「物知りの学者がいて……サザンビークは豊かに潤っていた。年老いてなお、その手腕を求められたが、病を理由に隠居し、二度と表舞台に立つことはなかった。未開の森に住み、人の足を遠ざけた。学者の存在は伝説化し、人々は時と共に彼のことを忘れていった……」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ククール。どうしたの? あんたがマトモなこと言うなんて!」
「何だよ、博学なククールさまに惚れ直したか? ハニー」
「バカなこと言わないで。あんたに惚れるくらいなら、おじいさんちの泥人形と付き合った方がましよ」
「ひでえ! オレは泥人形以下かよ!」
「はいはい、夫婦漫才もそのへんでね」
「あっ……エイト、ごめんなさい」
「謝ることないよ、ゼシカ。それよりどうしたの? みんな……」
「どうしたのだと? それはオレが聞きたいぜ、リーダー?」
エイトの兄貴……ホントに変でがすよ。どうしちまったんでがすか……。兄貴はククールの問いに返事をせず、小さなため息をつかれた。
「別になんでもないよ。さあ、回復したことだし、サザンビークに向かおうか。またパンサーに来てもらおうね。商人のテントで一度休憩して地図確認して行くよ」
そうおっしゃる兄貴の笑顔はいつも通りだった。
「兄貴がああおっしゃるんだ。何でもない。余計な詮索はなしだぜ、ククール」
納得いかねえ顔してやがるククールに、俺は言った。
不思議な泉を後にした俺たちは、無言でパンサーを駆った。この時ばかりは、パンサーの足音と馬車の音で会話できないことが助かる。
ぎこちない雰囲気のまま、俺たちはサザンビークに到着した。エイトの兄貴は、場を取り繕うわけでもなく、普段通り、にこにこされている。もしかして、さっきまでの元気のなさは、キラパン酔いでいらっしゃったんじゃ……。
「大きなお城だね!」
「でかきゃいいってモンでもないだろ?」
「そうでがすよ。掃除なんかがたいへんでがしょうね」
「やだ、ヤンガスったら。お掃除の仕事する人いるから大丈夫なのよ」
掃除か。いつかエイトの兄貴がトロデーンにお帰りになったら、掃除で雇ってもらうのもいいな……。たまにはお宝を頂戴して……。
「ヤン、好きでしょ? ていうか、得意だよね?」
へっ? 何がでがすか? 盗賊の鍵の使い方でがすか?
「実はさ、僕さ、ずっと我慢してたんだ。ヤンにお願いしたいんだよ」
何ですって!
兄貴が我慢してらっしゃる? それは大変だ、早く出して差し上げないと。
「あ、あっしにできることでしたら、何なりとおっしゃって下せえ。兄貴のためなら……」
「やだなあ、ヤンたら。大げさなんだから。じゃあ、お願いね」
えっ? ここで……でがすか? みんなの前で?
俺はどうしていいかわからず、戸惑ってしまった。
「ちょっとヤンガス? 何してるのよ、早くして。ヤンガスがやらないなら、あたしがやるわ」
えっ、嬢ちゃんがっ! いつの間にかそんな関係に?
確か嬢ちゃんは「エイトの恋人になりたいわけじゃない」ってベルガラックで言ってたよな……。でもそれとこれとは別なのか?
「おい、トゲトゲ! ぐずぐずするなよ。ならオレが……」
「待てっ! お前だけにはやらせねえ」
ククールなんぞには指一本触れさせやしねえ。俺の大切な兄貴!
「そうだよ。ここはやっぱりヤンじゃないとね」
エイトの兄貴! そこまでして俺を……。感激でがす。エイトの兄貴はさりげなく俺の肩に手を置きなさった。ああ、熱い……自分の中心も我慢できなくなるんじゃないかと心配だ。ここは兄貴と一緒に……。
「じゃあ、頼むよ。ヤンが一番上手いんだから」
えっ? 一番上手い? 誰と何を比べたんです? い……いつ? 俺はまだ、兄貴のアレは……。
「そうね。ヤンガスが適任だわ。あたし、まだ上手くやれる自信ないし」
嬢ちゃん! 経験済み? 何てこった!
