「騙してたのか……」
「ごめん……」
いいさいいさ。
「なあ、もしかしてパルミドの教会で泣いたりしたのは演技か? ゼシカに締められて可愛い子犬ちゃんになってたのも? だとしたら演技派だぜ、お前」
「ちょっと、役に入りきっちゃって。でも、本気だよ? ねえ、ごめんね。いじけないでよ……ククール」
別にいじけてなんか。
お前がかっこよくてさ。
「惚れ直した」
そう言ったオレにエイトははにかみを見せる。……かわいい。
「ククール。行こう……サザンビークに」
思いがけずまとまった時間ができたので、城下に入る前に二人で稽古をした。
エイトははやぶさ斬りが苦手だ。これまでも何度か練習してきたが、今日も習得には至らなかった。
「……駄目だな、僕。どうしてもできないや。さっきははやぶさの剣のおかげで二回攻撃できたけど……他の剣じゃダメだ」
「まあ、練習してりゃそのうちできるだろ」
「はやぶさの剣ではやぶさ切りすると、4回も攻撃できてお得じゃない? 僕、やってみたいんだよ」
「まあな……。でもかえん斬りができるんだからいいじゃん」
「……かえん斬りだってククールみたいにかっこよくできないもん」
「そうか? オレはお前の力強い剣さばき、好きだぜ」
「……」
エイトは真っ赤になって、いきなりドラゴン斬りをあびせてきやがった。
「うわーっ! あぶねえよ、勘弁してくれ」
「あっ、ごめん……つい」
つい?
「ついって勢いじゃなかったぜ? 間一髪、よけられたからいいけどよ。オレはドラゴンじゃねえし」
まだ頬を紅潮させたまま、間抜けな表情でつっ立っているエイト。
オレは足払いをした。
「わっ!」
あっけなく草むらに倒れ込んだところをすかさず押さえ込み。
「エイト、次は格闘の稽古だ」
「やだ……」
オレを見上げる潤んだ黒い瞳……。少し荒い呼吸を続ける濡れた唇……。
いただきますっ!
「どわっ!」
いってー!
くそっ! キスしようとした一瞬の隙にともえ投げをくらった。
エイトは「ふふっ」と言って、今度はオレを押さえ込む。
「ごめん……痛かったね。でもおあいこだよ」
にっこり笑顔を向けられちゃ……笑顔で返すしかねえ。
「……僕からさせて」
エイトは唇を押しつけてくる。そして慣れた様子でオレの口腔を攻めてくる。
……ん?
エイトはオレの頭を抱え込み、息つぎする間も惜しいとでも言うように、夢中で口づけてくる。
……なんか、スゴい。
トロけるなんて甘いもんじゃない……。
オレ、喰われてる……。
「っ…エ…イト…」
「なぁに?」
「積極的だな……」
「あ…ごめん。僕、がっついてた? でも、ククール欠乏症だったんだよ。我慢できない」
そう言いながら再び情熱的なキスをしてくる。
……既に力をためているオレとエイトの中心。お互いを求めていることが痛いほど伝わってくる。
抱きしめたい……。だがオレの両手首はしっかりとエイトに押さえつけられている。その背に回し、背骨がキシキシ言うくらい強く抱きしめたいのに……。
エイトが唇の角度を変えてくるたび、はだけた胸元から漂ってくるエイトの身体の匂いがオレを煽る。
……苦しい。もう……痛い。
お前にばっかりリードされてちゃ、オレ、爆発しちまう……。
体を入れかえようとしたそのとき、エイトが唇を離してオレの左手を優しく撫でた。
「この手が……いつも僕を守ってくれるんだね」
エイトはオレの胸に顔を載せた。五本の指はオレの指の一本一本をなぞる。
優しく、丁寧に。
……なんかちょっといやらしい。
それ以上に……くすぐったい。
だが、いつになく真剣な眼差しに、「くすぐったいからやめてくれ」と言えずにいた。
それに、何だか神妙だ……。
「お前だって、命かけて戦ってるだろ。オレはお前を支えたい……」
「ククール」
指と指を交差させてきつく握る。
「愛してるぜ」
エイトは、潤んだ黒い瞳をいつものように少し細めて、小さくうなずく。オレはその表情に安堵を見た気がした。
オレたちはいつまでも唇を重ねた。舌を絡める深いキスも、触れるだけのキスも……。もうこの唇は、他の誰の唇にも触れないと誓うように。
ふと冷たい風を感じて、オレは目を開けた。エイトはオレの腕の中。……いつの間に寝ちまったんだ。傾きかけた太陽が、オレたちが十分すぎる睡眠をとったことを示している。
エイトもぶるっと身震いし、目を覚ました。
サザンビークの街へやってきた。バザーはまだやっている。何も買うものはなかったが(ゴールドもないし……)、ぶらぶらと見物し、堀の横のベンチに座る。
何度も訪れたこの場所。オレたちは、約束通り戻って来ることができた。
見慣れた光景が特別なものに見える。
ドルマゲス戦の前だって、こうして堀をのぞいていた。
あの時は、エイトに拒否されたらと、少しは思っていたが、エイトを欲しいと思う気持ちを抑えることができなかった。ダメ元とか、そういうんじゃなく、とにかく、オレはオレの気持ちを伝えなきゃ、死ぬに死ねないと思ったんだ。オレなりのけじめをつけたかった。
エイトはそれに応えてくれた。
必要としあえる存在を初めて得て、オレは満たされた。
この先、どんなことがあっても、生きていけるって。
ドルマゲス戦の前日、一つになれた同じ部屋で、オレたちは向かい会った。
「……約束だったよな」
「……ずいぶん時間がかかっちゃった……」
一緒にシャワーを浴び、もつれ込むようにしてベッドへ……。
この前みたいにお互いの気持ちを言葉で確認しなくたってよかった。もう、目を見ればわかる。オレたちはお互いを必要としている。言葉なんていらない。互いに全身で表現すればいい。どうしようもないくらいお前に触れたい。味わい尽くしたい。
我慢に我慢を重ねていた二人の身体からは、何度も絶頂のしるしがとき放たれた。
約束通り、サザンビークに来れました。