Oh! REEZATH
トラペッタを後にした俺たち。トロデーン城に呪いをかけ、自分の師匠であるマスター・ライラスを手にかけたというドルマゲスを追い、今はリーザスってえ小さな村に来ている。
トラペッタからリーザスへ入るには関所があるんだが、そこが破られていた。ヤツにちげえねえ。ここでヤツの足取りがつかめるかも知れねえ。もしや、まだそのへんに……。
しかし、この村、いきなりガキどもが俺たちを盗っ人呼ばわりしてケンカ吹っかけてくるし、他の村人は今この村にいねえ人間の話ばかりしやがって面白くねえ。それよりなにより一番参ってんのは、村中が辛気くさいってことだ。俺は辛気くせえのが大嫌いだから、とっとと、なんとかシカってえ名前の嬢ちゃんに会って話が聞きたい。そこからドルマゲス探しのヒントが得られるかも知れねえんだ。
おっと、話が飛んじまったな。何やら子細のありそうなその嬢ちゃんは、村のじいさんの話によると、冥土の土産にしたいほどの”ボン・キュッ・ボン”らしい。そして村人には好かれているようだが、嬢ちゃんのお屋敷の若いもんにはあまりよく思われていないようだ。
そう、俺たちは今、”ボン・キュッ・ボン”の住む屋敷にお邪魔している。
それにしても、嬢ちゃんの家は村を牛耳る古くからの名家だそうだが、ここんちの若きご当主、辛気くさい原因におなりの故人は、みんなが口を揃えてほめたたえている。よっぽどいい奴だったんだろうな。麗しい嫁さんと”ボン・キュッ・ボン”の娘に恵まれた先代ご当主って人も若くして亡くなったらしいし、男運が悪いんだな、この家系。この村は不幸な女の呪いでもかかってんじゃねえかと思う。
「ねえ、ヤン、どう思う? まずは、そのゼシカさんってお嬢さんを探してみたほうがいいよね?」
まあ、あんまり気が進まねえが、他にいい案もねえし。ドルマゲスを見つけるためだ。仕方ねえ。
ああ、俺はいつからこんなに嫉妬深くなっちまったんだろう……そう、俺は”ボン・キュッ・ボン”に激しく嫉妬している! 兄貴が女にウツツを抜かすなんて考えたくもねえ!
いやだが、兄貴とて健全な青少年。”ボン・キュッ・ボン”を目の当たりにして、兄貴の中心が疼かないなんて想像できねえんだ。……いや、もし疼かないとしたらそれはそれで問題だな。だとしたら、ここで一発女の一人や二人いいんじゃねえのか……。兄貴と言えばあの器量だ、女の方がほっとかねえだろう。
トラペッタの占い嬢ちゃんだって、うっとりと兄貴を眺めてたし、おばちゃん連中はこぞって兄貴の肩とか手とか触りたがる。時にはおっさん連中にまで頭を撫でられ、尻を視姦され……。
いや、俺は何を妄想しているんだ……。とにかくだ、これから探す嬢ちゃんは、あの色っぽい母親を見る限り相当な上玉。まずは兄貴を一人前の男にして差し上げて……いや、やっぱり駄目だ。”ボン・キュッ・ボン”にはラグマットとか言ったか? そんなようなふざけた名前の婚約者がいる。いくらなんでも行き先の決まっている女に手をつけることは、俺の「
俺は兄貴のご経験をあれこれ脳内妄想しちまった。ついでに兄貴の昇天シーンまでっ!
モザイクなしの映像が俺の脳ミソを覆い尽くした瞬間、身体中の血液が行先を求めて一斉に走り出すのを感じた。
「ねえ、ヤン、どうしたの? さっきから黙ってるけど。何か考えがあるなら言って。ヤンの考えること、僕も知っておきたい」
エイトの兄貴は、憂いを秘めた黒い瞳をキラキラさせて、俺の目を覗き込みなさる。その漆黒の底は美しく潤み、映り込んでいるはずの俺の姿さえ像となさず、全て奪う。そして俺という存在の意味は消え、無限の闇の楽園へ魂だけが招待されるのだ……いや違う。俺はここに存在して、手を伸ばせば触れられるその身体を思うままに……だめだめだめ!
