「ククール! ククール!」
エイトだ……。エイトの声が聞こえる。オレは返事をしたいんだが、どうやら雪に埋もれちまって声が出ねえ。なんも見えねえし……。
「ククール! 待ってて! 動かないで! 今行くから!」
助かった、エイトの声が近づいてくる。
「ククール!」
エイトが雪をかき分けてオレを引っ張り出した。オレは崖から落ちた衝撃でまだ身体が動かねえ。
「ククール! 死なないで! ねえククール、返事して!」
エイトはオレにしがみついてくる。こんなに汗かいて……必死で探してくれたんだな……そう思うと涙が出そうだった。
「エイト……」
オレは、エイトにキスしようと渾身の力を込めて起き上がった。
「エイト?」
返事はなかった。疲れたんだろうな……。とりあえず唇を重ねてみた。……無反応。そっと舌を入れてみた。……無反応。安心して寝ちまったのか、こりゃ。まあいい。オレはエイトを背負って崖の窪地に避難した。
窪地の中はわりと広めで、雪も吹き込んで来ない。ここで吹雪がおさまるのを待つしかねえな。オレはエイトをとりあえず横に寝かせた。
ヤバい。無防備なエイト……。眠り姫ってこんな感じかな。ではもう一度王子さまのキスで………………。
???
なんだ、この反応のなさは。おまけにメチャメチャ冷たい。オレは嫌な予感がして、青いシャツの中に手を入れた。まずいぞ。オレを探している間にかいた汗が冷えて、身体が氷のように冷たい。唇も白っぽいじゃねえか。凍えちまう。
道具袋をひっかき回したら、絹のローブが出てきた。オレは騎士服を脱いで広げ、その上にローブをのせた。エイトの濡れた服を脱がせ、冷たい体をローブにくるむ。バギをかけて服を乾かしたが、冷えきってとても着せられない。
そうだ、やっぱり寒いときは裸になって愛し合うのが手っ取り早い……。いつもならヨダレが出そうなシチュだが、今は寒すぎだ。くそっ!
もったいない……。いやいや、己の欲望は置いといて、エイトをマジで温めてやらなきゃ。
そういえばエイトの上着は防水だったことを思い出した。この際なんでもいいから布でくるめなきゃ。上着の雪をはたき……ん? ポケットが不自然にふくらんでいる……。まさかトーポ……凍って?
オレはおそるおそる手を入れた。……トーポじゃねえ。これはビンだ。また何だってビンなんか……。
「おっ!」
それはブランデーだった。遭難者を助けるために救助犬が首にくくりつけている。そうか、救助犬がいたんだな。ほかのみんなは助かったんだな。一安心だ。
オレはゆっくりとエイトの口の中にブランデーを流し込んだ。しかし、エイトは無反応で、飲みこむことができない。これを飲んでくれたら温まってくるのに。
オレはほんの少しだけ自分の口に入れ、もう一度くちづけた。ゆっくりと舌を差し入れ、エイトの冷たい舌に絡める。唾液と酒がまざりあい、徐々にエイトの舌に吸収されていく。
オレは胸を開けてエイトと肌を合わせた。
エイトに酒を口移して飲ませながら身体を温める。少しずつ、エイトの口腔も身体も熱が戻り始めた。
「っ……」
エイトは甘く喘ぐ……ようにオレには見えて聞こえる……。はあっと出るため息はかすかにブランデーの香りがした。エイトは酒に弱い。もう飲ませちゃなんねえな。
「……んっ……あ……」
エイトの唇が柔らかくうごめく……。喉の奥から絞り出すようなよがり声……に聞こえる音声にオレはおっ勃った。
「エイト……」
力を込めてさすってやる……身体をだぞ?
「……あっ……ククール?」
薄く瞳を開けたエイトはオレをじっと見つめる。ああ、なんて扇情的……。オレは更に強く左手を上下した…背中をだぞ?
「ああ、ククール、ねえククール、良かった……」
「さ、寒いだろう、大丈夫だぞ、オレがこうしててやるからな……」
意識が戻ったエイトは、オレに身体を密着させてくる。オレはたまらず唇を吸った。
「あっ、ククール、ククール……だめ……待って……」
エイトの身体はどんどん熱を帯びてくる。くそっ、吹雪の真ん中じゃなけりゃ、とっくにコトを……。
「ククール……待って……放して、出る……あっ……」
エイトは唇を嫌がり、更にオレの手を押さえようとする。オレはそれを許さず、より強く抱きしめ、左手で激しく上下する……背中をだぞ?
「あっ、だめ、もう……ホントに出っ……で……」
エイトは顔を思い切りそむけた。
……ックション!
エイトの顔のそむけ先は、俺の裸の胸だった。
「ごめん……」
エイトの鼻から鼻水がツーッとたれた。
「ぶっ……」
エイトの間抜けづらに、オレは思い切り吹き出してしまった。
エイトも笑った。笑いながらその辺の雪をつかんで、俺の胸についた鼻水を拭う。
「おいバカ、冷てえよ、エイト!」
「ごめん、だってティッシュとか持ってないし、袖で拭くわけにもいかないでしょ……」
「ガキじゃねえし。……今はその袖もないけどな……」
オレたちはゲラゲラ笑った。
「行くべ。みんなが心配する」
「うん。ねえ、鼻拭いたからも一回キスして……」
「いいぜ」
目を閉じたエイトの顎を引き寄せた……。
ああ、なんて健気なんだ、エイト。オレを助けるために……。
オレは愛おしさで胸がいっぱいになる。
うっすらと桜色に発色している唇の、薄い体温を感じた。
と、その時。
「バウッバウッバウッ!」
「うわーっ!」
今度は何だよ!
「あっ、さっきの犬だ!」
「あの酒の犬か」
ばかでかい犬ははオレの顔をじっと見つめ、べろべろ~んと舐めた。くっせ~!
ったく、犬とキスしてどうすんだよ!
「お迎えきちゃったね。行こう」
ふふっとエイトは笑う。
オレは雪で顔を洗い、エイトにちゅっと軽いキスをした。
「歩けるか?」
「うん、あれっ」
立ち上がったエイトだったが、足先の感覚がもどらないらしい。その場にころんとしりもちをついてしまった。
「軽い凍傷かもな」
「それって……しもやけってこと?」
「しもやけを甘く見ちゃいけねえぜ。ほっとくと使い物にならなくなっちまう。無理するな」
ありったけの服をエイトに羽織らせ、上半身裸のままエイトを背負った。肌が密着していれば冷えないで済むだろう。
傍から見たら間抜けな格好だが、命には代えられねえ。
オレは、弱虫の小僧が、腹いたをおこしたじいさまのために霜の降りる夜道をふもとの医者まで裸足で駆け下り、医者にねんねこばんてんでおぶさって、じさまのもとへ向かう……そんな昔話を思い出した。「弱虫でも優しけりゃ」ってじさまは言ってたな……。
オレたちの場合、じさまはトロデのおっさんか……。いや、その前にヤンガスに見つかって、オレは殺されちまうんだろうか……。
少しもおさまらない吹雪の中、そんなことを考えながらでかい犬に続いてオレは歩いた。
パラダイスというほどのことにはなりませんでした。