……何を確かめたいの?
急に強く抱きすくめられ、僕はびっくりした。でも、もう押し返したりしない。
僕の背に腕を回したまま、ククールはまっすぐに僕を見つめる。刺すようなサファイア色に圧倒されて、僕は何も言えなかった。
「お前は本当にオレを……」
何度も言わせないで。やっと……やっと伝えることができたのに。
言葉にしてしまうと、薄っぺらになる気がする……。それに、ククールの負担になりたくないんだよ……。言わなければよかったの? でも、それじゃ僕は焦がれる痛みに耐えられなくて、そばにいられなくなる。
「確かめたいんだ……」
同じ言葉を繰り返すククールの頬に手を伸ばした。指先が震えてしまう。そっと両手でつつんだ。その感触は冷たい。反対に僕の手のひらは熱くて、汗もかいてる。ククールは文字通り、この熱を肌で感じているはず。視線を逸らさないククール。頬をゆっくり引き寄せるとサファイアの瞳が細くなる。僕は唇をそっと重ねた。
「エイト……そんなんじゃ、ダメだ。それくらいしか好きじゃないのか? そんな挨拶程度なのか? ……わかってるのか、オレは男だぞ、お前も」
「わかってるよ。いいんだ、君に伝えられただけで。どうにかなりたい訳じゃない……」
そう、どうにもならないじゃないか。
「……オレはいやだ」
「えっ?」
「お前と添い寝できるほど、オレは人間ができてねえ」
「ククール……」
「お前に嫌われたほうがましだった……」
「……」
「お前と離れてマイエラで泊まってから、オレはいつも同じ夢を見た。暗闇で一人ぼっちになる夢だ。オレは必死で走るんだ……どこまでもどこまでも。でもなんにも見えやしない。それでもオレは探しているんだ。……お前を」
ククール?
僕はククールの胸にきつく抱きしめられた。
「でも見つからないんだ。最後はいつも深い穴に落っこちる……」
「ククール……君……」
「いつもなら、朝がくればいつもお前がいる。エイト、お前が。手を伸ばせば、こうして触れることだってできる。一人になって、オレはお前のことばかり考えていた。お前がオレを好きだって言ったからじゃない。なあ、求めちゃいけないのか……? 本当にどうにもならないのか」
「ククール……どうして? どうして君はそんなに優しいの?」
「優しい? お前、オレがハッタリかなんかで言ってると思ってるのか?」
君は、僕が傷つかないようにしてくれてるんでしょ? ゴルドのときも……闇の遺跡に行く前の夜も……。ゆうべだって。
「エイト、答えろよ」
僕はたまらずククールの腕から抜け出た。
……ねえ、昨日キスしてくれたよね、すごく嬉しかった。ありがとう。それだけでいいんだ。旅が終わるまでは、一緒にいてね……。だから、もう……。
「僕だって……ククールのこと嫌いになりたいよ、こんなに辛いなら……。もう、苦しくて死んじゃう」
「バカ野郎! 死ぬなんて簡単に言うな。お前に蘇生呪文かけるオレの気持ちになってみろ? 何度も何度も…一瞬浮いて……また……。もし、間に合わなかったら、呪文じゃ助けられないダメージだったら……」
ククールが瞳を伏せた。長いまつげが小さく揺れる。
「……ククール」
「やっとわかったんだ。オレは、オレは……お前を支えたい……。だからもう一度教えてくれ……エイト……本当にお前は……」
「しつこいよ、ククール。僕が嘘ついたこと……あー、あるか……」
ククールの顔がくしゃりとほころんだ。
「そういうこと言う場面じゃねえぜ」
「ごめん」
「謝ったな。じゃあ、お仕置きだ。お前はオレの唇を奪って、次はどうするつもりだ? 言ってみろ」
ククールの瞳が僕を呼んでいる。越えてはならない一線。その際に僕らは向かい合って立っている。ククールが両手を広げて待っているのは……僕なの?
