好き勝手サーシャを嬲り、リンと劉伶への指導を終えたシンタロウは、瀟洒な作りの椅子に腰掛け書類に目を通していた。
工房から繋がるその部屋は、来客を出迎える為のスペースとして執務室兼応接室とした部屋だ。
カンストステータスで作り上げた執務机は重厚な作りにして使いやすく。ソファにランプ、諸々の付属品にしても、二流冒険者では受注する事も叶わぬ難度の素材と、素材に負けない精緻な細工(チート)、更に現実世界でデザイナーとして活躍する弟子の設計を受けて、いずれも聖遺物級との【鑑定】をされた物ばかりだ。
しばらく帳簿のチェック──は程々に、めぼしい女性プレイヤーのチェックのために攻略掲示板を覗いたり、弟子達の指導映像を編集したりとのんべんだらりとした時間を過ごしていた。
そうして自分的になんやかんや有意義な時間を過ごしていると、ドアがノックされ、扉越しに弟子がアカネの帰還を告げる。
「入れ」
その声を待っていたかのように、勢い良く扉が開く。
「おっはよーございまーすっ! ご主人の為だけの天使、アカネちゃん昨日ぶりに帰宅ですよ!」
現れたのは燃えるような赤い髪を後頭部で瀟洒なバレッタにまとめ、アンダーリムフレームの眼鏡をかけた美しすぎる新任教師のような美女だ。ただ、普通にしていれば理知的な外見は、子犬のように瞳を輝かせているせいで台無しになっている。
しかし好みの差こそあれ、美女というカテゴリに間違いなく。そんな美女を前にしているというのに、先の弟子達に相対していた時のような不埒な欲はシンタロウに窺えない。
「んじゃ、報告聞こうか」
「……いいけど。私の居ない間に随分好き勝手してた匂いがするんですけどー?」
「好き勝手してたからな」
「あれおかしいなー、ご主人様のために身を粉にして働いてる私にはー? 天使堕とすチャンスですよご主人」
「もう堕ちてるじゃん、悦ぶじゃんお前。俺、ラブラブセックスとか燃えない性質だし」
「うわぁ……」
シンタロウの性癖に、一気にドン引きですと雄弁に表情で語るアカネに肩を竦めて、話を進めようとする。面倒くさかったともいう。
「で、とりあえず成果を聞きたいんだけど」
余談だが、このアカネが仕えている理由だが。
「掛けた迷惑と比べれば些少に過ぎるが……」と神から贈られたNPC、らしい。何でも元四大天使の一人で、この世界と異世界を繋ぐ門の門番役を担っていたとか。プレイヤーたるシンタロウとも激戦を繰り返してきたNPCなのだとか。
色々伝聞形になってしまうのは、何せ前提となるクエストを思い切りすっ飛ばして手に入れてしまったNPCゆえだ。
そんな経緯の為に忠誠心こそ計りかねてはいるが、レベルやステータスは優秀で、AIレベル高く、あいまいな命令でも柔軟な解釈をこなしてくれて有能なので重宝している。
今回、アカネに依頼していたのは攻略組でめぼしい者がいないかを掲示板情報などでなく、実地で探って欲しいというミッションだ。
シンタロウが抱える性癖は、この世界に到り規格外の力を得た事ですっかり歪んで、しかも自制という物をしなくて良いために箍も外れてきている。
命を買った弟子相手では最早満足できず、自らを磨き上げた強き女性相手に発散したくてたまらない領域にまで高まっている。
アカネから言わせると「高潔な精神を踏みにじって悦ぶ変態じゃん、女騎士さまとか好きでしょーうわきも」という奴である。勿論、その後生意気な口を叩いたアカネにはお仕置きした。危うく主導権を握られそうになったくらいギリギリのお仕置きであった。
カンスト【性技】【絶倫】【超回復】があって、ギリギリとかおかしいだろ。天使じゃなくて堕天使、淫魔の類じゃないか、どう考えても。
と、この世界で初めての苦戦を強いられたシンタロウは過日をそう振り返る。
「んー、私としてはまたああいう夜を過ごしたいんだけど……まあいっか。とりあえず攻略はのんびりだけど進んでる感じかな? まだまだシンタロが満足するレベルじゃないし、国境も開放出来てないから北の最果ての魔王様を倒すなんて口が裂けても言えない感じだけどねー」
