オレたちは、ようやくたどり着いたレティシアの村で一泊した。
長老からレティシアの歴史なんかを聞き、神鳥レティスの話を知る。
空を飛ぶレオパルドを追うために、神鳥レティスに会おうなんて、ちょっと単純な気がしないでもないが、他に方法があるとも思えねえし。仕方ねえな。
一晩寝たら、みんなすっかり船酔いから冷め、今朝は早くからこのレティシアの探索に出ることに。そして、長老の言葉通り、鳥の影が現れたらそれを追いかける。時折現れる巨大な鳥の影。それを追えば別世界への入り口に辿り着くという話なのだが。どうやらレティスはその別世界にいる可能性が高い。長老は「行くな」と言ったが、話の流れからして、行かなきゃ先へ進めない。別世界なんて眉唾物だと思っているんだが、ここで足止めくらってても埒があかねえもんな。何とかして、先に進まなきゃなんねえし。
それにしても、いろいろ摩訶不思議なコトがてんこもりのこの旅。ついに崖を突き破ってこんなところまで来た。ネズミのトーポは火を吹くし、へんちくりんな月の妖精とかモグラのオヤジとか、亡霊海賊とか……いや、やめよう。今始まったことじゃねえ。オレだって魔術使えるんだ、できないヤツからすれば相当怪しい男だ。もうこの先なにがあっても疑問に思うことはやめよう。たとえ空を飛べたって、海の中で生活できたって、だ。
今はレオパルドを追っているんだ。ヤツは空を飛べる。オレたちは詰んでいる感があるが、メディばあさんとこの遺跡の記述を信じ、ここまで来た。もう神鳥レティスに会う事だけが次のステップへの足掛かりだ。遅々として進まない行程だが、エイトの姿を見れば、オレの気持ちは高揚する。
あ~あ。今度いつ二人きりでいられるんだ? 始終顔合わせてるのに、キスもできやしねえ。
そんなことをぐずぐず考えながら、レティシアのフィールドに出た。巨大鳥の影を追う前に、並び順を決めなきゃならねえ。エイトじゃ、また酔っちまうからな。
するとエイトは、オレたちに向かってしおらしく言った。
「僕、また上手くできないと思うから、誰か先頭お願いね」
エイトめ、オレたちの船酔をよっぽど気にしてるんだな。自分から先頭を明け渡すなんて。
とりあえず、いい展開にはなったが、どうせもめるんだよな……いや、エイトの悲しそうな表情に、ヤンガスもゼシカも「自分が先頭に」と言い出しにくい。
なんたって、いっつもオレの「前」にいるのが好きなんだ。エイトはさ。アレのときも……。「ねえ、ククール、後ろから抱いて……」とか言っちゃって……。
「ちょっと、ククールってば気持ち悪いわね、何にやけてんのよ」
おっと、ゼシカに見られた。まさか、アレのときのエイトを思い出してなんて言えねえな。あぶねえあぶねえ。オレはコホンと咳払いして言う。
「なあ、ハニーが先頭行ってくれよ。君の後ろはオレが守る」
「ええっ? あたし……?」
ゼシカがとっさにエイトをちらりと見やった。オレもヤンガスもつられてそっちを見ると、エイトはオレたちに背中を向けている。なんだか頼りない……。
「俺も賛成だ。船の操縦うまかったんだし、嬢ちゃんが先頭でいいんじゃねえか?」
ヤンガスめ、いいこと言ったな。ゼシカが先頭なら、エイトもあまりがっかりしないだろう。しかし、ゼシカは視線を微妙に泳がせながら、首を横に振る。
「いえ、ヤンガス、あたし山道は苦手なのよ。最後尾で頑張って走るわ。山ならヤンガスのほうが……それに、あたしの真後ろにククールなんていやだわ」
なんだそりゃ!
「じゃあ、トゲトゲが先頭な」
めんどくせえ、オレはエイトの前なんて無理だ。ここは舎弟にやらせよう。
「勘弁してくれ。砂地は苦手だ。ククール、お前が行けよ」
「オレか? いや、やっぱりゼシカが適任だ。夢中で走っちまったら、ゼシカは追いつけねえ」
オレに振るのはよせ! ならやっぱり先頭はゼシカだ。
「でも……。あたし、自信ない……」
自信ないと言っているのは、エイトを差し置いて先頭になることだな。
またエイトを見ると、オレたちからちょっと離れたところで、空を見上げていた。
少し切なそうに、眉を下げて。黒い瞳はいつになく潤み、膝を抱えて座り込む……子犬みたいだ。かわいい……。
オレたちはあんな可哀想な子犬をいじめているのか……。ヤンガスもゼシカもそう思ったんだろう、エイトを見つめたまま口を開かない。
!!!
突然魔物の気配がした。オレたちは身構えながら振り向く!
