*ヤンガス(パルミドにて)*
パルミドの酒場に、俺たちはまだいる。みんなと別れて四日目だ。二日酔いなんてもんじゃねえ。ゲルダは脳みそまで酒に浸かっちまったようだ。
「いい加減にしろ、ゲルダ」
「なんらって? えらそうなクチききやがって。ろのクチがそんなこというんだい?」
このくちらな、と言いながらゲルダは俺の顔をつねる。
「痛てえ、痛てえよ!」
「いてえらと? わらわせんじゃあないよ。あたしをられらとおもっていやがるんら! おとなしくさんぞくやってりゃ、いまごろ……」
「今頃? なんだよ! 今頃って」
「うるせえ! もうかえれ」
「帰るのはてめえだろうが」
「なんらと?」
ブチ切れたゲルダ。口こそ呂律が回っていないが、恐ろしい程の早さでナイフを振りかざした。
途端に酒場は戦場になる。
「ヤンガス! 止めてくださいよ、危ないでしょ!」
そう言いながら止めに入った酒場のマスターが、ゲルダの肘鉄をまともにくらった。おもしろがる酔っ払いが椅子を投げ始める。やべえな、早くずらからねえと。騒ぎを聞きつけ、外からもドヤドヤと野次馬が集まってくる。
俺は騒ぎに乗じ、ゲルダを引きずって逃げた。ゲルダのアジトへはキメラの翼が使えない。俺は兄貴からあずかったバウムレンの鈴を鳴らす。ちょうどよく馬鹿でかいキラパンが来てくれ、俺とゲルダの二人を乗せてゆうゆうとアジトまで乗せていってくれた。
*ゼシカ(リーザス塔にて)*
「今日はリーザス塔なのね?」
「昨日行くつもりだったのよ」
そう、昨日のお墓参りのあとでリーザス塔に行く予定だったのに、お母さんにわんわん泣かれて、結局行かれなかった。今日はお母さんが引き止めるのを振り払い、あたしはリーザス塔へ向かった。またあの幻の兄さんに会えるとは思わないけど、せめてリーザス像に誓いたい。あたしは戦うって。
最後に一人でリーザス塔に来たあの日、エイトとヤンガスに会ったんだわ。偶然といえば偶然なんだろうけど、今となってはあれは運命だったのかも知れないわね。そんなことを考えながら膝を折ってリーザス像に祈る。どうか兄さんの仇を討たせて……。
「誰?」
背後に気配を感じて振り返った。姿はない。腰の鞭に手をかける。
コツン、コツン、と小さな足音。
「……やっと会えた……ゼシカ姉ちゃん」
ポルク!
「どうしたの? 一人で来たの?」
「うん。……ゼシカ姉ちゃん、村に帰って来てるのに、おれに会いに来てくれないから。ここに来れば絶対会えると思って、毎日来てた。食料と水を持って」
ポルクは、ほら! と、重そうなバスケットを掲げる。
「ポルク……あんた、ちょっと見ないうちに、随分おっきくなったわね。でも一人でよくここまで来られたじゃない。剣の稽古、頑張っているのね。偉いわ」
頭を撫でようとしたあたしの手は軽く払われた。
いつになく固い表情のポルク。その瞳は気の強さを秘めていて。
「どうしたのよ、ポルク」
ポルクはそれには答えず、あたしの隣に座り、ゆっくりと話しはじめた。
「おれ、いつも祈ってた。こられる時はこの塔に来て。ゼシカ姉ちゃんが道化師を倒して、無事に帰って来ますようにって。必ず、無事で……って」
リーザス塔の頂上に響く水音。細かな水滴がシャワーとなって辺りを清めている。
ポルクは、それからね、と、あたしをまっすぐ見つめた。
「おれ、誰よりも強くなる。赤い坊さんより、トゲトゲメットのおっさんより、バンダナの兄ちゃんより。……サーベルトさんより! だから……」
!!!
ポルクは立ち上がり、あたしに思いっきりキスして、走って塔を下りて行った。はずみで散らかったバスケットの中身……あたしの大好きな焼き菓子を残して。
*ククール(海辺の教会にて)*
「あれっ?」
海辺の教会に来てみた。パーティーの面子は誰もいねえ。四日目じゃまだ来ないか。エイト、いつまでリーザスに泊まるんだよ……。……リーザス?
