「腕が鳴るぜ!」
上機嫌のククールを先頭に、あたしたちは日暮れと同時にカジノに入った。さすがベルガラック、もうお客さんで一杯。
キョロキョロするヤンガスにエイトが声をかける。
「ヤンもやる?」
「あっしは賭け事はやりません。昔パルミドでさんざ巻き上げられましたから……。兄貴は?」
「僕、賭け事は嫌いなんだ。……じゃあ食事しよ。ゼシカは?」
「うん。あたし、ちょっとククールの様子見てからにする」
あたしはククールの後を追った。
ククールはというと、さっそく順調にコインを減らしている。
「まあ、調子いいこと!」
「うおっ、ゼシカ……。久しぶりだし……。まあ、そのうち当たるよ」
まあいいわ。あたしはククールの台をじっと見つめた。
「ハニーも挑戦するのか? いいか、スロットは……」
「いい。あたしやらないわ」
しばらくするとククールの言った通り、当たり始めた。
ククールは掛け金を増やしていく。
「ねえ、ククール?」
調子が出てきたところで本題に入る。
「うん?」
「ククール、あたしのことまだ好き?」
「ああ。いつまでも好きだぜ。どうした? オレの愛を受け入れる気になったのか?」
よし、カマかけるわよ。
「エイトが……」
「……エイト? ……リーダーがどうした? ゼシカはリーダーが好きなのか?」
「エイトは仲間として好きよ」
「何だよ、……じゃあリーダーにコクられたのか?」
あたしが黙っていると、スロットの当たりが離れてきた。ククールは掛け金を下げる。
「おっと……」
当たった分をスッたので、ククールは台を変えた。
「……ハニー?」
ククールって、こういうとき、しつこく聞いてきたりしない。優しいから。あたしの言葉をいつまでも待つ。あげくのはてに、言いづらいなら言わないでいいぜ、って言う。今日もきっと。……何もなければね。
スロットが当たり出した。でもククールは掛け金を上げない。もしや動揺してる?
何人かのお客さんがククールの台を覗きにきた。
「兄さん、調子いいな。さっきまで俺が回してたんだが、全然ダメだったのに」
「はは。相性だよ。偶然オレとこのコはウマがあっただけ。そっちの台はオレはさっぱりだったぜ。案外あんたにお似合いかもな」
ククールに声をかけてきたお客さんは、そう言われてククールの座っていた台に向かった。
ククールの台はさっきより調子よく当たっているみたい。出てくるコインは少ないけれど、間をおかずにカードが揃う。
「何だ、小当たりばかりだな」
別のお客さんがイヤミっぽく吐き捨てて別の台のほうへ行ってしまった。他の見物人もしばらくすると離れて行った。
再び一人きりで台を見つめるククール。その眼差しはちっとも変わらない。どうして負けるかもしれない賭け事にこんなに夢中になれるのかしらね。
……あたしはドニの酒場でククールに初めて会ったときのことを思い出していた。あのときはカッコつけたケーハクイカサマヤロウだとしか思わなかった。
でも、いつも優しい。戦いになると人が変わるくらいの激しさを見せるエイトと違って、ククールはスクルトをかけ、みんなのHPを終始気遣う。
古代船であたしに手を差しのべてくれたククール。どんな思いであんなことをしたのか……。今ならわかる。自分の気持ちなんて、ククールには問題じゃない。あたしにとっても大事なことを気づかせてくれようとしたのよね……。今になってわかるなんてね……。
いつも人のことばっかり……。一番のお人好しのくせに、一番アホみたいなことして、いつも自分を飾って……。
考えたくなかったけど、ククールは修道院出身だし、エイトだって兵士だし……。
普通、こんなこと、本人に聞くのもどうかと思う。でも、疑いを持つ自分が嫌なの。あーでもない、こーでもないって、イライラするのが嫌なの。はっきりさせたいの。
スロットが調子よく当たり続けている。でもククールは真ん中の列に最低の掛け金だけを掛けて、じっと台を見つめている。
時間がたてばたつほど、疑惑が深まる。やっぱり二人の間には……。
「ねえ、ククール?」
「うん?」
「今晩空いてる?」
「おう」
「それ本気?」
「もちろん。ハニーの願いなら何でもかなえてやるぜ」
ククールは掛け金を増やした。
駄目だわ。あたしがククールに「抱いて」なんて絶対言わないこと、ククールは知ってる。あたしがもしそう言っても、上手に受け流してくれる。そしてずっと優しくしてくれる。でも本当に望めば、きっと抱いてくれる。そのままあたしを好きでいてくれる。
だけど、あたしはククールを受け止めることはできない。ククールはあたしのことをいつまでもいつまでも、大切にしてくれるだろう。でもそれだけ。ククールの本気の心はあたしには向かない。きっと、ククールと付き合ったほとんどの人がそう。ククールはいつも全力を出さない。かっこよく、余裕のある姿を見せるのがククールだから。彼の本気を受け止めるのは、普通に「好き」じゃダメなのよ。あたしだって、本気になりたい。そして本気を受け止めたい。そんな恋がしたい。この旅の間に、ククールはそういう相手に出会ったのね。立場とか、境遇とか、そんなこと全然関係なくて。魂が呼び合ったのね……。
小さな当たりがきた。ジャラジャラとコインが落ちる。
「……あたし、遅かったみたい」
ククールは返事の代わりに、ちらりとこっちを向いた。
「あたし……」
やだ! どうして涙が?
「さあ、100枚スロットに移動だ」
ククールは右手にコインのケースを持ち、左手であたしの肩を抱くと、台を変えた。
「100枚スロットはリスクがでかい。だから軍資金がたくさん必要だ」
ククールはあたしの手を握る。
「賭け事は負けないことが肝心。ちょっとでも負けたら止めるのが賢いやり方だ」
でもな、ゼシカ……と言いながらククールがあたしの顔をのぞき込む。
「時には負ける確率の高い勝負でも、命を賭けることがある」
「……」
「オレは馬鹿野郎だ。調子いいこと言って、はたから見たら何が本心なのか、わからないんだろうな。だが……オレはずっとそうして生きてきた」
スリーセブンがきた。
「このパーティー、みんなピュアだからな。やりにくいぜ」
ククールは笑って、あたしの手を強く握りしめる。
ジャラジャラとコインが出続ける。
あたしのすすり泣きは、大当たりの騒音に消されたけど、そのフィーバーが終わる頃には涙も乾いた。
その間、ククールはずっとあたしの手を離さなかった。
「ククール、ヤンガスには黙っててあげるわ。だから、そのコイン、みんなあたしにちょうだい」
あたしは、笑顔でそう言えた。
次は海図を探しに行きます。