辞令
比企谷八幡 殿
貴殿のこれまでの成果を鑑み、
Project Kroneプロデューサー代行とする。
......どうしてこうなった。
八幡「......常務、意味がわかんないんですけど。」
常務「そこに書いてある通りだ。」
八幡「......俺まだ学生っすよ?時間限られますって。」
常務「業務はこれまでと変わらずだ。権限と責任は増えたがな。」
八幡「......CPのアシスタントはどうなるんすか?」
常務「続けて構わん。」
八幡「......はぁ。わかりました。でもいいんすか?」
常務「なにがだ?」
八幡「自分で言うのもなんですが、結構常務に歯向かってますよね?」
常務「確かにな。だが、それ以上の成果を上げているのも事実だ。特に、先のライブではな。」
八幡「......なら、謹んでお受けします。」
常務「話は以上だ。行きたまえ。」
八幡「......失礼します。」
どんどん逃げ道が塞がれていく......このままだとCPに戻れなくね?
マジ勘弁してくれ......
CP事務所にて冬の舞踏会の打ち合わせなのだが......
八幡「はぁ......」
武内「......どうかされましたか?」
八幡「......これっす。」
武内さんに先程の辞令を渡す。
武内「っ!これは......」
八幡「......まさかこんな事になるなんて。」
武内「......私も予想外です。ですが、正当な評価でもあります。」
八幡「逃げ道が......俺、CPに戻れますかね?」
武内「......」
八幡「......」
武内「おそらく......難しいでしょう。」
八幡「ですよねー......」
武内「CPのアシスタントは、どうなるのですか?」
八幡「継続許可はもらってます。」
武内「......安心しました。この舞踏会は......比企谷さんとともに成功させたいので。」
八幡「それは俺もっす。ただまあ、クローネが使いやすくなったのは良かったです。」
武内「助かります。」
八幡「ま、決まったもんは仕方ないっす。今は舞踏会の事だけ考えます。」
武内「宜しくお願いします。」
卯月「......」
気づかなかった。外で卯月に聞かれていることに......
最近あまりCPに顔が出せていない。舞踏会の打ち合わせもクローネの事務所でやっているほどだ。
常務の嘘つき!仕事めっちゃ増えてんじゃん!まぁ、給料も爆発的に増えているのだが......
そして、今日も今日とて、奏の付き添いでスタジオに来ている。......常務も一緒に。
来なくていいよ!スタッフみんなビビっちゃうから!大魔王は座ってなさい!
ちなみに隣では、卯月と小日向が撮影を行なっている。いるのだが......カメラさんの反応が良くない。......大丈夫か?
八幡「(なっ⁉︎卯月の表情が硬い?嘘だろ?)」
休憩のようだが......元気がない。いつもの笑顔が......ない。
武内「常務、比企谷さん。お疲れ様です。」
武内さんも卯月の様子を見に来たようだ。凛を引き連れて。凛は常務と話し、武内さんはカメラさんと話す。卯月の表情やポーズが硬いことを言われている......
ふと、卯月と目が合った......怯えるような表情......
そして急に立ち上がり身体を背ける......
武内さんが卯月と話している。常務の手前、近寄る事ができない......
卯月「すみませんでした!」
急な謝罪。おそらく迷惑をかけたと思っているのだろう。自分のせいだと。
そして帰ってしまう卯月。
ダメだ!帰らせるな!
今帰らせたら......
卯月が折れる。
八幡「だm「比企谷君、撮影に集中しろ。」......すみません。」
気づけ!気づいてくれ!武内さん!
俺の願いは届かなかった。
翌日武内さんから報告を受けた。
卯月が養成所で基礎からやり直すと。
卯月はあれから来ていない。武内さんは毎日様子を見に行っているが、いい報告はない。
ダメだ。卯月のことで頭がいっぱいで仕事に集中できん......