まさか、オレをあの風車の下でで待ってる? いや、なんだかオレ、嫌われちまったみたいだからな。もう待ってねえよな……。エイト……。今、無性にお前に会いたい。
疲れがどっとでてきて、朝っぱらから眠ってしまった。
*エイト・トロデ・ミーティア(ベルガラック)*
「今日はベルガラックへ行きます。いいですか?」
いいも何も、お前さんがそうしたいならそうするまでじゃ。
エイトは日に日に表情が暗くなる。ドルマゲス戦に対しての緊張などではない。エイトは移動呪文を唱えた。
「ギャリングさん、なかなか豪傑だったようですね。ヤンみたいだ」
ベルガラックは依然と変わりなかった。カジノは閉まっており、兄妹オーナーのフォーグ、ユッケの二人の姿もなかった。ドルマゲスのことで新しい情報も得られなかったようじゃ。もうあとは、あやつを倒すのみ……。
「ベルガラックで最後じゃな。リーザスに戻るか?」
「はい。……あの、その前に一度海辺の教会に行ってみていいですか? ヤンかククールが来ているかも知れないので」
そうじゃな。まだ四日目じゃが、ヤンガスあたりが来てないとも限らない。我々は、再び呪文で海辺の教会へ飛んだ。
*エイト(海辺の教会→マイエラ→リーザス)*
海辺の教会はいつものように静かに僕らを迎えてくれた。
「……ククール?」
見慣れた赤い服……ククールが気だるげにベッドから起き上がった。
太陽の光がステンドグラスを通って、銀の髪にキラキラと反射している。ククールは女神像のような笑顔をこちらに向け、言った。
「よお! 早いな」
会いたかった、ククール。
あんなに会いたかったのに、今の僕には直視できなかった。
「んだよ、リーダー。三日ぶりだってのに、つれないなあ」
僕の心が読めたんだろうか、ククールはちょっぴり眉を寄せて寂しげに言う。
ドニに閉じこもって何してたの……やっぱり女の人と一緒じゃなかったの?
僕、嫉妬深いよね。そう思ったら、自嘲気味な笑いがもれた。
「なに笑ってんだよ、オレがいちゃおかしいか?」
「そんなことないよ。……ね、今までどこにいたの? ドニ?」
「ドニだよ。他に行くとこねえし」
「そう? ククールならどこに行っても泊まるとこありそうじゃない?」
ああ、また嫌なこと言ってるね、僕。
「ねえよ」
ククールが少しイラッとした。
ひょいとベッドから降りてきて髪を束ね直す。
たったそれだけの仕草に、ドキドキする僕。青く冷たい視線を探した。
「まあいいや。君はあと三日、ここにいるの?」
「いや。誰かいるかと様子見に来ただけだ。お前はまたリーザスか?」
僕たちはそんな話をしながら王と姫の馬車に向かった。
「……マルチェロさん、マイエラにいなかったけど、ドニにもいないよね」
「いねえだろうな」
「どこにいるんだろう?」
「知らねえよ。あいつのことは考えたくない。……なあ、なんでそんなにあいつに会いたいんだ?」
「挨拶したいんだよ。いよいよです、って」
「いらねえよ、挨拶なんて。てか、やっぱお前が一番ブラコンじゃねえか。兄貴が欲しきゃ、オレをお兄様と呼んでいいぜ?」
お兄様!
そうか、そうだよね。ククールは僕を弟みたいに思ってくれてるんだ。だから、優しくできるんだ。弟だから……。でも、僕は……。
「ってえな! お前、どうしたんだよ! おかしいぞ」
僕は無意識にククールに正拳突きを入れていた。そして次の瞬間、ルーラを唱えていた。もうククールの顔なんて見ていられなかった。王や姫のことも放って、僕はマイエラに飛んだ。
マルチェロさんに会いにもう一度修道院に行った。でも、やっぱり不在で、何の情報も得られなかった。情けない……。夜になってから、リーザスに戻ろう。僕はあてもなくマイエラ地方をうろついた。
「どういうつもりだよ?」
リーザスに戻ると、入り口にククールが立っていた。あの風車の下で。腕を組み、冷たく言い放つ。怒ってるのかな。その瞳は優しいけれど。
「王たちを連れてきてくれたの?」
ククールは無言でうなずく。
「ありがとう」
脇をすり抜けようとすると、腕をぐいっと捕まれた。そして赤に包まれる。
「何? ……ククール」
「何を悩んでるんだ?」
ククールのぬくもり……ククールのにおい……。あったかい……。安心する……。このままでいたい……。
でもこのまま寄りかかっちゃいけない……。僕は息を止めてククールを思い切り突き飛ばした。
「どうしたんだよ……」
風車の足に背中をぶつけたククール。怒るどころか優しい笑顔を僕に向けた。
僕は両の拳に力を込めて耐えた。……優しくしないで。ドルマゲス戦を控えてるのに、僕の頭の中は君のことでいっぱいなんだ!
「エイト!」
名前を呼ばないで。リーダーって言ってよ。
「……リーザスに泊まるの? 宿屋とった?」
「とってねえよ。アタマきてさ、さっき。お前が一人で行っちまうから。ずっと待ってた。ここで」
「さっきも言ったけど、王のことならありがとう。もういいから。それとも……なんか、用?」
またこんな言い方……。ククールが待っててくれたのが死ぬほど嬉しかったクセに。
「用か……。……オレ、お前に嫌われるようなことしたか?」
「別に」
「じゃあ、なんで……」
そんなの!
「なあ、暗いぞ? こんなで大丈夫なのか?」
ああ、そうだよね。しっかりしなきゃ。
「うん、ごめん。緊張してるのかも。ドルマゲス戦の前だから」
「……そうじゃねえだろ……」
僕は明るく言ったつもりなのに、ククールは僕を真っ直ぐ見て、そう言った。
心配かけちゃいけない。ククールお兄様に。
「そうだよ!」
「違うだろ?」
僕たちは不毛な言い合いを続けた。
いつの間にか夜が白々と明けていた。
面倒な一週間になっています。次は五日目です。