「まあ、まだ序盤もいいとこだしな。クリアされそうになったら色々妨害はするつもりだけど、今はいいか。私たちって強い! これなら元の世界に帰れるって希望を抱いて貰わないとつまんないからな」
「……ぶれないねぇ。うん、まあそれで一応、目星は付いたかな。特にこのパーティはシンタロ好みだと思うよ」
そう言ってアカネはスクリーンショット機能で撮影された画像をシンタロウに転送する。
コンソールを操作すると、六人の女性プレイヤーが順次表示されていく。
──攻略最前線ギルド『アルカナ』
聖騎士『シィラ=クネル』
ショートボブの銀髪に細いサファイアの瞳。冷たい美人。ボンキュッバンなダイナマイトな肢体。
94(F)-61-91
全身鎧と大型の盾を持ったタンク役。
現実ではドイツ人と日本人のハーフらしい。プレイヤースキルも高く、スキル運用や防具の扱いにも隙は無い。
リーダー的存在。
【英雄】属性。
サムライ『朝井花蓮』
黒髪をそのまま流してハーフアップ、切れ長の黒瞳、東洋人タイプ。
82(C)-59-85
日本刀を主武装にした物理ダメージディーラー。部活で良く見る紺の剣道着スタイル。
現実でも剣道を嗜んでいて、身ごなしに無駄がない。
切り込み隊長的存在。
【剣豪】属性。
テイマー『アリス・シュバルツ』
栗色の髪をツインテールに、ぱっちりとした薄茶の瞳。第二次性徴直後な幼い体付き。
71(AA)-51-70
チュニックにホットパンツのような軽装。
まだテイムした魔物は貧弱だけど、臨機応変、機転が利いた行動を随所に見せている。
テイムする魔物によって前衛後衛をこなせる存在になりそう。
マスコット的存在。
現実では女子大生(巨躯)。
【魔物の女帝】属性。
符術師『高天原ミハル』
焦げ茶色の髪に同色の瞳は二重。どこか勝ち気な印象。体付きは中性的、という名のナイチチ、扁平尻。
75(A)-57-79
牡丹を裾にあしらった紅基調の和服。
符に篭める魔術が少なければ威力が弱く、篭めすぎれば発動が遅いという癖のある符術師という職業を手堅く運用する才覚。
パーティの攻略方針などもミハルが立案している模様。
バフデバフ、参謀的存在。
現実では主婦らしい。
【トリックスター】属性。
聖女『エナ=クネル』
銀髪におっとりと垂れ気味のサファイアの瞳。シィラ以上なニトロバディ。シィラとは違ってほんわか美人。
98(H)-63-90
癒やしの女神の法印がデザインされたローブ。
ヒーラー。
聖女然とした慈愛溢れる立ち居振る舞いと同時に、敵と対すれば容赦を見せない二面性を持つ。
【聖女】属性。
尚、シィラとは姉妹。シィラが姉、エナが妹である。
魔女『ウルザ』
黒神、黒の瞳。普通の身体。82(C)-58-83
普通に黒のローブ。
普通に魔法ぶっぱの魔法ダメージディーラー砲台。
【没個性】属性。
「…………いくつか聞きたいことがあるんだが」
「ん、なに? 何でも聞いてよ」
「属性って、何?」
「あー、言ってなかったっけ?」
「聞いてないから聞いてる」
「ん、ごめん。えっとね、ゲームがそれぞれ相応しい天職みたいな物を与えた感じ? ほら、どっかの世界のどこかの黒い誰かが二刀流持ってるみたいな」
「メタいな!」
「でも分かり易いでしょ? だからサムライの花蓮とか、テイマーのアリス、聖女のエナとかはもう凄いよ。十レベルくらいの差なら瞬間的に凌駕出来る~みたいな」
「ふーん……成る程」
「シンタロ好みでしょ、そういう天意を得たのだ~みたいな人間の陵辱って」
「まあね。うん、こいつらはいい感じだな」
ふむ、と顎をなぞってシンタロウは開いていた画像を閉じていく。
「で、こいつら以外にめぼしいのはいないの?」
「んー……まあ、ぼちぼち? いる事はいるけど、このままトップを走っていけそうなのは彼女達かなって」
「そんなにか?」
「何かね-、どう作用したか分からないけど、六人ともプレイヤースキル上位一%に入ってるくらいの子達が集まってるから」
「はぁ~……導かれた勇者達って感じか。成る程、成る程。……こいつらって今どこにいる?」