奏「八幡さん?」
八幡「ああっ?」
奏「(ビクッ)......ご、ごめんなさい。」
八幡「あ、ああ。すまん。考え事しててな。なんだ?」
奏「体調悪そうだし......それに、顔が物凄く怖いから......何かあった?」
八幡「......いや、なんでもない。」
凛「嘘!......卯月のことでしょ?」
八幡「......」
凛「ねえ、どうするの?」
八幡「......」
凛「何か言ってよ!」
八幡「うるっせえな!それを今考えてんだろ!少し黙ってろ!」
凛「っ!......ご、ごめん。」
八幡「......すまん。八つ当たりだ。......少し出てくるわ。」
全員「......」
奏「あんな彼......初めて見たわね......」
ありす「はい。すごく怖かったです......」
奏「ねえ凛、卯月って......あの時の?」
凛「......うん。あれから来てないんだ。」
奏「そうだったの......少し......妬けちゃうわね。」
凛「えっ?なんで?」
奏「凛にはわからないかもしれないけど、彼は私達のプロデューサーなのよ?彼女の方が付き合いは長いかもしれないけど、私達より彼女を優先している。......ずるいわ。それに羨ましい。彼にあそこまで思われている彼女が。」
文香「......そう......ですね。私達とは違う......もっと強い絆で繋がっている......そう感じます。」
ありす「はい......私もそう思います。」
奈緒「もっと......頑張らないとな!」
加蓮「そうだね!ね?凛!」
凛「......」
加蓮「......凛?」
凛「そう......だね。」
はぁ、やっちまった。八つ当たりとか最悪だろ......でもどうすっかな......なんもk「比企谷さん!」......武内さん?
八幡「あ、お疲れ様っす。どうしました?」
武内「今......少しよろしいですか?」
八幡「大丈夫っすけど......」
武内「ありがとうございます。」
武内さんに連れられてCPの事務所へ向かう。卯月のことだろうな......
武内「突然ですみません。少し、お願いしたい事がありまして......」
八幡「......卯月のこと......ですよね?」
武内「はい。まず、こちらを。」
八幡「......クリスマスライブ?」
武内「......はい。千川さんに回していただきました。このライブに......NGに出ていただこうと考えています。」
八幡「でも卯月が!」
武内「......はい。ここからがお願いです。......島村さんを......連れ戻してください。お願いします。」
八幡「俺が......ですか?」
武内「......悔しいですが、私では駄目です。あなたでないと......王子でないと、彼女を連れ戻すことはできません。」
八幡「王子って......俺はそんな大層なもんじゃ......それにクローネもありますし......」
武内「クローネは私がなんとかします。それにあなたは......島村さんの......いえ、CPの王子です。あなたになら......比企谷さんにしかできません。」
八幡「......でm「言ったはずです。一度摘み取った笑顔は、あなたが笑顔にしてくださいと。」......覚えてます。」
武内「ずるいお願いですが、彼女の笑顔を......取り戻してください。」
八幡「......やってみます。」
武内「ありがとう......ございます。」
チラシを持ち、養成所に向かう。懐かしいな。まだ一年たってないのに......あの時も......あいつ1人だったんだよな。1人めげずに頑張って......
ガラスの先に卯月がいる。一人で蹲って......似合わないな。
元気に笑って、頑張りますって言ってるあいつがいい。あの笑顔に沢山の元気をもらってきたんだ。
あの太陽のような笑顔を守りたい。
ずっと側で笑っていてほしい。
あいつが笑えるならなんだってしてやる。
待ってろ。卯月。
受け付けをすませ、レッスンルームに入る。
どんな顔をして、何を話せばいいのか正直わからない......
