旅の始まり
レベル 1
所持金 53ゴールド
装備品 布の服、バンダナ
トラペッタで俺は悩んでいた。エイトの兄貴にこんなみっともねえ旅をさせちまっていることを。早く最強の装備品をそろえて差しあげたい……。
エイトの兄貴は、そんな俺の悩みをよそに、楽しげにトラペッタの町を探索なさる。町の外では、兄貴のお勤めになっている城の王、トロデ王(……俺はトロデのおっさんと呼んでいる)と、馬に姿を変えられた姫さんが待っている。さっさとこの町に住むなんとかいうおっさんを探さなければならない。
ああ、話が飛んじまってるな。
……まず、俺のことから話そう。
俺はもともと山賊だった。泣く子も黙るヤンガス様は、この辺りでは知らぬ者のいないくらいの悪名をとどろかせていた。だが、仲間もいねえし、そろそろまっとうな仕事にでもつこうかと、きこりなんかをして暮らしはじめたんだが、それがきついのなんのって。
で、ある暑い日のこと、山賊稼業から足を洗うことにくじけかかっていとときだ。俺はエイトの兄貴と出会った。まあ、いろいろすったもんだあったんだが、結果的に俺はエイトの兄貴に命を救ってもらうことになる。ここの詳しい話はいいとして、とにかく俺は、この若き青年に秘められた力を感じ、即座に兄弟の契りを交わさせてもらった。俺の方がかなり年上なんだが、兄弟の契りに年齢は関係ねえ。俺の申し出に「兄貴」と呼ぶことをお許し下さった。それから、人探しという兄貴のオツトメを果たす旅に同行し、こうしてサポート申し上げているというわけだ。
まだまだお若いエイトの兄貴。立派な
「ねえ、ヤン、どういうことかわかる?」
「へっ?」
やぶからぼうに尋ねられて、慌てて涙をぬぐう。兄貴の問いに、俺はすぐに答えられなかった。憂いを秘めた黒い瞳が、まっすぐに俺の目を捕らえるから。
実は俺は、初めて兄貴に合ったその瞬間……そう、ひとめぼれしてしまったんだ。
今だって、小顔の中の大きな瞳がキラキラとまたたき、バンダナの端からぴょんとはみ出している、少しクセのある茶色の髪が風にひらりと揺れる……。かわいい……。ああ、なんて愛らしいんだ……。そして妙な力が俺の身体の中心にゾワゾワと流れていき……ダメダメ! 頭の血がさがるッ!
俺はとっさにぶるぶると頭を振った。
答えない俺に、エイトの兄貴ははにかむような笑顔を浮かべていらっしゃった。
広場から町へと続く石造りの階段は、夕日をうけてピッカピカに輝いていやがる。そこを軽やかに駆け上がるエイトの兄貴。空へ近づくほどトレードマークのバンダナは夕日のオレンジ色に溶け込み、黄色の上着までが徐々に夕日になっていくようだ。
ああ、兄貴、お手を夕日に差し出さねえで下せえ。翼が生えた生き物にさらわれちまいやすよ……。
「ねえヤン? さっき教会でお祈りをしたら、シスターがお告げをくださったんだ。『次のレベルまであと14』だって。ヤンはあと12だったよ」
エイトの兄貴は立ち止まってそうおっしゃり、「ねえ、ヤンはわかる? お告げの意味が」と、オレを振り返ってまた真正面から俺を見つめる。ああ、吸い込まれそうだ。
「……あ、いや、それは、次のレベルまであといくつかってことでがすよ」
ああっ、なんてトンチンカンな答えを返してしまったんだ、俺は! 「魔物を倒して得る経験値」という肝心な説明を抜かしちまって。
エイトの兄貴は旅は初めてなんだぞ。かく言う俺も……。だが、長いこと山賊稼業をしていた俺だ、お城のヒラ兵士なんかをさせられていらっしゃったエイトの兄貴よりは、「道の歩き方」は知っている。
旅にはまだウブなエイトの兄貴を不安にさせちゃあいけねえ。俺はレベルと経験値についてうまいこと説明しようと、ペラな脳みそを撹拌すべく、また頭をぶるぶると振った。ところが兄貴は小首をかしげ、ふふっと笑顔を見せなさる。
「ふうん、次の旅人レベルまであといくつかってことか。うん、わかったよヤン。君ってなんでもよく知ってるね。さすが、頼りになるよ」
「……」
エイトの兄貴、いいんですかい? それで……。くっ、なんてお優しいかただ。
俺は頭が悪いからあんな説明しかできねえ。それなのに「わかった」と言ってくださった。なんて優しさだ。このかたを選んでよかった。ついていきやす、エイトの兄貴。どこへでも……。
「ヤン、どうかした? 泣いてるの? それとも目にゴミ?」
「あ、いや、貧血でげす」
「え~、大丈夫? ヤン。トラペッタの宿屋、まだ準備中なんだよな~。じゃあ、このベンチで少し休もうか。さ、僕に寄りかかって……、あっ、ヤン、鼻血だよ?」
こんな感じでのろのろと旅が続きます。次は初ボス、ザバンのいる洞窟へ行きます。