「納得できない……。どうして今さらお母さんの所に行かなくちゃいけないの?」
「オレはいいぜ。ハニーの母上には是非ともご挨拶しないとな! オレがいるから安心してお嬢さんをお任せくださいって」
「あんたがついてきたら、お母さん余計心配しちゃうじゃない!」
「まあまあ、まずは兄貴に会ってから。ハニーもオレの兄貴に会いたいだろ? 久しぶりだなあ! 元気かな、あいつ」
旅を続ける前に、マイエラ修道院とリーザス村へ行こうと言ったのはエイトだった。ゼシカにはああ言ったが、オレもなんで今さら身内に会わなきゃなんねえんだと思ったぜ。修道院に行ったってどうせ兄貴はオレのことなんか無視するに決まってるんだから。まあ、新入りのオレがあーだこーだ言っても、ヤンガスに睨まれるだけだからな。ここはおとなしくリーダーさまの命令に従いましょう。
そんなこんなで、オレたちはマイエラに到着した。さっそく団長どののお部屋へ。
「お前などに用はない! さっさとここから出ていけ!」
な、予想通り。オレだって用はねえっての。
「相変わらず嫌なヤツね!」
「まったくでがすよ、兄貴、早くここを出やしょう。あの男に会うとあちこちカユくなってきやす」
「なんだと? 兄貴をダニみたいに言いやがって!」
「ごめん、ククール。次行こう?」
オレは冗談のつもりでヤンガスに言ったんだが、エイトが思いのほか、オタオタしやがった。さて、次はゼシカの実家だ。
「あの子のことは諦めています……」
「ほらね、だからいいって……」
おっと、すげえ美人の母上だぜ。ゼシカはオヤジ似か? いや、そんなことはどうでもいい。ご挨拶申し上げねえとな。
「お嬢さんは私にお任せを。私、聖堂騎士団員のククールが責任を持ってお守りいたします」
「あの、マダム? 僕はエイトと言います。トロデーン出身です。このパーティーのリーダーとしてお話があるのですが、ほんの少しお時間いただけますか」
優雅に挨拶したオレには曖昧に返事しただけのゼシカの母上は、素直なエイトにはにっこり微笑んで「ええ、よろしくてよ」と言った。ちぇっ。
「外で待ちましょうよ。息が詰まるわ」
エイトを残し、ゼシカが先頭に立って屋敷を出る。
「俺はここで待つ」
ヤンガスはそう言って、玄関を出た所から一歩も動かない。ゼシカは村の子供たちにせがまれて魔法の手ほどきをはじめた。オレは仕方がないから一人で村を見て歩いた。装備や武器にロクなのがないとこ見ると、このあたりは平和なんだろうな。村の連中ものんきなヤツが多かった。そしてみんなこぞってサーベルトのことをほめまくる。
「へえ、あんたがあのサーベルトさんの仇をねえ。サーベルトさんに比べるとだいぶ頼りないけど、まあ、頑張っておくれ」
このおばちゃん、さっきはエイトに「サーベルトさんに負けないくらい男前だねえ。応援してるよ」なんて言ってチキンサンド差し入れしてたぜ? いくらエイトがサーベルトに似てるからって、どんだけサーベルト好きだよ。
ゼシカ、君の兄さんの幻はオレが消してやる。いつまでも死んだ人にこだわってちゃいけない。誰も死んだもんには勝てないんだから。なんてな~。
「あっ、いたいた、ククール!」
おばちゃんたちの井戸端会議に参加していると、エイトがオレを呼んだ。お話とやらが済んだんだな。
「あのさ、今日はここで宿とるよ」
「いいぜ。……あれ? ゼシカは?」
「ゼシカはお屋敷。ちゃんと事情話したら、ゼシカのお母さんよく理解して下さってさ。ありがたいことに馬車も王も泊めてくれるって」
へえ、オレには冷たいのに、魔物と馬には優しいんだな、あの母上様は。
「ふうん、まあいいや。じゃ、今晩は三人で飲もうぜ」
そう、三人で飲んで、予想通り即寝のヤンガスが爆睡始めたところで、オレは宿屋の外に出る。エイトとはゼシカのことで決着つけなきゃならねえからな。
オレは村の入り口まで来て、風車を見上げた。
ほらほら、案の定、5分と経たないうちにエイトがオレを追ってきたぜ。おもしれえな。慌ててやがる。
「どこか行くの?」
いちいち拍子抜けするヤツだな。どこ行けってんだか。
「なんだよ、慌てて。オレがいないと困るのか?」
「……うん。多分」
多分かよ!
