「ゲルダんちへでがすか?」
いよいよドルマゲスを倒す準備が整った。最終チェックをした俺たちは海辺の教会に来ているんだが、ここへきて、エイトの兄貴はとんでもねえことを言い出しなさった。
「うん。あそこ、ルーラで行かれないし、ヤンなら一人でも大丈夫だろうけど、僕も挨拶しておきたいんだよね。そのあとでリーザスに行く。それからマイエラに。みんな今日はそれぞれの場所で泊まってね。そのあとは自由行動だよ。でも、七日目の朝にはこの海辺の教会に集合」
一週間、お暇を出すってことですかい? なんたってまた急に……。
「一週間休んでこいってことか」
ククールが腕組みをしながら言う。
「そう。みんな、よく考えてね。七日目に来なくても、待たないから」
「待たない? 何をおっしゃってるんでがすか、兄貴! あっしは、あっしは……」
ちくしょう、涙が出てきやがる。不肖ヤンガス、兄貴から離れることなんてできやせん!
「なあおい、それって……怖じ気づいたヤツは来なくてもいいってコトだな?」
言いにくいことをククールがすぱっと言う。
「そういうことだよ」
エイトの兄貴も即答なさる。
「そんな、ひどい!」
嬢ちゃんも抗議の声を上げた。
「信用ねえな、オレら。ガッカリだぜ」
ククールの冷たい言葉と共に、壁をバンと叩く音。教会にいた連中がみんなこっちを注目する。
「兄貴……あんまりでがすよ。ゲルダんちに7日もいろってんですか? ドルマゲスを殺る前にゲルダに殺られちまいます」
俺はそんな下手な冗談を言ってみた。すると兄貴は、いつものように笑顔を見せ、おっしゃる。
「いや、一泊でいいんだ。あとは自由行動で。ゲルダさんと小旅行に出るのもいいし、パルミドで遊んでもいい」
ゲルダと旅行? 考えただけで寿命が縮む!
「一泊すりゃあ、どこにいてもいいんだな?」
ククールのやつ、今日はやけにつっかかるな。青く冷たい目で兄貴を睨みやがった。
しかし、兄貴もひるみなどなさらない。
「うん」
「海辺の教会でも」
「いいよ」
そして兄貴は続けておっしゃった。
「今日はこれからサヴェッラ大聖堂に行く。戦いのことを少し忘れて、僕たちもゆっくりしよう」
俺たちは船に乗り込んだ。兄貴は「僕、ちょっとやる気ないから、ヤン、ククール、ゼシカ、僕の順番にして。回復に専念するから、三人は攻撃よろしく」とおっしゃる。そして船縁に寄りかかり、青空を見上げなさった……。
「やる気がないって……何だよ」
ふざけんな、とククールが吐き捨てる。確かに、兄貴がこんなことおっしゃるのは初めてだ。
「ね、リーダーはエイトなんだから、作戦には従いましょう」
そう言う嬢ちゃんも、今日はいつになく口数が少ねえ。まあ、兄貴のこった。何かお考えがあるか、ホントに疲れてらっしゃるかだ。心配いらねえ。
「俺が中心で叩く。嬢ちゃん、済まないが援護してくれ。ククールはスクルトと回復に回ってくれねえか? 兄貴に楽させてやりてえんだ」
「そうね、エイト、いつも先頭で頑張ってるし……って彼の趣味だけどね? たまにはあたしたちも活躍しましょう」
嬢ちゃん、嬢ちゃんは普段からかなり活躍してるが……。
「ククール、お前もそれでいいな?」
「ああ」
ククールは兄貴の方をちらりと見やってから言った。
まあ、心配ではあったが、大した魔物も出ず、無事に俺たちはサヴェッラ大聖堂に到着した。
「わあ! 綺麗ね。荘厳だわ……」
「ほう、変わらんな……サヴェッラ大聖堂」
おっさん、いつの間に?
