ようこそ強姦魔のいる教室へ 作:生太郎
放課後、私は公園のトイレにいた。
障害者用の広々としたトイレだ。公園の中にあり、土足で利用されているためタイル敷きの床は泥で汚れている。
私はそんな床に背中を押し付けられ、正常位で池のペニスを挿入されていた。
毎日の昼休み、放課後。夜遅くまで。
もう二週間も彼らに犯され続けている。
勉強会に誘われても参加できない。
表向きは池と山内の会話を聞いてしまいショックを受けていることにしている。クラスの女子は私の演技に騙されていた。
普段なら内心で馬鹿にしているけど、今回はなぜかいたたまれない気持ちになる。
「なぁ、なんか俺らヤバくないか?」
「……はぁ……はぁ……後にしてくれよ」
腰を振っている池に山内が話しかけていた。
私はあえぎ声一つ上げていない。
実際、感じていない。身体の中に異物感があるだけだ。
それが池たちには不満らしい。
事あるごとに尻を叩いたり乳首を引っ張ったりして私に声を上げさせようとする。
あえぎ声が聞きたいのだろう。馬鹿ではないだろうか。
無理やりされても女性は感じない。愛液は出るが、それはただの防衛本能だ。
「なんで俺らクラスで孤立してるんだろうな。桔梗、なんか知らないか?」
山内が馴れ馴れしく下の名前で呼んでくる。
私は冷めた目をして首を横に振った。
山内はチッと舌打ちすると、いきなり私の頬をひっぱたいた。
ちょっとビックリしたけど、それだけ。
こいつならやりかねないと思っていたし。
「ちょ、顔はやめろって! バレたらどうすんだよ!」
「あ、そっか。悪い悪い」
山内は段々と壊れ始めていた。
善良な精神が麻痺して、悪意が剥き出しになっている。元々は小心者だったのだろう。だからこそ強気な態度を見せ付けようとしているようだ。
「男子すら俺たちを無視してるだろ。前までは綾小路や堀北とは話ができたけど、あいつらも今日は俺たちを無視しやがった」
「あとは須藤ぐらいか」
「いっそ須藤もこっちに引き入れるか?」
「やめろよ。俺と桔梗ちゃんの時間が減るだろ」
池が私の胸を揉みながら腰を使う。
トイレの汚い床が気持ち悪い。本当に最悪だった。
「ねぇ桔梗ちゃん。最初の頃みたいにあえぎ声を出してよ。こんなに濡れてるし気持ちいいでしょ。ほら、ほら!」
自分勝手な言い分だった。嫌悪感しか感じない。
「なんかつまんねーな」
山内がボソッと呟いた。
彼はマグロになってしまった私に飽き始めていた。
「マジで佐倉を襲ってみるか?」
「……流石にそれは不味くないか?」
「今さらビビるなよ。もう手遅れだろ」
……来た。
私は内心でほくそ笑む。
そうだ、襲ってしまえ。佐倉をレイプしてしまえ。
そうすればこいつらは破滅だ。
私は自分がレイプされたという事実を隠したまま二人を葬ることができる。
そのために孤立させて正常な判断力を狂わせた。ストレスの捌け口として別の少女を襲うように誘導した。無抵抗でいるように見せかけて、女をレイプするのは簡単だと思い込ませた。
「俺は桔梗ちゃんがいれば満足なんだけどな」
「まぁ、しばらくは様子を見るか。何でかわからないけど警戒されてるみたいだし、時間を置けばクラスの女子も油断するだろ」
……このチキンが。
今さらヘタレるなよ。クラスメートをレイプしているクズのくせに。
「あー、桔梗ちゃん! 出る! 出るよ! 俺の子どもを生んでくれ!」
池が無茶苦茶なことを言いながら腰を振りまくる。
私の両足を抱えて、杭を打ち込むように逸物を抜き差しした。
――その時だった。
トイレのドアがガタンと音を立てる。
鍵をかけているから開かない。山内がダルそうに「入ってまーす」と言う。
「すいませーん、お腹の調子が悪くて、時間がかかりまーす。別のトイレを探した方がいいと思いまーす」
トイレのドアが再びガタンと鳴った。山内が苛立ち混じりの舌打ちをする。
