度いい時間になったので三宅たちと昼飯を食いに行くことにした。
まだ十一時半だったが、どの店も混雑している。
特別試験の話し合いは午後一時からだ。早めに昼を済ませようとする生徒が多いのだろう。
俺たちは空席のある店を探し回ったが、どこも満員だったので待つことにした。
「あれ? 田中君?」
椅子に座って待ち時間を潰していると平田に声をかけられた。
平田はDクラスの男子を引き連れている。
綾小路、幸村、外村だった。珍しい組み合わせかもしれない。
平田は何時も軽井沢たちの女子グループと一緒にいるような気がする。
それにこれは特別試験の組み合わせとも、あまり関係なさそうだ。
「なんか変わったメンバーだね」
「言われてみれば、そうかもしれないね」
波瑠加が言う。
歯に衣着せぬ物言いに、平田はくすぐったそうに笑っていた。なんか楽しそうだな。
「以前の僕らはそれほど仲がいいわけではなかったから。無人島の試験がなければ、こうやって一緒に食事を取ることもなかったと思う」
「そうか。いい傾向だと思うぞ」
無人島では俺も平田も周りから頼りにされていた。
女子にとっての田中、男子にとっての平田と言うわけだ。
無人島で爆発した平田だが、そのことがかえって男子たちとの絆を深める切っ掛けになったらしい。雨降って地固まるだな。
「外村君はよく冗談を言って場を明るくしてくれる。幸村君は少し頑固だけど頭の回転が速い。綾小路君は……みんなのためになるよう隠れて行動してくれる。どれも試験の前にはわからなかったことばかりだ」
なぜ綾小路のところで言いよどんだし。
綾小路もちょっとだけ残念そうな顔をしているぞ。
「そう言えば軽井沢はどうしたんだ?」
「……ああ、そのことか」
平田が暗い顔をした。なんだ。上手く行っていないのか。
これも無人島で男女が分裂したせいかな。
「田中君に相談があるんだ。今度、時間を貰ってもいいかな?」
「予定が空いていれば何時でもいいぞ」
「ありがとう」
平田たちが去って行った。別の店に並ぶことにしたようだ。
相談か。恋愛相談ならやめて欲しいものだな。俺レイパーだから。
特別試験が始まった。
部屋には十六人の男女が集まっている。
部屋に入った俺たちに待っていたのは気まずい沈黙だった。
同じクラスの者たちだけで、ぼそぼそと小声で話をしている状況である。
陰キャの集まりっぽい雰囲気がする。元ぼっちの俺にはお似合いのグループと言うことか。
「ねぇ、たなぴー。こんなので優待者が見つけられるのかな」
「まぁ無理だろうな」
波瑠加から期待の眼差しを向けられるが、俺はエスパーではない。
俺は携帯で時間を数えていた。
三宅が小声で「どうする?」と耳打ちしてきたが、俺は「様子を見よう」と答えた。
他クラスの出方を窺う好機である。
主導権を握ろうとする奴が出てきたら、そいつをマークするつもりだった。
しかしながら五分待っても誰も発言しなかった。
はっきり言おう。
これは統率者が存在しないグループである。
存在感のある人物はAクラスの神室と、あとは椎名ぐらいか。
神室は髪を長く伸ばしているが、ひと房だけ頭の横で結っている、いわゆるサイドテールの髪型をした少女である。
俺的に萌えポイントが高い。うん、悪くないな。
神室は退屈そうに欠伸を噛み締めていた。
話し合いの主導権を取りに行くつもりはないようだ。
徹底的に沈黙して情報を吐き出さないと言うのが、たしかAクラスの葛城が提案した作戦だったか。この試験ではポイントを稼ぐのではなく、ポイントを失わないように情報を秘匿するという作戦だ。