「王族の婚礼はここで行われるのじゃ。法皇の住まいもほれ、向こうの岩の上にある。ゴルドと違い、広く開かれておるから、見物に行くといい」
トロデのおっさんが示したほうを見ると、ものすごく不安定な岩の上に建物が見えた。あれが法皇さまのお屋敷だな。珍しい宝もいろいろありそうだが……。いや、今はこんなこと考えている場合じゃねえ。
ところで、法皇さまのお住まいには昇降機というもので行くらしい。。
大聖堂の裏手にある階段を上がって行くと、どこぞの聖堂騎士団員が警備をしていた。あそこに昇降機とやらがあるようだが。騎士団員の目つきが鋭い。ゴルドの警備とは大違いだ。あれは、真面目に警備している目だ。だが、今日は見物できねえなんて言いやがる。元山賊の俺でも、「入れない」と言われるとたとえ教会関係でも行きたくなるから不思議だ。……普通か? 俺たちは未練がましく、とりあえず昇降機だけでも見物しようと、乗り場に入った。透明なトンネルの内側は明るく、たった一枚の板だけで昇り降りできるという。そんな不思議な乗り物に是非乗ってみたいものだと、わくわくしながらみんなで見学していた。
「あっ!」
兄貴が声を上げなさる。水色の昇降トンネルを、昇降機が音もなく降りて来た。なんと、乗ってやがったのは、カユイ、いやイヤミチャンピオン。イヤミチャンピオンは、相変わらずの上から目線で俺たちを一瞥した。
「……どなたでしたかな?」
ククールの顔がひきつる。
「あの、マルチェロさん……」
兄貴が声をかけなさるが、イヤミは「君たちのように暇ではないんでね…」と横柄に言い、立ち去った。
「ああ、嫌なモノ見ちゃったわ。相変わらず、イヤミな男よね」
もう行きましょう、と嬢ちゃんがみんなを促す。俺も嬢ちゃんに賛成だ。なんだってまあ、あの人は人を嫌な気持ちにさせるんだろうか。
すると、イヤミの背中を見送っていた警備の騎士団員の、ただならぬ噂話が聞こえてきた。詳しいことはわからねえが、いい話じゃねえってことは確かだ。聞き耳を立てていた嬢ちゃんがククールに耳打ちする。
「相変わらず、胡散臭いコトしてるのね。あんたの兄上は」
「みたいだな」
「ずいぶん出世したみてえじゃねえか。実力ってか?」
軽口を叩いてやる。だがククールは意に介さない。
「ああ。何をガッついてんだろうな。……オレには関係ない」
ククールはゴルドで会った時より堂々としていた。奴もちったあ成長しているみてえだな。いつまでもあの兄貴の背中追っているようじゃ駄目だ。
エイトの兄貴のように、ともに戦い、お守り申し上げたくなるようなかたとは正反対の生き物だな、あれは。ったく、エイトの兄貴が丁寧に挨拶入れようとしているのに無視していきやがるなんてむかっ腹が立つぜ。いつも明るいエイトの兄貴が悲しそうになさっているのが気になる。あんなイヤミ発言は例の修道院で牢に入れられた仕打ちより軽いもんだが。なのに、うつむきがちにイヤミを見送っていなさる……。
それに対して何のリアクションも起こさないククールの奴も気になるな。ククールの奴、実家へ帰る話が出てからずっと不機嫌なんだが、それにしても大人げない。
上に行くことをあきらめた俺たちは、大聖堂の見学をすることにした。
サヴェッラってとこはゴルドとちがい、政治的な空気も漂っている。警備の人数も多く、ククールに言わせればサヴェッラ直属の聖堂騎士団はエリートなんだそうだ。それに対してゴルドは、完全に観光地。警備も各地の聖堂騎士団が持ち回りであたるらしい。だからゴルドには変な痴漢がいるんだな。出張先で遊ぶ感覚なんだろう。いつになく無表情の兄貴のことを心配しながら、そんなことを考えていると、嬢ちゃんが小声で言ってくる。
「ねえ、変じゃない? エイトとククール。喧嘩でもしたのかしら」
嬢ちゃんも気づいたみてえだな。
「わからねえ。とにかく今朝から雰囲気よくねえな」
「なんか、ばらばらよね、今のあたしたち……」
そうだ。さっきからの違和感は、嬢ちゃんの言う通り、ばらばらだってことか。
遺跡の中でもちょっとしたすれ違いがあったが、俺たちは話し合って、一旦出直すことになった。その時はいい雰囲気だと思ったんだが。エイトの兄貴は俺にはわからねえ何かを心の中に抱えていらっしゃるんだろう。
とにかくだ、俺はエイトの兄貴をお守りする。それだけだ。
サヴェッラ見学の話でした。次からみんなの里帰りです。