「腕がなるわ!」
暗黒魔城を訪れている。今回はゼシカも一緒だ。
「やっぱり、ゼシカがいねえとダメだな。オレたちだけじゃ半分だぜ」
「ちょっと、あたしは男3人分だってわけ?」
ククールの言葉に、ゼシカがヒュンとムチを鳴らす。
ヤンのガハハという笑い声が辺りにこだまして、魔城に潜む魔物が返事を返した。その声にみんな身構えながらも、気分は高揚しているみたい。
いよいよ最後の戦いだ。
僕たちは四人揃った。今が最強。
「4人そろってでないとうちのパーティーは本領発揮できないね」
「ちょっと、エイトまで何よ!」
そう言うゼシカの笑顔に向かって、僕も目一杯の笑顔を返す。
本当に、ゼシカの魔力は凄い。
ムチの技術も高いけれど、魔術の力はそれよりも遥かに高いところへ到達している。
僕たちは迷わずに地下へと降りて行った。
途中の魔物も強いけれど、僕たちは余裕でなぎはらって行った。
ククールと僕で防衛体制を作り、ヤンとゼシカには思う存分戦ってもらう。防御万端になれば、僕の力も発揮できる。
何度も訪れたこの魔城。強い敵が出ることもわかってる。地下へ地下へと降りて行けば、その不気味な空気は精神的なところを突いてくる。
僕たち男が怯んじゃダメなんだ。ゼシカに「大丈夫だ」と言いながら進む。僕たちに心のスキができると、ゼシカはすぐにそれを察知し、無理をしてしまうから。ゼシカに安心して戦ってもらうために、僕たち三人はここで強くなったんだ。
一番ダメダメなのは僕だった。一人で無意味に精神的に追い詰められていた。仲間を信じてまっすぐ前を向けば、今は何をすべきかわかっていたのに、その後のことを考えて、自分だけがモヤモヤしていたんだ。
でももう迷わない。
暗黒神を倒し、悪をすべて終わらせる。
地下の町へやってきた。次第に崩れゆく町並みに、ゼシカが身体をこわばらせる。僕とククールでしっかり両脇を固め、ゼシカの不安を受け止める。
「ち…近い」
そう言ってゼシカは立ち止まった。この場所は、ゼシカ抜きの三人で到達できた最奥。ここから先は、初めて足を踏み入れる。僕らの行く手には、うっすらと暗い通路のようなものが見えていた。
「ごめんね、ゼシカ。いくらなんでも歩きにくいよね」
ゼシカを安心させたくて、ちょっと近づきすぎたみたい。
でもゼシカはゆっくりと首を振った。
「違うわ。杖が……暗黒神が近いの」
!!!!!
「ラプソーンか!」
ククールがゼシカの肩を抱く。
うなずくゼシカ。
緊張が走った。
ヤンがぶるりと身体をふるわせる。
ククールは目を閉じて、ふうと息をはく。
「いるわ…あの杖の感じ……人の無力さを笑い、懸命に生きることは虚しいことだと洗脳し、杖の力に屈服しろって誘ってくるの。その杖、いえ、暗黒の力がが持ち主の手にある……。いえ、杖から解き放たれた力こそ、ラプソーン。杖の力の正体よ。人間世界を支配下に置こうとしている」
杖に操られたことのあるゼシカ。
気丈さを見せていても、その表情に戸惑いが現れている。
僕たちはゼシカを真ん中にして集まった。
「この先……この先にもう……すぐ近くにいるわ」
ゼシカの肩は小刻みに振え、大きな目は涙でいっぱいだ。
「ゼシカ。君は一人じゃない。大丈夫だ。みんなであいつを倒そう。僕たちならきっとできる。君は思いっきりメラゾーマを見舞って。僕とククールが守備を固める。ヤン、ヤンも遠慮いらないよ。あいつが諸悪の根元なんだ。大丈夫、僕がみんなを守るから。誰も死なせない」
「リーダー……よく言ったぜ。その通りだ。ゼシカもトゲトゲも安心してくれ。オレとリーダーで回復させてやる。休む暇はやらねえからな!」
ゼシカとヤンが力強くうなずく。
僕が先頭。リーダーだからね。
二番手にヤン。思いっきり攻撃してくれよ。
その次はゼシカ。何かあったらヤンとククールがかばうから。
しんがりはククール。任せたよ。バランスを見て、必要なら指示を出して。
「行こう。僕らは、勝つ!」
「まちかねたぞ、幾度となく我が行く手をさえぎろうとした、愚かなる者たちよ……」
ラプソーンは、まるで小さな宇宙だった。
長い杖を自在に操り、インパクトのある強い呪文攻撃を仕掛けてきた。
思った以上の強敵。
余裕があれば僕も攻撃に回るつもりだったが、なかなかそのチャンスは与えてもらえない。
炎と吹雪の攻撃に加え、痛恨の一撃をくり出してくるラプソーン。ククールとゼシカがギリギリのところで耐える。
僕は常にみんなのダメージ回復に努める。
時にはゼシカも回復役をやって。
「なかなかくたばらねえな」
ククールがみんなにスクルトをかけながら言った。
「神さまだもんね」
ゼシカがラプソーンをにらむ。
「そういや、エイトの兄貴? なんで神さまのくせに、女神にケンカ売ったんでがすかね」
気合いためをしているヤンは首をかしげた。
そうだね。
ラプソーンは神さまなんだ。
「神さまなんてのは、オレたちがそう呼んでいるだけかもしれねえな。ただの小悪党じゃねえの?」
僕らがそう呼んでいるだけ?
