「サザンビーク城より、先にベルガラックへ行かねえか?」
ようやく到着した西の大陸、海辺の教会でククールが提案した。
「そ、そうね。エイトも前に言ってたし、羽目はずさなきゃいいんじゃないかしら……ね? ヤンガス? ヤンガスもそう思うでしょ?」
「……へっ? そ、そ、そうでがすね、兄貴、気分転換に……あっしも行って見てえです。酒場も立派だそうだし……」
「みんながいいならいいよ。ドルマゲスもベルガラックに行ったみたいだし」
ゴルドに行ってから、エイトの様子がおかしい。ククールがおかしいならうなずけるのに。あのイヤミな騎士団長マルチェロに出くわして、イヤミを言われたには言われたけれど、ククールはその場で表情一つ変えずにいた。でもエイトときたら、何を思うのか、厳しい表情でずっと黙っていた。古代船を探しに行く前、マイエラに無理やり寄ってマルチェロに会ったときはなんだかオロオロしていたのに。この間に何かあったのかしら。一人でいるときに会ってたとか?
今日はゴルドから南の大陸へ行き、モリーさんのところに寄ってから西の大陸に渡ったのだけれど、ここまでの船旅は快適だったみたいで(ククールの作った薬が効いたの)、エイトは楽しそうにしていたわ。でも、海辺の教会に入ってからまたエイトのだんまりが始まっている。エイトったら、ときどきこうやって何も言わなくなるのよね。何を気にしているのかしら。やっぱりサザンビーク城が近いせいかしら……。
その夜──満月がひときわ明るかった。あたしの泊まっている部屋の窓から、誰かの言い争う声が小さく聞こえる。
「……いいってんだろ? お前、おかしいぞ!」
「ダメだよ、あのままじゃ。ちゃんと報告しなきゃ。今までどんな風にドルマゲスを追ってきたのか……ね? 遊んでたわけじゃないんだから」
「いいんだよ、もう。あいつはオレのことなんて……」
「だから! さっきから言ってるだろ? 報告するんだよ。おはなしするんじゃなくて!」
「ああ、もうわかったよ。行きゃいいんだろ? でも明日な」
「ダメ。今」
「今ァ? 正気かよ。こんな遅く。今日の今日で会えるわけねえじゃんか。あいつ、ゴルドでなんか悪いこと考えてるみたいだったし」
「いいよ、それでも。言づてしよう。修道院にククールの知ってる人いるんでしょ?」
「いるけどよ、あいつはゴルドにいるって」
「じゃあ、ゴルド行くよ」
何を言っているのかよく聞こえなかったけど、話し声がしなくなるのと二つの人影が消えたのはほぼ同時だった。……エイトとククールに見えたのは気のせいじゃないと思うけど。こんな時間からどこへ行くのかしら。
* * * * *
……エイトはオレの腕を掴み、有無を言わせずルーラした。
夜のゴルドは薄気味悪い雰囲気におおわれている。宿屋は相変わらず呼び込みを続けているが、さすがにゴルドまんじゅうは売り切れみたいだな。
「やっぱり入れないか……」
女神像のある神殿は、思った通り立ち入り禁止。エイトは聖堂騎士団員の人いないかなあ、と言いながらきょろきょろしている。
「なあ、いいよ。帰ろうぜ」
「ね、あの人!」
オレの言うのも聞かず、人影に向かってエイトは走り出す。面倒くせえなあ……。オレはのろのろと後を追った。
「マルチェロ? ああ、マイエラの院長か。ニノ様と一緒の所を見たが……。いずれにしろ、神殿には誰もいない。マイエラに帰ったのではないか?」
「あの、じゃあマイエラの騎士団の人を見かけませんでしたか?」
エイトは見知らぬ騎士団員に食い下がる。
「いない」
「え?」
「マルチェロ殿はニノ様と訪れていたからな」
「……。わかりました。ありがとうございます」
見知らぬ騎士団員は、がっかりした表情でお辞儀をするエイトに近寄り、肩を抱くように手を乗せた。
「彼は……マイエラ修道院に帰ったのだよ。修道院は規律が厳しい。もし彼が帰っていても、今から訪ねて会える可能性はないだろう。……君は旅人のようだが……こんな夜更けにこんなところを出歩くのは危険だぞ?ある意味、フィールドよりも……」
ヤバいぞ! 夜のゴルドは
エイトは逃れようと身をよじったが、上背のある男にぴったりと寄り添われ硬直している。男はエイトの顎に手をかけ、値踏みするように見下ろした。
バカ、逃げろ、エイト!ヤられるぞ!
男は続いてエイトのチュニックに手をかけた。
オレは、全身に妙な感覚が沸き立つのを感じた。熱いような、しびれるような、ぞくぞくするような……。
そのあと、何があったのか……記憶がない。そして今、オレは天井を見ている。
「ククール!?」
エイトか?