引き返すなら今しかない。一言「今のままでいい」って、そう言えば……。笑って済ませられることだよ。かっこいいククールに憧れてるだけだよって。次も何もないんだ。ちょっと甘えたいだけだよって。
笑顔でそう言おうと思っているのに、ククールのサファイアの瞳を見ていると、淡い期待を持ってしまう。その真剣なまなざしに溺れたくなる。僕は、自分の感情を貫いていいの? 媚薬みたいなサファイアの光が、僕を熱くする。
どのくらい、僕たちは見つめ合っていただろうか。抑えられない感情が、この状況を終わらせようとしている。僕の脳は、「このままでいい」と指示を出したのに、唇が反抗した。
「……もっと……もっとキスしたい」
よし、してやる、そう言ってククールは僕のあごに手をかけた。
* * * * *
きっかけを待っていたかのように、二人は強く抱き合って互いの唇を求めた。舌をからめあい、溢れる唾液を味わえば、さっきまでの戸惑いは消え、欲望が全身を支配した。
「……次は……どうしたい」
エイトは薄く目を開けて、上気した表情をククールに向けた。
「君に……さわりたい。君の……身体……全部」
息が上がり、言葉が上手くつなげない。
赤く濡れた唇を味わいながら、エイトはククールを仰向けに寝かせ、衣服に手をかけた。
留め具を外し、真っ赤な騎士服を取り去る。ククールのすべてが現れるまで丁寧に着衣をはがしていった。
「綺麗だ、ククール……」
エイトはククールに覆い被さり、輝く銀の髪を指に絡めながら再び唇を合わせた。細い首、鎖骨を順番に熱い指が這い、追うように唇が進む。心臓に耳をあて、彼の鼓動を聞きながら、きちんとした筋肉のついた肩から二の腕、指先まで触れていった。そして胸の突起を口に含み、舌で柔らかく転がした。
「エイト……ん……あっ」
その優しい動きに思わず嬌声が漏れる。お前、慣れてるじゃねえか……とククールは強がってみせようとしたが、息が上がって言葉をつむぐ余裕はない。
エイトは続けて無駄な肉のないウエストに腕を回し、そのままククール自身に触れた。はち切れそうなそれを握るとククールが頭上で息を詰める。右手で緩やかに上下させながら、唇を近づけていった。
「あっ……エイト、うっ……んんっ」
両手で包み込み、指先が先端からとろりと溢れる液体で先端を攻める。ククールはたまらずのけ反った。
「君を味わいたい、全部……」
エイトのかすれた声はククールを昂らせた。
「ずるいぞ……エイト、オレにも……」
ククールは素早く体を入れ替え、エイトの着衣の裾に手を入れた。
……熱い。エイトの素肌はしっとりと汗ばんで、青いシャツを取り去ると、エイトの匂いがふわりと溢れた。
「ダメだ……もう、我慢できねえ」
ククールはエイトの唇を乱暴に貪った。遠慮なく口腔に侵入し、びっくりして奥におさまってしまった舌を誘い出す。二人の肩が大きく上下する。
──溶けちゃいそうだ……。
エイトは自分が満ち潮に溺れ、どんどん深みに沈んでいく感覚にとらわれた。二人の身体は、離れまいと絡み合い、ほどければまた求め合い、ひとつの潮の流れに膨らんでいくようだった。
口がカラカラになるまで相手の身体を隅々まで愛し、欲望の雫の溢れる物を互いにいとおしむ。二人の間には何の言葉も存在せず、ただ、乾ききった砂漠が水分をいくらでも取り込むように、与え、与えられ、時が過ぎていく。
「エイト、お前は……」
「……?」
強く抱き合ったまま、互いの屹立した物をしごきあっていると、ククールが言葉を発した。限界に近づいているエイトは、ククールの唇に触れ、次の言葉を待った。
「エイト、お前とつながりたい。身体をつなげたい。怖いか?」
エイトは静かに首を横に振る。
「怖くないよ、ククールなら。僕も一つになりたい」
「オレはお前に入れたい……。いいか?」
うん……とエイトは静かに答え、ククールの前に改めて身を横たえた。
「エイト……。やっと伝えられた……。お前を愛していること……」
