「なあ、リーダー? ゼシカをモノにしたいんだろ? いくらお前がサーベルトと似てるからって、それとこれとは別だ。まさかゼシカだってサーベルトとなんかしてたわけじゃねえだろうし。きょうだいなんだから……」
自分で言ってて確信はなかったが。
オレは身を引くつもりはない。ないが、エイトの本心を量りかねていた。
「ゼシカを傷つけたくないんだ。もし、本当に僕を見てくれたら……」
「律儀なヤツだなあ。だんだん自分を見てくれるようになればいいやとは思わねえ? 傷と思うかは本人次第。好きならヤりたい、と思うのが自然だろ? 十やそこらの小僧じゃあるまいし」
「ククールはゼシカと、その……そういうことになりたいの?」
そらそうだ。あんな魅力的なコは今までに見たことがない。エイトの言うようにゼシカは強い。まっすぐだ。それにあのナイスバディ。何とも思わない方がおかしい。
「ゼシカがオレと付き合ってくれたらね。オレだって彼女を傷つけるようなことはしたくない。騙してどうのこうのなんて、卑怯なことはしないぜ」
実際、オレは女にモテる。女に苦労したころはない。でもゼシカは違う。なかなか一筋縄にはいかない。
「サーベルトさんには適わないよね」
「そうだな……」
エイトのヤツ、核心に迫りやがる。オレたち、フラれるのかな。
「ククールならサーベルトさんの幻影から救えるんだろうな」
「救うとか、そんな大げさなモンじゃないだろ?」
エイトは小さなため息をついて近くの木に寄りかかった。
結局、話し足りないままエイトがうとうとしはじめたので、オレたちは宿に戻った。
翌日、オレたちは船を探しに西へ出発した。パルミドの情報屋が言ったとおりの場所には、古代の船があったんだが。どうやって海へ。
「すんなり手に入るとは思ってなかったでげすが……」
「そうだね。困ったなあ」
オレたちはだだっ広い荒野で途方に暮れた。
「仕方がないのう。我がトロデーンの書庫にならこの秘密がわかる書物があるやもしれぬ」
「本当か? おっさん」
「そうじゃ。ここからトロデーンは北にほとんどまっすぐじゃ」
「んじゃ、行くか。リーダー、道分かるか?」
「大丈夫じゃ、わしが分かる」
トロデーンまでの道のりは、おっさんの言うとおり難しくはなかったが、敵が強い。城にかけられた呪いのせいなのか、「まがまがしい」気を放つヤツがいる。
エイトは無言でブーメランを投げまくっていた。
「久しぶりじゃ……」
トロデーン城に向かうトンネルの中、トロデのおっさんが呟く。エイトは口を開かない。
「ねえ、ククール? エイトった元気ないわね」
君の魅力のせいさ、とは言えねえな。
「ああ。そりゃ気が滅入るだろうよ。リーザス村が呪いでみんな固まっちまったら楽しくないだろ?」
「そうね……。ホント、ドルマゲスってひどいヤツ! 早くぶちのめしたいわ」
打倒ドルマゲスにメラを散らすゼシカ。頼もしいな。男二人でキミのことでもやもやしてんだぜ? 知らねえって罪だな。
なんとなく暗い雰囲気のまま、オレたちは静かに進む。徐々に見えてきた大きな城の影は赤黒く、ただならぬ気配があたりを広く覆っていた。そして、城は想像以上にひどい状態だった。
「あの杖を盗まれたところから始まったのじゃ……」
おっさんが苦しそうに事の始まりを話しはじめた。杖を取ったドルマゲスはおっさんと姫さんを魔物と馬に変え、トロデーンの結界に守られた杖を持ち出した。そして城に呪いをかけると、どこかに行ってしまったという……。
「兄貴……」
落ち着かないエイトの様子に、舎弟ヤンガスも不安そうだ。だが、元気づけようと大声を上げる。
「城の中で船のことを調べるんでがしょう、さっさといくでげすよ」
ヤンガスに促され、エイトも気を取り直したかのような表情だ。
図書室は外に面していたが、出入り口は塞がれており、城の中から回っていくしかなかった。エイトは石になってしまった人を心配そうに触れながら図書室を目指す。
「魔物も強いな……」
オレたちはヨロイの魔物に手こずった。エイトは回復重視の作戦をとったから、なかなか進めず、目的の図書室にたどり着くころにはMPが底をついた。
図書室でトロデのおっさんも加わって文献をあさった。すると、思いがけず再びイシュマウリの世界とつながり、ヤツのおかげで船の秘密がわかった。急な展開だが、やる事が決まったのは前進できるってことだ。ただ、面倒なことにまた探し物をしなきゃならねえ。しかし、船がないと話にならない。ドルマゲスは海を歩いて渡れるというのだから。
