「ちょっと! いつまで遊び歩いてるのよ!」
まったくもう!
あたしはね! 暗黒神を倒して、早く平和な世界を取り戻したいの!
それなのに、魔城の攻略は進まない、王さまとヤンガスは飲んでばかり、エイトとククールはイチャイチャしほうだい。
「こええなあ、嬢ちゃん……。まあ、ククールもエイトの兄貴も若いんだし、大目にみてくれよ」
もう……。わかってるわよ!
でもね、節度ってもんがあるでしょう、せ・つ・ど!
二人とも目の下にクマ作って、夕べは頑張りましたモード全開なんだから! 少しは恥じらいを持ちなさいよ!
なんて……。あたしだってわかってるわよ……。
暗黒魔城とうちの往復が数週間続いてて、あたしがお母さんにいい顔されてないから、三角谷に来たって。
暗黒魔城の攻略にあたしを外したのも…。
エイトは自分の焦りもあるんだろうけど、あたしの迷いを読み取ってたんだわ。おかげで、ちょっと戸惑っていた気持ちにも区切りがついた。大丈夫、あたしは自分の信じる道を進めばいいって。
さすが、エイトよね。拠点に三角谷を選ぶなんて。あたし、ラジュさん大好きだから。
結局、エイトなのよね。
何だかんだ言って、一番気を使ってる。
ああ、そうか。だからククールが……。
最近思うの。王さまは、エイトとククールのイケナイ関係に気づいてるんじゃないかって……。
不安定なエイトを気づかって、ヤンガスを誘って飲む……。その間エイトとククールは連れだって何処かへしけこむ……。
やだ、あたしったら、しけこむだなんて……。
そうそう、王さまのことよ。
王さまはエイトたちのこと、知ってるわよね。
複雑よね……娘が想いを寄せる相手が同性と付き合ってるなんて……。
でも、姫さまがどんなにエイトを好きでも、エイトは一介の兵士。身分が違いすぎる。……叶わぬ恋か……。
あ~あ。あたしも……いいえ、あたしはあたし。ピッカピカにオンナを磨いて、飛びっきりいいオトコをひざまづかせるんだから!
「おい、嬢ちゃん……おっかねえツラするなよ。ゲルダみてえだぞ。……ラジュが呼んでるって、確かに伝えたぜ。今日は魔城はムリだ……行くなら俺抜きで行ってくれ」
二日酔いのヤンガスは、眉間にしわを寄せて頭を押さえながら客室へ向かった。
わかってるわよ!
また今日も地図の研究でしょ!
「……ゼシカ?」
「なあに、エイト」
夕食後、エイトがあたしを呼び止める。
「明日、頼むね。やっぱり君がいないとムリだ。僕らは4人で一つのパーティーだから」
「大丈夫、準備万端よ」
エイトはいつも通り、目をちょっと細めてはにかむように笑う。……かわいいわ。ククールが襲いたくなる気持ちがわかる。
やだ、あたしったら、腐女子的妄想を……。
「じゃ、ちょっとまた作成会議」
「ええ」
でも、ここ数回……いえ、ここ数日で、エイトの色気が増してるような気がするの。ククールったら、エイトにどんなことを……ああ、いけない、あたしったら! 「萌え」ってこんな感じなの? 腰砕けエイトを妄想しちゃうなんて……。
「……で、こんな感じで行こう。ゼシカ? いい?」
「えっ?」
あらやだ、あたしったら!
エイトの顔ばっかり見て、全然話を聞いてなかった。
「おーい、ゼシカさん? リーダーに見とれてましたってカオしてるぜ?」
「ばっ! ちがうわよ。何言ってるの?」
ククールったら! まあ、そうだったんだけど。
「いや、最近のエイトの兄貴は、ずいぶん色気が出てきなすった。嬢ちゃんくらいの小娘には刺激が強え。ぼうっとしちまうってもんだ」
「ええっ! やだな、ヤン……色気だなんて……」
ヤンガスにもそんな風に見えるのね。よかった。あたしだけじゃなくて。エイトったら、真っ赤になってうつむいちゃった。かわいいわ……。
「おい、痴漢に気をつけろよ?」
「大丈夫だよ。ククールくらいしか痴漢いないから」
ちょっと! それ、ジョークにしては危険だわ!
ああ、ヤンガスが……ククールを睨んでる。
「おいククール、兄貴に手ェ出しでもしたら、ぶっ殺すからな。後ろに気をつけやがれ!」
「へいへい」
ヤンガス……知らないって、幸せね……。
ククール……あんた、何回分生き延びてるの?
やだ、あたしったら、何回だなんて……。
あ~あ。
「……カ? ゼシカ、聞いてる?」
「えっ、あ、ごめんなさい、なんの話だっけ?」
いけないいけない……あたしったら、また変な妄想を……。
「ちっ。……ハニー、ちょっと来い!」
「何よ、ククール、痛いじゃない!」
ちょっと、何なのよ! ククールったら舌打ちまでして!
あたしは、引っ張られるように、表に出された。
「なあ、勘弁してくれ……」
「……なんで謝るの?」
ククールは、目の前の滝に目をやった。
暗闇に白い水しぶきがぼんやり見える。誰かさんの不安のカケラみたいね。
小さくてふわふわして、はかなくて、冷たくて。
「……心配かけてるよな、オレたち」
「……」
……エイトに「萌え」てたなんて言えない。
「このところのリーダー、なんだか知らねえが、掴めなくてよ……」
「……」
それはあんたとマルチェロのことでしょ、なんてことはもちろん言えない……。
「オレが、しっかりさせるから、信じてやってくれ」
「ククール……」
すごい勘違いしてない? さっきの、エイトに見とれてました、ってほうが当たってるんですけど。
「さっきの話、もう一度ちゃんとリーダーに聞いてきてくれ。頼む」
「いえ……その、ぼんやりしてたのあたしだし……エイトのことはいつだって信じてるわよ。三角谷にきたのも、さすがだなーなんて……。だから、全然なんでもないし、明日は久しぶりの戦いだから……あはは、じゃあねー」
あーっ! もうっ。バカみたい!
あたしは走ってさっきの部屋に戻った。明るく、ごめんねって言わなきゃ。
ところが……。
「ゼシカ……」
部屋でエイトが泣いていた。
「あの、エイト?」
「ごめん、ごめんね……僕が不甲斐ないばっかりに……。ゼシカに心配かけて……」
ちょっと……どうしたのよ!
エイトは黒目がちな目をうるうるさせ、ぽろりぽろりと大粒の涙をこぼす。
「嬢ちゃん、俺からも詫びを言わせてくれ。すまない、エイトの兄貴を支えなきゃいけねえ俺が、おっさんと飲んだくれてばかりで……すまねえ。兄貴を責めないでくれ!」
「はあ?」
ヤンガスったら、土下座なんてやめてよ。
「別に、あたしは何も……」
二人とも聞いてないわね……。
エイトはしくしく泣くし(これがまた迷子の子犬みたいに可愛くてたまらないわ!)、ヤンガスはいくら言っても頭あげないし……。
「だ~か~ら~! 明日の作戦、もう一回説明して!」
らちがあかないので、グリンガムのムチを鳴らした。
「ひいっ!」
「ごめんなさい!」
次は暗黒魔城のラプソーン戦です。