マイエラ修道院からドニに来ているあたしたち。結局、王さまが「たまには三人で飲んで来い、わしの分はあとで届けてくれればよい」って言うから、あたしたちはその通りにすることにした。
あたしだって、たまにはエイトと並んで食事がしたいわよ。それでちょっぴりお酒なんか飲んじゃって、赤くなったエイトと話すなんて最高ね。
そうそう、サーベルト兄さんもお酒に弱かったのよね。お酒に弱い男の人って情けないみたいに言われちゃうけど、そんなことないわ。節操なくカパカパ飲む人のほうがずっと嫌。このパーティーでは王さまもヤンガスもカパカパ飲むけど、説教たれたり、エッチなこと言ったりしないから合格ね。
ヤンガスに王さまの食事を預けて、あたしとエイトは宿を取りに行った。小さな宿だけど、優しそうなおばさんがいて、アットホームでいい感じ。
「大部屋いっぱいなんですか? じゃ、二人部屋と一人部屋で」
!!!
これって、チャンスじゃない???
エイトと二人っきりになれるかも!
……レディが誘うのなんてはしたないって、お母さんに言われそうだけど、でも、別になんかしようって訳じゃないわよ。エイトはオクテっぽいし……なんかされてもいいかなあなんてちょっぴり思うけど……やだ、あたしったら何考えてるのかしら。まあ、エイトと一緒なんて、サーベルト兄さんと同じ部屋で寝るようなものだしね。
……ただ、いろいろ話したいだけ。あたしのこと、もっと知ってもらいたいから。エイトに話すととても安心するのよね。いつだってちゃんと話聞いてくれるし、すごく親身になってくれるし、あたしに足りないところをアドバイスしてくれるし、ホント、エイトといるとサーベルト兄さんといるみたいなのよね。時々エイトがサーベルト兄さんに見えてくるもの……。
「……カ、ゼシカ、どうしたの? ホームシック?」
「えっ? やだ、ちがうわよ」
やだ! どうしてあたしがサーベルト兄さんのこと考えてると、いつもこんなふうに声をかけてくるの? まるでお見通しってこと? そんなところまで兄さんにそっくりだわ。口数少ないくせに、核心に迫ることをすぱっと言ってくるの……。ドキドキしちゃう。エイトはうふふって笑って、酒場に行ってみよう、と私をエスコートしてくれた。
酒場はけっこう人が入っていて、にぎやかだった。
「いらっしゃ~い、2名様ご案内!」
「あ、このお店、二階もあるんだね」
まず二階を一回りし、あたしたちは一階で食事をすることにした。
「ヤンもくるから、テーブル席でいいね」
そうね、並んで座れないのはちょっと残念だけど。なんて思ってるとすぐにヤンガスが来ちゃった。
「あのにいちゃん、大丈夫か?」
三人で乾杯し、チキンソテーなんかをつまんでいたら、ヤンガスは、奥の席でポーカーをやってる男たちを見て言った。ガラの悪い方の男を知ってるみたいだった。
エイトも同じ方を見て、あたしに耳打ちしてくる。
「ねえ、ゼシカ? 相手の人、聖堂騎士団員? さっき見た騎士団の人と同じ制服だけど、赤いね……。ニセ聖堂騎士団員? それともコスプレかな?」
ええっ? コスプレ? 違うわよね……。でもちょっと気になってあたしとエイトは他のコスプレ仲間を探してあたりを見回した。赤は他にはいないみたいだけど、青い騎士団員も姿が見えない。となりでヤンガスが赤い人をまだ心配していた。さっきのスキルアップでポイントを全部人情に振り分けてたものね。
「……おっと。今は真剣勝負の最中でね。あとにしてくれないか?」
「真剣勝負だとぉ~!」
あらあら、急にケンカになっちゃった。仲裁に入ったヤンガスまで巻き添えに……。人情に厚すぎるのもどうかしらね。あらくれ男とヤンガスがにらみ合っている。もうっ、なんなの? あたしは頭にカーッと血がのぼってきた。
「いい加減にして! 頭を冷やしなさいよ。この単細胞!」
お店の中で騒ぐなんて非常識よ! 絶対やめさせる!