坂柳派の神室には葛城の指示に従う義務はない。むしろ葛城の足を引っ張ってもおかしくないのだが、あえて逆らうほどのことでもないと言うことか。まぁ沈黙作戦って楽だからな。俺もこうしているぐらいならスマホゲーのスタミナ消費したいし。
「なんであの子、たなぴーをガン見してるの?」
「さ、さぁ……なぜだろうな……」
Cクラスの椎名ひよりは穏やかに微笑みながら他クラスの生徒を観察……ではなく、なぜか俺だけを凝視していた。
あからさまに怪しかった。Cクラスの仲間たちが「やべぇよ、やべぇよ」とばかりに顔を見合わせている。
Bクラスは完全に羊の集まりだ。
消極的な者ばかり選ばれてしまったと言うような印象を受ける。
十分経った。タイムオーバーだ。
俺は携帯の画面を消した。
「誰も発言しないようなので、僭越ながら俺に発言させて貰いたい。学校からの指示もあったことだし、まずは自己紹介をするべきだと思う」
「名前がわからなければ試験になりませんからね。いいと思います」
椎名が顔の前で両手の指を合わせながらノータイムで返答した。なんか俺が発言するのを待ってたみたいだな。
「それってやる必要あるの?」
ここでAクラスの神室が口を挟んだ。
「自己紹介とかすごくダルいんだけど。小学生のお遊戯会みたいでダサいじゃん」
「俺も同感……と言いたいところだが、せめて名前だけでも教え合っておくべきだ。さもないと俺は君のことをサイドテールちゃんと呼ぶぞ」
「……だる」
神室は溜息を吐いた。
「神室真澄よ。これでいいでしょ。四股」
「情報が早いな。やる気がないのはブラフか?」
「……ふん」
新たに波瑠加を加えて四股になってしまった俺だが、それは表向きには昨日のことだ。
俺が揶揄するように言うも、神室は面倒そうに鼻を鳴らしただけだった。
Aクラスの他の生徒が自己紹介を済ませる。
誰もが義務的で、これで役目は終わりだとばかりに口を閉ざした。
続いてBクラス。
それから椎名たちが自己紹介する。
「初めまして。椎名ひよりです。よろしくお願いしますね、礼司君」
……うわぁ。
色々とツッコミどころがあり過ぎる自己紹介である。
俺を名指し。さらに初対面で名前呼び。
あからさまに怪しかったが、椎名は龍園から俺を探れと指示されている。
それを口実にして俺に接近しようと言うのだろう。
ガバガバすぎる演技なのに、他のCクラスの生徒たちは違和感に気付いていない。
「一通り自己紹介が終わったようだな。みんなは沈黙は金、雄弁は銀という言葉をご存じだろうか」
「もちろんです。当時は銀の方が価値が高かったんですよね」
「そうだ。金より銀、沈黙より雄弁ってことだな。と言うわけで古事にならって喋っておくことにしよう。俺は優待者の名前を全員で共有して結果1でクリアできる可能性はほぼゼロだと思っている。誤解を避けるためにほぼゼロと言ったが、普通に無理だろうな。これについて、みんなはどう思う?」
「当たり前のことを言わないでよ。無理に決まってるでしょ」
神室がボソッと呟いた。
「そうですね。裏切者が出てくるのは必然だと思います」
「つまり結果2で終わる可能性が一番高いってことだな」
Cクラスの山脇という男子が言った。
どことなく乱暴者っぽい雰囲気をしている。龍園の子分っぽい少年である。
山脇の言った結果2は裏切者が出ず、優待者が逃げ切るケースだ。
「優待者の逃げ切りなんて面白くも何ともない。ポイントも貰えないしな。と言うわけで、ここで一つ宣言しよう。俺が優待者だ」
「はぁ?」
「なん……だと?」
騙り発動。
全員が絶句していた。三宅が「おい!」と俺に肩パンを入れてくる。
「直前の発言と矛盾してるじゃん。あんたはポイントが貰えないって発言しているけど、もしあんたが優待者だったら逃げ切りでポイントが貰えるでしょ」
