「ヤン、ゲルダさんて知り合い? すんなり返してくれるの? 取り引とかしないよね? 盗賊の人ならやっぱり買値の1000ゴールドじゃダメだよね? まさか姫に乗ったりしてないよね? また誰かに売っちゃったとか考えられる?」
エイトは真っ赤になってヤンガスのトゲトゲメットを揺する。
「おい、リーダー、いい加減にしろよ!」
ヤンガスを責めたって馬姫さまが走ってくるわけでもなし。
「ククール……ごめん。でも心配なんだよ。姫が辛い仕事させられてたりとか、誰かに売られちゃったりとか……」
「そんなことがあってなるものか!わしの姫! おい、ゲルダとやらの家はまだか!」
トロデのおっさんは短い足をくるくると器用に動かし、鬼のような速さで南を目指す。
なんでこんなことになっちまったんだか。ゆうべ誘拐された馬姫さまは、女盗賊のゲルダってのに売られたそうだ。そいつのアジトがこのパルミドから更に南へ下ったところにあるという。
オレたちは焦っていた。おっさんに言われなくたって、今日はみんな急いでいる。なるべく戦闘を回避したいのに、こんな時に限って逃げられない。おまけに敵の数が多く、強い。
ヤンガスが、妙に責任感じていて、がむしゃらに攻撃をする。エイトも自分の回復もせずに剣を振り回す。回復役がオレ一人だとまわらねえ。つい前に立つ二人に呪文を使っちまうから、一番守備の弱いゼシカが危なくなる。
「ハニー、薬草使えよ?」
「それが、もうないのよ!」
何だって! 間に合わねえ!
「……ククール、パルミドの教会に行ってて。僕はゲルダさんちに……」
棺おけに二人入ったところでエイトが言った。頑固なヤツだ。
「リーダー、落ち着け! お前の棺おけ探しに行くのはごめんだ。出直す方がいい」
「……」
「パルミドでいいな。オレがルーラする」
オレはエイトの返事を聞かずに移動呪文を唱えた。
パルミドの入り口で、トロデのおっさんが立ち止まる。
「エイト、わしも悪かった。慌てさせて……。皆の装備品を見直して薬草も十分用意してまいれ」
「はい。午後もう一度ゲルダさんのところへ向かいます」
「……わしは外で待っておる」
おっさんはため息をつきながら背を向け、しょんぼりと草むらに座った。
だいたい、初めての場所に、何の準備もなしに乗り込むなんて、このパーティーには「計画性」ってもんがないのかね。おまけにすぐ感情的になるヤツばかり。
リーダーのエイトは口数が少ない代わりにしっかり考えているんだと思いきや、情に流されやすい。話を聞けば、チンケなお使いばかり頼まれやがって。ドルマゲスはどうしたんだ、ドルマゲスは。まあ、オレだって旅人レベルはまだ低いから、得意の剣や魔術で活躍しているとは言えないけどな。オレはさっさと仇討ちをして、自由になりてえんだ。やっと兄貴の目の届かないところで生きられるってのに。
……兄貴といえば……リーダーのエイトのヤツ、オレに対しては腫れ物に触るみたいにオドオドしやがって。気に入らねえな。
オレとエイトは棺おけを二つ引きながら教会へ向かっていた。全く、この町の人間ときたら、棺おけさえ目に入らねえくせに、ゴールドになる馬はさっさと盗みやがる。
もっとも、どんな馬だって信頼のおける馬宿に預けるか、見張りをおくのが常識だ。あんな立派な馬なんだからなおさらだ。ゆうべはオレが見張りに立とうとしたら、エイトが「全員一緒の行動をしよう」って言うもんだから酒場に入ったが……それがミスだったな。
エイトは顔を伏せたまま、無言で教会に向かう。棺おけを引いてるにしても歩みが遅い。バカなヤツだ。全力出し過ぎだ。適当にモチベーション保てよ。
「なあ、リーダー、二人を戻す前に言っておきたいことがある」
「ああ、いいよ」
エイトはオレを見ず、ふてくされたまま教会前の階段に座った。
「なに? 話って」
そう言うと上目づかいでオレを軽く睨んでくる。
青いヤツだ。物事がうまくいかなくてイライラしてやがる。
「お前さ、なんか勘違いしちゃいないか?」
「勘違い?」
丸い黒い瞳がやっとこちらを見た。
「そうだ。おっさんに聞いたんだろ? オレのこと」
「……うん」
ふうっ、と肩でひとつ息をつき、エイトは足元の石段に目を戻した。
「同情してんのか?」
オレは自分の生い立ちに同情されるのは大嫌いだ。別に不幸だったなんて思っちゃいねえし。まあ、レディたちのハートを掴むにはもってこいの話だけどな。
「違うよ……またか、と思って」
何だと? エイトの黒い瞳がまっすぐオレを見据えた。
「……」
オレが黙っていると、エイトは再び目をそらして、言った。
「……みんな、お兄さん好きなんだなって……。ヤンは僕より年上なのに僕を兄貴って呼ぶし、ゼシカは僕を通して亡くなったお兄さん……サーベルトさんを見てる。姫だって昔から僕を……。そしたらククール、君もお兄さんとワケありだし。僕もお兄さんがほしいよ」
ワケあり? おい、何の話だ? 何を見た?