何だ? この痛みは。
「ククール、なあに?」
「なにって? お前が呼んだんだろ?」
声の主を探すと、エイトの黒い瞳とぶつかった。
「えっ? ああ、そうか。そうだよね。あの、大丈夫?」
「痛てえ」
「うん、そうだね」
「ここ、どこだ? ものすごく気分が悪いんだけど……」
「……マイエラ修道院だよ」
やっぱり。そうだ、ゴルドにあいつを探しに行って……。
「……マルチェロさん、いなかった。今どこにいるか騎士団の人も知らないって」
なんだそりゃ。そんなわけねえよ。まあ、人には言うな、っていうか、オレに言うなって命令なんだろうな。
「帰ろうぜ」
あちこち痛むが、起き上がれる。
「まだ夜明け前だよ……」
こんなところにいられるかってんだ。
「構わねえだろ。早く行こう」
オレはエイトの腕をひっつかみ、海辺の教会へルーラした。
* * * * *
「おい、お前たち、どこへ行っておったんじゃ!」
「エイトの兄貴!」
「もう、黙って二人で出かけないでよ。心配するでしょ! 何してたのか言って!」
……明け方、「兄貴がいねえ!」って叫び声がして。あたしは飛び起きた。おどおどしたエイトと、なぜかボロボロのククールがルーラで舞い戻ってきたのはそのすぐあとだったけど。やっぱり二人でどこかに行ってたのね。夜にククールが抜け出しているのは何となくわかっていたけれど、まさかエイトまで……。
二人とも、疲れ果てた様子でなかなか口を開かない。しばらく待っていると、あたしたちの睨みに我慢できなかったのか、エイトがようやくか細い声を出した。
「ククールが……」
「ククールがあ?」
ヤンガスがククールを睨む。
「……マルチェロさんに報告し忘れたって言うから」
ああ、そういうことなのね。当のククールは慌てた様子でエイトを見る。
「あ~あ、さすがブラコンね。筋金入りだわ。かわいそうに、エイト付き合わされたのね」
「違っ!」
ククールは弁解しようとするけれど、ヤンガスの凄味の効いた目線がそれを許さない。
「ごめんね、ヤン。心配かけたね」
「いえ、そんな……兄貴は悪くねえでがすよ……あ、兄貴? どうしたんでがすか? 服が……」
見ると、エイトのチュニックの裾が少し破れている。ヤンガスにはククールのボロボロの服は目に入らないようね。
「まさか、ククール、貴様ッ!」
ククールにつかみかかるヤンガスを、エイトが止める。まさか、二人でケンカしたわけじゃないでしょうけど、もししてたんだとしたら、勝ったのはエイトね。
「ヤン、いいんだ。ちょっと刺さって動けなくて……」
「ちょっと挿さって? おいククール、てめえ、コノヤロ!」
ええっ? ささって、ですって?
「だからトゲトゲ、違うって言ってんだろ!」
違うわよね、違うわよね、ああ、びっくりした。
「ヤン、落ち着いて! あのね、絡まれて、ヤリが刺さって、すごく抜けなくて、それに気づかないククールがいきなり……、でも途中で抜けたから、僕も一緒に……ねえ! ヤン聞いてるの?」
「か……からみあって……ヤリが……ヤリみたいにすごいのが挿さって……抜けなくなるほどのヤリを……それもククールがいきなり……そして兄貴の痛みに気づかずに……でも途中で一度ヌいて……兄貴も一緒にヌ……」
ぶつぶつ言いながらヤンガスは倒れてしまった。エイトは真っ赤だし、ククールは真っ青だし。
あたしは身体の奥からメラが沸き立つのを感じた。
「あのねえ、ヤンガス、落ち着いて。普通に考えればなんてことないのよ。いい? ゴルドで何があったのか、詳しく分からないけど、エイトは誰かに絡まれた。インネンつけられたみたいなものでしょ? それでエイトのヤリが地面に刺さって抜けなくて逃げられない。ククールはエイトのヤリが刺さってるなんて知らないから、エイトを助けようといきなり誰かに殴りかかったらケンカになった。そしてエイトのヤリが地面から抜けたから、ククールと一緒にその誰かをぶちのめした。ってことよ。エイトもエイトよ! どうして「主語─目的語─述語」できちんと説明てきないの?」
エイトのバカ!
「ゼシカ、すげえな、オレだって何があったかよくわかんねえのに」
「あんた当事者のクセにバカじゃないの?」
ククールのブラコン! わざわざゴルドに引き返すなんて。
エイトさん、賢さ低いです。ゴルドの真相は次の(ゴルドで何があったのか)でどうぞ。飛ばしても問題ありませんのでサブタイトルに()をつけています。エイトさんが乙女です。その後、やっとベルガラックです。