「で、さっき何があったのよ」
あたしたちは町の宝探しを終えて、エイトの休んでいる宿屋に向かっていた。
「だから、ブーツの紐結んでただけだって。ハニーたちは、ちょうどオレが立ち上がろうとした時に来たってわけよ」
ククールの言葉もヤンガスは納得していないようだった。まったくヤンガスったら、エイトのこととなると何にも見えなくなっちゃうんだから。どんだけ好きなのよ。
エイトの部屋をそっとノックする。
「はあい、どうぞ。開いてます」
エイトはすっかり元気になった様子だった。表情も明るい。
「エイトの兄貴、大丈夫でがすか? それより、誰か確かめもしねえで入室を許可しちゃいけませんぜ」
心配しすぎのヤンガスがエイトに進言する。
「え~、大丈夫だよ。宿屋だよ? 昼間だし、僕もう元気になったし」
「駄目でがす! 鍵は必ずかけておいてくだせえ! 約束してくだせえ」
涙目になっているヤンガスにエイトは困った様子で、わかったよ、ごめんねと言う。アホらし。
「まあ、物騒っちゃ物騒だな。リーダーが道具袋持ってるんだし。ゴールドも。もう少し用心してもいいんだろうな」
珍しくククールが普通のことを言う。
「わかった。気をつけるよ。僕一人のものじゃないもんね……」
エイトはちょっぴりシュンとした。かわいいのよね、こういうところ。ヤンガスなんて鼻の下伸ばしちゃって……。
「そうだ、エイトの兄貴? さっきは何があったんです?」
まだこだわってる、ヤンガスってば。当のエイトは「えっ?」なんて、目を丸くして。
「だって、ククールの野郎が、俺のエイトとか言ってました。な、何かされちゃいませんか?」
「おい、トゲトゲ? なんでいつもオレを疑う?」
「兄貴、本当のことをおっしゃってくだせえ」
「やだなあ、なんでもないんだよ……」
エイトは話を切り上げようとするけど、ヤンガスはなおも真相を知りたがった。
「……じゃあさ、言うけど……。つまんないことだよ。ククールが宿帳を書いてくれてさ、宿屋の人に聞かれたんだよ。どういうご関係ですかって」
「どういう関係?」
意外な展開に、思わず口をはさんじゃった。
「変なこと聞くのね」
「いや、その……。オレを誘いたかったらしいんだよ、宿屋の姉さん。わがリーダー様は、パッと見は女の子に見えなくもないだろ? だから、恋人かなんかと思われたみたいでさ」
「で、何て答えたのよ」
「パーティーのリーダーだって」
「ふうん、それだけ?」
「いや、そしたら、パーティーは何人かとか、今晩は全員泊まるのかとか、ごちゃごちゃ聞かれてさ。リーダー早く部屋に連れてってやりたいのに、話長くなっちゃって……」
なあんだ、そんなことか。
「だからさ、いろいろ聞かれるの面倒じゃない? それで何て言ったらすんなりいくのか考えてたんだよ」
「で、『エイトはオレのパーティーのリーダーだ』って言ったら、トゲトゲが誤解したんだ。
「そうか」
ククールの説明で、ヤンガスはやっと納得したみたい。腕組みをしながらうなずいている。
「でね、ヤン。他のみんなならなんて言うかって話もしてたんだ」
「そうそう。トゲトゲなら間違いなく『俺の兄貴』だろ?」
「あたりめえだ!」
「嬢ちゃんはどうだ?」
「あたし? あたしならそうね……エイトは『あたしの大切な人』かな……?」
「それは誤解を招くぜ? ハニー。じゃあ、ハニーはオレのことなら何て言う?」
「え~、そうね……。ククールは『あたしのお荷物』?」
「どひゃーひゃっひゃっ!」
「ちょっとヤンガス、ヘンな笑い方しないでよ!」
「いや、だっておかしくて。俺はそうだな、ククールは『俺の目障りなルーラ係』だな」
「結局邪魔なんじゃねえか」
「じゃ、エイトの兄貴は?」
「えっ? 僕? うーん、どうかなあ。僕の……」
エイトはなぜか考え込んでしまった。
「兄貴、この際はっきりおっしゃったほうがいいでがすよ」
「はっきりねえ……。でも、人を傷つけるのはよくないから……」
「おい、リーダー? お前の言うのが一番傷つく!」
あたしたちは大笑いして。
「さ、行こう。王さまに会いに。もちろん来場記念のお土産ももらおうね」
元気になったエイトを先頭に、あたしたちは巨大なサザンビーク城に入った。いかつい古城。どうしてお城って迷路みたいに複雑なのかしらね。
「おおっ、なんだこりゃ」
ククールの大げさな叫び声。クラビウス王と思われる肖像画を見ていたあたしとエイトは、びっくりして声の方を見た。
「へえ! なかなか男前じゃない!」
