「ククール、ごめんね。みんなでいじめて……」
パルミドの教会でしおらしく謝ってくるエイト。黒目がちな瞳は潤んで。
「いいよ。仕方ない。ゴールド使い込んだオレが悪いんだから」
「でも……」
眉をちょっぴり下げぎみにしてうつむくエイト。……かわいい。オレ、おもいっきりニヤケてんだろうな……。
闇商人との取引を終え、オレとエイトはパルミドの教会にいる。
ヤンガスはゲルダ姐さんのところに挨拶を入れに行っている。何故かゼシカが同行して。トロデのおっさんと馬姫さまは、明日の集合場所、アルバート家にすでに向かった。おっさん、どんだけゼシカの母上が好きなんだか。ああ、焼き菓子フィナンシェが好きなのかもな。
まあいい。とにかく今は、オレたちは二人きりだ。
このおいしいシチュを大切にしなければ。めくるめく夜のことを考えると、股間がヤバい。オレは、健全かつ直近の問題について話題を振った。
「ゴールドなかなかたまらねえな」
エイトもみんなも、オレがゴールドをうっかり使い込んだことはもう笑って許してくれている。イジメもお約束みたいなもんで、面白かったんだが。
しかしエイトは憂いを秘めた黒い瞳をまっすぐこちらに向けて黙り込む。
「違うよ……ゼシカのこと」
ゼシカ。……そうだな。ゼシカは可哀想だった。ああまでオレに本気になってくれていたなんて……。だが、オレはもうお前から離れられないんだぜ? オレが誰と付き合おうと気にしない女友だちと違って、遊びでゼシカと付き合う訳にはいかねえ。ゼシカもそれはよくわかってんだろう。
「僕、君を大切にするよ。きっと幸せにする……」
エイトは熱心に祈る。……祈りの場所がパルミドの教会ってとこがちと気になるが。まあ、女神様は場所なんて気にしねえだろう。
「エイト、どうしたんだ? 急に。オレはお前といれば幸せだぜ?」
「ホント? 僕といれば幸せ……?」
オレは神父が向こうを向いた隙にエイトにキスした。
「へへっ。女神様に誓っちまった。お前への愛を」
「ククール……」
「ばっ、バカ、泣くなよ」
エイトはオレをしっかり見つめたままポロポロと大粒の涙をこぼす。ああっ……抱きしめたい。
「あーっ! エイトを泣かせたわねっ! 表に出なさいよ! 痺れ打ちよっ!」
「わわっ! ゼシカっ!」
いつの間に現れたゼシカ。大声に神父が振り向く。
「……お静かに。ここは祈りの場ですよ」
「すみません」
って、またオレが悪いのかよっ? それとも反射的に謝るオレのクセのせいか。まあいい。オレが悪者で万事うまくいくなら、喜んで罰を受けよう……。
「出ようぜ。痺れ打ちは勘弁な」
教会を出るとエイトが言った。
「ゼシカ、ククールは悪くないんだ。打つなら僕を……」
「なに言ってんのよ、冗談よ。それより伝言。ヤンガスがゲルダさんに捕まって放してもらえないの」
「ええっ! ヤンが? どうしよう、付け届けの品が気に入らなかったのかな……」
「あっ……違うのよ、そういうことじゃなくて」
「じゃあ、人質? またなんか取って来いって?」
「待ってよエイト。ゲルダさんはそういう人じゃないから」
「まさか、ヤン、パーティーを抜けるとか? それなら僕、ゲルダさんに話を……」
「ちょっとエイト! 落ち着いて!」
ごめん……と言ってその場にへたりこむエイト。なんてかわいいんだ。
「……あのね、ヤンガスはゲルダさんちに一泊するって。……あたしもこれからリーザスに帰るわ。明日の朝、迎えに来てね。ヤンガスもキメラの翼持ってるから、リーザスに来てくれるって。じゃ……。エイト、……ククールをしっかり見張っててね。……またゴールド使い込まないように。カジノに行かせちゃダメよ」
「わかった。ゼシカ。行かせないよ」
なんだよ、二人してオレを厄介者みたいに。
そんなオレをさげすむように、冷たい視線をオレに向け、ゼシカは言った。
「あっ、ごめ~ん。カジノに行くゴールドもないんだっけね」
あはは! と笑い、キメラの翼で飛んで行きやがった。
ちくしょう!
「ごめん、ククール。僕に甲斐性がないばっかりに。君を遊ばせてあげられない」
なんだそりゃ。
「カジノなんか行かねえよ。やっとお前と二人きりになれたのに」
「ククール……」
もういっぺんキスしたい……。しかし、その欲望は、ポンポンと右肩を叩かれたところで潰えた。
「兄さんたち、いいところがあるぜ? 寄っていかないか?」
声をかけてきたのは荒くれ野郎。エイトはビックリしてオレの後ろに隠れる。
「ははっ、こちらの若い兄さんもモテそうだな」
どこへ行こうってんだ? ハッテン場か?
