「ちょっと一回り飛んできます」
「おぅ、ゆっくりして参れ」
「兄貴、あんまり遠くへ行かねえでくだせえ。お気をつけて」
ラジュさんと話した後、バーに戻ってみると、王がへべれけに酔っ払っていた。そんなに時間は経っていないはずだけど。「ピュアギガンテス」というカクテルはかなりきついみたいだね。王は調子よく喋りまくっている。久しぶりにくつろげているみたいでよかった。
「おいククール、兄貴になにかあったらただじゃ済まさねえからな!」
「わーってるよ。心配すんな。そっちこそおっさんのお守ちゃんとしろよ」
「うるせー」
ヤンとククールがそんな会話をしている横で、ゼシカがお手上げのポーズをしてみせた。ゼシカに王とヤンのことを頼み、三角谷を出た。少し広い場所からククールと神鳥のたましいで飛び立つ。
「気持ちいいな」
「うん」
二人きりでこの大空を飛べるなんて、夢にも思ってなかったよ。
隣で飛ぶククールが僕の手を握ってきた。
そして僕はゆっくりと引き寄せられ、肩を抱かれる。僕の身体にぴったりとククールの身体をつけて。
「僕たち、比翼の鳥だね……」
「ああ。そうさ。トンボの交尾じゃねえぜ」
「ぷぷっ。やだな、ククール。せっかくいい気分なのに」
僕がそう言うと、ククールは僕の体の上になってぎゅうっと抱きしめてきた。
「だって……交尾したいんだ」
「ばっ……飛びながらできるわけないでしょ?」
「ったりめえだべ。エイト、焦るなよ?」
もうっ! ククールの意地悪。
と、ククールの左手が僕のシャツに潜り込んできた。そして一直線に目的地にたどり着き、コロコロとくすぐる。
「なにしてんの! くすぐったいよ。墜落しちゃう」
「いいぜ。お前とならどこへだって。たとえ海の底でも」
「いやだよ……海の底なんて」
あれ? ここはジョークでしょって笑うところなんだろうけど、笑えない。あはは、やだなあ、涙が出てきた。
「なんだよ、冗談だろ? 俺だって海の底なんて勘弁だぜ。……ほら、ものの例えでさ、お前と一緒なら、オレはなんだってできるっていう……」
ククール、ごめん、女の子だってそんな口説き文句はスルーだよね。でも、ここへ来て、なぜか先のことを少しだけ考えちゃうんだよ。
それから、さっきのマルチェロさん。しばらく姿を見ていなかったけれど、法皇様と一緒にいるなんて、すごく出世したんだね。あの人はどこまで上り詰めていくんだろうか。ククールは微妙な表情をしていたけれど、特に気にするそぶりも見せず、2人の様子を見守っていた。ドルマゲスを倒しましたって、まだ報告に行ってないのに。マルチェロさんは分かっているのかな。それとももう、忘れちゃったのかな……。
なんだかもやもやしてばかりの僕。ホント、自分でもいやになる。どうすることもできないことについてあれこれ考えたってしかたないのに。今はこうして君と二人きりでいられることに感謝したいのに。
僕は涙をはるか下方の海へ捨てた。たった数滴、きっと途中で消えちゃって海水にはなれないね……。
僕はゆっくりと息をはいてから言った。
「へへっ、ごめんね。あのさ、僕、行きたいところがあるんだ。いいよね?」
僕はククールの返事を待たずに、サザンビーク方面に進路を向けた。
「……ここか。お前の来たかった所って」
「うん」
不思議な祭壇。竜に守られるように石碑が祀られている。いや、竜を祀ってあるのか。
……さっきみんなで訪れた時、不思議な力を感じた。うっすらだけど。
僕の故郷はトロデーンだと思ってるけど、それとは違う懐かしさがある。ここに居たいような、……でも、なんだか拒絶されているような……。
僕たちは、改めてこの遺跡を一回りし、祭壇に戻った。
「なんかさ……僕、言いたいんだよ。この祭壇に」
「言う? 『祈る』じゃないのか? 『誓う』か?」
「誓う……ククールはお坊さまだから、そういう気持ちになる?」
「ああ。神聖な……いや、敬虔……違うな。畏怖、だな。オレなんかが踏み込んじゃ行けねえ領域な気がする。なんだか知らねえが、軽んじてはいけないような。……うまく言えねえが」
そうか。ククールも何か感じてる。僕とは違うけど。
「僕はさ、宣言したい気分なんだ。お祈りとか、誓いじゃなくて」
「ふうん。そうか。で、何を宣言するんだ?」
「恥ずかしいけどさ、『僕は人として、この人を愛しました。僕の全てをかけて、この人を全力で守ります』ってね。ちょっと黙っててよ」