アカネが薦めてくるわけだと得心するとシンタロウは薄い笑みを湛えて立ち上がる。
「さっき北の森辺縁部のボス討伐から帰ってきて、ギルドホームを購入しようって話してた」
「場所は?」
「分かるよ」
「案内よろしく」
「今夜、付き合って貰える?」
「あ~……お前の相手たるいんだよなぁ」
「ひどっ!」
ガーンとわかりやすくショックを受けているアカネは、けれど次の瞬間には切り替えて手元から手帳を取り出す。
「ま、それは今度ご褒美としてもらうとして~。今日は無理かな~」
「ん、なんで?」
「……はぁ?」
主人の疑問に、こいつマジか、的な視線を向けるとため息を漏らすアカネ。
「ホランドの王妃に逢いたいって言ったの、ご主人でしょ?」
「──……ああ! ああ! 元聖騎士筆頭で王妃の! 今日だったか!」
「……まったく。それなりに苦労したんですけどー、従者的に。ここに来て貰うのを納得させるの、大変だったんですけどー」
ホランドの王妃、マチルダ。
とあるクエストを進行・達成すると出会う事ができ、ホランド王とともに謁見の間にて出会う事になる。国難を打破してくれた事を、慈愛の笑みを柔らかく浮かべて称賛してくれるNPCだ。
緩く波打つ金髪に海色の瞳。そして豊かな乳房を更にコルセットで押し上げて強調する青色のドレス姿が眩しく、掲示板上で破壊力満点の胸部にノックアウトされる男性プレイヤーが続出している。
なおそのクエストは攻略済フラグを持ってないプレイヤーだけで受注すれば何度でも受注出来る仕組みだ。何度訪れるんだ国難。
攻略時の報酬アイテムが美味しいこともあり、またイケメン王と美女の王妃見たさに人気の高いクエストである。
そんな折、終始後手になる(取得アイテム、金など大損になる)進め方ををすると、彼女の戦闘姿を見ることが出来る事が判明する。
玉座の間で控えめだった彼女が全身鎧を纏い、鮮やかな鹿毛馬に跨がって先陣を切る。ハルバードを軽々と振り回し、雷系魔法を駆使して魔物たちを屠る。
謁見の間と戦場でのギャップを伝える映像が投稿されていて、さまざまな属性を刺激されて好事家プレイヤーが大歓声をあげ、シンタロウも王妃を組み敷く夢を見て欲情したものである。
ただ、当時引きこもり雑魚プレイヤーだったシンタロウでは【聖騎士】ジョブを高いレベルで持ち、強者に属する彼女に、そもそも直接顔を見る機会とてなかった。
だから狙っていた。
アカネに調整を依頼して、請け負ってもらって日程調節に成功したと小躍りしたのが何日か前。
別段忘れていたわけではないが、朝から夜まで弟子やNPCにちょっかいを出すうちに日付感覚が狂ってしまったのだ。
「悪い悪い。サンキューだってマジで。で、ここに来るって事だっけ?」
「そ。【トラベルゲート】の魔道具は渡してあるし、時間になったら来るんじゃない?」
「おおー……【聖騎士】で【王妃】で巨乳で王国トップクラスに強いとか王道属性盛りすぎっしょ。やっばいなー、覚えてたら朝からハッスルしてないで溜め込んだのにな」
「【絶倫】【超回復】持ってて何言ってんのさ」
「気分だって、気分。お前の為に溜め込んでたんだぜ、って言ってみたい台詞じゃん?」
「……何か三下っぽいなぁ」
「精神的には格下相手なのに逆らえず渋々屈するとか大好きなシチュエーションだぜ?」
「訂正。どうしようもなく三下なご主人だぁ」
自身を門番から解放してくれた主の残念さに、がっくりと肩を落とす元天使。
そんな彼女を尻目に、【アダム】開始当時に憧憬の念を抱いていたNPCが訪問してくると知ってそわそわし出す主。
主従二人がそれぞれの思いを抱いていると、執務室の入り口に直方形の光が差す。
【トラベルゲート】の前兆だ。
シンタロウもアカネもそれぞれ、転移行動をキャンセルするスキルをいくつか持つし、そもそもこのプレイヤーショップの敷地全体に阻害の魔法陣が備わっているが、当然それらを行使する事なく来客を受け入れる。
商人に過ぎぬ庶民の男の部屋を、国妃が訪れる。
その意味を、少なくともシンタロウは理解していない。
次回、王妃回……多分。