「ミスリードかもしれないぞ」
「適当なこと言わないで。あんたはみんなを混乱させようとしてるだけ。優待者を守るために囮になっているか、ブラフをかけて私たちの表情を観察しているか、そのどちらかしか有り得ない」
神室は葛城の沈黙作戦を早くも破っていた。元々そんなに従う気はなかったようだが。
葛城……まぁ頑張れ。たぶん二学期にはリーダー争いもできないほど弱体化しているだろうが。
Bクラスの羊どもは動揺して顔を見合わせている。
見た感じでは優待者ではなさそうだが、まだ断言はできない。
「では対抗してみます。みなさん聞いて下さい。私が本物の優待者です」
「ちょ」
椎名が挙手しながら発言した。山脇が目をむいている。
こいつも事前に相談せずに騙りを始めたらしい。その場のノリだな。
これが人狼ゲームなら占い師や霊能者のスキルで矛盾点を炙り出すこともできるのだが、残念ながらこれは全員が村人だ。優待者を村人扱いしていいのか疑問だが、スキルがないので村人と言うことにしておく。
「あ、あんたたち、一体何がしたいの?」
神室は俺たちに正気かと問うような目線を向ける。
が、一瞬だけ口元が緩んでいた。
チョロいぞこいつ。坂柳に弱味を握られるわけだ。
ただ、やはりこれも確証がない。
これだけで神室が優待者だと報告するわけにもいかない。ミスリードという可能性もある。
ミスったらクラスポイントがマイナス五十だからな。無人島で稼いだポイントが吹き飛び、俺には借金生活が待っている。
「神室さんも優待者だと名乗ってみたらどうですか。優待者が乱立すれば、誰が本物の優待者なのかわかり難くなっていきます。これは優待者にとっては都合がいい状況だと思いますよ?」
「何が言いたいの? 私は優待者じゃないし、あんたたちが騙りをしようが関係ないから」
「それにしては俺たちに食い付いてきたよな。放っておけばいいのに、わざわざ俺の騙りを暴こうと揺さぶりをかけてきた」
「何のことを言っているのかわからない」
「ボイスレコーダーを再生してみようか?」
俺は携帯をチラつかせてみる。
神室は俺を細目で睨み付けた。
「もういい。付き合ってられない。勝手にやってれば」
神室はそっぽを向いて携帯をいじり始める。
今回はこれまでかな。
話し合いの時間は一時間だ。もう残り三分である。潮時だろう。
「あの、礼司君。よかったらこの後、一緒にお話ししませんか?」
椎名が頬を染めながら俺に声をかけてくる。
「駄目っ!」
横から波瑠加が俺に抱き着いてくる。
「たなぴーは渡さないから。椎名さんだったっけ。残念だけど諦めて」
「諦めてと言われましても、それを決めるのはあなたではなく礼司君ですよ」
椎名が妖艶に微笑んだ。
正論っぽい言い分に、波瑠加が「うっ」とうめき声を上げている。それから俺に媚びるように上目を使ってきた。
「たなぴーはあんな女の誘惑に負けないよね?」
「負けそう」
「やだっ! 行かないで! また私を一人にしないで!」
冗談で言ったら、波瑠加が泣きそうな顔をして俺にぎゅっとしがみ付いてきた。
もう二度と離さないとばかりに依存されている。
しばらく放置していたのがトラウマになっているのだろうか。だとしたら悪いことをしたような気がする。
「ふふっ。あなたは礼司君の弱点ですね」
椎名が楽しそうに笑っていた。
確かに今の波瑠加は足手まといだ。
俺は別にそれが嫌だとは思わない。甘えてくる女は可愛いものだ。
椎名は自分の利用価値を俺に示すことでアドバンテージを得た気になっている。
こっちも可愛いものだ。俺の役に立とうといじらしく努力する姿には好意を覚える。
つまり、まぁ、あれだな。
可愛いよ。でも、お前ら重いんだよ。