食事を終え、半分寝かかっているエイトをどうにか促しながら宿まで連れてきた。エイトは部屋に入るなり、ベッドに倒れこむ。
「先にシャワー使って」
エイトはあくびを噛み殺しながら言った。
オレは後でいい。待ってる間に寝ちまうぞ?」
「そお? じゃあ……」
のろのろとシャワー室に消えるエイト。頼りない小さな背中……。
宿敵ドルマゲスの根城がわかったっていうのに、エイトは一週間も「暇」を出した。
オレは、なつかしのマイエラ修道院とドニの酒場であれやこれや考えていたんだが、オレが一番したいことは、エイトに気持ちを伝えることだ。だから、もう一度、お前の唇からオレへの気持ちを聞きたい。そう決意したら、他に用事もないし、早々に集合場所の海辺の教会へ行った。静かな気持ちでいたら寝ちまったんだが、ここへ現れたのはエイトだ。お前の顔を見て、確信できた。もうずいぶん前からオレのなかでエイトの存在が大きくなっていたことを。お前が告白してくれなかったら、オレはこの気持ちを一生涯、隠し続けたんだろうな。
……なんて、センチメンタルに浸っている場合じゃないようだ。シャワー室に行ったはずなのに、シャワーの音が聞こえない。嫌な予感がして見に行くと、エイトが脱衣所で丸まっていた。やっぱり。寝ちまってる。全裸だよ。まいったな。
「このまま寝るか? 運んでやるぞ?」
「……らめ。洗いたいの。僕は酒くさいのと汗くさいのは嫌いなんら……」
「あーわかったわかった」
ったく、異常なきれい好きさんにも困ったもんだ。オレは先に手早くシャワーを済ませ、エイトをシャワー室に運んだ。
「洗ってやるから……」
壁に手をつき、ふにゃふにゃと力なく頷くエイト。
頭からシャワーをかけてやる。
少しクセのある茶色の髪。もつれて洗いにくい。
細い首。傷だらけの腕や背中。男の勲章みたいな深い傷がまったく似合わないきめ細かい肌。背を伝う血の美しいなまなましさにゾクリとした。
「前は自分で洗えよ」
うん、と言ってエイトはおとなしく前を洗う。
伏し目がちの潤んだ瞳……。色気感じてるオレって変態だな。にしてもやらしいカオだ……。エイト、お前、抜くときって……。
エイトが達する瞬間のカオが、ちらちらと脳裏をかすめ……ダメダメ。オレがおっ勃っちまう。てゆーか、半分ヤバい。いや、ほとんどヤバい。オレは妄想を振り払うように強く目をつぶったまま、シャワーノズルを渡す。もう限界だ。
「ちゃんと流してこいよ」
「は~い」
シャワーの音がやむ。
すぐに扉の開く音。寝ないで無事に洗えたようだな。
「あれ? 髪もう乾いたの?」
「バギでな。便利だろ」
「うん、僕にも」
タオル片手にびしょ濡れのまま出てきたエイトは、オレに頭を差し出した。
「お前さ、ちょっとは拭いて来い?」
「眠くて無理」
しょうがねえな。オレはバギをかけてやった。
「うわっ、寒い」
「我慢しろ」
もういいぞ、と言うと、エイトはベッドにもぐり込んだ。
「寒いよククール。……一緒に寝て。背中合わせで。リーザスの時みたいに」
「えっ?」
少しの沈黙……。
「ちょっとあったまるまででいいから……お願い……」
エイトにお願いされちゃ、寝ない訳にはいかねえか。
「いいぜ」
いや! やっぱりよくない……背中合わせなんて耐えられるか!
「お前、酔ってるんだよな?」
「そうだよ。変なことしないから安心して」
「そうじゃないだろう? 酔った勢い、って知ってるか?」
「知ってるよ。だから『背中合わせで寝て』って頼んでんの」
よくわかんねえな。じゃあ酔ってなかったらどうするんだよ。……まあいい。オレはエイトの隣へ横たわった。
背中を合わせた途端、すうすうと寝息が聞こえてきた。ほっとするやらもったいないやら、不思議な気持ちのままオレはゆっくりエイトのほうを向き、背中から抱きしめた。
あったかい。
日向の匂い。
オレは肩に、首筋に、頬に、唇を進めていった。エイトは気付かない。オレは腕の中の確かなぬくもりが消えてしまわないように、しっかりと胸に抱え込み、目を閉じた。
* * * * *
あれ?
なんか熱い……背中合わせじゃない?
どういう状況か把握するまでに時間がかかった。
ククールが背中から抱いてくれている……。
腕枕してくれてる右の手のひらを握ってみた。
ククール、君が好き。
僕はゆっくりククールの方を向いた。
綺麗だな、ククール。
女神像みたいだ。
僕は胸に顔を埋めた。
幸せだ。
どうしようもないほど、君が好き。
いいよ、弟と思ってくれて……。
一緒にいてくれるなら……。
それ以上、何を望める?
* * * * *
まずい、マジ、まずい。非常にまずい。
なぜなら、エイトがオレの胸に顔を埋めているから。
オレの禁欲の象徴は、女神様の教えに反してむくむくと……。
食いたい……。
キスくらいいいかな……。
ダメダメダメ!
そんなことしたら、ひんむいてみんな食っちまいそうだ。
オレはエイトが起きてしまわない程度の力で抱きしめた。
エイトは何か勘違いしてるんだろう。前に「いっぱいいっぱいだ」と言っていたが、何でも一人で背負って、疲れてんだ。オレはエイトにエンジェルと言われた時、そう思った。コイツにだって休まる場所が必要だ。その場所にオレがなる。弱ったらいつでも回復してやるぜ。お前の不安が解消されるなら、オレはいくらでも支えてやろう。
お前のために生きてやる。お前のために死んでやる。
心は向き合っているはずなのに、気持ちを伝えられない。オレ、肝心なところで自制心が働くな。さすが、戒律の厳しいマイエラ育ちだぜ。いつまで持つか、自信はねえが。大体、エイトはそういうことを求めてないだろう?
だが、期待せずにいられない。エイトははっきりオレが好きだと言った。昼間も、キスを拒まなかった……。
オレたちは男だ。このまま清い関係でいるほうがお互いのため……。
だが、オレは……。
オレは再び訪れた眠りの波に身を委ねた。良かった、眠くて。明日のことは明日考えるさ。この気持ちをどうするかなんて。
* * * * *
朝はあっという間に訪れた。僕は名残惜しかったけど、ククールの腕からそっと抜け出した。
特に何もなく、朝を迎えました。もう一泊します。