ゴルドでイヤミ
「なあ、行って見ようぜ?」
そう言ったのはククール。ククールだけじゃねえ、ゼシカの嬢ちゃんももちろん俺も、エイトの兄貴をせっついいている。
俺たちは西の大陸目前でリーザスへ引き返し、兄貴のご体調のこともあり、船に慣れるための気分転換に南の大陸へ渡った。兄貴はゲルダの所へ行こうとおっしゃったが、俺は全力で阻止させていただいた。で、南の大陸でうろうろしていたら変なオヤジにつかまり、モンスターバトルロードってのに参加させられ、余計な日にちをかけてしまっている。しち面倒くせえイベントをこなしつつ、ようやく西の大陸に渡れたってのに。エイトの兄貴がいやいやをなさるんだ。
「ねえ、何かいい装備とか買えそうよ。大きなお城なんだし……」
「うん……」
西の大陸はとても広く、どんな敵がいるかわからねえ。ククールのイヤミ兄さんからもらった世界地図を見ながら、海の生き物をよけつつようやくたどりついたこの場所は、どうやらサザンビークって城に行かれそうなんだ。
「おい、おっさんまで何だよ?」
ククールの言葉を聞き、俺も馬車に振り返った。御者台のおっさんも馬姫さまもうなだれている。
「みんな、ごめん。僕が話すよ……」
エイトの兄貴は暗い表情で、サザンビークと交わされた約束についてお話しなさった。
「そうだったの……ごめんなさい。あたしたち知らなくて……」
サザンビークの王子と馬姫さまは、生まれた時からの許婚なんだと。じいさん、ばあさんの代からの約束じゃあ仕方ない。まったく王室ってのはいろいろなしがらみがあるもんなんだな。今の姿じゃわかりゃしねえだろうが、気がのらねえ、ってのはわかる。
「じゃあ、気分を変えてゴルドでも行ってみねえ? 三大聖地の一つだぜ。行ったことねえだろ? また船に乗るけど、そんなに遠くねえし。リーダーもう大丈夫だべ? 薬作ってやったし、甲板にいりゃいいんだから」
ククールが陽気に言うと、嬢ちゃんも同意した。暗い雰囲気が少しでも変わればいいんだが。
エイトの兄貴もトロデのおっさんも、ククールの意見に乗っかったので、聖地ゴルドを目指すこととなった。ドルマゲスの足取りが気になるが、今は兄貴たちのお心を大事にして差し上げたい。
ところで兄貴は、もう船に乗っても倒れこむほどには酔わなくおなりだったが、やっぱりあまりお好きじゃねえみたいだ。船のへりに寄りかかり、空を仰いでいらっしゃる。そしてふうっと乾いたため息をもらしなさった。ククールと嬢ちゃんも心配して寄り添う。
「エイトの兄貴? 大丈夫でがすか? 船の上では戦いのときの並び順を変えたほうがいいかもしれません」
「そうだな。トゲトゲの意見に賛成だ」
「あたしもよ」
「うん、僕、前がいいんだけど、この場合は仕方ないね。ヤンはどんなふうにしたい?」
どんなふう? あっしはどんなプレイでもいいでがすよ。今の気分は人魚姫プレイ……ウロコの鎧を解体して兄貴の足を……っと違った。
「あ、あっしが前で、ゼシカの嬢ちゃん、ククール、兄貴の順で」
「うん、いいわね」
「駄目。オレ、リーダー、トゲトゲ、ゼシカだ」
「兄貴はしんがりにすべきだ」
「そうよ、船に弱いんだから」
「大丈夫だろ? リーダーなんだから。いつまでも船に弱いままってわけにいかねえよ」
「……うん、ククールの言うとおりだ。それで行こう。ゴルドまで連れてってね」
俺も嬢ちゃんも納得いかなかったが、兄貴がいいっておっしゃるんだから仕方がねえ。
しかし、海の魔物はなかなか手ごわい。
「ちょっと! やっぱり順番変えましょうよ。ククールったら回復ばっかり。守りが弱いんだから、先頭にいちゃダメよ。やっぱりヤンガスが先頭に……」
「いいんだ! ゴルドまでこれで行かせてくれ!」
ククールの奴、いつになく強い口調で言う。でも嬢ちゃんの言う通りだ。ククールは身の守りが弱いし体力も低い。先頭だとくらうダメージがでかい時が多いから、どうしてもククールの回復が頻繁になっちまう。嬢ちゃんの意見に賛成しようと口を開きかけたとき、エイトの兄貴がおっしゃった。
「みんな、ごめん。でもこのまま行かせて。お願いだよ。このまま行きたいんだ!」
兄貴! そんなマジな目を涙でいっぱいにしてイかせてなんておっしゃらねえで下せえ! 俺はさりげなく自分の中心を押さえた。
「エイトがそう言うんならね……ね、ヤンガス?」
「えっ? ああ、いいでがすよ」
「ヤン、ありがとう。僕のワガママ聞いてくれて。ちゃんとするから一緒に行ってね」
一緒にイクですって?
