*ヤンガス(ゲルダのアジトにて)*
俺は夜明け前にゲルダのベッドを抜け出した。ゲルダは眠ったふりをしているんだろうか、それとも本当に眠っているんだろうか。俺は確かめることはせず、黙って家を出た。エイトの兄貴からもらったキメラの翼を天へ投げる。行先はもちろん、海辺の教会だ。移動呪文で消える俺の姿は、きっと笑えるくらいみっともないんだろう。ゲルダには見られたくねえな、と少し思った。
海辺の教会は、ゲルダのアジトのある地域に比べると、少し寒かった。海風も冷たく、強い。俺は心は落ち着いていたが、すぐに教会へは入らず、裏手で海を眺めながら夜明けを待った。今の俺の精神状態は「無」だ。何もかも捨てている。俺の運命はエイトの兄貴のサポート。結果は関係ない。
*ゼシカ・トロデ・ミーティア(アルバート家にて)*
「じゃあ、行って来るわね。また来るから。必ず」
朝日が眩しい。お母さんはもうあたしに何も言わなかった。
屋敷の前では王さまと馬姫さまが待っている。
「アローザ殿、世話になった」
王さまも緊張した面持ち……?
「ぷぷっ!」
「ゼシカ、何です? 笑うなんて」
だって、だって!
「ご、ごめんなさい……。お、王さまがっ……ぷぷっ……」
王さまったら、両手に山のようにフィナンシェを抱えて、ちっとも緊張した面持ちじゃないんだもの!
「すごく、嬉しそうで……あははは!」
あたしは我慢できなくなって大笑いしてしまった。
「……いや、ゼシカの言う通りじゃ。わしらはずいぶんよくして頂いて、こんな美味しい焼き菓子をたくさん……」
子供がお菓子をもらったみたいににっこにこなんですもの!
ひとしきり笑って息をついたとき、お母さんがあたしを見た。
「必ず! 必ず帰ってくるのですよ。王さまにしっかりお仕えなさい」
お母さん……。お母さんはいつだって真剣だった。あたしに行くなと言った時も、そして今も。
あたしは振り返らずに村を出た。馬姫さまの手綱に手を添え、キメラの翼を放る。すっと意識が遠くなる感覚があって、そのあと強い向かい風を通り過ぎると目的地に到達する。ふわりと着地する。
海辺の教会は今日も静かだった。
*ククール・エイト(サザンビークにて)*
「エイト?」
「うん?」
オレの胸に頬を寄せて眠るエイトをキスで起こした。
「立てるか?」
「たぶ……ん。……いっ」
そりゃ痛てえだろう。夕べのことを思い出しているのか、恥ずかしそうな顔がかわいい。
シャワーを浴び、身支度をきっちり整え、オレは誓った。
「ドルマゲスを倒す。お前に、オレの命をやる」
エイトは無言で頷く。
「もし生きて戻れたら、またここへ来よう」
オレはそう言ってエイトを抱きしめた。深く口づけ、もう一度力を込めて互いの温もりを刻みこんだ。
*エイト(海辺の教会にて)*
「ヤン、来てくれたんだね」
海辺の教会へ行くと、すでにヤンが到着していた。
「兄貴……」
「どうしたの?」
急に涙目になるヤン。
「なんでもねえでがすよ……。誓って、あっしは兄貴について行きやす」
「うん、頼むね」
ヤンて、なんか時々ずれてるよね。まあいいか……。ゲルダさんちで怖い目にあったのかもしれないね。
「ククールも一緒ですかい」
「うん。今、シスター口説いてる」
教会の扉が開く。
「エイト!」
「待たせたのう」
ゼシカと王も到着した。みんなの表情には少しの緊張が浮かんでいる。でも、どこか吹っ切れたような、清々しい感じがする。
「あら? ククールは?」
「いるよ」
「揃ったか」
シスターを口説いていたククールが奥からやって来る。
「張られたか? 片方赤いぜ?」
ヤンの言葉に見てみると、ほんとだ、ククールの左頬が赤くなってる。シスターの姿を探すと、神父さまになにやらぶつくさ訴えていた。
「ちょっと、ククールってばまたしつこく口説いてたんでしょ。泊まりにこられなくなっちゃうじゃない!」
「ああ、悪かったよ……。怒るなよ、ゼシカ」
「次にここに来るときは、ククールだけ夜営だね」
みんなげらげら笑う。
「のう、エイト。すぐに出発か?」
「はい。王……ところで、それ何ですか?」
王が物を持っているなんて珍しい。それも大切そうに。
「ああ、フィナンシェじゃよ。アローザ殿お手製の」
「あたしだって手伝ったわよ」
「へえ! 嬉しい差し入れだね」
王がバスケットを開くと、香ばしいバターと木の実の香りがした。
「クルミ入りだね?」
「さすが、エイト! よくわかるわね」
「こっちはドライフルーツ入りだな?」
「ククールったら、いやしいわね」
「なんだよゼシカ、リーダーはさすがで、オレはいやしい?」
またみんな笑った。
僕らはいい雰囲気のまま、闇の遺跡にルーラした。
一週間前とは全然違って、気持ちが落ち着いている。
「作戦は『いのち大事に』だよ。いいね」
「おう」
「いつもそうだけどね?」
「兄貴はあっしがおまもりいたしやす!」
「大丈夫。僕たちなら、必ず倒せる。じゃあ、僕、ヤン、ゼシカ、ククールの順で行こう」
「おう、回復はまかせろ」
「あたしは魔法攻撃中心で行くわね」
「兄貴はあっしがおまもりいたしやす!」
「うん、ありがとう。でもヤンもちゃんと攻撃するんだよ」
「しゃーねーべ。トゲトゲは他のこと言えねえんだろ?」
「何ッ! ドルマゲスの前に、やっぱりおめえを殺って……」
「ああ、もう、ヤンたら、冗談だよ、落ち着いて。ククールもふざけないで!」
僕たちらしい雰囲気が戻っている。
さあ、行こう。
僕たちは最奥に潜むドルマゲスを倒すため、再び闇の遺跡に足を踏み入れる。もう、ククールのブーツも緩まない。ゼシカも震えた声を出さない。ヤンも周囲を警戒しながら静かに進む。僕は道を間違えないように、後ろの3人の指示を聞きながら進む。仕掛けも間違えないように、確かめながら進む。
ちゃんとみんな集合しました。次はドルマゲス戦ですが、戦いの描写はありません。