「入ってるって言ってるだろうが!」
瞬間、ドアが開いた。
トイレのロックは回転する棒を引っかけるタイプだった。
激しく揺すればロックが外れてしまう。
「おい、勝手に入って――」
言葉の途中で山内が吹き飛んだ。
池が何事かと振り返り、顔面を殴られて結合が解除された。
暴発した精液が辺りに飛び散り、私の身体にも降りかかる。
気持ち悪いと考えている暇はない。一体何が起こったのか確かめる必要がある。
「クソ、何なんだ――」
言いかけた池が再び殴られた。
池の腹に強烈な拳がめり込み、ゲロを吐きながら崩れ落ちる。
山内は逃げようとしていた。
しかし足を引っかけられて転んでしまう。
山内が足でごろんと仰向けにされて、その顔面に拳が落とされた。
何度も何度も殴られる。ステーキ肉を平たく潰すような丹念な打撃が彼を襲った。
「やめ、ゆるじで……ごめ、ごべんばざい……」
私はそれを唖然と眺めていた。
圧倒的な暴力だった。
あれほど私を苦しめていた二人が何もできずに蹂躙されている。
暴力に対抗する手段。
それはより強力な暴力なのだと私は理解させられた。
「……田中君?」
山内を潰してから立ち上がった少年には見覚えがあった。
クラスでは誰とも関わろうとせず、休憩時間は一人で携帯を触っている。
話しかけにくい雰囲気を出していてクラスでは孤立していた。
「ひぃぃっ! なんだよ! なんなんだよ、お前っ!」
池が顔面を蹴り飛ばされる。後頭部を壁にぶつけて意識を失う。
彼が私の方を向いた。
その瞳には情欲の色が一切見えない。無色透明な視線に私は困惑した。
「悪い。遅くなった」
彼が呟いた瞬間、なぜか瞳から涙が溢れてきた。
最近は池たちに犯されても全然泣いていなかったのにどうしてだろう。
「あ、あれ……?」
涙を手で拭う。
それでも涙がこぼれ落ちてくる。
涙腺を制御できなくなって、私は戸惑いながら何度も目をこすった。
「あれ、なんで……ごめんなさい……なんでだろ……涙が止まらないよ」
泣いている私を見かねてか、彼は上着を脱いで私の肩にかけた。
人肌の温もりに触れて、さらに涙が止まらなくなってしまう。
凍えた心が解きほぐれていくのがわかった。池たちとは全然違う暖かさだった。
「俺のことは気にするな。好きなだけ泣いておけ」
「……うん」
彼の言葉は淡々としていたが、その態度からは優しさを感じた。
結局、私は泣き疲れて眠ってしまうまで彼に抱き着いていた。
俺は櫛田のことを過大評価し過ぎていたかと思い始めていた。
クラスでは池と山内が孤立していたが、所詮はそれだけだ。
俺は櫛田が二人を退学に追い込むと予想していた。しかし事態は一向に動かなかった。
もしや俺は櫛田を見誤っていたのか。そう思っていると、不意に山内が呟いた。
「マジで佐倉を襲ってみるか?」
盗聴器から拾ったこの台詞で俺は戦慄した。
櫛田はこいつらの行動を誘導していたのだ。
自分がレイプされている事実を隠して池と山内を潰す。そのためならクラスの女子が犠牲になろうが気にしない。
レイプされながら反撃に出られる女は滅多にいない。
普通は心が折れる。誰かに助けを求めることぐらいしかできないものだ。
しかし櫛田桔梗はレイプされながら反撃できる女だった。
流石に佐倉をレイプされるわけにはいかない。
こいつらは俺が監視カメラの偽装などでサポートしないとロクにレイプできない無能どもだ。最近はそのリソースも勿体なく思えてきた。なんで無能どもの尻拭いのために俺が頑張らなければならないのだ。
佐倉までこいつらの手に落ちるとその労力は少なくとも倍になる。
もう面倒だから終わらせてしまおう。
何時までも櫛田に関わっている暇はない。
俺は櫛田がレイプされている公園のトイレに向かった。
しまったな。何時もの仮面を持って来ていない。
最近は堀北と会っていないから部屋に置いてきてしまった。
取りに戻るか?