「そういえば、なんか可愛らしいトコあるわね。ラプソーン。赤ちゃんみたい……きゃ?」
ゼシカが「赤ちゃん」と言った瞬間、ラプソーンが怒ったように見えた。
そこへヤンの正拳突きがまともに入る。
よろめく黒いラプソーン。
「チャンスだ、リーダー! ジゴスパーク決めろ!」
よし!
僕は大きくうなずいて、地獄のいかずちを呼び寄せる。
僕の英雄のヤリに力がたまる。この重い力をすべて、僕の身体を通して解き放つ!
ラプソーンは、はじけ飛んだ。そして金色の液体になって、床に広がった。
長い戦いの末、僕たちの力は、ついに暗黒神ラプソーンを倒した。
僕はヤリを背に戻し、みんなの顔を見た。
安堵と、昂揚感にあふれたみんなの表情は明るい。
さあ、早く出よう。
今度こそ、呪いが解けていますように……。
「ねえ、なんかおかしいわ……」
「?」
ゼシカの言葉に、みんな周りを見る。
地震?
魔城全体が小刻みに揺れ、あちこち崩れ始めた。
危ない! 僕は慌てて脱出の呪文を唱えた。
「リレミトが発動しない!」
「逃げましょう!」
もうそれしかない、僕たちは来た道を逆に走り出した。
途中で襲いかかる異常な強さの魔物たち……。
モタモタ戦っている間にも、魔城はどんどん崩れていく。
「逃げられない……!」
「ゼシカ! 大丈夫! 僕らの力を信じよう」
「そうだ、ハニー、あきらめるな! みんな一緒だぜ」
「嬢ちゃん、身の安全を確保しろよ……っ!」
焦っちゃだめだ。僕も自分に言い聞かせながら、回復役に回る。
「なんだよ、これ!」
石像の魔物。僕たち4人を模写しているのか?
「あ、兄貴! エイトの兄貴を殺るなんて……!」
ヤンが涙目になりながら震えている。
「アホか、トゲトゲ! これは魔物だ! ぶっとばせ!」
「そ、そうか、そうだな。兄貴の真似をするなんて許せねえ!」
ヤンが果敢にオノを振るう。ゼシカもメラゾーマ連発だ。
回復が…間に合わない!
僕は自分の姿の石像に思いきり体当たりされ、体力のほとんどを失った。
「おい、自分も守れよ! 死ぬなっつったお前が瀕死でどうする? しっかりしろ!」
「ククール……ごめん!」
瀕死の僕を蘇生させてくれたのはククール。みんなの体力もキープしてくれる。
「兄貴、任せてくだせえ!」
ヤンのオノが敵全体にダメージを与えた。
「仕上げよ!」
真っ赤な炎の塊が、ゼシカの両手から発射され、魔物の群れが焼き付くされた。
「走って!」
出口まではだいぶある。僕らは全力で魔城の外を目指した。
「おいおい、今度は何だよ!」
「サメか? 海竜の色違いじゃねえか。なんだって空飛ぶ城の中に住んでやがる?」
ククールとヤンがあきれ返る。階段を登っている途中で、赤い海竜に襲われた。
「覚悟しやがれってんだ!」
ヤンの蒼天魔斬が決まって、また逃げる。
「きゃあ! なんなの、あれは?」
ようやく外へ出た僕たちを、奇妙な光がさえぎった。
続いて目の前に巨大な岩の化け物が! これもラプソーンの力なんだろうか。
「躊躇してるヒマはねえ、リーダー、気合入れろ」
ククールが檄を飛ばす。
そうだね、考えてる暇なんてない。僕はヤリを構え直した。
「兄貴! こういうヤツはあっしの得意分野でげす…。おいククール、俺にバイキルトやってくれ!」
普段あまり相容れない性格のヤンとククールが、うなずきあい、力を合わせる。ゼシカもみんなのために、杖を振るう。
巨大な岩の化け物は、ヤンの強打がかなりきいている。大きくダメージを受けると、最後の力をふりしぼるかのように全身に力をためてきた。
「ヤン、思いっきりお願い!」
ヤンは、僕にグッと親指をたてて見せ、力を解き放った!