「あっ、いや、その……」
兄貴の昇天シーンについて妄想しておりましたなんて言えねえ!
俺はなんとかごまかそうとしたが、うまく言えねえ。兄貴はそんな俺をにこにこしながら見守ってくださる。
そんなやりとりをしているうちに、ようやく俺たちは嬢ちゃんの部屋を見つけた。すると部屋の前には、あの二人組のケンカ小僧が陣取ってやがった。話を聞けば、嬢ちゃんに「誰も部屋に入れるな」と言われているのこと。
だがしかし、調べてみると部屋はもぬけのカラ。嬢ちゃんの書き置きだけが見つかった。嬢ちゃんはどうやらこの村のはずれにある、リーザス塔という場所に行っているらしい。
「おれが案内してやる!」というケンカ小僧の一人に無理やり連れられ、俺たちはその塔へ行くことになった。話が随分うまいこと進みやがるが、気にしていても仕方がねえ。俺は嬉々として案内する小僧とともに村を出た。
リーザス塔へ向かう道はまっすぐで、それほど魔物も強くなかった。それでも見たことのない魔物には警戒する。兄貴も「ゼシカさんが魔物に危ない目にあわされてやしないか」としきりに心配なさるから、俺も気が抜けない。お優しいかただ。まだ会ったこともない女の心配をするなんて。兄貴のご心配を早くなくして差し上げたい。そして、兄貴のお好みに合う女であってほしいと、切に願う俺。ああ、寂しいが仕方がない。そう、さっき誓ったじゃねえか、兄貴を一人前の
俺は少し歩を早めた。早く塔へ行きたいのもあるが、同行の小僧だ。俺と兄貴は小僧を守りながら魔物を蹴散らし進んでいるんだが、ったく、小僧ってのはなんで道をまっすぐ歩かねえんだ。小僧はあっちゃこっちゃに蛇行しながら元気に走っている。魔物に奇襲されたら危険だから、なるべく離れないようにしていなければならない……ありゃ、よそ見しながら歩いてんだな、なんて片目で小僧の姿を見守っていると、兄貴がくすくすお笑いになる。
「もしかして、ヤンもあの子どもたちのことが気になるの?」
えっ? 何です?
「かわいい子たちだよね。ゼシカさんて人を一生懸命守ってさ。装備一式プレゼントしてあげたいくらいだよ」
エイトの兄貴はそうおっしゃって、またくすくすと楽しそうになさる。
……兄貴、兄貴はあのケンカ小僧どもが気になるんですか?
……女じゃねえ? 兄貴……そういう好みなんでげすか?
俺はショックを受けた。
いや、まさか逆ってことも……。
城勤めの兵士だもんな……。ごつい士官にいいようにされてらしたんじゃ……。
そんな、ひどい!
でも容易に想像できる。幼いころの兄貴はきっと可愛くていらっしゃったんだろう。
兄貴、兄貴の貞操はすでに……
お稚児さん……お小姓さん……兄貴は連れられたほうか、連れていたほうか? なんてこった……どっちが兄貴にふさわしいんだ?
俺の頭の中はあの小僧たちくらいの歳のお小姓さんとして戦に伴われる兄貴と、お小姓さんを伴って戦に赴く兄貴の姿がぐるぐる渦巻き、夜の褥の光景が……。
そして一旦収まっていた血液の流れは俺の中心を目指して濁流となった。ああ、もうダメだ……。
「ヤン、ヤン、大丈夫? ねえ、どうしたの? また貧血?」
俺はふらふらになりながら進む。
ようやくリーザス塔の姿が見えてきた。ふう。
せっかくリーザスに来たのに、ヤンガスの妄想だけでした。次はリーザス塔です。