でも、やると決めたんだ。
やるしかない。
八幡「おう、久しぶりだな。」
卯月「八幡さん......え?八幡さん⁈なんで......」
八幡「最近顔見てなかったからな。」
卯月「......嬉しいです。でもクローネはいいんですか?」
八幡「クローネ?そっちは武内さんに任せてきた。だから問題ねえよ。ほれ、こっち来い。たい焼き買ってきたから食うぞ。」
卯月「は、はい!」
ちょこちょこと仔犬の様に寄ってくる......可愛い。椅子に並んで座り、たい焼きを渡すが......食べようとしない。
八幡「調子......どうだ?」
卯月「(ビクッ)......やっぱり、ダンスって難しいです。」
八幡「そうか......」
卯月「なので、もっともっと頑張ります!」
八幡「......」
卯月「八幡さん?」
八幡「卯月......今、楽しいか?」
卯月「えっ......」
八幡「アイドルやってて......楽しいか?」
卯月「......た、楽しいd「嘘だな。」っ!」
八幡「楽しいなら......なんでそんな辛そうな顔してんだよ......」
卯月「そんな顔......してません。」
八幡「いや、しt「してません!」卯月......」
卯月「すみません......」
八幡「いや、いい。俺の方こそすまん。」
卯月「でも......そうかもしれません。凛ちゃんも未央ちゃんも凄くって......私だけ何もないんです......だからもっともっと練習しなくちゃ......しないと......」
八幡「......仲間って......いいよな。」
卯月「えっ?」
八幡「俺はな、高校卒業する寸前まで友達がいなかったんだ。それこそずっとな。」
卯月「嘘......ですよね?」
八幡「本当だ。お前も知ってるあの3人......一応材木座も入れてやるか......今でも4人だけだ。」
卯月「そうだったんですね......」
八幡「だからな、誰かと協力とか、競争なんてしたことない。相手すらいないからな。でもな、346プロに来て、お前らを見て思ったんだ。仲間っていいな......ってな。」
卯月「......」
八幡「そりゃ、争いごとも起きるし面倒ごとも増える。いい事ばかりじゃない。だが、それ以上の事も得られるって......初めて知ったよ。」
卯月「......なに......ですか?」
八幡「サマーフェスの時、何を感じた?」
卯月「喜びと......達成感を......」
八幡「俺もだ。あとな......羨ましかった。」
卯月「えっ......」
八幡「仲間とはいえ、俺はステージに立てない。だからお前らの気持ちは半分も理解できないんだ。」
卯月「そんな......」
八幡「正直妬ましいよ。いっぱい色んなものを感じられるお前らが。でもな......そんなお前らからすげえもんもらえるんだ。」
卯月「え?」
八幡「笑顔だよ。」
卯月「笑顔......ですか?」
八幡「おう、沢山の笑顔だ。中でも一番は......」
卯月「一番は......」
八幡「卯月、お前の笑顔だ。」
卯月「私の......笑顔......」
八幡「ああ。お前の笑顔が俺は大好きだ。むしろ愛してると言ってもいい。」
卯月「そ、そんな......恥ずかしいです......」
八幡「でな、お前の笑顔を見ると......そのいやらしい感情がどっか行っちまうんだわ。だが、その笑顔がまたなくなってる。2度目だ。」
卯月「え?2度目?」
八幡「......すまない。オーディションで一度お前を落としたのは俺だ。」
卯月「ええっ!」
八幡「去年の秋にお前らに会ったろ?」
卯月「はい......」
八幡「そんときにな、思ったんだ。この3人だ!って。だから武内さんに頼んで、オーディションに来た2人を落として、凛を探してもらった。」
卯月「じゃあ、私たちが揃ったのって......」
八幡「偶然であり必然だ。だから今でも信じてる。お前たち3人ならなんでもできるって、すげえ事ができるってな。......だから、new generationsなんだ」
卯月「でも私は......」
八幡「自分が信じられないか?」
卯月「......」
八幡「なら......俺を信じてくれないか?」
卯月「八幡さんを?」
八幡「おう。卯月を信じてる俺を信じてくれ。」
卯月「でも八幡さんはクローネのプロデューサーさんで......」
八幡「聞いてたのか......でもまあ、それはどうでもいい。俺個人だ。プロデューサーでもアシスタントでもない。俺を信じてくれないか?」
卯月「......いやです。」
八幡「え?」
卯月は急に立ち上がり、言葉を......想いを吐き出してくる......
卯月「それだけじゃ嫌なんです!八幡さんのことはもちろん信じてます!それなら!私は八幡さんが信じてくれる私自身を......私は信じたいです!でも......でもっ!......ひぐっ......」
泣き出してしまう......
怖いよな......一人だけ置いて行かれてる気がして......自分だけ輝きを見つけられなくて......
不安だったんだよな。
苦しかったよな......
ごめんな......
卯月を抱きしめる......強く......