まぁ、いいか。顔を見られたところで問題ないだろう。
別にレイプするわけではないのだから。今回はその逆だ。
差し詰め正義のヒーローか。
笑えるな。俺は強姦魔だろうが。
翌日。俺は普段通りに授業を受けていた。
教室に池と山内の姿はない。
退学になった……わけではない。俺はそこまで手を下していなかった。
「……わしのレイプが」
ジジイが嘆いていた。
最近の櫛田はマグロだったからジジイも退屈そうだったが、いざレイプがなくなると名残惜しさでも感じるのだろうか。
あれから俺は櫛田を学生寮に送り届けた。
池と山内の携帯は破壊した。万が一にもデータを吸い出されないようハンマーで粉々にしておいた。
クラウドに櫛田の写真が保管されていたが、会員制のサイトだったのでデータを削除してから退会しておいた。
それから二人の部屋に潜入。
部屋に隠してあったメモリースティックやSDカードも残らず破壊する。
俺がやったのはそれだけだ。
池と山内は欠席。俺に殴られた怪我が理由だろう。
「……櫛田。どうした。気になることでもあるのか」
「あ、いえ、何でもないです。すいません」
茶柱先生が訝しげな目を櫛田に向ける。
櫛田は授業中にも関わらず、俺の方に何度も視線を送ってきていた。
茶柱先生に注意されて授業に集中するかに思えたが、すぐにまた俺の方を振り返る。
俺は櫛田の策を邪魔してしまった。
横から割り込んで偉そうに幕を引いたのだ。櫛田にしてみれば「何様だこいつ」と言ったところだろう。
と思っていたら。
「あ、あの、田中君」
昼休みになって櫛田が俺のところに来た。
クラスメートたちは特に何とも思っていないようだ。
櫛田はクラスのほぼ全員と仲良くなっている。孤立している俺とも仲良くしようとしているように見えていた。
「お昼、一緒に食べない?」
クラスメートたちは不思議そうに首を傾げていた。
流石に食事を一緒にするのは大袈裟ではないだろうか。
「ねぇ櫛田ちゃん。俺も一緒にいいかな」
近くにいた男子生徒が割り込んで来た。
下心が見え透いていたが、普段の櫛田なら笑顔でオッケーを出すところだ。
しかし櫛田は困ったように笑う。
「ごめんね。また今度にしてくれないかな」
「あれ? まぁ、いいけど」
男子はアテが外れたような顔をしていた。
しつこく言い寄って嫌われるリスクを天秤にかけて諦めたようだ。
「田中君。それで、どうかな?」
櫛田が両手を後ろに組んで、甘えるような上目遣いをした。
俺に断る理由はない。
どうせ釘を刺しに来たのだろう。
池たちにレイプされていたことを口止めするつもりのようだ。
教室では都合が悪いだろうから場所を移した。
すれ違う生徒が櫛田に声をかけている。流石に人気者だった。
食堂に隣接する中庭に到着した。
グランドが見えるベンチに腰を下ろす。櫛田はその隣に座った。
……距離が近い。
女の子のいい匂いがした。
「田中君はコンビニのおにぎり? 自炊しないんだね」
「手間がかかるだろ。料理する時間が勿体ない」
俺は自分のために時間を使いたいタイプだ。
具体的にはぐうたらしたい。
櫛田は弁当を持参していた。
食堂の山菜弁当は無料だったが、あれを頼むのは恥ずかしいと思う生徒は少なくない。そういう生徒はスーパーなどで無料の食材を貰ってきて自炊していた。
「それ、櫛田が作ったのか。美味そうだな」
「食べてみる?」
櫛田が嬉しそうに笑みを浮かべた。
俺が首を横に振ると、なぜか寂しそうになった。なぜだ。
俺は無言でコンビニのおにぎりを食べていた。
櫛田は何か話したそうにしていた。
何度も口を開こうとして、止まってしまう。
食べ終わってしまった。
櫛田の弁当はまだ半分以上残っている。
「あっ、ごめんね。食べるの遅くて」
「別に急がなくてもいい。ゆっくり食えよ」
ここで俺だけ教室に戻るのは流石に空気が読めていないだろう。
櫛田は肩を落としていた。
食欲がなくなってしまったのか箸を置いてしまっている。
「あのね、やっぱりお弁当食べてくれないかな? あんまりお腹が空いてなくて」
「……なら貰おうか」
捨てるよりはマシだろう。
俺が櫛田から弁当を受け取ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
お箸は櫛田が使っていたものしかない。間接キスになるが、どうでもいいか。
「……田中君、何も聞かないんだね」
櫛田がポツリとこぼしていた。
別に聞く必要もないからな。全部見ていたから。
「ご馳走様。美味かった」
「……うん」
弁当箱を返す。
櫛田は頬を染めながら弁当箱を抱き締めていた。こいつ何してんの?
