「ねえ、賢者の力が込められた物ってなんだと思う?」
パルミドの情報屋からは、それらしい話が聞けなかった。
僕たちは、マイエラに向かう道々、賢者の力の込められたある物について話した。
「きっと、結構なお宝でがすよ。キンキラキンの……」
「キンキラキンの? メダルとか?」
レティスは、それがどんなものかはっきり教えてはくれなかった。ククールは、レティスも知らないんじゃないか、なんて言う。
「メダルなんてありきたりよね。女神像じゃないかしら」
「女神像か。あり得そうだね」
「ありきたりと言えば、女神像だってそうだろ?」
「うーん。そうかもしれないなあ」
どんな物かわからないと探しづらい。
レティスがくれた山びこの笛には、まだ何の反応もない。
「おいククール、オディロ院長が隠しそうなところはどこだ?」
「そうだなあ。あの人、いたずらっ子だからなあ。絶対見つからないところに隠しそうだ」
「ええっ? 見つからないんじゃダメじゃない」
そうだよね。王は「酒蔵じゃ」なんて言ってる。
「マイエラに地下室あるよね?」
「ああ、拷問部屋か? あそこにゃ院長さまは行かないよ。隠すなら、院長の館内か、礼拝堂だな」
僕たちはとりあえずドニの町で腹ごしらえをし、修道院を訪ねた。もうすっかり日が暮れて。
「なんだ……これ……」
「いやっ……」
「ここマイエラ修道院でがすよね……?」
ククールが立ちすくむ。その後ろで僕らもあっけにとられた。
これがあのマイエラ修道院?
礼拝堂でおしゃべりを注意されたのと同じ修道院?
にこりともしなかった騎士団員はどこへ行っちゃったの?
それに……、
「くさい! お酒くさいよっ」
なんかムカムカする!
「あっ兄貴、大丈夫でがすか?」
「ホントくさいわ。昼間っから飲んでるの? みんなククールみたいになっちゃったのかしら」
「失礼な! いくらなんでも院内では飲まねえよ」
ククールが礼拝堂から中庭へ向かう。僕らもあわてて後を追って。
さらに驚いた。
あの無機質な、殺風景だった噴水の中庭は、宴会場になっていたんだ。
「いやあ! めでたいめでたい!」
「マルチェロ団長は法皇さまにおなりだ!」
騎士団員たちは口々に祝辞をのべあい、へべれけに酔っぱらっている。説法台では歌を歌っているじゃないか。
品のない笑い声と、酒瓶のガチャつく音。
あの戒律厳しいマイエラ修道院じゃないよ!
マルチェロさん、あなたはどこにいるんですか?
ククールはさっきから一人冷静だ。知った顔を探しているんだろうか。騎士団員の顔を確かめるようにしている。
「ククールの兄さんは……」
「ここにはいねえようだな」
「ククール、誰か知ってる人いる?」
「ああ、新入りが何人かと、見たことある修道士が二人か……。酔っぱらってて話にならねえな。オレが仲よかった奴はいねえ。……ゴルドの大穴に落ちたんだろうな」
ゴルド。マルチェロさんを倒したあと、一度も訪れていない。このマイエラだってそうだった。今回のことがなかったら、まだ足が向かなかったかもしれない。
「兄貴、笛ふいてくださいませんか」
「うん」
ピロリロ~
……………。
「返事はありませんね」
僕たちは喧騒の中、何かの音が聞こえはしないかと耳を澄ませたが、何も聞きとることはできなかった。すると、近くにいた酔っ払い騎士団員がふらふらとやって来る。
「なんだ、客人! せっかくならもっと景気のいい音出してくれよ!」
「全くだ! マルチェロ様がほーおー様におなりなんだぜ!」
酔っ払いたちは肩を組み、酒ビンを掲げながらそんなことを言う。僕たちは何も言い返せない。というか、何も言う気になれない。
「行くぞ!」
ククールは、中庭からまた建物に入った。
「ねえ、どうするのよ、ククール」
ゼシカは、まとわりついてくる下品な騎士団員をムチで払いながら小走りでククールを追う。僕もヤンも続いて。
「おい、ククール、ちゃんと説明しやがれってんだ。どこへ行く?」
足早に前を行くククールに、ヤンもあきれ顔だ。
ピタリと止まるククール。
振り返った顔には、哀しみが満ちていた。
僕らは、彼の言葉を待った。
「……なんていうか。……こんな体たらく、想像してなかったからな。ちょっとショック受けちまったぜ」
そうだよね。誰が見たっておかしいよ。このマイエラ修道院は。
「オレ、オディロ院長がいつもいた場所に行きたいんだ。亡くなった場所だって、わかってても。あそこには、いろんな思い出がある。……オレが親も家も……何もかもなくしてここへ来たとき、失意のオレをあの部屋に連れて行ってくれたんだ。あったかいベッドに寝かせてくれて……。あの場所は、オレが新しい人生を選んだ部屋なんだ。もし、もう一度院長に会えるとすれば、あの部屋に違いない。賢者の力の手がかりくらいは得られるかもしれねえし。それから……バカな騎士団員の目を覚まさせて下さいって祈らせてくれ」
適当に直した、院長の館にかかる橋。ククールは先頭で慎重に渡っていく。
「ああ、さすがにここは大丈夫みたいね」
館に入るなり、ゼシカが言った。
うん、酔っぱらった騎士団員もいないし、お酒くさくもない。
ククールは、ゆっくり階段を上り、部屋の入り口で祈りを捧げた。
僕たち三人もこうべを垂れて、哀悼を示す。その時。
ピロリロー。
……ピロリロー。
「エイト! あそこに!」
思わず吹いたやまびこの笛の音に、何かが応えた。
ゼシカの示す方を見ると、キラキラと光る丸いものが。
「オーブだ」
ククールが手に取る。
オーブは丸くて、ゴールドに光り、水晶玉のようだった。
「これが賢者の力?」
「やまびこの笛に反応したしな。それに、これ……オディロ院長みたいだ。院長に優しい言葉をかけられたときに感じた、あったかい感覚がある……なんかうまく言えねえが」
「……そうよ、きっとそうよ。賢者の力っていうより、オディロ院長の魂なのよ……」
ゼシカの大きな瞳から、はらはらと涙がこぼれた。
「そうでがすよ、兄貴。あっしにも感じます。あの人の優しさみてえのが……。あっしが万が一にも懺悔するとしたら、オディロ院長に聞いていただくと思います。おい、ククール、ちゃんと持っていやがれ!」
涙声になるヤンに、わーってるよ、とククールが笑う。
オーブを胸に抱いた時のククールの表情には、安心感が見てとれた。
僕たちはバカ騒ぎを無視し、修道院を去った。
修道院を出たところの橋で、ゼシカがみんなを呼び止める。
「ねえみんな、次……リーザスに行ってくれる?」
僕たちはゼシカに力強くうなずいてみせた。
「ゼシカ、大丈夫だ。みんながついてる。君一人に苦しい思いはさせないよ」
「リーダーの言う通りだ。大丈夫、今こそ兄さんから受けとるんだ。賢者の魂を」
僕たちはもう、どうすればいいのかわかった。賢者の魂を迎えに行くんだ。
小さく震えるゼシカを守るようにして、僕たちはリーザスに向かった。
レティスはちゃんと「オーブ」と言ったのに、すっかり忘れていたエイトさんたちです。次はリーザスです。