卯月「ふぇ......」
八幡「ごめん......」
卯月「なっ、なんで八幡s「気づいてたんだ......」......え?」
八幡「......お前がこうなっちまうって......気づいてた。......でも止められなかった。......すまん。」
卯月「八幡さん......」
八幡「本当にすまん......」
卯月「八幡しゃん......うっ......」
八幡「卯月......側にいてくれ。」
卯月「えっ......」
八幡「俺の隣で......ずっと笑っててくれ。」
卯月「......はい。」
八幡「俺に......俺の好きな卯月の笑顔を見せてくれ。」
卯月「......はい......はいっ!」
八幡「......やっと見られた。」
卯月「え?」
八幡「卯月の笑顔。」
卯月「......私.....わたし......」
八幡「......ありがとう。」
卯月「......はい。」
八幡「一週間後だ。」
卯月「クリスマスイブですね。」
八幡「おう。セットリストは後で持ってくる。それまではここでレッスンしててくれ。」
卯月「ここで......ですか?」
八幡「おう。ここでだ。」
卯月「ど、どうしてですか?やっぱり......」
八幡「ち、違う!ここなら......」
卯月「ここなら?」
八幡「な、なんでもない。とにかくここだ。」
卯月「??わかりました!島村卯月!頑張ります!」
八幡「おう。んじゃ、今日は帰るぞ。送ってくから準備しろ。」
卯月「はいっ!」
クリスマスライブ前日、今日は卯月に346プロにくるよう伝えた。
卯月のことはCPのメンバーにも伝え、細かいケアをお願い済み。内容はおまかせだ。
ちなみに俺はクローネの仕事を片付けている。
毎日卯月のレッスン後に終電まで仕事をし、間に合わない分は持ち帰る。明方に1時間程度眠り大学へ......ここ一週間そんな生活だ。
あらやだ。俺ってば社畜の鏡!
そんな忙しい最中に、常務に呼び出された。......武内さんとともに。それどころじゃないっての!こっちは早く仕事済ませて、卯月の所行きたいの!
八幡「......なんで呼び出されたんすかね?」
武内「おそらく、島村さんの件ではないかと......」
八幡「ああ......」
武内「......どうですか?」
八幡「......」
まだ何も言えない。大丈夫だとは思うが、確証はない。
笑顔が戻ったのは確かだが、いつ何がきっかけで消えるかわからない。
常務室。「入れ」と声があったので入室し、武内さんと並んで大魔王と対峙......いつもより怖くね?
常務「島村卯月。やはり待つだけ無駄だったな......」
あん?なんのことだ?
常務「君が切らないのなら、こちらが手を下すが?」
は?卯月を切る?......嘘だろ?
武内「待ってください!彼女は今帰ってきまs「彼女の時間はもう無い。」......」
常務「それに、これはある意味、君の部署の存続につながる助言だ。」
なに勝手な事言ってやがる......
ふざけんな!卯月は......俺が守る。
尚も常務から言葉が紡がれるが、俺はほとんど聞いていない。
武内「方針は変えません。......光はそこにあります。今のあなたには、見えていないだけです。」
常務「なんだと?」
武内「私には見えていて、常務には見えてい星があります。」
常務「......それが彼女だと?」
武内「......はい。」
常務「寝言は寝て言うものだ。いい加減目を覚ませ。君もそう思うだろ?比企谷君。」
......2人とも何言ってんだ?卯月が星?そうじゃねえ......
八幡「そうですね......」
武内「比企谷さん!」
八幡「何言ってんすか?......2人とも。」
常務「何?」
武内「えっ......」
八幡「卯月が星?笑わせないでくださいよ。......武内さん。」
武内「......なんでしょう?」
八幡「月は......なぜ輝くんですかね?」
武内「......太陽があるからです。」
八幡「はい、そうです。では常務、向日葵は何に向かって咲きます?」
常務「太陽だ。君は何が言いたいんだ?言葉遊びをしている暇はない。」
八幡「あんたは目だけじゃなく、頭まで腐ってんすか?簡単ですよ。......卯月という太陽がいなきゃ、月である凛も、向日葵である未央も輝けないし咲けない。......陽の光が強ければ強いほど星は輝く。......あいつが笑えば......そこに笑顔という名の花が咲く......俺は、そう思ってます。......ちゃんと見ねえと......大事なもん失うぞ。」
武内「っ!」
常務「......言ってくれるな。だg「常務。」......なんだ。」
八幡「......明日、卯月を見に来てください。」
常務「その必要はない。時間の無駄だ。」
八幡「いや、あんたには見る義務がある。」
常務「......いいだろう。君がそこまで言う陽の輝き......楽しみにしている。」
八幡「......覚悟しとけ。」
それだけ言い放ち部屋を出る。
明日だ。