そこには、明るい緑色の衣装をまとった若くて愛らしい王子様の肖像画があった。
「これが、チャゴス王子……?」
「そうみたいだぜ」
「これが……」
エイトは、クラビウス王と王子の肖像画をかわるがわる何度も見た。複雑な思い、ってとこかしら。ミーティア姫さまの嫁ぎ先ですものね。
王座の間では、王室会議のようなものが開かれていた。みんな、何かギスギスして嫌な雰囲気。旅人のあたしたちが入っても気づかないほど、場はもめていた。ククールがわざとらしく咳をすると、一人の女性がようやく気づいてくれた。一度会議はお開きになり、あたしたちは謁見を許された。どうやら王さまが会議をやめたがっていたみたい。
「あの鏡を貸すわけにはいかん……」
エイトが事情を説明する間、なぜかクラビウス王は穴のあくほどエイトの顔を見ていた。でも話が終わると、お城と同じくらいいかつい表情のまま、意地悪そうな目をあたしたちに向けてそう言った。あたしたちは闇の遺跡の結界を払うため、サザンビークに伝わる魔法の鏡が必要だった。
サザンビークには直接関係のない話だけど、ドルマゲスらしき人が鏡のある宝物庫をのぞいたっていうし、何よりベルガラックのことを考えれば、協力してくれてもよさそうなのに。ベルガラックは独立しているとはいえ、サザンビーク領でしょう?
考え込んでいたクラビウス王は、あたしたちに改めて向き直り、鏡を貸すと言い出した。でも……。
「一つ、条件がある……」
「条件?」
「どうするんでがすか? エイトの兄貴……」
チキンの焼き物を豪快に食べながら、ヤンガスが言った。
「てゆーか、もうそれしかないじゃない」
あたしもモンブランをぱくつく。
「うん……そうだけど……ちょっと、ククール? 昼間から飲まないでよ!」
「ああ? やっぱダメか」
あたしたちはオープンテラスのカフェで食事をとっていた。お酒を飲もうとするククールからエイトがメニューを取り上げる。
クラビウス王が出した条件。それは、王子の護衛をすること。無事に王者の儀式をやってこいって。王者の儀式とは、サザンビーク領「王家の山」へ行き、アルゴリザードという竜の魔物を倒すこと。そして、彼らが一体につき一つずつ持っている「アルゴンハート」という宝石を奪うこと。アルゴリザードが大きければ大きいほど、持っている宝石も大きい。大きな宝石を持って帰れば、強い王として民の信頼を受けることになるんですって。
「あたしたち、王家とはなんの関係もないのに」
「王族なんてろくなもんじゃねえよ。ベルガラックのカジノのことなんて全然気にしてないんだぜ? 税金がっぽり取ってるくせにな」
ホント、王さまってずるい。
それにしても、あの王子。肖像画とは似ても似つかぬ子豚のような姿だった。ううん、子豚ちゃんに失礼ね。とにかく、あのいかつい王さまのいかつさなんて髪の毛一すじほどもないわ。ぷよぷよのぽよんぽよん。それにあのワガママっぷり。口ばっかり達者なくせに、トカゲが怖いなんて! あれじゃどう考えたって竜なんて倒せないでしょ。まあ、クラビウス王はただの親バカだから、王子のチャゴスがダメダメになっちゃうのも必然かな。
「王さま、困ってらしたもんね。……ここは、鏡と、クラビウス王とサザンビークの国の人たちのためにやろう」
エイトがため息混じりにそう言う。そうね。王者の儀式ができないままだと国が困るものね。
「少し休んだらすぐ行こう。日暮れまでには王家の山ってとこに行きたい。そこで泊めてもらって、明日の早朝から動くよ」
あ~あ、あたしたちってお人好し……。
「なあ、いいだろ、リーダー……」
「えっ、ククール、それって……」
王家の山で一休みしているあたしたち。ククールがエイトとこそこそ話をしている。
昨日サザンビークを出発し、まだ日の高いうちに王家の山のふもとの小屋に到着した。そして、早めに休んだ翌日、早朝から山に入っている。山はかなりの広さがあった。山に入ってからずいぶんたつけど、アルゴリザードはすぐ逃げちゃうから、戦うことすらままならない。
それにもうへとへとよ! チャゴス王子のお守りは……。あいつったら昨日サザンビークを出てから文句ばっかりで、全然役に立たないんだから! 今日一日あればアルゴンハートが手に入るだろうと踏んでいたあたしたちの予想は外れそうね。これは長丁場の予感。
ククールと話を終えたエイトが、ちょっと困った様子であたしとヤンガスを呼んだ。
「あのさ、実は…………………………。で、……………………を…………………」
なんだ。そんなことか。全然オッケー!
