あたしたちはゆうべ久しぶりにポルトリンクで一泊した。今日は朝陽を見ながらのんびりリーザス塔に行く予定だったけれど、あたしがどうしてもお母さんに会っておきたくて、うちに寄ってもらうことにしたの。
朝もやに薄く煙るリーザス塔を視界の端に入れたまま、あたしたちはリーザス村へ向かう。
「相変わらずのんびりしたトコだなあ。このへんは」
「ポルトリンク周辺とは比べ物にならねえくらいの魔物の弱さだな」
ヤンガスの言う通り、森から興味深けに出てきた魔物たちはあたしたち……主にヤンガスの姿に驚き戸惑い、逃げていってしまう。
「初めて来たときは、村から塔へのこの道が長くてキツくてね。ずいぶん苦労したよ」
「そうでがすね、トロデのおっさんもあきれてやした」
そんな話をしながら、踏みしめる道。
あたしは何度ここを走っていただろうか。本当に、子供のときからサーベルト兄さんにくっついて……。
「…カ、ゼシカ?」
「えっ? ああ、大丈夫よ、エイト。……みんないてくれるし……」
村入り口の風車は相変わらず壊れそうで。だけどこれがシンボル。
「嬢ちゃん、落ち着いたみてえだな」
「えっ? まあ、そうかも」
やだ、ヤンガスにまで心配されちゃって。あたしったら。
でも、その通りなのよね。
この風車を見たら、リーザスはやっぱりあたしの大切なふるさとだって思えた。
この村を守るために、サーベルト兄さんは……。
あたしは先頭に立って村へ入った。
「……まあまあ、ゼシカお嬢様! すっかりたくまし……いえ、見違えるほど……」
「いいわよ、お世辞なんて。たくましくなったわよ、かなりね。お店のほうはどう? そろそろリーザス祭りでしょ。旅行者が増えてきたんじゃない?」
道具やのおかみさんは、ちょっと目をぱちくりさせて、「はい、まあ」なんて言ってぎこちない笑顔を返した。
なんか、村人の様子が違う。留守ばかりしているから、信用なくしてるのかな、あたし。お母さん、怒ってるかな。でも、魔城陥落前はしっかりやりなさいって励ましてくれたし……。
あたし、今回は、お母さんとちゃんと話し合うつもりよ。暗黒神ラプソーンのことをきちんと説明して、サーベルト兄さんが亡くなった理由をもう一度伝えようと思うの。それで、今後の村のことを話し合う。あたしがパーティーを抜けることも選択肢に入れて。
「ゼシカ姉ちゃん!」
「ポルク、マルク!」
リーザス警備隊の二人が駆け寄ってきた。生意気なチビたちも、また背が伸びて。ポルクはちらりとククールを睨む。
「久しぶりだなあ、チビども!」
話しかけるククールをまるっきり無視。ふふっ。相変わらず、この子たちはククールが気に入らないのね。エイトとヤンガスに挨拶をいれつつ、あたしの前に来る。
「あたしは大丈夫。見て、護衛が3人もいるのよ。あんたたちこそ、いつまでもおなべかぶってちゃダメよ」
「おれ、アローザの奥さまから稽古用のつるぎもらったんだ。サーベルトさんもそれで稽古したんだって……ねえ、バンダナの兄ちゃん、稽古つけてよ!」
ポルクはエイトの腕を引っ張る。
「あはは、お前ら張り切ってるなあ!」
「ったりまえだよ! 暗黒神が復活しちまったってのに、のんきな野郎だぜ」
あらあら、ホント、ククールには突っかかるわねえ。
「ちょっとポルク? 言葉が汚いわよ」
「ごめん、だけど、イカサマ野郎が……」
「ポルク!」
あたしがちょっときつく見ると、ポルクは「はあい」と言ってそっぽをむいた。
「ゼシカ姉ちゃん? ポルクってば、この前一人でトロデーン見に行こうとしたんだよ。呪いがどうだとか言って」
「ええっ?」
あたしはびっくりしてポルクを見た。
「っせーな、余計なこと言うなよ、マルク」
「ちょっとちょっとちょっと……本当なの? 一人でトロデーンなんて……」
あたしは逃げようとするポルクのフードをつかんだ。
「あわわっ……。ゼシカ姉ちゃん、引っ張らないで……」
「ダメ! ちゃんと説明して!」
ポルクは上着を直しながら「わかったよ」とふてくされた。
あたしは二人をベンチに座らせた。
「……だからさ、トロデーンにイバラの呪いがかかったっていうだろ? そのうわさが本当かどうか確かめに行ったんだ。このところ、トロデーンからのブドウ酒の注文もないし、魚介類の注文もないし、客も来ないし……」
「……」
あたしが黙っていると、マルクも口を挟んだ。
「おいら、やめとけって言ったんだ。……トロデーンまで行かなくたってわかるんだよ。人も品物も全然動かないんだから。ねえ、トロデーンの人はどうなっちゃったの?」
マルクが不安そうにあたしたちを見上げる。