そんなあたしに手を出そうとする乱暴者たちをヤンガスが追っ払う。今度は子分に手を出したあらくれがヤンガスを攻撃する。店の中はモノが飛び交い、お客さんたちはやんややんやの大喝采。ひどい状態になっちゃった。あたしの手にはどんどん熱がたまってくる。どっちにつくって? インネンつけて店で暴れようってほうを懲らしめるだけ! 赤い人に味方するつもりはないわよ。
「ひえ~」
壁際でエイトがなんか怖がってるけど、いったんカーッときちゃうと、メラ飛ばすまで止まんないわよ、あたし。手のひらにはもう火の玉が生成され、まさにはじき出る寸前だったのに、エイトと二人、赤い人に酒場から連れ出された。
「あんたら、何なんだ? ここらへんじゃ見かけない顔だが……。ま、いいや。とりあえずイカサマがバレずに済んだ。一応礼を言っとくか……」
イカサマですって? 赤もろくなヤツじゃなかったってことね! 仲裁に入って損したわ。無理やりエイトの手をとって握ってるし。
それに嫌だわ……あたしのこと下から値踏みするように見て……。なにが大丈夫か、よ。
「あいにく平気よ。じろじろ見ないでくれる?」
「その服じゃ、誰だってじろじろ見たくなるよ……」
エイトがなんか言ったようだけど、カッカきているあたしにはよく聞こえなかった。
赤い……ククールと名乗ったヤツは、無理やり指輪をあたしに押し付けて、マイエラ修道院に来いって言って走って行った。まったく、何なのかしら! 失礼なヤツ!
「エイト、そんな指輪受け取っちゃ駄目よ。マイエラ修道院まで行って、あのケーハク男に叩き返してやるんだから!」
エイトは指輪をじっと見つめ、困った顔をしている。
「兄貴? どうしたんでがすか? ゼシカの嬢ちゃんは、イライラして……やっぱりメラぶっ放しておいたほうがすっきりしたんじゃねえのかい?」
やけにすっきりした様子のヤンガスが来ていた。まったく、ヤンガスの言うとおりだわ。テンションマックスのメラでもお見舞いすればよかった。
もう、せっかくの食事が台無しよ! 騒ぎ起こしちゃったからもう店には戻れないし。
「……兄貴、すいやせん、備品の請求書……」
ヤンガスが、ゼロのたくさん並んだ請求書をエイトに見せる……。
「……銅のつるぎと、皮の帽子と……特薬草売って……キメラの翼も売らないと……」
エイトは道具袋をあさる。ああ、野宿に決まりだわ……。
「あたし、宿キャンセルしてくるわね」
「ゼシカごめん。気をつけて」
馬車に戻ると、エイトが寂しそうな顔で待っていた。
「明日、修道院行かなきゃ駄目だよね?」
「どうしたの? 珍しいじゃない、エイトがそんなこと言うなんて」
「そうでがすよ、何がご心配なんで?」
ヤンガスもびっくりしてエイトの顔を見る。
「なんか気がすすまないんだよ」
「大丈夫でがすよ、あっしがしっかり兄貴をお守りしやす」
「そうよね、エイト、おじさんにも人気があるから。修道院でも変な目でじろじろ見られてたわよね。キモいおじさんの巣窟だわ、あそこ」
「いや、そういうんじゃなくて……」
エイトは童顔で華奢だから、弟キャラに見られる。だから修道院なんかに行ったら、おいしく頂かれちゃう危険があるわ……いやだ、あたしったら、おいしく頂くなんて……。
「いや、だから、違うって。僕が気になるのは、あの赤い人だよ」
あんなカッコつけ男! エイトを上司にでも売り渡すつもりかしら!
「大丈夫よ、あたしがガツンと言ってやるわ。もう飲みましょう」
「そうでがすよ、あんなひょろひょろ兄ちゃん、兄貴には指一本触れさせやしねえ」
「そうよ、あたしだって、今度こそメラぶつけてやるんだから!」
ホント、失礼極まりないわ。あたしたちを何だと思ってるのかしら。あんな指輪押し付けて。
あんなの捨てちゃえばいいのに、エイトったら「人のものを勝手に処分するのは……」なんて……おりこうすぎるわよ。
「違うんだよ、違うんだよ……」
エイトがなんか言ったようだけど、ヤンガスの笑い声にかき消されて聞こえなかった。でもエイトはそのまま黙って食事を始めたから、あたしはそれ以上気にすることはしなかった。
次は指輪を返しに修道院へ向かいます。