「何、ここ……。気持ち悪い……また教会だし……まだあの人お祈りしてるよ?」
あたしたちは、黒犬レオパルドを追ってこの北の地に来ている。雪崩にあったあと、メディさんに助けられ、吹雪がおさまるまで滞在させてもらった。レオパルドの行方を捜しにオークニスの町に到着。町の人にレオパルドのことを聞くけれど、知っている人はいない。それから、あたしたちはグラッドという人も探している。どうしてかと言うと、メディさんに頼まれたから。預かり物を渡さなければいけない。
そしてまた始まったエイトの方向音痴……。まあ、ドーナツ型の街の造りは、エイトじゃなくても確かに迷うところはある。にしてもさっきからぐるぐる回りっぱなし。で、肝心のグラッドさんはここにはいないということが分かった。薬師であるグラッドさんは、ここから更に北にある薬草園にいるらしい。そこは洞窟になっていて、死ぬほど寒いんですって。
なんか、お母さんに会いたくなっちゃったな。
ドルマゲスと戦ったり、杖に呪われたり、そして吹雪にあったり。ここのところゆっくり休んでないような気がするのよね。
「ねえ、一度リーザスに行かない?」
「また里帰りでがすか……?」
「おっ? トゲトゲはゲルダ姐さんに会いたくなったってか? まあ、ドルマゲス戦で死にそうな目に会って、怖いゼシカも見ちまったもんな。弱気にもなるべ?」
「てめえ!」
余計なことばっかり言うククールはとうとうヤンガスに殴られた。
ふたりのじゃれあい、いつもなら止めに入るはずのエイトが、今日は笑って見てる。
なんか余裕じゃない?
ねえ! あたしが呪われてる間に何かあったの?
ううん、違うわ。ドルマゲス戦の前……エイトとククールは言い合いばかりしていた。確か四日目の夜だったわね……一晩中話してたみたいで、明けた五日目、うちにお茶に来て……居眠りこいてた二人を王さまが追い出して……。
王さまはうちにいたし、ヤンガスはゲルダさんとしっぽり……。やだ、あたしったらしっぽりだなんて……。とにかく、エイトとククールは二人きりよね……。集合する七日目までのまるまる二日間、一体どこでナニしてたの?
ねえ! 教えて!
「……カ? ゼシカ?」
「えっ? あっ、ごめんなさい、なあに?」
ああ、びっくりした。まあいいわ。今日は何がなんでも真相を暴くわよ。誰もアルバート家から出すものですか!
「ハニー、どうした? 怖いカオして……。まさかまだ杖持ってるんじゃねえの?」
「持ってないわよ!」
ふう、危ない危ない……。悟られたら困るわね。ククールってばそういうところでカンが働くから。……だとすると、ククールから聞くのはやめた方がいいわね。意外にうっかりな発言するけど、……もし、もしククールとエイトの間に何か秘密があったんだとしたら、うまくごまかされるだけだわ。
「嬢ちゃん、おふくろさんがつくるあの甘い菓子にありつけるのか? 俺はバタ臭いもんは嫌いなんだが、あれだけは美味い。楽しみだ」
そうだ、ヤンガス! ヤンガスなら嘘つかないわよね。そうだわ。ヤンガスだって怪しんでるに決まってるもの……。リブルアーチでのことを聞いてみよう。あたしは頭の中で、どうにかしてヤンガスから話を聞き出すシチュエーションを組み立てた。トロデ王さまの機嫌が悪かったこともあったから、エイトもリーザスへ行くことに賛成してくれた。レオパルドの足取りもわからないし、装備品も寒さ対策が必要になったから、グラッドさんにはそれから会いに行こうと決めて。
「まあ! ゼシカ! 皆さんもご無事で何よりです」
家に帰ると、お母さんは本当に嬉しそうに迎えてくれた。
「アローザ殿、報告が遅れて誠に申し訳なかった」
「いえ、王様、何も仰らないで下さいまし。こうしてまた皆で訪ねてきて下さったのですから……」
お母さんにはあたしが呪われてたなんて内緒にすることにした。だって、そんなこと知ったらびっくりして失神しちゃうもの。だから都合のいいことに、みんな余計なコトを喋らない。あたしのペースになってきたわ。ふふっ。絶対クチを割らせるんだから!