ククールは今、「満たされている」ことを感じていた。ようやく、愛せる相手に出会えたこと、心と共に、身体で確かめることができることを。一方のエイトの胸の中には、小さな不安が潜んでいた。ククールの中にいつも見え隠れする、マルチェロの存在。しかし、愛してしまったその感情を、打ち消すことはできなかった。目の前にその人がいる。心が通じ、そして身体を繋げるという喜びは、今はどんな不安にもまさっていた。
何も聞くまい、そうククールは思った。エイトだって兵士。愛らしい童顔、素直な性格。血の気の多い男どもが放っておくはずがない……未経験じゃないことはすぐにわかった。
「……ククール……あっ……」
「お前の……その声……ソソる」
後ろを探れば、腰を浮かして声を上げる。
半開きの唇から漏れる声、せつなげに寄せる両の眉、細く開いた黒い瞳。荒い呼吸のせいで肩は激しく上下し、ほっそりした腰が愛撫を求める。ククールの指が内部をかき乱すのに合わせ、エイトは全身で快感を表した。
「ああ……ククール……」
エイトは腕をククールの首に回し唇を寄せた。
少し放心したような満たされた表情を見せ、エイトは目を閉じた。甘い吐息がククールの耳に届く。
「エイト……」
速まる鼓動を自分で感じながら、ククールは最大限の自制心をもってエイトの身体に口づけていった。
エイトは、度々こらえ難い、苦しげな声を上げて快感の波間を漂う。
「……あっ……ん」
ククールの指がそっと抜かれた。開かれたエイトの目はククールのサファイアをのぞきこむ。
「……痛いか?」
エイトは小さくかぶりをふり、まだ荒い呼吸のままで答えた。
「……きて。僕、……大丈夫だと思う」
もうすぐ……もうすぐ、ひとつになる……。
その思いは二人を昂らせた。しかしククールは、早急に進めず、再び慈しむように、エイトを抱きしめた。
「……エイト」
「なあに?」
「次は……痛くても、止められない……」
「うん」
ククールはエイトをうつ伏せにし、腰を持ち上げた。目の前の小さな門は、先程の愛撫で柔らかく弛み、ククールを待っている。ククールは優しく口づけ、舌を入れた。
たっぷりと濡らしながら前も刺激してやる。エイト自身もすでに固く立ち上がり、愛液がとろとろと滲み出している。
「やっ……ククール……ああん……出ちゃう……んっ……そんなに……しないで……」
いや、やめて、と懇願する声に煽られ、ククールは自分の物をあてがった。
懸命に痛みを堪える声も、もはやククールの侵入を妨げることはできない。それでも、ごくゆっくりと押し入り、かき分け、全てを収めた。
「……エイト……入ったぞ、お前に」
「うっ……うん……」
速い呼吸の合間に囁く。
「痛いか?」
「うん。……でも平気……嬉しいよ、ククール……」
嬉しい、その一言がククールの何かをかきたてた。
──必要としてくれる、愛してくれる人がいる。エイトに出会えたこと、それが全てだ。生きていてよかった。
抑えていた欲望の小さな火は、風に煽られて一瞬で大きな炎となった。徐々に速まるククールの動きに、エイトも痛みから快感を感じ始めていく。
「ふあっ……ククール……んっ……」
「も……っ……もう止まんねえ……エイト、エイトお前……良すぎる……」
「ク……ククール……すご……あっ……んんっ……い……い」
ククール気持ちいい、を繰り返すエイト。突かれる度に自分を侵略してくるククールの存在に喜びの声を上げた。
「……ねえ、ククールは……気持ち……いい?……っ……んあっ……」
「いい……に決まってる。……もう……止まんねえ……よ。オレが……壊れるまで……お前を良くし続けてやる」
繋がったままククールは器用に前を向かせ、エイトの膝を自分の肩に上げた。
刺激を受ける部分が変わり、エイトは腰を回して応える。
「あっ……ククール、ね……もう、出ちゃう……はっ…ああん」
エイトは一瞬硬直し、勢い良く放出した。同時に内部はひくひくと痙攣し、ククールを攻める。
「エイト……オレも……」
ククールもほとんど同時に達し、二人は繋がった部分に意識を集中させた。とくとくとエイトの身体に流れ込んでくるククールの欲望の雫。
エイトはククールに包まれ、ククールはエイトを手に入れた気がした。
次は里帰り最終日です。