「エイトよ、お前だけが頼りじゃ。この城の呪いをとけるのはお前しかいないのじゃ……」
おっさんが悲痛な面持ちでエイトに詰め寄る。自分の城がこんなになって、一番つらいのはおっさんだろう。
「王……。まだお時間いただきますが、必ず呪いをときます。必ず……」
そう言うエイトの表情は固い。
イシュマウリに教えてもらった、世界のどこにあるかわからないという月影のハープ。パルミドの情報屋に聞くと、アスカンタにあるだろうという。では、いざアスカンタへ、という運びだが、なぜかまたリーザス村に泊まろうとエイトが言い出した。
……そしてこの前と同じシチュエーションで、オレとエイトは風車を見上げている。
「なあ、どうした、リーダー。暗いぜ?」
なかなかクチを開かないエイトに、オレは軽口を叩いてやった。
「ドルマゲスの呪い、とけるだろうか。ドルマゲスさえ倒せばって信じてるんだけど」
「さあな。そうでも思わなきゃやってられねえべ」
オレは木に寄りかかった。
呪いがとけるかどうかは何とも言えねえが、ドルマゲスを倒したところでサーベルトだってオディロ院長だって生き返りゃしねえ。……オレの旅の目的はだんだん見えなくなっていた。ただ、ドルマゲスを倒すまでは修道院には帰れない。兄貴がそう言ったから……。あーあ、何やってんだろう、オレ。
「……いっそ、お前のせいだったらよかったのにな」
「何が?」
「城の呪いだよ。お前がポカやったせいであの杖が盗まれたなら、お前だって……っ! 何すんだよ!」
エイトがオレの胸ぐらをガッチリと掴んだ。仲間には決して見せない怒りの表情でオレを睨む。右の拳は正拳突きの構えをとっていた。
「誤解すんなよ。オレは院長が死んだのがオレのせいならよかったのにって思うんだ」
……そう、オレがポカやったせいでドルマゲスにやられてしまったんだとしたら。兄貴は安心してオレを呪い、オレは修道院中の恨みを一身に背負ってドルマゲスを追える。
「今のオレはダメだ」
エイトは手を放した。しかし視線を外さない。雷光のような強い視線だ。
「……なら、僕らとどうして一緒にいるの? ゼシカといたいから?」
違う。
「ククール、言ってよ!」
オレは我慢できずに視線を外した。エイトの黒い瞳に映っている自分の姿に耐えられなかった。
「ねえ、ククール。君は誰のためにドルマゲスを追うの?」
エイトはその場に崩れ落ちた。草むらに両手をついてしゃくりあげる。がっくりと頭を下げ、肩が硬直している。身体全体は小刻みに震え、膨れ上がる大きな苦しみに耐えているよう。
「おい、エイト……」
オレの声も聞こえていないようだ。もし、できなかったら……できなかったら……と何度も繰り返すエイト。
オレはかがみこみ、エイトを抱きしめた。エイトは幼い子供のようにしがみついてきて、オレの胸に涙とか鼻水とかいろんなモノをこぼしながら、わんわん泣いた。
エイトの髪からは日なたのにおいがした……。
「おい? 何をしてやがる? どうして兄貴が泣いてらっしゃるんだ? お前、まさか!」
背後の気配に気づくのと、声をかけられたのと同時だった。
「ト、トゲトゲ! いつの間に?」
「おい、俺の兄貴になんかしやがったらただじゃすまないぜ?」
元、とはいえ山賊稼業の長かったヤンガスはドスのきいた声で脅す。エイトはオレの袖口で分泌物をぬぐいながら顔をあげた。
「ヤン、違うんだよ。ククールが逃げ出そうとするから、見張ってたんだよ。説得してたら涙が出ちゃって……」
おい、違うだろ! しかしこれを聞いたヤンガスは表情をいつものような舎弟顔(?)に戻す。
「そうでがすが。んじゃいいです。あっしはちょっと用足しに……」
「やだな、宿にトイレあるでしょ?」
「あっ、そうでがした。つい野宿の癖で。寝床の側で用足ししちゃいけねえからつい……」
お前はイヌか!
じゃあっしはもう少し寝るでがす、と言ってバタバタと宿に戻って行く。やれやれ。
「なんだよ、オレが逃げ出すなんて」
「ああごめん。つい。でも大丈夫、ヤンは覚えてないから。山賊って夜に弱いんだよ」
そうなのか? まあいい。それより、さっきまでのエイトはどこへ行ったかというほど、その表情はすっきりしていた。
「オレたちも戻ろうぜ。少しでも休んでおかねえとな」
「うん。……ねえ? 明日、マイエラに寄らなくていい?」
「いい!」
ったく、いちいち行かなくていいっつーの。
争奪戦、というほどのものではありませんでした。だんだん違う方向に進みます。次は西の大陸へ向かいます。月影のハープ関連のイベントは飛ばします。