エイトの話に、あたしもヤンガスもうんうんと力強くうなずいた。
「なんか、イジメみたいで嫌なんだけど」
チャゴス王子をちらちら見ながら、エイトが小声で言う。
「平気よ。ここへ来るまで、どれだけのこと言われてきたか! このまま山奥に捨てちゃいたいくらいだわ」
そう、チャゴス王子のわがままっぷりは見るにも聞くにも堪えない。ここに来るまでの間、どれだけあたしたち嫌な思いをしたかしら!
だからちょっとお仕置きを、ってククールがね。
「王子さま? あっちにアルゴリザードがいますよ!」
王子に呼びかけ、いちいち走る。別にいなくたっていいの。「ああ、森に入ってしまいました。王子さまの姿に怯えたんですね」なんて、お世辞使って。あっちこっち4方向から呼んで、そのうちチャゴス王子の足がもつれ転び始めた。時には戦いにもなる。そうなったら、あたしはバイキルトを自分にかけて、しびれうちをする。チャゴスにも当たるように。ヤンガスもばくれつけんがチャゴスにも当たるようにする。ククールはチャゴスにだけスクルトをかけない……これは、あの人すぐ逃げ出すから意味はなかったけど。
「いいかげんにしろ! 下賤の者め。ボクはもう走らない! どうしてサザンビークの王子であるこのボクが、野山を猿のように走らねばならないんだ!」
体力の限界を迎えたチャゴス王子は、ついに原っぱの真ん中に座り込んだ。猿と言うより、ダンビラムーチョみたいな姿をさらして。
いい気味だわ。あたしは、ククールとヤンガスと顔を見合わせ、小さくガッツポーズを作った。エイトだけは、なんだかやるせない表情で黙っている。
「ボクはもう一歩も動かないぞ」
「動けない、の間違いだろ?」とヤンガスがクスクス笑う。エイトは小さくため息をついて、王子を馬車に誘導した。
「ちょっと、エイト! 馬車に乗せることなんてないわよ!」
「そうでがす。あいつにはいい薬でげすよ」
「黙れ!」
チャゴス王子の怒声が飛ぶ。
エイトは、あたしたちをかばうようにしてチャゴス王子の前へ進み出た。そして、片膝をつき、深々と頭を下げた。
「王子さま、申し訳ありません……。もう少し奥地に参りましょう。大物は森の奥に潜んでいるかもしれません」
「間違いないな? このボクをあんな目に会わせたんだ。ボクがいいと言うまで働いてもらうぞ」
エイトは「お任せください」と言い、ミーティア姫さまにもしっかり頭を下げた。
ガタゴトと馬車が進む。重くなって、ミーティア姫さまがおかわいそう。平地と違って、山道はどんなに負担になるか……。
「ごめんなさい。エイト。ちょっとやりすぎたわ」
「……そうだね。気持ちはわかるけど」
「結局、身分てことだろ。人を縛り付けるこういうことって、いつかなくなるのかね」
ククールは、かすかに見えるサザンビーク城に向かって言った。隣のエイトの悲しそうな表情が切ない。
仕方ないわ。エイトは兵士ですもの。考えたら、エイトが一番つらそう。ホント、ごめんなさい……。
反省したあたしたちは、3匹のアルゴリザードをサクサク倒した。かなり大きなアルゴンハートを手に入れたが、それでも王子は納得しない。
「もう日暮れです。明日、もう一度出直しましょう」
空を見上げるエイト。つられて見上げた空は、茜色から藍色に変わりかけていた。
「いや、エイト、明日出直しても、またこの山奥まで来るのに時間がかかる。ここで夜営し、明日朝からアルゴリザードを探すほうがよい。……王子様、夜営の経験はもちろんおありでしょう? 一国の王子たるもの、戦場へ赴けば夜営などは当たり前でございますからな」
トロデ王さまのこの言葉には、さすがのチャゴス王子も言い返せなかった。
「さすがトロデのおっさんだな。王子のプライドを利用して夜営を納得させるなんて。一晩山ん中で過ごせば、バカ王子もおっかなくなって早く帰ろうって言うさ。もうアルゴンハートはあるんだし」
「そうだね。運がよければ本当にもっと大きいアルゴンハートが手に入るかも知れないしね」
あたしたちは交代で火の番をしながら、朝を待った。
ククールのブーツは紐がある、サザンビークにオープンカフェがある、ベルガラック、砂漠などがサザンビーク領というのは勝手な設定です。次は鏡を手に入れます。