「おれ……城まで行かれなかった。見たことない魔物がたくさんいて。城の入り口近くにいたスライムがいいヤツだったから話を聞いたんだけど、理由はわかんないけど、ある日突然誰も出入りしなくなって……ただ、旅人が何度かやって来たって。小僧とチビデブとチャラ男と魔女だって。綺麗な馬を連れて……。この旅人って、ゼシカ姉ちゃんたちのことだろ?」
「そうよ」
「サーベルトさんを殺した道化師はやっつけたんでしょ? ……もう、帰ってきてよ、ゼシカ姉ちゃん」
マルクがべそをかく。
「バカか、マルク! 空に浮いてるラプソーンをやっつけんだろ? じゃなきゃ終わんねえんだよ!」
「ラプソーンて、ずいぶん詳しいわね」
こんなところまで話が広がっているのね。
「リーザスのみんなが言ってる。ゴルドから悪魔が産まれたって。神とか言ってるけど、あんなの悪魔だよ。女神さまの仲間なわけねえよ」
「そうだよ。だからね……リーザス祭りは今回はなしなんだ。こんなご時世だし、静かにリーザス像に祈ろうって」
「そうなの……。リーザス祭りはないのね」
マルクがあたしからエイトに向きなおった。するとポルクもエイトの顔を見る。
「バンダナの兄ちゃん、兄ちゃんたち、すごく強いんだよね? ラプソーンもすごく強いんだよね? ……だから、もうゼシカ姉ちゃんを帰してください。そのかわり、おいらとポルクが戦う」
「おれたち、どうしたら一番いいか考えた。はじめはゼシカ姉ちゃん抜きの3人でって考えた。でも、それじゃあ兄ちゃんたちに申し訳ない。おれ、マルクを守りながら一緒に戦う。マルクは回復魔術使えるようになったんだぜ」
この子たちまでが、暗黒神のことを真剣に考えている。あたしは自分が情けない気持ちで一杯になってしまった。二人の一生懸命な姿。まさかこの子たちに戦わせるわけにいかないじゃない。
「ありがとう、二人とも……でも……」
「おい、お前ら本気で言ってんのか?」
ククールがあたしを制して口を挟んだ。
「ざけんなよ、チビども」
「……」
「……」
「ちょっとククール、そんなにきつく言わなくても……」
ポルクとマルクの二人はシュンとしてしまった。
「いや、ククールの言う通りだ」
ヤンガス?
「そうだね」
エイトまで……。
ククールとヤンガスが厳しい表情をしている横で、エイトが穏やかな、でもはっきりした口調で話しはじめる。
「さあ、僕たちのために祈ってて。そして、もし僕たちじゃダメだったら、君たちが行くんだ。今の僕たちより強くなったら。だから、今は村を守りながら剣や魔法の練習をしてて。サーベルトさんよりも強くなるんだよ」
エイトの言葉に、拳を震わせていたポルクが、うつむいたまま小さくうなずいた。マルクはぎゅっとまっすぐに口を結んだままで。
「いつまでもオレたちのことばっか見てちゃダメだ。お前らはお前らで強くなれ。剣の相手も魔法の手ほどきもしてやる。だが、お前らが越えなきゃいけねえのはサーベルトさんだ。あの人より強くなれ! ゼシカのことはゼシカが決める。お前らが口出しすることじゃねえ」
ククールは二人の頭にぽんぽんと手をやった。エイトはかがみ、こんなことを二人に告げた。
「大丈夫。今は僕らを信じて。僕たちも、君たちのこれからの力を信じてる。強くなって、リーザスのみんなを安心させてあげて。ゼシカは女の子だからね」
二人は、しばらく神妙な顔をしていたけど、「わかった!」と言って、いつものように元気に走って行った。
あたしたちもアルバート家に向かうことに。
「あいつらも
「そうだね、楽しみだよ」
「あの気の強そうな方、強くなりそうだな」
「ポルクね?」
「うん。でももう一人のマルクだっけ? あの子も意外と頑固そうでいいね」
「信念を曲げねえタイプでがすね」
みんな、厳しいことを言ったけど、あの子たちのことをよく見ててくれるのね。
あたしもいつまでも子ども扱いしてちゃいけないわね。
「なんか、ちょっと安心しちゃった」
「何がか? ハニー」
「あの子たちのことよ」
「まあな、いずれ強くなるとは言ってもな。あいつらのこと待ってたら、オレたちいいトシになっちまう。トゲトゲなんてモウロクしてるかもな!」
「モウロクだとっ? ふざけるな、ぶった切ってやる!」
「もう、また始まった! 二人とも置いていくわよ!」
ククールとヤンガスのアホみたいなやり取りを、エイトとあたしは笑って。
王さまも「いいかげんにせい」なんて言ってどんどん馬車を進める。
あたしたちは少し急ぎ足で馬車を追った。
ポルクとマルクはまた後でも出てきます。次もリーザスにいます。