あたしはお母さんと一緒にお茶の用意をする。
「あっ、お母さん? フィナンシェある?」
「ええ。もちろんです」
お母さんは、いつあたしたちが訪れてもいいように、フィナンシェを切らさないようにしてたみたい。ありがとう。みんなほとんど喋らないで行儀よくお菓子をつまんでいる。いつもぽろぽろこぼしてばかりのヤンガスまでかしこまっちゃって……。完全にあたしのペースね。
さあ、お茶も終わったし……。
「たまにはみんなでうちに泊まらない? わざわざ宿屋に行かなくても……」
「そうですわ。せっかくですもの」
あら、いい展開じゃない。お母さん、こう見えて実はおもてなし好きなのよね。
「いえ、アローザ殿、年頃の娘のいるお宅に、むさ苦しい男どもを泊めて頂く訳には参りませんぞ。ほれ、お前たちはさっさと宿屋を予約して参れ。わしはまた馬小屋に……」
「そんな、いいじゃない、王さま?」
「そうですわよ。客間で皆さんご一緒にいかがですか?」
「……いや、でもそれでは……」
王さまはしばらく遠慮していたけど、あたしとお母さんの押しに負けた。
まったりくつろいだあとみんなで夕食をとり、シャワーも終えた。で、リビングでお酒を飲みながら話そうという流れに持っていった。完璧だわ。
お母さんは楽しそうに王さまと話し、ヤンガスとククールはお酒の瓶を取り合っている。そして、それをにこにこ笑って見ているエイト。エイトはお酒が弱いから、あたしと一緒に弱い果実酒を飲んでいる。
みんなご機嫌ね。良かった、くつろいでくれて。
あたしだけじゃない、みんなだって疲れていたわよね。
あたしがいない間、3人で杖を追ってくれていた。そして呪われたあたしを救ってくれたみんな……。
今日はそのお礼ができたかな。日頃の感謝をこめて……なんて、いつまでもまったりしていられない。
お母さんが久しぶりのお酒に酔い、部屋に帰ってしまった。喋り足りない王様は、今度はエイトを捕まえてベラベラやっている。ヤンガスとククールはさっきより飲むペースが上がってきた。
……ククールが邪魔だわ。あたしがヤンガスと話し始めたら、絶対首突っ込んでくるし……。でも早くしないとヤンガスが寝ちゃう。仕方がない、ククールがいてもいいか。
「ねえ、あたしが呪われてた間のことを話してよ」
「えっ?」
ククールが即反応する。やっぱり怪しいわね。そっとエイトの様子を伺うと、やっぱり、気にしてこっちをちらちら見てる。
「おう、いいぜ。ハワードのおっさんに頼まれて……」
「クランスピネルの話は聞いたわよ。ヤンガスがエイトに肩貸してたら鼻血だしたんでしょ? そうじゃなくて、リブルアーチに行く前よ」
「ああ……」
ふうん、ククールったら言いにくそう。
「サザンビークからすぐにリブルアーチに行ったの?」
「いや。ラパンハウスでちょっとな」
へえ。ちょっと何?
「ククールがキラパンに喰われそうになってたぜ?」
あらあら、初耳。
「しょうがねえだろ。オレって色男だからよ」
「色魔だろうが?」
そうそう、その調子。
「なんかキラパンに好かれちゃってさ。焼きもちやかれてよ」
「え? どっちが?」
「えっ? どっちって?」
怪しい! なんなの? この反応は!
エイトが真っ赤じゃない!
まさか、まさかとは思うんだけど、二人で女遊びをしてた証言でも聞ければって……。ねえ、違うの?? 二人は……?
「いや、嬢ちゃん、ククールは兄貴を守ってだな……」
ええっ? ちょっと何よ? ヤンガスがククールをかばうってどういうこと?
ヤンガスも一枚かんでるってわけ?
いつの間にか、エイトもこっちを見てる。三人であたしをじっと見つめる。それも全員困った顔をして……。
「ゼシカ、どうしたの?」
「あの……」
エイトの問いかけに、答えられない!
純情そうな瞳があたしをじっと見つめる。
……どうしよう、かわいいわ……じゃなくて、なんて聞けばいいの……?
無言の部屋には、王さまのいびきだけが反響している……。
「……あの、あたしがいない間、みんなどうしてたかな……って。ほら、なんか楽しいことがあったりしたら……」
やだ! あたしったら「楽しいこと」だなんて!
「ああ、そういうこと? うん、そうだなあ……別に特に楽しくはなかったよ。ゼシカがいなくてむさ苦しかった。お酒くさいし。ホント、ゼシカが無事に戻ってくれてよかったよ」
「えっ? あ……うん」
エイトははじけるような笑顔を向ける。これ以上は聞けないわね……。仕方ない、他の方法を考えよう。
「あたしももう寝るわ。じゃあ、お休みなさい……」
「お休みなさい、ゼシカ。今日はありがとう」
ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。どうしてククールもヤンガスもおどおどしてるの? 絶対何か隠してる。エイトが一番堂々としてるなんて……。異常事態だわ。
でもね、あたしが客間を出るとき、ものすごくほっとした顔をした人がいたの。絶対に何か隠してる……。
別の作戦を練らなきゃ……。その晩あたしは、あーでもない、こーでもないと、考え続け、一睡もできなかった。
エイトさんとククールの関係はゼシカにばれてしまうのでしょうか。今回、最後にほっとしていたのは、ヤンガスです。次は再びオークニスへ行きます。