僕は祭壇の前で膝まづき、目を閉じた。
ククールたちが神様にお祈りするみたいに、心の中で、僕の神様に今ククールに言ったことを宣言した。一番言いたいこと、『ククールを不幸にしたくない』っていうのも付け加えてね。
「エイト……」
「あっ、もう、慌てないでよ!」
ククールは、立ち上がった僕を強く抱きしめる。
「向こうへ……」
僕たちは祭壇から離れ、遺跡の隅で抱き合った。
この祭壇に初めて来た瞬間、ククールとここで愛し合いたいと思った。
誰も来ない、秘密の場所。
* * * * *
「エイト…」
僕はあっというまに脱がされ、熱い口づけを全身に受けた。
三角谷を飛び立った時から、疼いていた僕の中心からは、もうすでに先走りが溢れている。ククールは優しくなめとり、吸うように愛撫を続ける。
無人の遺跡。二人の息づかいは、遠慮なく辺りに漂う。
「ねえ、僕にもちょうだい」
僕はククールの愛撫に屈し、何度も欲を放出しそうになっている。
「いいから出しちまえよ、エイト、たまってるぞ。オレがイかせてやる」
「やっ、一緒がいい! お願いだから」
僕がサファイアの瞳をのぞきこむと、ククールは唇を寄せてきた。
「……お前が欲しいんだ。お前の何もかもが……」
「うん。僕は君のものだよ? もう随分前から……」
舌を絡めながら、ククールの着衣をほどいていく。
やっと現れたククールの白く滑らかな肌。僕はぴったりと体を重ね、温もりを感じた。そして右手でククールの中心を探る。
「ククール、ククールもこんなになって……」
僕のと同じように、先走りが溢れ、しっとりと熱い。僕は夢中でククールの熱い欲望を口に含んだ。
「エイト、お前も寄越せ」
互いの中心を唇と舌で扱き合う。ククールはすごく上手だから、既に限界に達している僕は、何度も絶頂をのがさなきゃならなかった。
意識をククールの中心に向け、唇をすぼませながら愛撫する。
「うっ……エイト……どこでそんなテクを……ヤバい……あっ……」
ククールが感じてくれている。ガマン汁がじゅわっとにじむ。
ククールの喘ぐ声をもっと聞きたくて、僕は舌をククールの中心に強く絡みつかせた。
「やべえ……っ……あっ」
横向きになっていた僕たち。ククールは僕を仰向けにした。
互いのものを口から離さず、そのまま二人で激しい愛撫を続ける。
「ああっ、ククール、出ちゃうよ」
「オレもだ……っ、いくぞ……」
「一緒に……っ」
ククールの大量の精が僕の喉奥に注がれる。一滴も溢すまいと、僕は吸い続けた。
ククールも僕の放出を受け止めてくれた。
「……エイト、すごい量だ。こんなになるまでためてちゃだめだぞ? 体に悪い。今日は出し尽くせ」
「ククール、君だって、かなりあったよ。最近は禁欲してるのかな?」
「バカ! オレはお前だけだ!」
わかってる。僕とこうなってから、他の誰とも寝てないって。でも、ククールに「お前だけだ」って言ってもらいたくて……。
僕はククールにしがみつくみたいに身体をあずけた。
キスのたび、ちょっと複雑な気持ちになるけど、まあ、お互い様ってことで舌も絡める。
「微妙に味が違うんだね?」
「なんかやだな。自分のザーメンの味。でもお前の唾液も混じってるし、直で味わってるわけじゃないよな?」
「君の……僕は好きだよ。君のだからね」
「オレだって、お前のならいつだって飲んでやるぜ」
僕たちは、変な会話をしながらも、愛撫の手をゆるめず、再び臨戦態勢に入った。
「……入っていいか?」
ククールは、丁寧に僕の後ろをほぐしてくれたあと、静かに言った。
前立腺に触れられて、またイキそうになるのを何度もこらえていた僕。早く欲しい……。
「うん、ちょうだい……」
ククールは、改めて僕を横たえ、優しくキスをしてくれる。
いつもこうなんだ。壊れ物を扱うみたいに、ひどくゆっくりと、丁寧に僕の身体に口づけを落とし、きゅうっと抱き締めてくれるんだ。
その優しい動きとは裏腹に、ククールの欲望は最大限に達していて、嵐を溜め込んでいる。そして、一度その扉が開かれると、もう止まることを知らず、僕の中で吹き荒れる。それを想像しただけで、全身に鳥肌が立った。
「来て……」
サファイアの瞳が近づいてくる。凶器と呼べるほどのその冷たい光がまっすぐに僕の瞳を射る……そしてククール自身も僕の中に入ってきた。
遺跡でなにしてるんだか、という話でした。