「ねえ、マイエラに行くの? 今からマルチェロさんに会いに?」
「行くわけあるかよ。さっき会ったんだし。お前、ヘンだぞ? お前こそ一番ブラコンじゃねえ?」
「そうなのかな……」
エイトはため息とともに小さくつぶやいた。なんだよ、霞みてえにはかないヤツだな。
「頼られるのに疲れたのか?」
エイトはまた「そうなのかな……」とつぶやいて、風車を見上げた。
オレより背の低いエイト。オレより年下のエイト。オレより世間知らずなエイト。でもコイツはオレより厄介なモノをしょっている。
「じゃ、休め」
えっ? という表情でエイトはまっすぐにオレの目を見た。夜だからなのか、黒目がやけにぱっちりしている。猫かよ?
「ぐっすり寝ろ」
「寝てるよ」
「うそ言え。眠れてないんだろ。オレと同じだ。いつも気配が気になって眠れない。兵士も騎士団も同じだよ。おまけにお前は考えすぎだ。なんか困ってるんだろ?」
「そうなのかな……」
エイトは黒い瞳を再び風車に向けた。なんだろう、コイツ。いじめたくなる。
「……な、たまってんじゃね?」
「えっ?」
おもしれえ! エイトは目をまん丸くしてオレを見る。開いたクチがふさがらねえってカオだ。
「ちゃんと出しとかねえとカラダに悪いぜ。なんならオレが手伝ってやろうか?」
くだらねえ冗談に、エイトは真っ赤になってうつむいた。純情なのか、妄想家なのか、どっちだ?
「ククール、修道院ではいつもそんなことしてたの? その、……お兄さんの……」
「ばっ、バカ言え!」
コイツ、ナニ知ってるんだ? ……いや、そんなはずはねえ。それに修道院ではもっと……なんて言えねえよな。オレは動揺した。クチで負けちゃいられねえぜ?
「……なあ、お前、まさか、どうて……」
ボコッ!
「いてっ! 何すんだよ」
エイトはオレのみぞおちに正拳突きを入れやがった。
「ごめん、つい」
「つい、じゃねえよ、バカぢからだな」
エイトは詫びを入れるが、それは口先だけで、ちっとも悪いと思っていないらしい。黒い瞳がキラキラしている。
「ねえククール、君はゼシカを好き?」
お? 本題突入か。それにしても単刀直入なヤツだ。それならいいぜ、オレもはっきり言おう。
「おう、好きだぜ。モノにしたい」
「お兄さん……マルチェロさんとならどっちが好き?」
「なっ?」
コイツ、ホントに何知ってるんだ? オレはこんらんした。
「誰かを好きになれば、お兄さんのことを忘れられるの?」
なんだ、そういうことか。あせっちまったじゃねえか。
「ああ、サーベルトのことか。ゼシカがオレを見てくれたら、いずれサーベルトの幻影は消えるだろうと思う」
……そう言ったが、確信はなかった。死んだ人にはかなわねえ。
「ゼシカは君を見ていない」
「そうだな。お前にサーベルトを見ている」
そう、認めたくないが、今のゼシカは誰が何といおうと駄目だ。兄の呪縛から抜け出せないでいる。というより、抜け出す気などない。
「お前、コクるのか?」
「いや。なんて言うか、好きなんだろうけど、なんか違うっていうか……ゼシカのことはかわいいなって。それに強いし。あの強さに憧れる。……ただ、ゼシカと話してると、僕の真後ろにサーベルトさんがいるみたいで。最近はもう重なっちゃってる感じがするんだけどね。そのうち僕が僕じゃなくなっちゃう気がしてるんだよ」
「ゼシカを好きなんだろ? お前を見てくれるようになるまでは待てないのか?」
「僕じゃ駄目だ。ゼシカはいつまでもサーベルトさんの幻影から離れられないよ」
「似てるみたいだからな、お前」
今はもういない、好きなヤツに似てるって辛いよな。似てるのなんて自分のせいじゃないのに。
「それでもいいかなって思ったけど……」
エイトはまた風車を見上げた。
ククールは、公式通り、超モテモテです。エイトさんはもっとモテモテの設定です。ゼシカをめぐる二人の話は続きます。