「ちょっとヤンガス、貧血起こす場面じゃないでしょ?」
ああ、そうだ。だが、一度集まった血液はそう簡単には戻っていかねえ。嬢ちゃんにゆさゆさと肩を揺すられ、なんとか正気を保った。
まあ、そんなこんなで、三大聖地の一つ、ゴルドに到着だ。
巨大岩を掘ってできたような、ごつい島。島全体が信仰の対象になっているらしく、あちこちでゴルドの砂を持ち帰る参拝客が目につく。
「すごいわね。この女神像。ちょっとリーザス像に似てるのは気のせいかしら」
「うん、似てるね。口元なんか特にさ」
「本当でがすね」
巨大な女神像は、はるか高みから俺たちを見下ろしていた。確かにきれいな顔立ちではるが、あまりにもデカすぎて圧迫感がある。言いかえると、ちょっと怖い。
「ふうん、どの女神像もおんなじ顔だな」
「ククール、そんな言い方……バチが当たるわよ。あんた、お坊様のクセに」
「いいんだよ。鰯の頭も信心からってね」
「やだ! そんなこと、あの人たちに聞かれたら……」
嬢ちゃんの視線の先、神殿の入り口は、いかつい聖堂騎士団が見張っている。
「ロクなもんじゃねえよ。わかるだろ? ゴルドまんじゅうにゴルドせんべい、ふざけてんだよ」
ククールが聖堂騎士団員らしからぬ発言をぽんぽん出すから、さすがの俺もひやひやした。
エイトの兄貴は、船を降りて陸に上がった途端、水を得た魚、じゃない、地に足をつけた子犬? のように楽しそうに散策なさっていて、案の定、神殿の入り口の聖堂騎士団員に叱られていなさる。ったく、聖堂騎士団員はどこでも……今、兄貴を小突きやがった馬面の男は、マイエラの……? なんて思っていると……。
「……おやおや。これはめずらしい顔に会うものだ。髪の毛ひとすじほども信仰心など持ち合わせていないお前が巡礼に来るとは……」
出たあ! ザ・イヤミ!
ククールのイヤミ兄さんが、いかにも腐れた坊さんと一緒になにやらこそこそと話しながら、神殿から出てきたんだ。相変わらず人を見下したような顔しやがって。俺はちらりとククールの奴に視線を投げた。嬢ちゃんも同じだったようで、不安そうな顔でククールの様子を伺っていた。だがククールは、表情を変えずイヤミを見ていた。特に食って掛かるようなことはせず、黙って道を開けている。
「……うん、もうヤツとは何の関係もないんだ」
ぼそっとそんなことを言う無表情のククールとは対照的に、エイトの兄貴がいつになくおっかねえ顔つきで、騎士団長を見なさるのが印象的だった。まあ、兄貴は曲がったことがお好きでない。あんな、袖の下をホイホイ渡すような男は到底、お許しにならねえだろうな。さすが、俺の見込んだ兄貴。漢としてもう立派におなりです。俺は目頭が熱くなった。
「あの人見てたら、なんだかお祈りしようっていう気分がなくなったわ。不思議ね。マルチェロって今はマイエラの院長やってるんでしょ? 前より胡散臭さが倍増した気がするんだけど」
ククールに聞こえないように、嬢ちゃんが耳打ちしてきた。
「ちげえねえ。目つきの悪さにも磨きがかかった気がするぜ」
腐れ坊主に賄賂を贈って、何をする気なんだろうか。
「修道院の院長より上になるとすると、何になるんだ?」
「さあ……。一緒にいたオジさんは大司教って言ってたけど、ゴルドの大司教なのかしら。それともアスカンタ関係?」
「……」
「……」
俺も嬢ちゃんも、一般市民だから、そういう仕組みにはとんと疎い。ククールに聞けば一発だろうが、坊主の上下関係なんて知ったところで何の役に立つのやら。ククールはエイトの兄貴と話をしながらこちらへ向かってくる。
「まあ、今の話はここだけにしようぜ」
「そうね。マルチェロに関してはククールが一番気にしてるでしょうから」
「あ、兄貴、このあとどうしやす?」
俺は話題を変えてみる。
「うん、それなんだけど、この島に強いスカウトモンスターがいるらしいから、ちょっと会っておこう。できたらスカウトして、またモリーさんのバトルロードへ行こう。西の大陸はその後ね」
この後、兄貴のおっしゃった通りに、俺たちはお祈りもそこそこに海岸に出て、石像のモンスターをスカウト。またバトルロードに出場し、商品を手に入れた。そしてようやく西の大陸へ渡る。渡るんだが、ククールの作った酔い止め薬がよく効き、兄貴がそれはそれは船旅をお楽しみなさるから、遠回りをしてようやく西の大陸に到着。すっかり夜になっていた。
バトルロードではそろそろCランク突破するころでしょうか。次はベルガラックに行きますが、その前にエイトさんが奇行(?)に走ります。