何かがおかしい。
そう思っているのは俺だけではないようだ。
クラスの注目が俺に集まっている。
やめてくれ。俺はぼっちだ。目立ってしまうとレイプが出来なくなる。
「田中君、おはよう」
櫛田は俺みたいなぼっちにも挨拶してくれるコミュ力の持ち主だ。
ここまでは何時も通りなのだが。
「携帯で何を見てるの?」
「いや、小説を」
「なんて小説?」
俺は携帯で電子小説を読んでいた。
ミステリー小説の名前を上げる。最近映画化したやつだ。
「あ、それ聞いたことがある。映画になってたよね」
「そうだな。俺は見ていないが」
「なら今度一緒に見に行かない?」
……どう言うつもりだ。
俺は櫛田の表情を観察する。
駄目だな。櫛田の演技力のせいか裏があるようには思えない。
「ねぇ櫛田ちゃん! 映画ならみんなで見に行こうぜ!」
隣の席の男子が声を上げた。
賛同するように数人の男子が集まって来る。
何時もなら櫛田はオッケーする場面だが――。
「ごめんね。私、田中君と話してるところなの。後にしてくれないかな」
「あれぇ? あれれれぇ?」
その男子は何時もと違う手応えに首を傾げた。
何かがおかしい。櫛田のイメージと今の返答が一致しない。
「なぁ櫛田ちゃん。田中に何かされてるの? 困ったことがあったら何でも相談してくれていいからさ」
「……何もしなかったくせに」
櫛田が誰にも聞こえないほど小さい声で毒づいた。
俺には聞こえた。チートスペックだからな。
櫛田はすぐに取り繕った笑みを浮かべる。これは演技だ。俺にもわかる。
「ううん、田中君は何もしてないよ。それに、そう言うことを言うのはよくないよ。同じクラスの友達でしょ」
「……ごめん。何もないならそれでいいんだけど」
「ね、田中君。一緒に映画見に行こうよ」
櫛田はその男子をあしらうと俺の方に振り返った。
「……考えておく」
俺は男子たちに睨まれて、げんなりしながら返答した。
「そっか。返事を待ってるね!」
櫛田は俺に満面の笑みを向けてから女子のグループに戻って行った。
と思いきやすぐに戻って来る。
上目遣いで俺を見上げていた。櫛田は何がしたいのだろう。
「あのね、田中君。私と連絡先を交換してるけど、覚えてくれてるかな?」
櫛田は入学してすぐにほぼすべてのクラスメートと連絡先を交換していた。
例外は堀北ぐらいだ。彼女は櫛田のことを警戒している。曰く、自分を嫌っているくせに仲良くなろうとする櫛田が理解できないとか。
俺も櫛田と連絡先を交換していたが、今まで一文字もやり取りをしていなかった。
俺の携帯がブルッと震えた。
チャットでメッセージが送信されている。送ってきたのは目の前の少女だ。
『田中君と仲良くなりたいです』
櫛田はペロッと舌を出していた。
今度こそ女子のグループに戻っていく。
なんだこれ。
「ねぇ、今のってどういう意味なの?」
「田中君と何があったの!?」
「ええっ! 何でもないよ! ホントだよ?」
女子たちから今の一件を質問攻めにされている。
櫛田は困ったように顔の前で両手を振っていた。
「おいいぃぃぃ! 田中ぁぁぁぁ!」
「貴様、どんな裏技を使いやがった!」
俺の周りには嫉妬した男子が集まっていた。
非常に鬱陶しい。なんでこんなことになったのだろう。
「ふんぬぅぅぅ! レイプぅぅぅぅ! レイプぅぅぅぅぅ!」
ダンブルドアが怒り狂っている。
奇声を上げながら教室を徘徊していて、この日は授業どころではなくなった。