「ゴルド? ゼシカ、ゴルドへ行きたいの?」
次はギャリングのオーブを回収しに行こうとしているオレたちだったが、ゼシカが寄り道を申し出た。行先はゴルド。面倒くせえし、オレとしてはさっさと美味いものにありつけるベルガラックに行っちまいたいところだが、ゼシカの真剣な様子に反対意見を述べるわけにもなあ。ヤンガスも同じような気持ちなんだろう、オレと顔を見合わせ、トゲトゲメットをぼりぼりかいていやがる。そんな中エイトだけが、ゼシカに何度もゴルド行きの確認をしていた。
「ええ。行きたいの。ゴルドへ。ちょっとでいいから」
「うん、……みんなもいいよね?」
オレとヤンガスは首を縦に振るしかない。
早く賢者のオーブを手に入れたい気持ちはある。だが、パーティーに残ることを迷っているゼシカの気持ちは優先させなければならないだろう。……と、思っているエイトの気持ちもくんでやりたい。
オレたちはトラペッタをあとにし、ゴルドへ飛んだ。
ゴルドはあの日と同じ。まるで時が止まっているようだ。ひゅうひゅうという風の音が耳につく。
深く開いたゴルド中央の穴。この穴の中で響いているんだろうか。この底は海に繋がっているんだろうか。一体何人が犠牲になったんだろうか……。
「ククール、ごめん……」
祈りを捧げるゼシカを見ながら、そんなことを考えていたら、いつの間に来たのか、エイトが隣で言った。
「何が?」
オレは謝られるようなことをされちゃいないぜ?
「ゴルド……。マルチェロさん……」
!!!!!
「……………」
忘れていた……?
オレが兄貴のことを……?
行方不明なんだぜ?
安否不明。
マイエラにも戻っていなかった。
オレは……………。
ゼシカが立ち上がって、オレたちのところへ来る。
「……みんな、ごめんね……。でもどうしても、ゴルドで祈りたかった。待っててって。必ず暗黒神は倒れる。そうしたら助かるはずだって伝えたかったの。そしたら……」
「そしたら? 嬢ちゃん、もったいつけねえで言ってくれよ」
「そしたら、感じたの。たくさんの人が、暗黒神の倒れるのを望んでいるって……。亡くなった7人の賢者ももちろん気の毒だけど、ここ、ゴルドの底で待っている人たちをあたしは助けたい。みんなの気持ちがわかる。……あの杖を持ったことがあるから。弱味につけこむなんてサイテーなのよ。あのぷよぷよ。あんなキモいのにあやつられてたと思うと腹がたつわ」
「ゼ、ゼシカ、なにもそんなに怒らなくても……」
エイトがそんなことを言うほど、ゼシカは怒りに震えていた。
「いやあ、さすがだ。さすが嬢ちゃん。ゲルダ並みに男気がある!」
「やだ、ヤンガスったら。まだまだゲルダさんには遠く及ばないわよ。……ありがとう、次、行きましょう。ベルガラックよね」
にこりと笑顔をむけるゼシカに、オレも笑顔を返そうとした……。
「どうしたの? ククール」
「……いや、ちょっとゼシカの剣幕にビビっちまって……」
なんか、引きつっちまった。ビビったなんてごまかしたが、違う。オレは面倒くせえ違和感を振り払うことで、更にごまかした。
「……あたしどうしてもゴルドに来たかった。来て良かった。あたしの信じる道に迷いはない。あたしだって、生きている意味を感じたいのよ」
「嬢ちゃん、よく言った! 人間てのは、自分一人じゃ生きられねえ。たとえ自力で生きられても、それだけじゃダメだ。誰かたった一人でいい、その人のことを考え、助け、守らなきゃならねえんだ。たった一人でもいいんだ。……嬢ちゃんは、ゴルドに沈んだ何百人もの人間のことを思っている。スケールでかいぜ、さすが嬢ちゃん、男気が違う!」
「ちょっとヤンガスったら! 男気男気って大声で言わないでよ!」
「いや、ヤンガスの言う通りじゃ」
「おっさん、いつの間に?」
音もなくやって来ていたトロデのおっさん。鼻息もあらく、ヤンガスに負けじと声を大にする。
「さすが、わがミーティアと同じ年頃のゼシカじゃ。この旅では最も成長したのう。アローザ殿自慢の娘じゃ」
何か主張する点が違わねえか?