「……」
「……」
「なんだ、おっさんか……」
「なんだとはなんじゃ! 早く出発せい! いつまでこうしておるのじゃ!」
「王さまごめんなさい、順番が……」
「聞いておったわい。ワシが決めてやる。ククール、エイト、ヤンガスの順じゃ。ゼシカは馬車に乗れ」
「えっ? でも姫さまが……」
「大丈夫じゃ、そのくらい。のう、ミーティアや」
馬姫さまは「余裕だわ!」と言わんばかりに、ぶるるっとして見せた。
そんなこんなで、レティスの影に導かれたオレたちは、時空の狭間を見つけた。レティスの影はその黒い空間から消え去った。オレたちも続いて。
着いたところは、闇の世界。明暗はあるが、色がない。色がないこと以外レティシアと同じ地形の村だった。
「不思議なこともあるもんじゃのう。これはいよいよ、神鳥レティスを見つければならん」
おっさんは、きょろきょろしながら積極的に情報を集めようとしていた。
おっさんめ、今回は大活躍だな。いつもなら馬車の上で文句を言っているか昼寝をしているかなのに。エイトの調子が悪いからなのか、行動力の下がったパーティーの士気を高めようと干渉してくる。
こっちのレティシアにも長老はいた。だが、話す内容は違った。こっちのレティシアはなんとレティスに村を襲われているというじゃないか。
「……頼みがある。おぬしたちにはこの村をおそってきたレティスの真意をとうてもらいたいのじゃ。わしはおぬしたちが光の世界からこの地に迷い込んできたことを偶然とは思っておらん。かつてふたつの世界を自由に飛び越えたというレティスのちから。それがおぬしたちを呼んだのではないか? なればレティスにはおぬしたちを呼び寄せたわけがあるはずじゃ。きっとおぬしたちにならば真実を語ろう。身勝手な名願いだとはわかっておるが、このままでは村人とレティスが戦うことになってしまう。そうならんうちに何とかしてレティスの真意を確かめたいのじゃ」
長老に頼まれ、まあ、頼まれなくてもレティスに会いに行く予定ではあったが、とにかくレティスの止まり木とやらへ向かうことにした。
「なんでまたレティスが村をおそうんでがすかねえ」
「馬が怪我したっていうじゃない?」
「でも、致命傷ではないし、長老さんの言う通り、目的がなんなのかわからないよね。単なる嫌がらせなのかな」
「レティスって神鳥なんだろ? そんな小学生のガキみたいなことわざわざやるもんかね」
オレたちははっきりしないレティスの行動についてあれこれ詮索しながら、闇のレティシアのフィールドに出る。闇の世界の魔物は、光の世界の魔物より強い。ヤンガスが気を利かせて先頭を申し出た。勇気あるな、エライ! だがエイトは、にっこりしてそれを制した。
「ヤン、ありがとう、でも大丈夫。僕が前を行くよ」
「でもエイト、止まり木まで……」
「ゼシカも心配しないで。さっきの光のレティシアと同じつくりだから大丈夫。一回通れば迷わないと思う」
「おいリーダー、そうだったのか?」
「うん、いや、絶対迷わないってことはないんだけど、たいてい2回目からは大丈夫なんだ」
「へえ、すごいわね、エイト。それって特技になるわよ」
そうかなあ~なんてのんきな会話をしながら、オレたちは止まり木を目指した。
神鳥レティスは、止まり木にいた。
「なんだこりゃ!」
「派手!」
「ちょっと怖いな」
「デカすぎだろ?」
ヤンガス、ゼシカ、エイト、オレの順に、こんな言葉が出た。
そう、闇の世界にレティス本体がいたのだが、奴には色があった。紫のような青のような、とてもきれいな色が。光を帯びていて、とてつもなくピカピカしてやがる。そして、デカい。
俺たちは言葉を失った。
エイトが進み出て話しかけようとする。と、レティスは喧嘩を売ってきやがった。
「……はあはあ、なんなのよ、一体?」
「とっ……鳥とは思えねえほど強えてがすっ!」
「とにかく! 回復重視だよ……ククール!」
「おう」
ちょっと話そうとしただけなのに、なんで戦わなきゃならねえんだ。うちの修道院並みに短気だぜ。おまけにレティスは強かった。なんなんだ、この強さは。
「……はあはあ、燃やしても燃やしても……」
「かぶとわりも効きゃしねえ……本当に鳥か?」
「頑張って! 僕も回復にまわるから!」
「おう、頼むぜ、リーダー」
エイトの指示通り、回復を優先させながらの戦いは果てしなく続いた。
何ターン目だろうか、突然レティスが攻撃をやめた。
で、オレたちは今、巨大な岩山の中にいる。
「うっ……。意外に複雑……」
「なんだってまたこんなお使い!」
「仕方ねえだろ、ククール、レティスが言うんだから……」
そう、またお使いだ。なぜなら、レティスが村を襲うのは、暗黒神の手先である妖魔ゲモンに卵を奪われたせいだったから。妖魔ゲモンを倒し、ヤツからレティスの卵を奪還しろという、むちゃくちゃなお使い。
レティスの巣のあるこの岩山は空洞になっていて、ライドンの塔ほどじゃないが、なかなか複雑な造りをしていた。この山のてっぺんでゲモンはレティスの卵とともにいるという。
円形の山。上へ登る道もよくわからねえ。こんな複雑な岩山、本当に上まで行かれるのか?