……オレは動揺した。だが、顔に出すようなオレじゃないが。
兄貴が欲しいのか。こいつ、ブラコンか。
「……お前、兄貴が欲しいって……そんなことずっと悩んでたのか?」
「いや、お兄さんが欲しいっていうのは冗談。……ククールは僕とマルチェロさんを重ねて比べたりしてないけど、時々上の空だし。そんな時はきっと修道院のお兄さんのことを考えてるんだろうなって。ねえ、ククール、君は……」
再び黒い瞳がこちらを見る。ゆらゆらと揺れている。
オレの喉がゴクリと動いた。なんだ、こいつ、この瞳の力……。
オレは……? オレはなんだってんだよ!
「オレは……?」
「ううん、いい」
力なく首を横に振るエイトは頼りなくて。風に揺れるカモミールみたいなヤツだ……。
「……なあ、ゼシカのことだけど、お前、気づいてたんだな。お前に兄の姿を見ているって」
「それは、はじめからね」
寂しそうにため息をつく。
「ゼシカはサーベルトを忘れられない……」
「ククール、言わないで。わかってる。ただ、怖いんだよ。ゼシカが僕じゃなく、サーベルトさんを見てるってことに、いつ気づくのか。君が現れてから、それはもうすぐなんだなって予感がしてる。……それと、今回の事件で、やっぱり僕は王と姫を守らなきゃならないって、改めて自覚しちゃってね……心から。僕はいろんなことに本気にならなきゃいけないし、でも……」
「でも……?」
なんだか要領を得ない話だが、重い砂袋からほんの少しずつ砂をとりだすように、エイトは一生懸命しゃべる。そして空を見上げたエイトは、まるで子供のようだ。幼い顔つき、女のように細い首、華奢な肩……戦いの時のあのバカ力がまるでウソみたいだ。
「ううん、いい」
エイトは、また力なく首を横に振り、さあ、教会へ行こう、と言って立ち上がった。オレは話し足りなかったが、まあ、普段喋らないヤツにしてはよく喋ったほうだろう。よしとしよう。
「二人ともごめんね。やっぱりしっかり回復しながらじゃないとね。持ち物、薬草ぱんぱんにしておいたよ」
教会で無事に二人を蘇生してもらい、荷物なんかを整理する。ちょっと休んだらまた出発だ。
「面目ねえ……。エイトの兄貴に要らぬ心配をさせやした」
「あたしも、HP低いのに無理してごめんなさい。足手まといになっちゃった」
「ああ、二人とも、そんなこと言わないで。頑張ろうね。辛かったらまた宿屋で休めばいいし。僕も焦って悪かったんだよ」
「兄貴……」
ヤンガスは泣き出した。まったくいいトシしてよく泣くヤツだ。
「エイト、あたしももっと強くなるわ。こんなじゃ兄さんの仇が討てないもの」
やれやれ、また兄さんか。エイトも報われねえな。かわいそうだが、ゼシカはオレがもらう。
「ハニー、棺おけは辛かっただろう? 早くオレが蘇生呪文を覚えられればいいんだが」
「仕方ないわよ。戦いだもの」
「つれないなあ、ハニー。君の回復はオレに任せてくれよ」
「いいわよ! 自分で薬草使うから」
「君のそういう気の強いところ、オレは好きだぜ」
「べ、別にあんたに好かれたってうれしくないわよ」
「素直になれよ? こんなに美形のナイトが君を守るって言ってるんだ。君は安心して……」
「おい! しつこいぞ、もうやめておけ」
オレとゼシカの間に割り込んできたのはヤンガスだった。
「そうだな。レディにしつこくするのはカリスマとして美しくない」
「何がカリスマよ、ケーハク!」
オレはゼシカにウインクしてその場を離れた。ゼシカはぷりぷり怒りながらエイトに文句を言っている。
ヤンガスが後を追ってきた。
「おい、ククール、邪魔すんじゃねえぜ?」
「トゲトゲ、どいういうことだ?」
「あの二人に決まってるだろう」
「アイツらそんなんじゃねえよ。それに仮にそうだとしても、オレが彼女を口説いちゃいけねえ法律でもあんのか?」
ヤンガスは、うっと言葉を詰まらせ、くるりと背を向けた。
オレって嫌われてんな……。まあいいや。オレはオレさ。
「じゃ……行くよ」
不安そうなエイト、怒りテンション50のヤンガス、メラを散らすゼシカと共に、オレたちは再び女盗賊のアジトに向かった。
エイトさんがいろいろ悩み始める話でした。剣士像のイベントはとばします。次はゼシカの望みがかないます。