「開けてくだせえ、エイトの兄貴! 兄貴!」
俺は取り返しのつかないことをしてしまった。兄貴の入浴シーンの妄想で飲み過ぎたなんて、言い訳にならねえ!
明け方、外が騒がしくて起きてみると、男女がもめていた。
簡単に言えば美人局ってやつで、被害にあった男はすっからかんにゴールドを巻き上げられていた。女の方は宿屋の受付だってんだから驚きだ。リーザスみてえなのんびりした田舎にもこんなのがいるなんて、不景気なんだな。
山賊稼業から足洗って良かった。エイトの兄貴に出会えて……、と思ったところで、兄貴の姿のないことに気づいたんだ。ついでにククールの野郎もいない。嫌な予感がした。あわてて宿屋のおばちゃんに尋ねれば、二人で個室使ってるって言うじゃねえか!
俺は走った。兄貴の部屋の扉が開かねえ。しっかり鍵をかけていらっしゃる。いや、これはきっとククールの野郎がかけたに違いねえ! 兄貴、兄貴の貞操が……。俺は扉を叩きまくった。
「は~い。あっ、おはよう。ヤン。どうしたの? あわてて」
「兄貴!」
俺は兄貴の横をすり抜け、部屋に入った。
こんな、こんな狭い空間に二人きりで夜を! おまけに、何だ、ムンムンする。
「兄貴! 兄貴! 何されたんです? あっしはククールを殺ります。何処です? 奴は」
ククールぅ? シャワー浴びてるよ、と、兄貴はあくびなさりながらおっしゃった。
ククールめ、汗をかくようなことを……。
「ヤン、朝からテンション高いねぇ」
気だるそうにおっしゃる兄貴。そんなに激しくされたんですかい……?
シャワー室が開いた。
「ククール! 覚悟!」
「わっ! なんだよトゲトゲ!」
「兄貴を汚した罪で、死刑だ!」
「バカ、よせ! こんなトコでオノふり回すな!」
「じゃあ表へ出ろ!」
「何だってんだよ、朝稽古か? なら服くらい着させてくれ」
「ちょっと、今度は何だい?」
宿屋のおばちゃんが来たようだ。だが今はそんなのに構ってられねえ。
「おかみさーん、ゼシカお嬢様が!」
「何だって?」
階下から声が聞こえたと思ったら、おばちゃんはドタドタと降りて行った。
ククールはのんびり着替えていやがる。
「ヤン、ヤンもシャワーつかったら? お酒くさいよ。僕は汗くさいのとお酒くさいの嫌いなんだ」
そうだ。兄貴はきれい好きでいらっしゃる。
「わかりました。返り血を浴びるかもしれませんから、殺ったら、使います」
「ヤン、気合い入ってるね」
「当たり前でがす! あっしの大切な兄貴の貞操を奪われ……」
「えっ? 何か盗られたの? 大切なもの? まさか換金用の特薬草? 世界樹の葉じゃないよね? バウムレンの鈴とか?」
「何、盗難か? 何盗られたんだ? バニースーツだったら悲しいぜ?」
「ちょいと、何だって? あんたたち、何か盗られたのかい?」
再びおばちゃんが現れる。ゼシカの嬢ちゃんも一緒だ。
「おかみさん、ありがとう、この部屋だわ」
「ゼシカお嬢様のお知り合いなんですか? これはご迷惑かけて申し訳ありません。一応保険には入ってますけど、何を盗られたんです?」
「盗難? ちょっと! この宿屋はそんなに物騒なの? 一体何を盗られたのよ! あたしの気に入ってる踊り子の服じゃないでしょうね?」
ゼシカの嬢ちゃんまで加わって、一斉に俺に注目した。
「ヤン、何がなくなったの?」
「ゴールドか? バニースーツか?」
「あっ、いや、その……」
クソッ! 結局、俺が寝ぼけて騒ぎを大きくしたことになりやがった。いくら朝が弱いからって、そんなにボケてねえ。俺は頭にきた。きたんだが……。
「ヤン、でも僕嬉しかったよ。すごく心配してくれたんだね」
と兄貴に言われちゃ……。照れるしかねえ。兄貴は、俺の肩をポンと叩きなさった。さりげない優しさ……俺は朝ということもあって血液が一ヶ所に集中し、貧血をおこしかけた。
「ヤン、大丈夫? やっぱりまた駄目?」
また駄目って? 兄貴、俺たちはまだ……。
「ちょっと、ヤンガスったら朝っぱらから貧血? しっかりしてよね」
嬢ちゃんにバシバシ背中を叩かれ、俺はむせた。最近、嬢ちゃんのスナップがやけに効いている。
「トゲトゲ、その様子じゃ朝稽古は無理だな。また今度な」
ちくしょう、全部おめえのせいだってのに!