オレたちは集まってしばし地図を眺めた。
上方を一度だけ仰ぎ、そのあと青ざめて下を向いているエイト。
……また並び順が……。
「……じゃあ、ククール、兄貴、俺、嬢ちゃんの順な」
だろうな。オレとヤンガスではさめば安全だ。
「ダメよ! ククールは守りが弱いんだから」
「大丈夫だ。はぐれメタルの鎧を装備してるからな」
ったく、そんなに弱くねえっての!
「じゃ、それで……」
ゼシカが納得いかないような顔をする。
本当はヤンガスの方が身の守りが強いから、先頭にいいんだろうが、奴が先頭だと、魔物に襲われる確率が上がる。ゼシカも強くなったとはいえ、女の子を先頭で歩かせるわけにはいかねえ。だから、先頭はエイトが一番いい。あのぽーっとした顔の奴に、いちいち喧嘩ふっかけてくる魔物は少ない。だが、今回は事情が事情だ。オレとしては、またエイトを背負ってやりたいのだが、ゼシカの手前な……。
「僕、目をつぶって歩くから、ヤン、引率してね」
「あっしがっ! 合点承知の助でがすっ!!」
おーおー、張り切ってんな、ヤンガスめ。
さて、やっと出発だ。先頭はオレ、ヤンガスに手を引かれたエイトが続き、しんがりをゼシカが努める。
「結構強いわね、モンスター。エイトが調子悪いから戦力が落ちてるわ」
「ごめん、みんな……」
ゼシカの言う通り、攻撃力の高いエイトが回復に専念している。ゼシカのグリンガムのムチが強いからいいんだが、エイトの攻撃力には敵わない。
まあ、みんな魔力も随分ついてきたし、回復の薬草なんかもたくさんある。ゆっくり進めば行けそうだった。
ところが、半分ほど登ったところで、エイトが止まる。
「どうした? リーダー」
「……」
「ん?」
エイトはその場に座り込んでしまった。仕方ねえ、ぐるぐる回る上に、スロープなんかも多いこの岩山。
「少し休みましょう?」
「そうでがすね」
ゼシカもヤンガスもエイトの様子を見て言う。そうだな、ここは休憩といこう。
ところがエイトは首を横に振った。
そしてすっくと立ち上がり、オレに向き合う。
「……ククール、背負って下さい」
なに?
エイト! お前……?
ゼシカが固まってるぞ?
エイトは、少しもじもじしながらゼシカに向き直った。
「ゼシカ、みっともないとこ見せちゃうけど、僕、ダメなんだ。ちゃんと戦うためには……」
「エイト……。わかってるわよ、無理しないで。それに、みっともないなんて思わないわ。……でも、あなたたちが恥ずかしいでしょうから、あたしがヤンガスの後ろに行くわね。しっかり着いてきてね」
エイトはほっとした笑みを見せ、最後尾に並んだ。
「ククール、お願いします」
「お、おう……」
エイトは子供みたいにぴょんとオレの背にひっついた。
ああ……待ち望んでいたエイトのぬくもり。少し速いリズムを刻むエイトの鼓動が、オレの脊髄を伝い煩悩に刺激を与える。
くそーっ!! 堪らねえ!
そんなこんなでライドンの塔の再来。エイトはみちがえるほど強くなり、モンスターをなぎはらいまくった。
そして、ついに頂上。
妖魔ゲモンは、足元にレティスの卵をかかえ、醜い姿で大笑いした。
「なんだ、お前たちは。……ちょうど卵の番にも飽きていたことだ。軽くひねってやる!」
「邪悪な生き物でがす! 赤ん坊を人質にするなんて。許せねえでがす!」
「そうよ、弱いものイジメだわ!」
「うん、レティスは強いけどね。ゲモンは卑怯者だよ!」
「容赦することはねえ、ぶっとばせ!」
赤ん坊をさらうとはいけすかねえ野郎だ。許せねえ。
オレたちは遠慮なく叩きまくった。
ゼシカは燃やし、ヤンガスはオノを振りまくり、エイトもヤリで突く。オレも剣を振るった。
なのになぜ!
なんでこうなる!
オレたちは、レティスの卵を守れなかった。妖魔ゲモンは、レティスの卵を道連れに消滅しやがったんだ。
オレたちを迎えに来たレティスは、悲しい叫び声をあげた。
「ごめんなさい、レティス、ごめんなさい!」
ゼシカが号泣する。エイトもオレも途方に暮れた。
次は飛び回ります。