「オレたちそういうんじゃねえんだ」
「……兄さん、隠さねえでいいぜ。ここはパルミド。なんでもありだ。『女装させてる』なんて下手な芝居もなしだぜ」
エイトをかばいながら一歩下がる。しかしあっという間に数人に囲まれた。
!!!
こいつ、リーザスにいた美人局じゃねえか!
オレとエイトが初めて二人で泊まった思い出の(何もなかったけど)宿屋。オレたちの隣の部屋で悪さをしていた女の仲間だ。
間違いねえ。めんどくせえことになったもんだ。
「勘弁してくれよ」
オレは努めて平静を装った。目を四方にやり、逃げ道を探す。
が、ない。
ジリジリと男どもが迫ってくる。
間合いが詰まる。レイピアを抜くなら今だが、町中で抜きたくはない。それでも、何かあったらすぐに抜けるように左手に神経を集中させる……。
ドシッ!
と、いきなり誰かにどつかれた。オレはすぐに臨戦態勢に入る。……しかし荒くれどもはあっけにとられ、固まっている。
何なんだ……。
「悪いね、彼にはまだツケを払ってもらってないんだ。3万ゴールド。君たちが払ってくれるなら利子つけて4万5千だ。そうすれば、彼を好きにしていいよ。それとも……表に出るかい?」
「なんだと?」
なんと、オレをぶっ飛ばしたのはエイトだった。テンションためながら、いつ出したんだか、はやぶさの剣に手をかけている。
その気合いに圧倒された荒くれどもだったが、引くに引けずに「やってやろうじゃねえか」とオレたちを促す。オレたちは囲まれたままパルミドの外に。
「こんな町の入り口で? ああ、そうか。すぐ逃げ帰れるようにってことだね」
おい! なに挑発してんだよ!
「なら若僧、どこへ行こうってんだ?」
荒くれに凄まれるも、エイトはにやにやして全員の顔を挑戦的に見た。
なんか、こーゆートコあるよね、キミ。
怖いよ、かなり。
どこからそーゆー自信があふれてくるの?
さっき、しおらしいこと言って涙ぐんでいたキミと、どっちがホントなの?
エイトが歩を止めると、荒くれどもは各々武器に手を伸ばした。
あぶねえよ、エイト。どうする気だ?
エイトは、ふっと鼻で笑い、言った。
「そうだな。広いところ。女盗賊のアジトの方にいい場所があるけど。行かないか?」
「なんだって?」
女盗賊と言っただけで数人が怯んだ。武器に伸ばしていた手がぴたりと止まる。
「姐さんのショバはまずい」
「ああ、騒ぎを聞かれたら絞められちまうぜ……」
ひそひそ相談が始まる。おもしれえな。
ん? 後にしゃべった荒くれマッチョにも見覚えが……。
するとエイトが肘で小突き、ウインクしながらオレに黙るように合図する。
そしてそいつは、錆び付いたナイフを振り上げ、大声を出した。なぜか棒読みで。
「面倒だ、ここでオトシマエつけてやる!」
それをきっかけに、あっという間に乱闘になった。
が……あっという間に収まった。
オレは何もしていない。
ただ、舞い上がる砂ぼこりの中、はやぶさのようなすばやいシルエットが一瞬見え、その後、どさどさと倒れる音が聞こえただけだ。
一体、何がおこったってんだ?
「……ありがとうよ。お前強いな。やっぱり俺の目に狂いはなかった。ほれ、報酬だ」
何だって?
土埃がおさまると、大声を上げたマッチョとエイトが話しているのが分かった。その足元にはのされた荒くれたち。
見覚えのあるそのマッチョは、オレの方を見て、表情をゆるめた。
「……兄さん、悪かったな。最近あいつら行儀わるいから。ヤキ入れるのをこの坊主に手伝ってもらったんだ」
そういうことか。エイトめ、いつの間にそんな仕事請け負ってたんだよ。
「びっくりするじゃねえか、前もって言っとけ?」
「うん、でも、このほうが緊張感あったでしょ?」
まあ、そうだけどさ。
エイトのこと坊主呼ばわりするマッチョも、「うまくいったなあ」なんて笑ってやがる。
……こいつ、間違いない。このマッチョはゲルダ姐さんの家を警護してるヤツだ。
「なあ、エイト……いつこんな?」
「ああ、例のサウナだよ」
ええっ?? いつの間に?
マッチョはにやりとしながら言った。
「景気悪いだろ? あちこちでバイトをな……。……姐さんには言っちゃイヤよ」
このあと、ちょっといちゃつきます。たいした描写はありません。お嫌いなかたは飛ばしてください。その次は新章に入ります。ようやくレティシアに向かいます。