化け物はゴゴゴゴゴゴーーーッと地鳴りを響かせ、ガラガラと崩れ落ちる。
僕たちは神鳥の魂の力で飛び、脱出した。
「やったわね! えっ?」
誰もが敵を倒したと思っていた。いや、倒したんだ、確かに!
「か、壁が…」
ゼシカの指し示す方を見る。
暗黒魔城の壁がどんどん変形し、何かに吸収されていく。
すごい風が吹き荒れ、うまく飛ぶことができない!
「兄貴、あれ!」
何だ! あれは……。
「ラプソーンか?」
何? ラプソーン!
宙に現れた黒い塊が、何かをしている。
空がよじれるのが見えた。
いや、正確には、別の空間が見えた。
あれは…闇の世界……?
空に開いた穴から、黒い魔物がどんどん飛んでくる。
僕らはその魔物に攻撃され、あちこちに飛ばされる。
「み、みんな! どこ?」
落ちていく。真っ逆さまに。
僕は両手を夢中で泳がせた。飛べるわけないのに、みんなの姿を掴もうとしていた。
城の瓦礫がすぐ横を掠めていく。みんな、大丈夫なの? みんなの姿を探せない。目も開けていられない。
落下速度はぐんぐん上がり、息苦しい。声が出なくてみんなを呼べない!
バサッバサッ!
巨大な岩の塊がすぐ目の前に迫っていたその時だった。
僕は柔らかい何かに着地し、次の瞬間、浮いた。
「エイト!」
ゼシカだ。
「ゼシカ! 良かった、無事で……これって……」
僕は自分の着地地点をよく見た。青紫の輝く羽…。レティスの背中…。
「レティスが助けてくれたんだね……」
「うん、ヤンガスもいるわ」
辺りを見回すと、横たわっていたヤンガスが、血だらけの顔をくしゃっとほころばせた。
「ヤン! 血が!」
「大丈夫でがすよ。嬢ちゃんに薬もらって、血は止まりやした」
僕がヤンの肩に手を載せると、ヤンはにっこり笑って目を閉じた。
「さあ、あと一人です。体を低くして下さい。急旋回して切りもみに入り、彼を乗せて急上昇します」
レティスの声が心地よく響く。
レティスはククールを見つけ出し背に乗せ、瓦礫の渦の外側に向かって急上昇した。
「神よ! なぜあなたは我々に試練を与えたもうのか? この若者らに、どのくらいの勇気を示させれば気が済むのですか?」
レティスが天に向かって叫ぶ。
何があったの?
僕たち、ラプソーンを倒したんだよね……。
僕たちはレティシアに舞い戻った。
みんな無言だ。
僕たちは、レティスの言葉を待っている。
止まり木で羽を休ませるレティス。
「……闇の世界の扉が開かれ、光の世界とつながってしまいました。私が光の世界に来られたのもそのせいですが、暗黒の魔物も同時にやってくることになりました。……今となっては、あの者を倒し、永久に消し去るよりほかにこの世界を救う方法はないのです。……あの暗黒神をうち滅ぼせる可能性は、ごくわずか。でも、あなたなら……あなたならば、暗黒神にも打ち勝つことができるかもしれません。……強力な闇の結界に守られている暗黒神……まずあの結界を破らなくてはなりません……」
「なんてこったい……」
ヤンが青空を見上げながら、ため息まじりにそう言った。
「また……お使いなのね? あたしたち……」
「祈りたいくらいだぜ、女神さんによぉ」
あーあ。
まだ終わらない。
僕らの旅……。
やっとちびラプ撃破しました。