「よし、次はギャリングのところじゃな。エイト、行くぞ。まずはラパンハウスじゃ」
「んだよ、おっさん、ラパンハウスじゃないぜ、ベルガラックだろ?」
ヤンガスのツッコミに、トロデのおっさんは「ええい、ラパンハウスと言ったらラパンハウスじゃ!」と譲らない。
あーあ、相変わらず自分勝手だな。ゼシカも笑って肩をすくめる。
と、エイトと視線がぶつかった。
「なあ、しょうがねえから行ってやろうぜ。ラパンハウスにさ」
「ククール……」
「ん?」
エイトはいつもの笑顔を見せない。何か心配事のあるときの顔だ。
「どうした? リーダー」
「ちょっと話したい。後で時間とって」
「ああ」
オレは軽い返事でその場を終わりにした。
エイトを含め、みんなに背を向けてみる。
なんだ、この気持ち。
さっき祈りを捧げたゴルドの穴を、もう一度のぞいてみる。
「おっ……」
なんだこれ。
ゼシカが感じたのはこれか?
落ちた人々の思い?
全身を冷たいものが貫く。
早く追え、早く追え……と。
オーブに感じたあわただしさとは異なる。
一体なんだ?
いや、考えても始まらない。オレは迷いなどない。ぷよぷよラプソーンをぶったおし、エイトの苦しみを無くしてやるんだ。
他には何もねえよ。
暗黒の神なんかに怯える日々なんて来ちゃいけねえ。それぞれがそれぞれに幸せに暮らせりゃいいんだ。
オレは深淵に背を向け、ラパンハウスにルーラした。
まだ日も高いので、ラパン氏は仕事中だった。
だが、トロデのおっさんの姿を見るなり、書類を放り出し、離れに酒を運ばせる。
「いやあ、皆さん、お待ちしておりましたよ! さあさあ!」
「あの、ラパンさん、お仕事おありでは……」
挨拶もそっちのけで離れへ促すラパン氏に、エイトが恐縮する。
「いいんじゃ、いいんじゃよ。ささ、君たちも早く。あの離れはいつでも君たちを迎える準備ができておるのじゃ」
で、そのまま宴会へ……。
「ね、ククール……」
「んあっ?」
飲み口のよいシャンパンに、エイトの頬はバラ色になりかけている。
「今か?」
小声で確かめると、エイトは小さくうなずいた。
「今日中に帰ってね」
ゼシカがウィンクを投げ、オレたちを上手く外へ出してくれた。
「風が気持ちいいね」
夕暮れの草原。エイトの言う通り、少し強めの風が気持ちいい。オレたち二人の長い影が、草の上で揺れる。
今夜はキラーパンサーの声もしない。ヤツらは風が苦手なのか。
「なあ、さっきさ、あとで話したい、って言ってたよな?」
「うん。でも、もういいや」
なんなんだよ。
「……言いにくいことか?」
エイトは黙って首を横に振る。
並んで歩く。こうして寄り添っていることが心地いい。一緒にいることが、あたたかい。
「どこへ行く?」
「どこへ行こう」
オレは立ち止まり、バンダナからはみ出している茶色の髪に手を伸ばした。
エイトは素直にこちらを向く。
「……何も考えなくていいところに行きたいな」
エイトはそう言いながら腕をオレの首に巻きつけてくる。
「……誰もいないところへ行こう」
オレたちは神鳥のたましいの力で飛んだ。
このあと二人はちょっといちゃいちゃします。お嫌いなかたはとばしてください。次はベルガラックへ行きます。