「ヤンが一番やる気あるよね。さすがだよ」
兄貴のおっしゃる「やる気」は、俺がやりたいことの「ヤる気」じゃねえな。ふう、言葉って難しいぜ。
まあ、そんなこんなで、俺たちは船に乗りこむ。海竜のジゴフラッシュを浴びに、海辺の教会から出発だ。
「なあ、相談なんだが。いや、是非同意してくれ」
ククールが真面目な顔でみんなを甲板に集めた。
「……並び順を変えよう。トゲトゲ、リーダー、オレ、ゼシカだ」
「えっ? どうして? 僕、前がいいのに」
そう、エイトの兄貴は前がお好き。
「駄目だ。リーダー、船苦手だろ? 無理することねえよ。トゲトゲのが防御強いんだから。お前の後ろはオレが……」
「ちょっーと待ったァ!」
「何よ、ヤンガス、古くさいギャグ?」
うるせえ、ギャグじゃねえ。兄貴の後ろをククールなんかに……。
「うん、いいよ、ククール」
何ですって? かたくなに先頭を渡さなかった兄貴が……。
「ヤン、ヤンなら……僕いいよ」
くぁーっ!
「ちょっと、ヤンガス、おかしいわよ! そんなフラフラして先頭大丈夫なの?」
「ゼシカ、大丈夫だよ。僕はヤンを信じてる。ヤンはきっと上手くやってくれる」
上手くやってくれる、ですって?
「兄貴、あっしでよければ、いつも何度でも……」
「オイ、それへんな婆さん出そうだからやめろ!」
「デスセイレス? それなら大丈夫よ。あたしのが勝ってるから……って、ククールどこ見てんのよ!」
「はいはい、もうやめようね。じゃ、ククールの言う通りの順でいい?」
「駄目でがす」
俺は許さねえ。兄貴の後ろにククールなんて!
「……あっし、ククール、嬢ちゃん、兄貴で」
「ククールがそんな前じゃ駄目だよ。守りが一番甘いんだから」
「ふふ。私生活と一緒ね」
「ひでえな、ゼシカ。心が広いと言ってくれ」
「じゃ、ヤンガス、エイト、あたし、ククールでどう?」
「それならいいぜ」
ククールなんかより嬢ちゃんの方が100倍安心だ。
「うん、そうだね。僕がヤンを援護するから、ククールはいつも通りスクルトとゼシカの回復をお願いね」
「いいぜ。リーダー、無理しねえで自分回復するんだぜ? トゲトゲはオレが回復してやるから安心しろ」
「うん……。じゃ、そんな感じでいこう」
さんざん並び順でもめたが、海竜はすぐにやってきて、いともあっさり太陽の鏡が復活した。
俺たちはドルマゲスの結界を解くため、再び闇の遺跡に向かう。
いよいよ、決戦だ。
エンディングまで長いゲームですが、勇者一行は、ドルマゲスを倒す目的で動いているので、「最後の戦いだ」と決意をもって臨んでいるだろうと考えました。この後ドルマゲス討伐までまた数日かかります。