「そうだな。ちっとも羨ましかないけどな」
ククールは興味なしか。まあ、普通、男同士じゃやらねえだろ。いや、こいつは修道院出身。あんなことやこんなことはお手のものだろうが……。
「さあ、ヤン」
エイトの兄貴はにこにこ微笑んで俺の前に立ちなさった。……俺はさりげなく兄貴の中心あたりに目をやる……。
しかし兄貴は、じゃっ、お願いね、とおっしゃって、くるりと背を向けなさった。
「全部済んだら、迎えに行くわね。お城はやっぱりエイトがいないとだから」
「うん」
何? 城?
「一人で大丈夫か? ゼシカについてってもらう方がよくないか?」
「ダメよ、ククール。あんたとヤンガスの二人行動は信用ならないわ。昼間っから酒場に行かないとも限らないし。あたしが見張ってないと」
「そうだね。ヤンとククールの二人じゃ、いかにもだから、皆さんに警戒されちゃう」
「ああ、不本意だが、そう見られても仕方ないな」
「でも、確かに心配だわ。ね、ククールがエイトを宿屋に送りに行ってよ」
「そうだな。すぐに追いつくから、先に行っててくれ」
俺は……また俺だけが話の流れを読めていない。
「嬢ちゃん、兄貴はどうかなさったのか? 様子が変だったが……」
「もう、ヤンガスっていつもボケてるわよね。エイトは乗り物酔いしたの。ろくに休憩しないでパンサーにのりつづけてたでしょ? あたしたちが街の宝物を探す間、宿屋で休憩してもらうって話したじゃないの……」
やはり、兄貴はキラパン酔いにおなりだったのか。で、今ククールが兄貴を宿屋に……。
「大変だ! 兄貴が危ねえ」
俺は二人の後を追った。またゴルドの時みたいに痴漢に襲われちまう。ククールなんぞに任せてられるか!
「ヤンガス、ねえ! 待ってよ!」
宿屋に駆け込む。閉じられたドアに近づくと、声が聞こえた。
「エイトは、オレの……」
何だと?? よりによってククールの奴、「エイトはオレの」だぁ?
「待ってってば、ヤンガス」
いつの間に来たんだか、嬢ちゃんが俺の後ろで何か言ったようだが、そんなこと構っちゃいられねえ。
俺は扉を蹴破った。
!!!
「あ、兄貴?」
兄貴はベッドに腰掛け、ククールはひざまづき……、俺は一気にテンション50になった。
「うわぁ、びっくりした! どうしたの、ヤン? ゼシカまで」
兄貴は憂いを秘めた黒い瞳をくるりと丸くし、小首をかしげなさる。
少し青ざめたお顔が、はかなげで愛らしい……。
「えっ、あの……あのね。ちょっと、やっぱりククールも一緒の方がいいかな……って」
嬢ちゃんは俺と兄貴とククールを交互に見やりながら答えた。
「そうだろ、ハニー。わざわざ迎えに来てくれたんだな。サンキュー」
ククールの野郎は、立ち上がって嬢ちゃんの肩に手を置き、白々しくそう言った。嬢ちゃんはピシリとその手を払いのける。
「やっ、あの、迎えに来たわけじゃないんだけど……。まあいいわね。じゃあ、エイト? 行って来るわ。ちゃんと休んでね」
「うん、頼むね。あっ、ククール、……ありがと。送ってくれて」
「ああ。……じゃあな」
俺は……俺は……。何があったのかさっぱりわからないまま、二人に連れられて宝探しに出かけた。
次は王家の山へ行きます。ククールの「エイトはオレの……」発言を引きずるヤンガスがいます。R-18設定なので、どの宿屋もシャワー付き個室ありで二階建てです。